逆風でも輝くスタートアップの条件とは?
二極化が進むSaaS市場の行く末をAsobica、Salesforce Ventures・サイバーエージェント・キャピタルに訊く

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インタビュイー
今田 孝哉

2015年ファインドスターグループに入社。年間トップセールス及び、社内の歴代記録を更新し(当時)最年少昇格を達成。CS領域におけるSaaSの立ち上げに従事し、多くの会社のカスタマーサクセス部門を支援。その後株式会社Asobicaを創業し、ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum」をリリース。2019年4月には30歳未満のアジア30人「Forbes Under30 2019」に選出。

細村 拓也
  • 株式会社セールスフォース・ドットコム Principal 

住友商事の自動車部門で欧州自動車関連事業の事業開発・投資先支援、スウェーデンの事業会社の経営企画等を担当。2014年に入社した楽天ではグループマーケティング部副部長を経て、楽天のCVC部門にてFinTech領域を中心に国内外のスタートアップへの投資・成長支援を行う。2020年にSalesforce Venturesに参画し、日本・韓国市場を担当。早稲田大学政治経済学部卒、豪ボンド大学経営大学院卒。

北尾 崇
  • 株式会社サイバーエージェント・キャピタル シニア・ヴァイス・プレジデント 

2013年中南米メキシコにて、ENVROY MENIKAを創業し、代表取締役に就任。約3年間Clean Technology関連プロダクトの輸出・販売事業と、日本企業のメキシコ進出支援事業を手掛ける。2016年1月現場を離れ日本に帰国後、同年4月サイバーエージェント・キャピタルに入社。シード・アーリー期の資金調達ピッチイベント「Monthly Pitch」の運営責任者。大阪大学 経済学部卒。

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ここ最近のSaaSマーケットに嵐が吹き荒れていることを、FastGrow読者ならご存知かもしれない。欧米の利上げやウクライナ情勢など、直近の株式市場ではリスク要因がひしめいている。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた日系SaaS企業ですらも、軒並み株価が半値以下になっているのが現状だ。

このような厳しいマクロ環境において、2022年の7月に27.2億円の大型調達を実施し、“SaaS×カスタマーサクセス領域の筆頭格”と名高いスタートアップが存在する━。それがAsobicaだ。前回は、同社の創業者であり代表取締役・今田氏の人柄・思想に迫るべくロングインタビューを敢行。今田氏が描くAsobicaの事業戦略を深掘った。

とはいえAsobicaのように、このような市況のなか順調に成長を遂げられる企業ばかりではないだろう。“スタートアップ 冬の時代”などと囁かれる今、これまでと変わらず、いや、これまで以上の成長を遂げるスタートアップの条件とは一体何なのだろうか?

今回そんな疑問を解き明かすべく、Asobica今田氏と同社の調達をリードしたSalesforce Ventures細村氏、サイバーエージェント・キャピタル北尾氏をお迎えし、鼎談をおこなった。

本記事では「逆風でも勝ち切るスタートアップの条件」について、(1) SaaS企業を取り巻く調達環境の見通しと伸びるSaaS企業の特徴、(2) 注目を集めるCS×SaaS領域、(3) 経営者の資質の計3本立てで徹底解剖していく。

  • TEXT BY MISATO HAYASAKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「SaaSは不況に強い」は嘘。
“Must have”以外のプロダクトは淘汰のリスクあり

まずは直近のSaaSマーケットの市況感を整理したい。「SaaSバブルは終わった」という言葉を時折耳にするようになったが、実際はどうなのだろう?海外事情に精通しているSalesforce Ventures細村氏にストレートな質問を投げかけてみた。

細村そもそもSaaSはそのレジリエンスの高さから不況にも強いビジネスモデルと言われています。というのも、粗利率が平均70%と非常に高く、リカーリングによる収益が中心になるので売り上げの予測も立てやすい。さらに、導入の際は年間契約・一括前払いである場合が多く、キャッシュフロー的に有利という特徴があります。

なので、しっかりと資金調達ができて”事業成長と収益性を両立できる企業であれば、この状況下でも成長は抑制されないだろうと私は理解しています。

なるほど、不況の波は受けているにせよ、比較的その影響を受けにくいマーケットということか。必要以上に悲観する必要はないのかと一瞬安堵したところで、細村氏は厳しい現実を口にした。「資金調達ができて」と前置きした理由がこの後判明する。

細村ただ、調達できる企業、調達できない企業の二極化は進んでいくはずです。SaaS企業への投資家の評価は依然として高いにせよ、成長一辺倒の企業への評価は分かれると思います。仮に成長している企業だとしても、蓋を開けてみればチャーンが多かったりバーンレートが激しかったりします。そうなると、投資家の評価は自ずと分かれるでしょう。

今後は、しっかりと収益性があって、なおかつ健全な成長が見込める企業であることが求められます。これまで調達ができていた企業も、内部状況によっては資金調達が難しくなっていくはず。まさに今、勝てるSaaSか、負けるSaaSかの分かれ目を迎えているのです。

二極化が進むのは、資金調達の面だけではない。仮に、調達がうまくいったところで、一部のSaaS企業は存続が厳しくなると細村氏は口にした。

細村不景気になると企業がコストを絞るのは当然の流れです。SaaSの提供を受ける事業者側が、“Must have”か“Nice to have”かでSaaSの選別を始めるでしょう。

このサービスは本当に必要か、なくても良いのか。そこの顧客の判断がいっそう厳密になる。生き残りを懸けたSaaSの戦いが始まっているのだ。

一方、シードラウンドに特化して出資を行うサイバーエージェント・キャピタル(以下、CAC)の北尾氏は、細村氏の資金調達に関する見解に同意を示した上で、シードファンドならではの観点から切りこみを入れた。

北尾“その時々のチャンスを掴めるか”もかなり重要になってきます。サイバーエージェント代表の藤田の言葉に「麻雀も仕事も、運7割・実力3割」というものがありますが、日々スタートアップを見ていて、勝負の運を掴む会社は、やはりその3割の実力が長けているからこそだな、と感じます。

たとえば、今回のAsobicaの資金調達のタイミングは、市況感が厳しくなる前のアクションでした。もちろん、私はAsobicaをシード期からずっと見ていたため、市況に関わらず追加出資を決意したと思います。しかし、こういった状況ではマルチプル*が変わるため、新規の投資家から希望の額を調達するのが難しいといった自体も起きるでしょう。

つまりAsobicaのように、その時の市況の危機に左右されることなく、常に全力で前のめりに動くことができるかどうかがチャンスを掴み取れるか、失速してしまうかの分かれ目だと思います。

*マルチプル:マルチプル法とは、企業価値評価(バリュエーション)手法のひとつで、上場している類似企業の株価などを参考に、売上や利益などのKPI(重要業績評価指標)に倍率をかけて、企業の相対的な価値を求める方法。

確かに、不安定と不確実がつきもののスタートアップ経営に「もしも〇〇な状況だったら」は通用しない。好機を掴み取る企業とは、そもそもの熱量や実行力が違うというわけだ。しかし、もちろん起業家がエネルギッシュなだけでは投資にまでは至らない。北尾氏は続けて、VCとしてのリアルな投資判断基準を述べた。それが経営者の“視座”だ。

北尾我々シードファンドとしては、やはりM&AよりもIPOを目指していただきたいと思っています。だからこそ、ARR100億を目指せる会社かどうかは厳しく見ていますね。ARR100億、つまりは最低でも長期的な視点でARR1,000億円の事業規模になりうるポテンシャルがあるか。シード期における判断は容易ではないですが、しっかりと見るようにしています。

“Must have”なプロダクト、つまりバリュープロポジションが顧客の本質的なニーズを捉えているのか否か。さらには、チャンスをいつでも掴み取れるほど“全力”で臨んでいる経営陣なのか。昨今の市況においてVC二社は、企業の冷静さと情熱さを見極めていたのである。

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SaaS界の“ツルハシ”。
カスタマーサクセスが秘めるポテンシャル

荒波の渦中にあるSaaS市場だが、その中でも徐々に注目を集めている領域がある。それこそが、Asobicaが事業ドメインとするカスタマーサクセスだ。第一回ではカスタマーサクセス×SaaSの国内外の現状を今田氏にうかがった。

SaaS企業の選別が進み、確かに投資基準は厳格化されていくだろう。しかし、大局的に見るとSaaSプロダクトが世に浸透していく流れは変わらない。つまり、ボラティリティの大きい個別のSaaS企業よりも、SaaS業界の伸びとともに成長していくカスタマーサクセス領域こそが今、注目を集めているのだ。

既にグローバル規模でみれば、カスタマーサクセス×SaaS領域はレッドオーシャンである一方、日本ではまだまだ未成熟の領域。このポテンシャルをVC二社はどう捉えているのだろう。

細村SaaSプロダクトの利用社数は爆発的に伸びてきています。それに伴い、SaaS企業群全体としてカスタマーサクセスの重要性が高まっていることは自明でしょう。もちろん連動してカスタマーサクセス職も増えていくため、カスタマーサクセス×SaaS事業は、大いにポテンシャルを秘めていると言えます。

さらに、海外にはGainsight(ゲインサイト)という、カスタマーサクセスプラットフォームの先駆けとなる企業があります。同社のCEOは“カスタマーサクセスの青本”とも呼ばれる「カスタマーサクセス──サブスクリプション時代に求められる『顧客の成功』10の原則」の著者であることは有名ですよね。

Gainsightは、Salesforce Venturesも投資していた企業であり、その他アメリカでは既にCS×SaaS領域で時価総額1兆円を超える企業も誕生しています。日本はアメリカから5年10年遅れて波がくると言われていますが、日本国内でもこの領域が伸びていく可能性は高いと判断しました。

国内では未成熟なマーケットでありながらも、米国では既にカスタマーサクセスプラットフォームの第一人者となった成功企業が存在する。Salesforce Venturesはこの領域のポテンシャルに手応えを感じていたのだろう。

さて、一方でサイバーエージェント・キャピタルはどう見ているのか。インターネット広告にも明るい同社ならではの見解を示してくれた。それは広告とカスタマーサクセスの意外な関連性についてだ。

北尾広告業界では現在、インターネット広告の普及によりCPAが高騰化しています。これはつまり、インターネット広告という表面的なアプローチだけでは、クライアントやエンドユーザーの満足は得にくくなっていることを意味します。

Asobicaが提供するプロダクト『coorum(コーラム)』は、顧客がどういった部分に関心があり、どのような行動をしているかという行動履歴やロイヤルスコアを取得しています。ロイヤルスコアのデータは広告やマーケティングにも密接に結びついているため、広告業界としてもAsobicaの事業には熱烈な期待を寄せています。

北尾氏のコメントに対して、今田氏も昨今の“顧客満足度”に対する認識の変化が起きていることを強調する。

今田北尾さんがおっしゃるように、インターネット広告によって販売数を伸ばすという仕組みには頭打ちがきていると思っています。

たとえば飲食店の場合、いくら広告費を使ったとしても口コミの点数が低いとそもそも集客できなかったり、一方でInstagramで拡散されていれば広告費を一切かけなくても集客できるようになったり、ひと昔前までとは世界観が明確に変わってきています。

また昨今では、SaaS企業のみならず、これまでは“とりあえず販売数を伸ばす”のが良しとされていたメーカーなども、ファンマーケティングの重要性を認識しつつあります。つまり新規顧客獲得を目指すだけでなく、既存の顧客満足度をあげることで離反を防ぎ、LTVを向上させていく動きがあらゆる業界で起きているのです。

カスタマーサクセスが重要事項であるという認識は広告業界各社とも一致しているので、そことの連携をさらに強めていきたいと思っています。

カスタマーサクセスは、SaaSに限定した概念──。もはやその固定観念は古くなってきているということだ。顧客満足度がビジネスの成功や失敗を握る時代において、カスタマーサクセスの重要性は急激に高まっていると言えるだろう。

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孫正義、藤田晋ら経営者に共通する資質、“世に後押しされる力”を纏っているか

SaaSやカスタマーサクセスをとりまく市況感はここまででざっと理解できたことだろう。とはいえ、このような良質な投資家との出会いとは、そもそもどこから生まれるのだろうか。また出会えたとしても、数々の投資家を魅了する経営者になるためにはどうすれば良いのだろうか。

そこで北尾氏に「稀有な20代経営者」と言わしめる今田氏にスポットライトを当て、周囲に応援される経営者の条件を紐解いていった。まずは、VC二人との出会いとはどのようなものだったのだろうか。

北尾Asobicaが最初に提供したサービス『fever(フィーバー)』のリリースを見て、即メッセージを送りました。独自トークンを活用しコミュニティの熱量を高められる「コミュニティ経済圏」という発想に共感した上、今田さん自身に強く興味を抱いたためです。

私も20代で起業しているからこそなのですが、今田さんも20代でありながら当時としてはかなり攻めた領域に参入しているなと感じまして(笑)。いかにも勢いのある起業家という印象を抱き、どうしても直接話がしたいと思ったんです。

今田氏と対面した北尾氏は、彼の経営者としてのポテンシャルにすっかり魅了されてしまったという。

北尾これまで相当な数の20代経営者に投資していますが、今田さんはバランス感覚が頭ひとつ抜けていると感じました。発言力、傾聴力、ラーニング力、愛され力……私が大事に思う経営者の要素を満遍なく持っている、稀有な存在だなと。

ストレートに言えば、相手をファンにさせてしまうんですよね。ソフトバンクの孫さんやサイバーエージェントの藤田のように、個人や会社の力だけじゃない、世の中に後押しされる素質を持った人だと直感的に思いました。

この北尾氏の発言に、取材陣も思わず頷いた。「照れますね(笑)」と少年のようにはにかんで見せたかと思えば、くるりと表情を変え、経営者としての聡明さを滲ませながらクールな口調で語り出す。“ファンにさせる”資質を、天然で持ち合わせているような人なのだ。

細村氏の今田氏との出会いも非常に興味深い。細村氏はICC京都に登壇する投資先を応援すべくライブ映像を見ていた。そこに映ったのが、Asobica今田氏のプレゼンだった。

細村今田さんのプレゼンを拝見して、直感的に「あれ、この人どこかで見たことがある」と思いました。私が前職の楽天キャピタル(楽天のCVC)にいた頃に一度お会いしたことがあったので、記憶に残っていたんですよね。久々にお見かけした今田さんが、生き生きとサービスの展望を語る様子を見て心打たれましたね。

細村氏は今田氏の経営者としての資質はもちろんのこと、プロダクトのバリュープロポジションにも強い感銘を受けたという。カスタマーサクセスの業務を軽減するプラットフォームとしての側面と、熱狂的なユーザーのコミュニティを作るというブランドマーケティングとしての側面が統合されたプロダクト。「正直、すっごくいい」。最初のミーティングを終えたとき、興奮まじりの本音が漏れた。

両VCが感じた魅力が違う点がまた面白い。しかし共通するのは、琴線に触れる“何か”を今田氏が与えたという事実だ。そう、これが「世に後押しされる力」と言える。

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「週7でAsobicaにコミットするよ」──歴戦の猛者を魅了するもの、それは“静かなる狂気”

成功する起業家との特徴として挙げた“世に後押しされる力”は、社外のステークホルダーに愛されるだけにとどまらない。その資質はスタートアップの生命線とも言える採用においても存分に発揮される。

現在、AsobicaのCCO(Chief Customer Officer)を務める小父内(おぶない) 信也氏の採用ストーリーはとっておきの事例であろう。小父内氏はSansanの創業期より参画し、データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーを務めたほどの人物だ。2019年にはAsobicaへCCOとしてジョイン、2020年に取締役となった。

前職で輝かしい結果を収めていた小父内氏を、当時のまだ名も無いアーリーフェーズであったAsobicaが採用できた理由に、今田氏の人となりが関係している。ともすれば、“静かなる狂気”とも呼べるであろう、象徴的なエピソードをご紹介しよう。

今田当初小父内さんには業務委託として週2で関わってもらっていました。ある日、「土日にがっつり時間をとってほしい」と言われまして。当時はちょうど創業事業であった『fever(フィーバー)』から『coorum(コーラム)』に事業ピボットしていた時期だったので「ああ、小父内さん辞めるんだな」と覚悟を決めました。

しかし、待っていたのは「週7でやる」という思いもしない発言だったんです(笑)。唖然としましたが、理由を聞いてみると、「一番しんどい局面で今田くんだけ諦めてなかったから」という言葉が返ってきました。

思い出話として懐かしそうに語る今田氏だが、「今田くんだけ諦めてなかった」という小父内氏の言葉にすべてが凝縮されている。今田氏の持ち味はまさに、この粘り強さにある。

続いて、シード期から3年以上今田氏を近くで見てきた北尾氏が、このエピソードの背景を語り出す。

北尾当時、Sansanがユニコーン企業として多くの注目を集めていたフェーズでした。そんなときに、今田さんはずっと小父内さんを口説き続けていたんです。当時まだAsobicaは創業まもなく、事業も立ち上げ中の、実績も何もない時代にですよ(笑)。

先ほど今田さんは、20代とは思えないほどバランス感覚に優れた2周目経営者のような風格があると言いましたが、一方で思いもよらないクレイジーさを発揮する時があります。

他にも特徴的なのは、半年経っても一年経っても、ずっと同じ熱量でやり続けられる人であるということ。一見簡単なことのように思えるんですが、これが一番難しいんです。目の前のことに一喜一憂して事業成長が不安定になるといった、若手経営者にありがちな失速はこれまで一度も見たことがないですね。

北尾氏は、「クレイジーに見えないところが今田さんのすごいところ」と笑い、「それでいて、視座が高いから空回りしない。冷静さが持ち味でもある。」と続けた。

クレイジーであり、冷静。なるほど、今田氏が持つ素養から、“世に後押しされる力”の正体が徐々に紐解けてきたのではないだろうか。

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採用“数”にくわえ採用“順”までクリアに描く。
徹底した組織戦略

さて、ここまで長きに渡って“逆風でも輝くスタートアップの条件”として、事業のポテンシャルや経営者の持つ素養を明らかにしてきた。しかし、FastGrowは知っている。優れたビジネスモデルや圧倒的なリーダーシップがあったとしても、それだけでは成功企業とは言えないことを。

組織作りに失敗し、マーケットの期待を背に衰退したスタートアップがどれほど過去に存在したことか。これまで再三VCから高評価を得てきたAsobicaだが、この観点ではどうか?その組織づくりの哲学に迫るべく、まずは細村氏と北尾氏の客観的な印象をきいてみよう。

細村Asobicaの経営陣は、ミッション・ビジョン・バリューに対してものすごく強い想いがあります。採用面接時には経営陣が直接その話ばかりしているとも聞きましたし(笑)。ミッション・ビジョン・バリューは企業にとって当たり前の存在ですが、そう簡単に実行できるものでもありません。

Asobica全員が本気でこのミッション・ビジョン・バリューが好きなんだと感じる瞬間が何度もありましたし、それであれば、どんなにつらい状況がきても経営者はブレないし、メンバーもブレないと思っています。

北尾人に対して性善説で向き合うことがすごくいい文化だと思います。ミッション・ビジョン・バリューベースで人を採用して、スキルは今後伸びるだろうと信じているんですよ。そうすると、モチベーションが上がる組織になり、“自信”と“スキル”の両方をセットにしながら、メンバーも成長できるようになります。

直近では採用も順調に進み、組織成長の土台が作れている。さらに北尾氏は、組織づくりにおける今田氏の解像度の高さも評価する。

北尾まだ社員が13名くらいだった頃、今田さんが、Asobicaが30名になった時の組織を資料を見せながらこう説明してくれたんです。

『14番目はセールス、15番目はフロントエンドエンジニア、16番目はSEOマーケターを採用します』と。驚くことに、30番目までの採用優先順位を明確につけていたんですよ。正直、アーリーフェーズでこれができる20代起業家は見たことがありませんでした。

「そうなんですか?(笑)」と目を丸くする今田氏に対して「やってる感を出さず、しれっとやってのけるところも経営者として器の大きさが垣間見えますね」と北尾氏は冷静に分析した。

今の会社に何が必要で、どんな人が必要か──。会社の課題点から逆算し、組織の構成図を緻密に描いていた今田氏。現在正社員は50名ほどで、業務委託を合わせれば80名ほどの組織になるという。

今田Asobicaの優位性であり、一方で課題でもあるのはとにかくSAMが広いこと。価値を提供できる顧客の範囲が広いサービスである一方で、ターゲットがブレてしまうとチャーンが増えたり組織が疲弊したりしてしまいます。

なのでより一層価値を深く感じていただけるターゲットにフォーカスしながら一致団結して戦わなければなりません。そのためにはミッション・ビジョンに共感のある仲間を集めるだけでなく、常に組織のあるべき理想状態から逆算して採用も進めていかなければなりません。

堅固に構築され、ミッション・ビジョンを軸に集められた組織。経営者は、志を一つにした者たちが疲弊しないよう、試行錯誤し続けている。急成長中のチームを束ねる強い芯と、弛まぬ努力を垣間見た。

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「Asobicaはあったかい」──投資判断に多大な影響を与える、顧客企業との関係性

投資家の評価基準は何もマーケットポテンシャル、トラクション、経営者や組織の強みなどに限ったことではない。Salesforce Venturesにおいては、投資検討時に、投資予定先の顧客インタビューまで実施するという。投資予定先の実態を知るには、顧客の声ほど参考になるものはないとの見立てだろう。

このように、一般的には多くの投資家がそれぞれ独自の観点から多面的に企業の魅力を探っている。細村氏がSalesforce Venturesを挙げてAsobicaを評価することとなった、カスタマーインタビューに関するエピソードを披露してくれた。

細村私の中では、カスタマーインタビューは投資検討先のプロダクト・サポートに対する顧客の評価はもちろん、対象企業とその顧客との関係を知る良い機会だと思っています。投資検討の際にカスタマーインタビューをお願いすると、対象企業側に渋い反応をされたり、ご紹介いただくまでに時間がかかることがあります。

しかし、Asobicaは快くこのインタビューを受け入れ、すぐさま顧客企業を紹介してくれました。その時点で顧客との信頼関係が透けて見えましたね。驚いたのは、インタビューした顧客企業の三社が、「Asobicaさんって、なんかあったかいんですよね」とそれぞれ同じコメントをされていた点ですね。

「Asobicaのカスタマーサクセスは素早く、前のめりで、あったかい」。表現は違えど、三社とも共通の意見だった。それぞれ個別にインタビューを実施したのにも関わらずだ。この点に深く頷きながらも、北尾氏も独自の評価軸を明らかにした。

北尾僕は経営者が描く夢の大きさを見ることが多いですね。それがスタートアップの成長の天井を決めてしまうので。これまで多くのスタートアップを見てきましたが、ある程度の成長を達成し、経営者の夢が叶った途端、右肩上がりの急成長も本当に急にストップしてしまうからです。

でも、Asobicaは本気で今の100倍、1,000倍の企業規模を求めにいく経営陣や、その組織を率いる今田さんがいます。つまづいた時は一緒に乗り越えていきたいし、今の高いモチベーションのまま突き進んでいってほしいです。

本取材では、ベンチャー投資の市況感やSaaSの展望を投資家の客観的意見をもとに解き明かしてきた。そこで分かったことは、今後、「勝てるSaaSと負けるSaaSは二極化していく」ということ。厳しい状況下で資金調達を実施し、「“Must have”なプロダクトだ」とVCから期待を集めるAsobicaは、まさしく“勝てる”ルートに立っているのではないだろうか。もちろん、確定事項として明言するには時期尚早だが、期待は募るばかりである。

FastGrowとしても、成長過程にあるAsobicaの真骨頂をぜひ見てみたいと素直に感じた。そう願うのは取材陣だけではない。投資家はもちろん、同社に共感する全ての者たちの共通意見であろう。

「Asobicaよ。もっと、もっと我々を熱狂させてくれ」──。

こちらの記事は2022年07月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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スタートアップ人事/広報を経て、フリーランスライターへ。ビジネス系のインタビュー記事や複数企業の採用広報業務に携わる。原稿に対する感想として多いのは、「文章があったかい」。インタビュイーの心の奥底にある情熱、やさしさを丁寧に表現することを心がけている。旅人の一面もあり、沖縄・タイ・スペインなど国内外を転々とする生活を送る。

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藤田 慎一郎

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