連載私がやめた3カ条

飲み会で群れるのはもうやめた──Asobica今田孝哉の「やめ3」

インタビュイー
今田 孝哉

2015年ファインドスターグループ(スタークス株式会社)に入社。年間トップセールス及び、社内の歴代記録を更新し(当時)最年少昇格を達成。CS領域におけるSaaSの立ち上げに従事し、多くの会社のカスタマーサクセス部門を支援。その後株式会社Asobicaを創業し、カスタマーサクセスプラットフォーム「coorum」をリリース。2019年4月にはForbes JAPANによる世界を変える30歳未満30人の日本人「30 UNDER 30 JAPAN 2019」に選出。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストは、カスタマーサクセスプラットフォーム「coorum(コーラム)」や顧客体験の向上を支援する「CXin(シーエックスイン)」を展開する株式会社Asobicaの代表取締役、今田孝哉氏だ。

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今田氏とは?
長期的思考でCSを変革する起業家

こちらの記事にあるように、CS界の御意見番といえば今田氏がぴったりかもしれない。前職のファインドスターグループ(スタークス株式会社)で、サブスクリプション型のサービスがコモディティ化しCSの重要性が増す中、500社以上の企業でCS部門の立ち上げに携わった。

そこで今田氏が目の当たりにしたのは、「CS部門を立ち上げたものの、多くの場合その機能が果たされていない」という課題だ。世の中のCSに変革を起こそうと、株式会社Asobicaを創業した。

現在は、顧客ロイヤリティの向上とLTV最大化を実現するカスタマーサクセスプラットフォーム「coorum」を展開。「遊びのような熱狂で、世界を彩る」を掲げ、テクノロジーやインターネットを駆使して古い業界を熱狂化していくことに取り組んでいる。

前職では年間トップセールスおよび、社内の歴代記録を更新。創業後の2019年4月には30歳未満のアジア30人「Forbes Under30 2019」にも選出されるなど、ビジネス界で活躍してきた今田氏。そんな今田氏は、一体何をやめることでここまでの道のりを歩んできたのだろうか。

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むやみやたらに繋がりを増やすのをやめた

創業後はリアル・インターネット上に繋がりを求め、多くの出会いを得てきたという今田氏。しかし、2年ほど前から「群れることをやめた」と語る。出会いはビジネスを展開する上でも必要不可欠なものに思えるが、一体なぜなのだろうか。

今田創業2年で色々な方とお会いできたおかげで、多くの繋がりができたからです。もうそろそろ新たな交流の場に参加するのは辞めようと思ったのは、効率が悪いと感じたから。確かに新しい出会いからアライアンス、ファイナンス、採用に繋がることはありますが、私の感覚では10回に1回程度。これは確率的に低いなと感じました。

ただ、人と会うことそのものを否定はしていません。私も目的を持って会うことはあります。浅く広くをやめただけで、狭く深くは維持している感じですね。密にコミュニケーションを取る起業家仲間や先輩経営者はいます。

いくら人脈ができたとはいえ、まだ創業から2年ほどしか経っていないころの決断だ。同じステージに立つ起業家との繋がりは不安軽減にも繋がる。何より、新しい出会いのある場はイノベーティブで刺激的だ。今田氏は「人と会うこと自体は否定しない」と言うが、新しい人との出会いを減らすことに懸念はなかったのだろうか。

今田個人的に、狭く深く付き合うのが好きなタイプなんです。飲食店で例えると、おいしい店をたくさん知っているより、1つの店に通い詰めて深く繋がれることに幸せを感じるんですよね。

出会いの場に足を運んでいた時間が浮いた分、費やせるようになったのは社員との時間です。毎週ごはんに行ったり、採用会食に行ったり。社員と密に繋がれるのは嬉しいですし、採用会食で仲間を増やすことに時間を使えることも楽しい。群れるのをやめることで、長期でインパクトをもたらすことに時間を使えるようになりました。

「ただ、完全に誘われなくなるのは寂しい」と笑う今田氏。断るときには、きっぱりとドライに断るのではなく、「次回また誘ってください」とやんわりと伝えるようにしているそうだ。

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Twitterにコミットし過ぎるのをやめた

群れるのをやめた今田氏が、同時期にやめたのがTwitterへのコミットだ。多くの起業家がTwitterで発信活動を熱心に行い、会社の認知向上・フォロワー数の増加に力を入れている。今田氏も起業1年目は発信・フォロワー数の増加が大切だと考え、運用に注力していた。しかし、今ではそれをやめた。

今田これも時間の使い方を考え直したことが理由ですね。同時にメディア露出も大幅に減らしました。Twitterを頻繁に使っていたころは、あらゆる情報を見てしまうため、他の起業家や経営者と比べてしまうことが多々あったんです。

今はツイートを見たい人をリスト化し、寝る前の5~10分程度で情報をキャッチアップしています。また、プライベートで使ってしまうとつい見てしまうため、ビジネス目的に割り切って使おうと意識を変えましたね。

「誤解をしないでほしいが、コミットをやめただけで、使うこと自体をやめたわけではない」と今田氏は語る。Twitterは認知向上に大きく寄与する。まず認知されることが採用には不可欠と言われるが、Twitterだけではなくメディア露出も減らしてしまっていいのだろうか。

今田確かに採用や顧客からの問い合わせに効く期待はあります。ですから、今後どこかのタイミングで少しづつ強化する可能性はありますね。ただ私は、組織崩壊の多くの原因が元を辿ると“期待と現実とのギャップ”であると思っているんです。キラキラだと思って入ってみたけど、実は全然そんなことがなかったとか、ミッションでは壮大なことを掲げているけど、実は目先の売上につながるような受託ばかりをやっているとかですね。そうした大きなギャップが生まれるのは良くない。

私が今のフェーズでTwitterやメディアでバンバン発信するというのは、基礎ができていない建物の壁を綺麗に塗装したり飾り付けたりして、それを世に売り出すような感覚に近いんです。

もっと言えば、発信せずとも勝手に染み出していくのが理想。なので、今は業界内で噂が伝播するくらいの強いカルチャーを作ることにとにかく力を入れています。

「Twitterに割く時間を社内のカルチャーづくりに投資したい」と続ける今田氏。具体的に、どういったことに取り組んでいるのだろうか。

今田Asobicaが大切にしてる価値観の一つに“アソビゴコロ”というものがあります。仕事は誰かに機会を提供されて受け身的に楽しくなるものではなく、自ら工夫する事によって楽しくするものだ、という考え方です。

例えば、社内で毎日使用されている“コミュニカ”というポータルサイトの活用や、その中で行われているメンバー理解を深める様々な企画は、メンバーが主体的に手をあげて動いている取り組みです。こういった動きがメンバー起点で自然に、かつ活発に起こっています。

今田氏が大切にしてるのは、そういった小さなアクションを誰もが率先して行えるような環境を仕組みとして作っていくことだ。トップが“発信する事”ではなく、発信しなくても“勝手にカルチャーが浸透するような仕組み・制度を作る事”に自身の時間を使っているのだ。

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事業成長にコミットするのをやめた

最後に今田氏が挙げたのは、「事業成長に自分がコミットすること」。「1年半前ごろから現場の責任者に任せるようにした」と話すが、創業者が事業成長にコミットしないとは、一体どういうことなのだろうか。

今田現場を離れた後、2年連続500%成長と大きく伸びているので、自分が離れて改めて良かったなと感じています。

今の自分の役割は会社の成長軌道をもう1段2段上げていくことに時間を使うことだと思っていまして、事業にコミットしていた時間を採用・カルチャーづくりに割くようになりました。Asobicaでは、1次面談のすべてに私が出て、2次に取締役が、そして3次はリーダー・マネージャーが面談を行うという体制をとっています。

ほとんどの会社が1次面談にそこまでコミットしていないからこそ、あえてそこに最も力をかける。当然ヒアリングだけではなくアトラクトも1次の段階で重要視していますし、2次面談の日程調整もその場で行ってしまう事も多々あります。そういった熱量が結果的に迷った時の決め手になってくれたりしていますね。

人数が絞られていく2次・3次面接とは異なり、1次面接は相当な人数に会わなければならない。「自分じゃなくてもいいだろう」と思わないのだろうか──。

今田確かに大変で、代わってもらいたいと思うこともたまにありますよ(笑)。でも、Asobicaとの初期接点が全部自分である、という事実が大切なんです。すべて自分が対応するから責任が発生しますし、「良い人を他社に取られた」なんてことも全部自分に返ってくる。言い訳する機会を自ら断っているということでもあります。

そして何より、経営陣が採用に誰よりもコミットしているという姿勢自体が、会社全体の採用に対する意識を高めることに繋がっていると思います。

採用に力を入れる理由を、今田氏は「これまでに大きく事業が伸びた4回とも、採用が上手くいった時だったから」と説明する。長期的に見たら、採用に時間を使った方がいい。事業にコミットしていては採用に全張りできないからこその「やめたこと」なのだ。

お分かりの通り、今田氏の「やめ3」は、長期的な思考、俯瞰的な見方が共通点だ。こうした素養を身に付けられたのは、学生時代にダンス部を立ち上げ、拡大させた経験が関係している。ゼロから約70人の規模に拡大していく中で、俯瞰的に物事を見たり、他の人たちに任せたりする経験を積んだ。「それが結果的に、今の自分に繋がっているのかもしれませんね」。今田氏も自身をそう分析する。

取材中一貫して、誰もが躊躇するような決断を淀みない口調で語る今田氏。さらりと「人に任す」と言葉にするが、不安になるあまり任せきれないという経営者は多くいるだろう。果たして、今田氏が不安に駆られる瞬間はあるのだろうか。取材の終わりにそんなことを聞いてみた。

今田確かに、メンタルの安定性は高い方なんだと思います。株主や社員からも、「逃げなさそう、諦めが悪そう」だと言われています(笑)。最近、実はここが自分の経営者としての強みなのかもしれないと思うようになりました。

繰り返し「長期的に考えたら」と話していたのが印象的だった。本質的に会社、事業にとって大切なことを見誤らず、割くべきところに時間や力を注ぐことこそが、強靭な会社を作り上げていくことに繋がるのだろう。

こちらの記事は2022年04月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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