「提供バリューとキャッシュポイントを分けて考えよ」
社会課題領域でビジネスを興し、チェンジメーカーを目指す鉄則とは

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登壇者
井上 高志

1968年、横浜市生まれ。青山学院大学卒業後、株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)入社。株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)を経て、26歳で独立し、1997年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)設立。2010年に東証一部上場。また、新経済連盟理事、一般財団法人「NEXT WISDOM FOUNDATION」代表理事、一般社団法人「21世紀学び研究所」理事、一般社団法人「Living Anywhere」理事も務めている。

佐々木 大輔

Googleで、日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括。その後、2012年7月freee株式会社を設立。Google以前は博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズにて投資アナリストを経て、レコメンドエンジンのスタートアップであるALBERTにてCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任。一橋大学商学部卒。専攻はデータサイエンス。日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 / 2014年日本の主役100人/2015 Forbes JAPAN 日本の起業家BEST10に選出。

石川 善樹
  • Campus for H 共同創業者 
  • 公益財団法人Well-being for Planet Earth(旧LIFULL財団) 代表理事 

東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。(株)Campus for H共同創業者。「人がよりよく生きるとは何か(Well-Being)」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。著書に、『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『友だちの数で寿命はきまる』『最後のダイエット』(ともにマガジンハウス)、『ノーリバウンド・ダイエット』(法研)などがある。

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「社会課題解決」や「ソーシャル・イノベーション」といったキーワードが存在感を増している。日本でも、SDGsへの注力や事業評価におけるESG指数の導入などを行う民間企業が登場しはじめていることはお伝えしたとおりだ

このような環境のなか、世界を牽引していくイノベーターたる起業家に求められる素養も変化している。「社会課題の解決」を起点にビジネスを成立させ、事業を成長させられる能力、いわゆる「チェンジメーカー」の素養が求められているのだ。

では、チェンジメーカーを目指すものは、どのような環境で挑戦し、スキルを身につけていけばよいのか。2019年9月、LIFULLとFastGrowはその道筋を探るべく、イベント「これからの世界を変革する『チェンジメーカー』とは?──100の社会課題をビジネスで解決する『ソーシャル・エンタープライズ』その正体に迫る」を開催した。本記事では、イベントで行われたパネルトークを中心にレポートする。

登壇したのは、「社会課題の解決」を軸に事業を成長させてきたLIFULL代表取締役社長・井上高志氏とfreee代表取締役・佐々木大輔氏、「Well-Being」の観点で予防医学研究から会社経営までを行う石川善樹氏だ。

まずは、それぞれが「事業」という手段を用いて社会貢献性の高いプロジェクトに挑んできた過程が語られた。それを経て、トークセッションではチェンジメーカーとしての要素が紐解かれていった。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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起業したのは「顧客を心から喜ばせる仕組みをつくるため」

トークは、起業したきっかけを話すところからスタート。

井上氏は大手デベロッパーであるリクルートコスモス(現:コスモスイニシア)へ新卒入社した。そして、リクルートコスモスからリクルートに転籍の後、25歳で起業した経緯を持つ。決め手となったのは、ある若い夫婦が井上氏の担当していたモデルルームへ来場したことだ。

株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上高志氏

井上紹介した物件の契約を希望してくれたのですが、住宅ローンの審査に落ちてしまったんです。それ以上にふたりの希望に添える物件もなかなか見つかりませんでした。

僕はなんとか満足してほしくて物件を探し回り、その夫婦は結果として当時の僕のライバル企業の物件と契約しました。

上司にはこっぴどく叱られましたが、とても満足でした。夫婦は満面の笑顔で、菓子折りまで持ってきてくれたんです。本当に嬉しくて、この笑顔を増やすための仕事をしたいと思いました。

やがて、井上氏は自社の利益を追求するばかりに、顧客が心から喜ぶ物件を紹介しにくい業界の構造に気づく。住まいという人生における重要な決断にも関わらず、情報が不透明な中で意思決定をせざるを得ない。明確な社会課題だった。

使命感を覚えた井上氏は、26歳にして5万円とPCだけを携えて起業。「元がゼロだから、失敗しても振り出しに戻るだけ。何も怖くなかった」と笑顔を見せる。

誰もが不動産情報に触れられる仕組みをつくり、あの夫婦が見せてくれたような笑顔を増やしたい。その想いが、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」の立ち上げへとつながった。社会課題の解決から生まれた事業は、今や年間売上が300億円を超えるほどに成長した。

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日本全体の生産性向上のため、経理・会計の自動化に挑む

「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、バックオフィス業務の自動化を推し進める佐々木氏。起業の原点には「日本が世界に遅れをとってはいけない」という強い思いがあった。

大学でデータサイエンスを専攻しながら、インタースコープ(現・マクロミル)でインターンを経験。卒業後は博報堂を経て、投資ファンドでアナリストとして勤務。その際に「世の中にはお金が余っている」と感じ、投資を受ける側を自身が体験すべく、レコメンドエンジンを開発するスタートアップのALBERTへジョイン。

CFOとレコメンドエンジン開発責任者を兼任したのち、さらなる学びを得るためにGoogleへ移った。当時はリーマンショックが起き、社内には「お金を稼げる人は、稼ぐ側に移動すべき」という風潮があった。インターンやCFOの経験から、稼ぐことを得意に感じていた佐々木氏は、中小企業からの広告収益を増やすマーケティングチームを立ち上げる。

freee株式会社 創業者・代表取締役CEO 佐々木大輔氏

佐々木Googleの広告なら「小さな会社も大企業のようなビジネスができるはずだ」と、インターネットの力に期待を抱いていたんです。一方、当時はGoogleへの出稿がまだ知られていなかった。発信すれば世の中が大きく動き出す予感がありました。

アジア全域の中小企業向けマーケティングの責任者になった佐々木氏は、インターネット環境が整備されているとは言い切れないインドなどの新興国で、中小企業が広告を積極的に活用している様子を目にする。「こんな中小企業は日本にない」と、自国との差に焦りを抱き、行動を起こしたくなった。

佐々木日本では経理が一日中データ入力していて、もったいないなと思ったんです。でも、経理や会計はあらゆる企業で避けられない業務です。

つまり、テクノロジーによる経理や会計の自動化は、あらゆる企業の生産性向上につながる。「中小企業のテクノロジー活用を加速させるセンターピンになれる」と、確信が生まれたんです。

中小企業が活発化すれば大企業も刺激を受け、日本全体に良い流れが生まれる。いてもたってもいられず、佐々木氏はプログラムを書き始めた。

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プロジェクトを達成するための手段として、3社を経営

井上氏と佐々木氏の取り組みについて「社会課題の楔を的確に狙っている」と石川氏は指摘。不動産や経理・会計といった、課題を解決することで社会全体に変化が伝搬していくような課題を捉えているからだ。

対して、「解き難い課題なら何でもいい」と独自のスタンスを示す石川氏は、人びとの健康や幸せの向上を軸に、さまざまな領域へ挑んできた。

予防医学研究者としての活動だけでなく、現在は3社の経営に関わる石川氏。いずれも課題を解くためのプロジェクトが結果的に会社となった成り立ちを持つ。

最初の起業となったキャンサースキャンは、日本人の死因として最多の「がん」解決を目指すプロジェクトだった。石川氏は真っ先に、国立がん研究センターへ向かった。

予防医学研究者、Campus for H共同創業者、 公益財団法人Well-being for Planet Earth(旧LIFULL財団) 代表理事 石川善樹氏

石川国立がん研究センターの斎藤豊先生も僕の思いに共感してくれて、研究費の一部を託してもらい、プロジェクトを進められることになった。けれど、研究費を個人に託すことはルール上できません。お金を受け取るための器として会社をつくったわけです。

石川氏が目をつけたのは、がん検診の受診率を上げること。日本は先進国でも極端に受診率が低い。しかし、治療技術は大きく発達しているため、早期発見で完治することも増えた。

キャンサースキャンは独自開発の人工知能を駆使し、受診対象者を抽出。彼らに受診を勧める施策を打つ。同社が介入したサンプルグループでは、3倍近く受診率が向上した例もあるという。

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「社会起業は儲からない」は誤り。クリティカルな課題が残る領域を見つけられれば、No.1を狙える

トークセッションでは、モデレーターからの「(チェンジメーカーの領域は)儲かるイメージがあまり湧かない」との疑問に対し、「社会課題と認識されていながらもビジネスセクターが手をつけていない領域は、むしろブルーオーシャンだ」と3名は反論する。

石川考えなければいけないのは、そのサービスのバリューと、キャッシュを生むポイントの置きどころです。たとえば、Facebookのバリューは「人と人をつなげている」ところで、主なキャッシュポイントは「広告」です。つまり、必ずしも提供するバリューでキャッシュを生み出さなくてもいいのです。

佐々木アプローチを工夫すれば、売上を確保しつつ解決できる道はあります。デジタルデバイドの解消を例に取れば、地道なPC教室事業で人びとのITリテラシーを高められますが、あまり儲かるイメージは湧きませんよね。

しかし、デジタルデバイドを画期的なプロダクトで最も解決に近づけたのは、皆さんもご存知のAppleです。インターネットやPCの使い方が分からないお年寄りでも、今や孫とテレビ電話するためにスマホを使いこなしています。

井上日本のNPOは寄付金に頼るところが多い一方で、黒字化に成功している例もあります。現代ではテクノロジーの後押しもあり、ハードルの高かった課題解決も、現実的になってきていると感じます。

では、事業として手がけるべき社会課題を、いかに探せばいいのか。井上氏は「マズローの6段階欲求のうち、その課題を解決することで、どの欲求が満たされるのかに着目すべき」と話す。優先度が高いのは、より根源的な欲求に近いものだ。

この指摘に照らせば、「生理的欲求」や「安全欲求」が満たされつつある環境においては、人びとの「社会的欲求」を満たすサービスが求められる。Facebookが多くのユーザーを集められたのは、その時代性と共に、根源的な欲求に響いているからこそといえるだろう。

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チェンジメーカーの鉄則は、“今日”行動を起こすこと

では、チェンジメーカーとしての素養を身につけるためには、どうしたらいいのか。

井上氏と佐々木氏は「即座に行動を起こす」ことが重要だと挙げる。「いつかは起業したい」と口にする人が多い一方で、本当に行動を起こす人は限られているという。

井上やりたいことを成し遂げられない人の特徴は、すぐに始めないこと。反対に、やりたいことを思いついた瞬間に行動を起こす人ほど、成功していると感じます。

「将来は服飾に携わりたい」と考えたとして、まず専門学校へ進もうとする人は多いですが、本当にやりたいのなら手探りでも今日から始めるべきです。「この道を進んでいけば成功できる」というやり方を探すよりも、とにかく走りながら失敗を経験し、学び、実力を磨いていけばいい。

石川氏が国立がん研究センターへ直行したように、詳しい知識や知見を持つ人と組めれば、経験が足りない分野でもスタートできる。

行動を起こすことに加え、チェンジメーカーの要素として、佐々木氏は「自責思考」の重要性を強調する。

佐々木僕の場合は、言い訳できない環境に自分を追い込んだからこそ成長できたと感じています。とにかく起業してしまえば、すべてが自分の責任になりますからね。

社員が大きな失敗をしてしまったとしても、「社員の失敗を防ぐ環境をつくれなかった自分の責任だ」と思えるようになれば、圧倒的に成長できます。

とはいえ、起業後の失敗を恐れて挑戦に踏み出せない人も数多くいるはずだ。たしかにこれまでは「会社を潰してしまうと、その後のキャリアアップは難しい」といった風潮があった。

しかし、今となっては多くの企業が起業経験者を求めるようになった。佐々木氏も「元起業家」という経歴が当たり前のように受け入れられはじめたことに触れ、失敗よりも挑戦すべきだと主張する。

続けて石川氏は、「今すぐ始める」ためのヒントとして、「アイデアにこだわらなくてもいい」と見解を示す。

石川社会課題解決に必要なのは、たったの3ステップなんですよ。アイデアの考案、意思決定、実行です。

最も大切なのは「実行」。アイデア自体は正直何でも良いし、極論、自分で考える必要すらありません。アイデア出しに時間をかけすぎて、その後のステップが遅れるくらいなら、得意な人に考えてもらえばいい。

アイデアがたくさん浮かぶ一方、実行できるリソースを持たない人は多い。であれば、アイデアが余っている人と協力して課題解決に臨むほうが、素早く「実行」のステップを踏めるし、社会の前進につながります。

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新規事業を立ち上げた、若きチェンジメーカー3名の思考回路

パネルトーク終了後は、LIFULLの新規事業提案制度「SWITCH」から生まれた、若きチェンジメーカーの3名がプレゼンテーションを行った。SWITCHの詳細については、井上氏への取材記事内で語られているので、参照いただきたい。

社会課題の解決に挑む“チェンジメーカー”こそが、世界を変える──国内ソーシャル・エンタープライズの代表格、LIFULL創業者・井上高志が語る | FastGrow

今回は、部活動の担当教員が指導方法を動画で学べる「Sufu」、規格外野菜や余剰野菜を用いたスムージーを販売する「Clean Smoothie」、事業づくりに挑戦する学生と応援したい社会人をつなぐオンラインコミュニティ「Challenge Base」が紹介された。

Clean Smoothieの原田奈実氏には、農家を営む祖父母がいる。それゆえに「フードロスの解決」に強い思いを寄せていた。大学生の頃から事業アイデアを提案し続け、新卒2年目に事業へ採択された。同様に、他の2名からも自らの生い立ちを踏まえて社会課題を発見した例が語られ、参加者へ一つの視点を与えた。

その後、会場から3名に向けた質疑応答を実施。

「共同創業メンバーの探し方」については、Sufuの増尾圭悟氏が「共通の領域に関心を持つ人が集まるコミュニティに参加すべき」というヒントを提示。増尾氏はSWITCHで事業提案する以前から、LIFULLの同僚とともにプライベートの時間をつぎ込み、サービスをつくっていた経緯がある。

そして、共同創業メンバーに求められるのは、「本人と同じだけの熱量を事業にかけられるか」だという。その点では、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージに共感して入社した同僚とパートナーシップを結んだからこそ、増尾氏の事業づくりは進んだのだろう。

プレゼンテーションを行った新規事業担当者たちは、いずれも解決したい課題が明確にあり、それを成し遂げるためにまず行動をはじめている点が共通していた。そのために最適な環境としてLIFULLを見つけ、各々の目的を果たすべく、今も事業づくりに奔走している。

彼らがチェンジメーカーとして世界に変革を起こせるかどうかは、まだ分からない。しかし、そもそも成功を約束された筋道など、はじめからどこにもない。必ずしも、会社を立ち上げる必要もない。変革の近道が唯一あるとすれば、パネルトークで話されたように、今すぐ行動を起こし、失敗を繰り返しながら学びを得続けることに尽きるのだろう。

こちらの記事は2019年10月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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