激しい社会変化の今こそ、スタートアップに飛び込む最大のチャンス──2023年最新「すごいベンチャー100」から17社とVC3社が集結のイベントレポート

東洋経済新報社による毎年恒例の企画「すごいベンチャー100」(以下、「すご100」)特集。ユニークなビジネスモデルや資金調達実績などがある100社を同社編集部が厳選し、全社を総力取材してリスト化したレポートは、業界から多くの注目を集めている。

今回、「すご100」のスピンアウト企画として、インキュベイトファンドグローバル・ブレインジャフコのVC3社が合同で「すごいベンチャー17社に一気に会えるリアルイベント」を開催。その中で行われたVC3社の最前線で活躍するキャピタリストや「すご100」ベンチャー企業のCxOといった豪華ゲストが登壇する特別セッションを、レポート記事として記録した。

テーマは「スタートアップ・VC業界トレンドと人材の潮流」と「経営ボードをともに作るCxOに求めるもの」だ。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
SECTION
/

資金調達できるスタートアップとそうでないスタートアップが明確に分かれる今、注目される領域とは

イベント開始前から参加者、登壇者の熱気が交錯し、受付には長蛇の列がなされた本イベント。冒頭、会場を提供したGoogle Japanから、日本のスタートアップ支援を行う「Google for Startups Japan」について説明があり、その後、最注目のセッションがスタートする。

豪華ゲストによる特別セッション「スタートアップ・VC業界トレンドと人材の潮流」には、インキュベイトファンド代表パートナー村田氏、ジャフコグループチーフキャピタリスト沼田氏、グローバル・ブレインInvestment Group Partner・都氏の3名が登壇。グローバル・ブレインInvestment Group Principal・國分氏をモデレーターに、未来のユニコーン企業を生み出そうと奮闘するVCの思考を知れる機会となった。

國分今回、日々最前線でスタートアップに向き合っているベンチャーキャピタリストのお三方をお呼びしています。まずパネリストのお三方から簡単に自己紹介をお願いします。

村田村田と申します。VCとしては約20年、その前は自分でスタートアップ起業経験もあります。VCとしては、いい会社を見つけてくるのではなく、起業しようとする人と出会い、一緒にプランとチームを作ってスタートすることにこだわっています。

メインの拠点は日本ですが、インド、シンガポール、アメリカ、ブラジルにも拠点を持って、独自のファンドを運営しています。他にも、ベンチャーキャピタル協会の理事も務めていて、業界のルールづくりに取り組んでいます。よろしくお願いします。

マイクを持つのが村田氏

沼田ジャフコの沼田と申します。2005年に新卒で入社してからずっとジャフコでスタートアップ投資をしています。注力している領域はエネルギーやヘルスケア、ディープテック、それぞれ数社の投資と支援に携わっています。よろしくお願いします。

都と申します。私は新卒で楽天に入社し、M&A、楽天市場のマーケティング、楽天ベンチャーズの立ち上げなどをしました。その後ヤフージャパンに転職して1年ほど経ったタイミングでLINEと合併しました。楽天、ヤフー、LINEと国内のIT3社をマスターした形です。そういう背景もあってIT領域を中心に、ITサービスがある会社に出資や支援をよくしています。よろしくお願いします。

國分ありがとうございます。私はスタートアップのヘッドハンター、スタートアップ人事を経て昨年からグローバル・ブレインの投資先企業の採用支援をしています。本日はモデレーターを務めます。

本日はまず、現在のスタートアップを取り巻く状況について、お三方に伺っていきたいと思います。続いて「すごいベンチャーの条件」として、日頃スタートアップと向き合われる際に気をつけているポイントを伺い、最後にご来場の皆様に向けて、「スタートアップの醍醐味」と題した熱いメッセージをいただきたいと思っています。

では早速1つ目、「トップVCから見たスタートアップの今」というところで、ここ2年ほど、「スタートアップ冬の時代」と言われたりしますけれども、お三方から見て、本当に厳しいのか、具体的にどういうところが厳しいのかなどを伺っていければと思います。まず村田さん、いかがでしょうか?

村田誤解を恐れずに言えば、そんなに厳しいと思っていないという実感ですね。日本と日本以外でスタートアップの環境がだいぶ違うのかなと思います。昨年の日本のスタートアップ資金調達は1兆円ほど。他国を見ると昨対比半分や3分の1になっている国もある中で、日本は伸びています。

今年に入っても、アメリカやヨーロッパではかなり下がっているという話も聞きますが、日本はそんなに減っていない印象ですし、新たなファンドレイズの動きも見えます。国としても昨年末に「スタートアップ育成5ヶ年計画」ができ、政府や金融機関としてもスタートアップを盛り上げていこうという気運は消えていないと思います。

それと、プレイヤーのレベル感は年々上がっています。スタートアップを創業される方もそうですし、スタートアップに新たに入社される方々のレベルがかなり上がってきていて、いい意味で環境が変わってきたなと感じます。

國分ありがとうございます。確かにメディアで騒がれていることだけを鵜呑みにして悲観するのではなく、起業家さんやVCさんが得ている一次情報をお聞きして考えることは重要になりそうですね。沼田さんはいかがでしょうか?

沼田私も正直、そこまで厳しいという感覚は持っていません。確かにスタートアップが上場するときの株価は厳しくなってきましたが、一時期の高い水準から落ち着いてきたなと思います。ただ未上場では、いいものを持っている会社にはきちんとお金が集まる環境にはあります。

中でも、ディープテック領域で言えば、そもそも資金調達が楽だったことはないのですが(笑)、村田さんもおっしゃったように、政府の支援策、大型の補助金が出てきたりしているので、比較的追い風がある状態かなと思っています。

沼田氏

國分ありがとうございます。都さん、お願いいたします。

お二方のおっしゃる通りなので少し別の視点で。領域やセクターごとに見ると、変化を明確に感じますね。3年くらい前まではIT、特にSaaS企業が多くの資金を調達する傾向にありました。ですが最近は、全体的にディープテックやヘルスケアの企業が以前より多く調達していると思います。ただ、調達できる企業には結構な金額が集まって、そうじゃない企業との金額の差がかなりはっきり出ている印象です。起業家もそういった資金の流れに順応していく必要があるのかなと思います。

都氏

村田ディープテックの話はまさにおっしゃる通りだと感じますね。リーマンショックの2008年から2013年まで、超氷河期の時代があって。アベノミクスという言葉が出てきた10年ほど前から、資金供給が回復してきました。

去年の「スタートアップ育成5ヶ年計画」の中でも、ディープテックを意識したような施策や制度が出てきています。研究開発が重要となる会社に対する予算はそれまでの3倍に増加し、SBIR(Small Business Innovation Research)という制度でスタートアップの製品を政府が買うというルールが明確にできました。

政府の民間企業からの総購入量は年間約10兆円ありますが、一昨年までは、設立10年以内の会社からは700億円ほど、つまり0.7%しか買っていませんでした。この割合を、3%まで引き上げようという明確な指針ができたのです。

去年と今年は、宇宙関連スタートアップに対してSBIRが大きく入ってきました。他にも、脱炭素化、環境関連、医療機関などでだいぶ動き始めています。そしてそれは1年だけの予算ではなく、向こう3年分の予算として充当されるということも非常に大きかったなと思います。

ディープテックではプロダクトローンチまですごく時間がかかります。ですから、シードラウンドで資金調達してローンチまで進め、次のラウンドでグラント(政府系競争的資金)を得てトラクションをつくる。そんな流れが王道の形になりつつあります。

最近、大学でのイベントに呼ばれるケースが増えてきました。それこそ東京大学入学式での総長の挨拶が話題になりましたが、学生に対して「官僚を目指そう」ではなく、「スタートアップ経営者を目指そう」「起業しよう」と訴えるような潮流がすごく強く出てきたなと思います。VCたちも、積極的にディープテックにアロケーションしていこうという発想が、この3年ほどで増えていますね。

國分ディープテックの話があり、その前に都さんから、しっかり調達できる企業と苦戦している企業が出ているというお話がありました。沼田さんにお聞きしたいのですが、そんな今の状況下で注目されている企業や領域はどんなところでしょうか。

國分氏

沼田広義のエネルギー領域やSaMD(Software as a Medical Device)、ヘルスケアは好きでもあり、引き続き大きなチャンスがあると思っています。先ほど村田さんからあったような脱炭素領域をはじめとするGX(Green Transformation)にも、政府の巨額のお金がつこうとしています。

國分今お話に上がった領域のスタートアップも本日いらしていますので、皆さまぜひこの後の交流会でお話しください。

それでは次のトピックに移ります。「トップVCから見てすごいベンチャー」ということで、皆様がスタートアップに向き合う際に、どこを見て投資を決定するのか、普段起業家を応援して、気を付けているポイントを伺っていきたいなと思っています。都さんからお願いできますか。

私はシードステージからグロースステージまで幅広く出資しているので、ステージによって異なるしカテゴリーによっても見るポイントは異なりますが、ポジショニングが強い企業や起業家さんに対して、常にご支援をさせていただきたいと思っています。

ポジショニングとは具体的にどういうことかというと、顧客のニーズをきちんと捉え、それに対する差別化されたバリューを提供できるかどうかです。自社のバリューへの解像度が高いことが重要ですね。

それはつまり、きちんと市場調査をしてプロダクト開発をしている、社内で営業やプロダクトチーム、マーケティングチームのコミュニケーションがとれていて、そこから言語化された価値がしっかり顧客に伝わっているということです。これらを総合的に見ながら、ポジショニングというものを見ています。

今年はジョーシスが、大きな金額の資金調達をされました。ジョーシスと似たようなサービスは他にもあるのですが、ポジショニングで一つ頭抜けているところがあったところが大きな調達につながったのだと思います。

沼田私がまず見るのは、解決する課題の大きさ、市場規模ですね。それは、ただものすごく大きな規模であればいいのではなく、課題と解決策が非常にクリアなものであり、結果的にその会社が獲得できる市場が大きいかどうかです。

経営チームの方々のことももちろん見ます。最近では経営者1人でやっているところよりは、何人かのチームとして取り組んでいるところの方が安心感があります。最後はやはり「なぜ今この事業をするのか」ですね。ここは常に意識して、お伺いするようにしています。

村田僕らは0→1に特化して投資しているVCなので、会社がまだない状態で起業家とコミュニケーションして、一緒に会社を立ち上げます。そもそもデューデリジェンスをする箱がない状態でスタートするので、「会社」を見極める要素は一切ありません。だから「この人とやって失敗しても悔いはない」といえるようなシンクロ率が作れるかどうかがすごく重要だと僕は思っています。

後のステージで入ってくるVCから見ても、起業家とキャピタリストの相性というか、コミュニケーションコストの低さはとても大事です。スタートアップの一番の強みはアジリティにあると思うので、重要な意思決定をするときも、瞬時に「これでいこう」と決めることができる関係性は重要です。

あとはアスピレーション(志・向上心)ですね。最近のスタートアップにはレベルの高い人たちがどんどん入ってきて、早い段階からグローバルを目指す企業が増えてきました。この会場を見ても思いますが、以前は日本人の男性ばかりだったスタートアップが、国籍や性別という意味でもだいぶ変わってきた印象があります。

VCとしても近い時間軸で、海外のVCや海外の事業会社とのアライアンス、M&Aなどの事例は増えてくると思いますし、その辺りの目線を持って投資をしているところです。

國分では、スタートアップで働く個人の話に移っていきたいと思います。「スタートアップの醍醐味」ということで、これからスタートアップへ挑戦される方、既に活躍されている方々に向けて、スタートアップに挑戦する際に心がけておくべきこと、注意すべきことを、ベンチャーキャピタリストの皆さんの視点からメッセージをお願いします。

間違いなく言えるのは「どんどん起業していただきたい」ということだと思いつつ(笑)。一般的にスタートアップへの挑戦は簡単な道ではないことは皆さんご存知だと思います。一方で、本当に大きな未来を切り拓いていっていただける可能性のあることなので、しっかりビジョンやミッションを実現できるようなコミットメントで臨んでいただきたいと思います。

世の中を変えるようなものをつくり出すとか、人の未来を変えるといったことに挑戦して、実現できたときには、子供や孫に胸を張れる大きな自己実現になると思います。

個人的には、「サラリーマンとして誰のために頑張っているんだろう」ともやもや思い悩むくらいなら、自分で起業してやりたいことをやった方が100倍、1000倍、1億倍楽しいと思います。皆さんもぜひチャレンジしていただけるといいと思います。

沼田経験上、スタートアップの成長は思った通りにはならないのですが、一生懸命、一点突破で試行錯誤して正解を見つけようとしていると、いつかは正解にたどり着くので、とにかくやり切ることが大事だと思っています。

スタートアップの世界では、「世界で初めて実現しました」みたいなケースが結構あります。そういうことにリアルタイムで関われることはスタートアップの醍醐味だと思います。ぜひ果敢にチャレンジしてもらうといいと思います。

村田スタートアップを立ち上げようとする人も、創業期のスタートアップに入社するのでも共通して、最も無敵になれる要素は「夢中になること」だと思います。一緒に働くメンバーが、チャレンジすることに夢中になれるかどうか、プロダクトそのもの、マーケットそのものに夢中になる感覚を持てるかどうかが非常に重要です。

ちなみに、スタートアップに飛び込むタイミングとして今はものすごくいいタイミングです。なぜなら、マクロの潮流としていろいろなことが起きているからです。世界では戦争が起きて、日本でもコロナが明けてきて、大規模言語モデルが人々の生活を変えそうになっていたり、世界中の金融機関がみんなでコミットして、脱炭素化へ新しい産業を生み出そうしていたりする。

数年前まで、スタートアップのテーマは、大きなテーマというよりも、デジタルトランスフォーメーションをいろいろな領域でやっていこうというものが中心でした。一方、今は全く新しい産業を作ろうという潮流が、各国から生まれてきています。

モメンタムが大きく巻き起こってくると、そこに掛け算する領域もどんどん盛り上がっていく。そこに政府の支援も入ってきて、優秀な人もどんどん入ってくる。この潮流がすごく重要かなと思っています。これほどまでに「スタートアップに踏み出すべきタイミング」というのは過去になかったと言えると思います。

かつて、この渋谷というビットバレーが生まれた時期、僕もスタートアップ起業家としてこの辺りを歩いていましたが、その時期に近い雰囲気はあるかなと感じています。ぜひ皆さんもスタートアップの経営者の話を聞いて、良い出会いをしていただければなと思います。

この熱いセッションを経て、次は「すご100」ベンチャーのピッチセッションが実施された。登壇したのはmeleap、ソラジマ、stu、フェイガー、レグミン、NABLA Mobolity、Space BD、CYBO、SyntheticGestalt。エンタメ、食品、ESG、航空、医療・創薬など各業界に切り込むベンチャー企業が3分の発表をした。

SECTION
/

多様性を重視する一方で、経営ボードに求める「マインドの一貫性」や「意見のぶつかり合い」

続いてセッションB「経営ボードをともに作るCxOに求めるもの」がスタート。登壇したのはNearMe代表取締役社長・髙原氏、ZEALS取締役COO・遠藤氏、Spiral.AICEO・佐々木氏。モデレーターにはインキュベイトファンドの寿松木氏が入り、領域やフェーズの異なる3社の経営陣から、赤裸々な言葉を引き出した。

髙原皆さんこんにちは。NearMeの髙原です。NearMeはAIを使って、空港などの観光やイベント、地域の交通課題に向き合っているスタートアップです。ドアtoドアのいろいろな利用シーンにおける課題に取り組み、「移動から街の活性化」を目指しています。よろしくお願いします。

遠藤ZEALS COOの遠藤と申します。僕らはAIチャットボットを使った商品の購買を行う、チャットコマースという事業を展開しています。僕はCOOとして、日本とアジアの責任者を務めています。

もともと僕はヒューマンインターフェイス論という、機械と人のインタラクティブなやり取りを大学院で研究していました。それをいかに社会実装していけるかというところで、ZEALSにジョインしました。今日は経営ボードに求めるものということで、皆さんに共鳴できる話ができればと思っています。どうぞよろしくお願いします。

佐々木Spiral.AI の佐々木と申します。元々研究者でしたが、突然ビジネス畑に転向したというキャリアになっています。前はニューラルポケットのCTOを務めておりました。ニューラルポケットは創業から2年半くらいで上場まで行ったのですが、その経験が今日の「CxOに求めるもの」に関わってくると思います。今のSpiral.AIを立ち上げてからもいろいろ学びながら実践していますので、その辺りお話できると思います。

寿松木モデレーターを務めさせていただくインキュベイトファンドの寿松木です。インキュベイトファンドという独立系のVCで、投資先の採用や組織作りを横断支援していくバリューアップチームに所属しています。今回は組織作り、チームビルディングの観点からお三方にいろいろ深掘りしていけたらと思っています。

登壇者のお三方には事前に質問をさせていただきまして、「CxOに何を求めるか」を回答していただいています。こちらを1人ずつ、簡単に解説いただけますか?

髙原僕は、「思い×マインドセット」としました。「思い×マインドセット=バイブス」かなと思いますが。まずは思いの方向感がフィットしていて、目指していくところに共通しているものがあることを重視します。そしてスタートアップは不確実な状況は前提なので、そういうときに何とかするというマインドセットがあること。この2つがあればともにやっていけるなと思っています。

髙原氏

寿松木思い×マインドセット=バイブスという方程式を今、学びました、ありがとうございます。遠藤さんは「志」と一言で記載があります。これはどういった意味合いでしょうか。

遠藤CxOや経営ボードメンバーに求めたいことはいろいろありますが、一番大事なことは「志」だなと思っています。今このタイミングの規模がどの程度だろうと関係なく、将来成し遂げたいところからするとまだまだちっぽけなもののはずです。なぜならそのぐらい大きいことをやりたいのがスタートアップだから。

そうなってくると、結局何を目指しているのか、何を本気でやりたいと思っているのか、これによってあらゆる戦略も採用も変わってきますし、お客様とどう向き合うかも変わってくると思います。そのときに「志」、その人がどこを見ているのかが揃っていること。ここが起点になります。

当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、経営陣の中で感覚が揃っていることは意外と少ないですし、シンクロ率が100%にはなることはなかなかありません。なので、根底として大事なこととして1つ挙げるとしたら「志」という言葉を選ばせていただきました。

佐々木僕は「我を通しきること」という古めかしい表現になりましたが、概ね他のお二方と近いと感じます。ポイントは「我」と「通しきること」の2つに分けられるということ。「通しきること」はお二方も言及されたように、やり遂げる力というか、成果を出すためにやりきるという表現です。

「我」というのが面白いところですね。理想は1つのビジョンに対して、「これをやるぞ」と決まればいいのですが、その中で解釈違いは許容しようと考えています。たとえば富士山に登るということは合意をして、どう登るかは任せるという感覚です。車で登ってもいいし、ヘリコプターで行ってもいい。「自分はこう登る」と「我」を共有してくれれば、僕は全力で応援しますという風に考えています。

寿松木「我を通しきる」というワードはあまり聞いたことがありませんが、この佐々木さんらしい表現に価値があるのではないかなと感じました。CxOに求めるものは皆さん定性的なものですが、見極めることが難しいなとも思います。目の前の人が本当に求めているものを満たしているのかについて、どのように見ていらっしゃるのでしょうか?

髙原抽象化した方向性に対するフィット感だと考えています。僕らは「移動」というところから入っているので、そこに何かしら接点がありそうかどうかはまず見ます。車が好きな人もいれば、まちづくりが好きな人、建築が好きな人なども仲間になることが多いです。よく聞くこととしては、「なぜそう思うのか」「理由なくわくわくしたこと」などを掘り下げて確認しています。

遠藤まず前提として、僕らは採用時にいきなりCxOのオファーをすることはしていません。CxOとして一緒にやっていくかどうかは、一緒に働いてみてから決めています。

僕は先ほど「我を通しきること」にかなり共感しました。一緒に働いていく中で僕らは多様性を大事にしていて、代表の考えにただただ賛同するだけの人はいらないと思っています。全く同じ思考回路の人が隣にいても、全アグリーになってしまい、議論が発展しないですよね。違う哲学や意見、違う専門性があって意見がぶつかり合うから、経営ボードである意味が出てくるのです。

もちろん高い志やビジョンに共感しているのが前提ですが、そこを本気で目指しているからこそ議論ができる。異なる意見が出てくる人は、本気の人なんですよね。そういう姿を働く中で見させてもらって、この人と一緒ならもっと高いところを目指せると思ったときに、CxOはどうかというステップに進んでいくという考え方です。

遠藤氏

寿松木ともすると「我を通しきる」という言葉だけを聞くと、悪い意味で戦ってしまいそうなイメージを抱きます。佐々木さんの場合は現職でも前職でもいろいろなボードメンバーの採用に関わってきたと思いますが、その中でこのワードに行き着いた背景を伺いたいと思います。

佐々木結構、けんかはしますね。意見なんてぶつかって当然だし、本気でやろうと思って我を通そうと思ったときに、けんかしないでやり遂げる方法はたぶんないです。前職のときも、やり方が明らかに違うメンバーがいてぶつかるわけですが、それを「確かに合理的だ」と思ったら「やってみよう」となります。ただし、「逃げるなよ」ということは言いますね。

ダイバーシティには寛容なのですが、「通しきらない」ことは僕の中でNGです。言ったからには通しきろうねと。もちろん任せきりではなく、きちんと応援もします。本気でぶつかった上で、それをやりきれるかどうか、時間をかけて見ていって、尊敬するほど我を通しきれる人だと思った場合にCxOのオファーをします。そうやってCxOになってもらって失敗した例は今までありません。

髙原質問なのですが、「我の通し方」ってあると思うんです。闇雲に言いたいこと言って通されても、カロリーばかり使ってなかなか前に進まないと思いますが、その見極めはどうされているのですか。

佐々木それは僕の恵まれているところで。意外とみんな合理的に、提案ベースで持ってきてくれる方が多いので、その辺りは純粋に助かっています。

佐々木氏

寿松木佐々木さんのお話を聞く中で、遠藤さんが深くうなずいていらっしゃったのですが。

遠藤強く共感します。やっぱりけんかはしますし、けんかしている経営チームは絶対いいチームだなと僕は思います。

「通しきる」という言葉の中に入っているのが、「中途半端に不満や文句を言うなら、責任を持って変えていこう」ということだと思うんです。言ったならやり切るところまでがセットだよね、と。だから「我を出せ」ではなく「我を通しきる」なのだと思いますし、だからこそ提案のクオリティが上がるのだろうと感じました。

寿松木ありがとうございます。もしかしたらここにいるどなたかが将来のCxOになるかもしれないので、会場に向けて一言ずつメッセージをいただけますか。

佐々木CxOは楽しいと思います。自分のやりたいようにやるというと語弊がありますが、一定の責任を持ってやることで、成果も自分の手応えとして得られる。「我を通しきる」は少しきつい言葉になりましたが、絶対に楽しいのでぜひご検討ください。

遠藤きっとここに来ている皆さんは、何かしらスタートアップに興味がある方ですよね。僕はCxOの醍醐味は、決められたジョブディスクリプションの中で働く毎日よりも、何かを成し遂げることに自分の人生の時間を燃やせることです。それはすごく幸せなことだと思います。

スタートアップには、「こういう風に世界を良くしていくんだ」という青臭い思いをまっすぐにぶつけている人たちが、CxOに限らず多いですから、そういった気持ちを大事にしてもらえるといいのではないかと思います。

髙原僕は前職でアメリカやフランス、いろいろな国に行ったことがありますが、日本では何かあったとしても、相対的に基本死ぬことはないですよね。であれば、一番わくわくすることに没頭されたらいいと思います。スタートアップのCxOは、非常に責任がある立場で手触り感をもって働けるポジションです。ぜひわくわくすることを手触り感もってやりたいという仲間に来ていただきたいなと思います。ありがとうございました。

寿松木もしこのお三方と一緒に働きたい、一緒に会社を経営していきたいと思われた方は、個別にお話しいただきたいなと思います。改めてお三方、本日はありがとうございました。

このセッション後には、「すご100」ベンチャー企業によるピッチの後半を実施。登壇したのは「すご100」ではないが本イベントを共催した『FastGrow』と、「すご100」のM&Aクラウド、Ginco、Visual Bank、Spiral.AI、ZEALS、NearMe、ザブーン、パワーウェーブ。金融、AI、モビリティなどの業界が中心となった。

ピッチ終了後は、会場に設置された各業界・領域ごとに分けられたスタートアップブースにて、参加者とスタートアップとの交流の時間となった。どのブースもところ狭しと人が集まり、クロージング間際まで活発なコミュニケーションが行われた。

参加者にとっては、気鋭のVCやベンチャーの事業、考え方に触れて自らのキャリア戦略を考える機会に、「すご100」ベンチャーにとっては、登壇機会によって広く自社について共有できた機会になったようだ。興味を感じた読者はぜひ、次回開催を待ち望んでいてほしい。

こちらの記事は2023年12月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン