INTERVIEW
上ノ山 慎哉 井上 高志
18-04-20-Fri
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イノベーションの原点は、
事業ドメインを超越した掛け算思考にある

TEXT BY YASUHIRO HATABE
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
スタークス株式会社
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マーケット・イノベーションによって
社会課題を解決することを目指す企業「スタークス」代表の上ノ山慎哉が、
イノベーティブなビジネスや組織を確立した起業家に話を聞き、
経営者としての考え方の本質、社会変化の捉え方に迫る。

第1回は、住宅・不動産情報サイト「LIFULL HOME'S」を核に、
多様な領域にビジネスを広げるLIFULLの創業者・井上高志社長との対談。

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空き家問題×ビジネスに至った発想プロセス

上ノ山今日は、将来起業したい・経営者になりたいと考えている学生や若手社会人、あるいは既に事業を始めた若手起業家に向けて、社会課題をビジネスでいかに解決していくか、ヒントになる話をお聞きできればと考えています。

LIFULLさんは、楽天さんと共同で民泊事業に参入されましたよね。スタークスでも「不動産の供給過剰」の問題は、“課題先進国”と呼ばれる日本において、これを事業的に解決することで大きな成長が見込める成長領域の一つとして注目しています。

まずは、どのような経緯で民泊事業に参入しようと考えられたのか、教えていただけますか?

井上ご存じの通り、今後日本は人口が減少していきます。そうなると、空き家の増加が大きな問題になりつつありますよね。そこでまずは、空き家の実態がどうなっているかを見える化しようと考え、「LIFULL HOME'S空き家バンク」という形でデータベース化を進めています。

私たちは、LIFULL HOME'Sでも同じことをしてきました。不動産業界は、情報の非対称性が強く、買う側・借りる側が不動産を探す際に、良い物件なのかそうでないのかが非常に分かりにくい。それを全部“見える化”しよう、巨大なデータベースをつくろうということをビジョンとして、創業時にHOME'S(現LIFULLHOME'S)というメディアを立ち上げ、ここまで運営してきたのです。同じことを、空き家についてもやろうと。

一方で、先ほどおっしゃられたように、楽天とともに民泊事業にも参入します。今年6月の民泊新法施行に合わせて、民泊・宿泊予約サイト「VacationSTAY」を開設し、民泊のデータベースをつくって運営していきます。これは、民泊施設を提供したい人と利用したい人を、インターネットを通じて結び付けるプラットフォームです。

それと同時に、不動産に特化したクラウドファンディングの仕組みも提供します。例えば空き家を抱えていながらも再投資する金銭的余裕がない大家さんの資金調達を助けて、空き家をリノベーションし、民泊用物件などに利活用していくことを考えています。日本の観光立国化にも寄与しますし、地方創生にもつながっていく。

同時に、空き家が収益を生み出す資産に変わるわけです。そしてLIFULLとしては、そのような収益物件に対して、投資家が小口で投資できる仕組みも合わせて構築しようと考えています。投資家は、例えばある民泊物件に投資したらそこに1泊できるチケットがもらえたり、民泊運営で上がった収益の一部を金銭的なリターンとして受けとったりできることを想定しています。

上ノ山遊休不動産が金融資産に変わっていくわけですね。

井上これまで、資産ポートフォリオは、1/3を現金、1/3を株式・債券、1/3を不動産で持つのが理想的だと言われてきました。ただ、多くの方が持っている不動産というのは、自分が住むための家ですから、流動性もないし、金融資産ではないんですね。

でも、例えば民泊や空き家を活用したカフェなどへの小口投資ができるようになれば、5000万円で自宅を買うのではなく、5000万円分をそれらの事業への投資に回して、そこから上がるキャッシュフローを自宅用賃貸の家賃に回す、といった持ち家に縛られない暮らしも可能になるわけです。

投資先は日本国内にとどまらず、海外も視野に入れられるとしたらどうでしょうか。現在、全世界の主要な株式市場の資産規模は日本円で約5千兆円と言われていますが、不動産の資産規模は全世界合わせると、この約10倍の規模になると試算しています。これが金融商品として流動し始めると、手数料収入だけでも何百兆円というマーケットになっていきます。

そこでわれわれは、世界中のあらゆる不動産情報をデータベース化し、グローバルプラットフォームを構築しようと考えています。

上ノ山順序としては、空き家の増加課題を解決することを起点として金融事業を発想したのでしょうか?それとも、不動産を金融資産化する事業を考えようとしたことが出発点となり、空き家問題にたどり着いたのですか?

井上鋭い質問ですね。発想のスタートは、実はそのどちらでもなく、LIFULL HOME'Sのグローバル展開を考えたことにあります。調べてみると、クロスボーダーの住み替えのための不動産情報ポータルって、どの国にもないんですよ。旅行ならBooking.comとか、民泊ならAirbnbがあるのに。

そこで、住み替え、つまり「自分が住むという実需のための不動産をグローバルで探せるサービスをつくろうと考えたのです。でも、クロスボーダーで住宅を探している人は、全体の5〜10%しかいないことが分かり、これだとマーケットが小さいなと。

そうこう悩んでいるうちに、空き家問題が社会的にクローズアップされるようになってきた。この空き家を民泊に使う、あるいはそれ以外の目的でもいいので何らか用途開発をして事業化できれば、空き家を金融商品にできるな、と考えたわけです。

上ノ山社会課題とビジネスをうまく掛け合わせた、非常に興味深い発想です。

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ベンチャーの創業初期は「一点突破」

上ノ山今回の民泊事業参入もそうですが、LIFULLは住まいだけでなく、介護、保険、引越しなどさまざまな領域に事業を広げてこられています。創業時からどのように考えて、事業を拡大されてきたのでしょうか。

井上経営の考え方としては非常にオーソドックスで「3C」「4P」のフレームを通して常に物事を見ている感じですね。

上ノ山「3C」「4P」でバランスが崩れている市場を見つけて手を打つ、というような?

井上そうです。それを何度でも繰り返し見て、「競合と僕らのギャップはどこにあるか」「ユーザーの心理は時代と共にどう変わっていくのか」ということを見続けています。そして、そこに打ち手を一致させていくことを、ずっと繰り返しやっている。

ただ、ずっと直線的に成長して、事業の幅が広がってきたわけではありません。一般的に考えても、創業フェーズの足場が固まらないうちにあれもこれもと手を広げすぎると、「何をやりたいんだっけ?」と迷子になってしまう。

だから創業フェーズのベンチャーが最初にやるべきことは、弱者が強者に立ち向かう戦い方として知られるランチェスター戦略で言われている通り、「一点突破」です。

ビンに液体を入れる時に使う“じょうご”ってありますよね。あれを、小さい口のほうから上って行くようなイメージです。最初の頃は、能力的にもリソースにも限界がありますから、どこかに賭けて、一心不乱に一点突破することを目指すしかない。そしてある程度のところまで行くと、じょうごの口が広がっていくように、急に視界が開けていくわけですね。

上ノ山その感覚はとてもよく分かります。スタークスも創業時に、急成長していたEコマース市場に目をつけました。その中でも単品リピート型(お客様が毎月定期的に購入する商材を扱ったビジネス)Eコマースの決済システムにフォーカスして、市場シェアを築いてきました。そうすると新たな課題が見つかって、加速度的に事業領域が広がっていきました。

実は私の創業の原点は、ソフトバンクの孫正義さんが28歳の時の講演を録音したCDを聞く機会があり、その内容に衝撃を受けたことにあるんです。その講演の中で孫さん「ベンチャーは伸びているマーケットで勝負すべき。その中でシェアNo.1になれることだけをやるべきだ」ということを話されていました。

また、ペイパル創業者のピーター・ティールが、起業講義録である書籍「ゼロ・トゥ・ワン」の中で語っていたことも「競争するな。独占しろ」ということでした。創業期にトップシェアを狙って一点突破を図ることは、ベンチャーが成功をつかむセオリーとして、必要なことなのですね。LIFULLの場合は、どこに焦点を絞って一点突破を図ったのでしょうか?

井上日本中の不動産データを集めきることです。なんとしても「掲載物件数が最大」ということを最大の強みにしたかった。その目的達成のためにした象徴的な施策は、2010年にHOME'Sの課金モデルを変えたことです。あれは、われわれの会社史上で非常に大きなチャレンジの一つでした。

それまではHOME’Sも、他のポータルサイトと同様に掲載する物件数に応じて掲載料をいただく従量課金制を敷いていました。しかしそうすると、物件を持っている不動産会社からすれば効果があるかどうか分からないものにお金を出すことになるので、持っている物件を全部は掲載したくない、と考えるわけですね。そうなると、私たちとしてはユーザーに物件データを届けることができなくなってしまう。

そこで掲載料は無料にして、ユーザーからの問い合わせがあった時に課金する形に変えました。そうすれば、不動産会社も情報を出し渋る理由はなくなりますから。

上ノ山その時にはもう上場されていたんですよね。上場企業の社長として、かなり勇気を要する決断だったと思います。どうしてその決断ができたのでしょうか?

井上企業として実現したいビジョンを、真剣に考えたからでしょう。そこまでは従量課金モデルで急速に成長していたのですが、僕はあと2、3年でこのモデルには限界が来て、成長が鈍化すると見ていたんですよ。

そこで先ほど話した「一点突破」の基本に返りました。情報の非対称性を解消するためにすべての不動産物件をデータベースに取り込みたいと考える私たちは、創業当時から目指していた「物件数・データ量が日本最大」という点を目指すべきだと覚悟を決めたのです。

ビジネスモデルを変えるのはそんなに簡単なことでもないので、結局3年くらいかかってしまいましたけど。

上ノ山当時、売り上げにも影響があったのではないですか?

井上売上も落ちたし、減収減益にまでなりました。まさか減益になるなんて思いもしませんでした。その時の社内の雰囲気は最悪で、退職者もたくさん出ましたが、ビジョンに共感してくれるメンバーを主軸に3年ほど堪えて、その後は急成長を遂げることができました。事業を多角化し始めたのもその頃からです。

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掛け算の発想なら大きな社会問題も解決できる

上ノ山私は、日本という国はチャンスであふれている「課題先進国」だと思っています。先進国の中でも他国よりいち早く、少子高齢化や地方の衰退といった社会課題に向き合っているからです。

かつて、グローバルでプレゼンスを発揮した日本の会社って、自動車、家電、飲食など日本人の消費感覚が厳しかったから世界市場でも勝てたのかな、と思っているんです。でも、もう同じ発想は通用しない。これからグローバルで勝っていける会社をつくるとしたら、他の先進国により先んじて社会課題に向き合い、それを事業で解決することが必要だと考えています。

井上日本が最も進んでいるマーケットで勝負してから世界に出よ、ということですね。たしかに、今の日本の経営者が「グローバル」という言葉を口にするときは、「自国の市場がシュリンクするから海外にいくしかない」と無思考に考えている人が多い気はします。

上ノ山私はそこに大きな違和感を覚えています。シリコンバレーやアジア諸国を見てくると、日本よりももっと厳しい競争環境でしのぎを削っている中で、「日本がシュリンクするから他国で」程度の動機では、絶対勝てないと思うのです。

課題先進国である日本で、ビジネスモデルで社会課題を解決してみせて、それをグローバルで展開する。そういうビジネスモデルを、5年後あるいは10年後にはいくつか創れている状態にしたいと考えています。

井上さんの話の中で、社会問題である空き家問題を、金融ビジネスとの掛け合わせで解決する、という話がありましたよね。物流業界の構造的課題を解決する私たちスタークスも、今より一層そのような掛け算の発想を駆使していかなければ、大きな問題は解決できないんだなと感じました。

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インプットを増やし、強烈な当事者意識を持てば、事業領域は無限に見つかる

上ノ山井上さんは普段ビジネスを発想する上で、どのようにアイデアを生み出しているのでしょうか。

井上基本的には、世の中のさまざまな課題を解消し、豊かな暮らしを実現するということがベースにあります。社会には、不満、不便、不安、不透明…いろいろな「不」がありますよね。

たとえば新聞には、そういう社会にある「不」が毎日取り上げられています。僕からすると「事業領域がすごくたくさんあるな」と思うわけです。

今、当社の方針としてとしては、2025年までに100社のグループ会社をつくって、100人の経営者をつくろうと考えています。社員が新規事業提案制度を活用してたくさん事業提案をしているので、社内から出てくる新規事業の会社でもいいし、出資をしたり、あるいはM&Aしたり、方法はいろいろ考えられますが、とにかく100社生み出す。

最近だと、LIFULL FLOWERというフラワーギフトのEC事業や、LIFULL FaMといったママの就労支援事業などもあったりして、不動産領域とは関係ない、いろんなサービスが出てきています。

上ノ山今は何社くらいですか?

井上15社くらいかな。出資先も含めると25社くらい。ただ、増えることもあれば撤退することもあるので、今のところ常時だいたい15社という感じですね。

上ノ山アイデアを思いつくためのインプットということでいうと、どういうところで情報を仕入れているのでしょうか?

井上先ほどの新聞もそうですし、一番いいのは「人」に話を聞くことです。その道のプロ、専門家、一流の人に話を聞くのが速いし、濃密ですよね。

例えば、各界のリーダーたちが300人以上集まって、日本と世界の問題を3日間で語り尽くす「G1サミット」というイベントがあります。教育、外交、防衛、医療、少子高齢化、地方創生など100くらいのテーマについてディスカッションするので、さまざまなスコープの意見が出てくる。ものすごくためになります。

あと、先日シンギュラリティ大学ジャパンサミットに行きました。シンギュラリティ大学も、エネルギー、環境、食糧、貧困など、人類の最も困難な課題に着目し、エクスポネンシャル(指数関数的・飛躍的)に変化するテクノロジーを、いかに社会を変えていくかということをミッションとしています。そうした、急速に進化するテクノロジーに関する知識を仕入れておくということもしています。

昨日も楽天の三木谷社長の講演を聞きに行きましたが、「あなたはまだ上を目指すんですか!?」と笑っちゃうくらい「もっと上」を目指していらっしゃる。そういう一流の人に会いに行って直接話すと、いろいろなインスピレーションが得られますし、刺激をもらいますよね。

上ノ山人に会うことで得られるインスピレーションはありますよね。私の場合は、問題の現場を見に行く、現場の人に話を聞きに行くということをよくやっています。

いま当社が提供している物流サービスでも、倉庫や配送会社の人手不足の状況の実際に現場に足を運び、実際に作業をやらせてもらったり、現場を一日中見てみたりしているると、様々な課題が見えてきます。こんなに非効率で、過酷な労働環境では働き手が集まらないのも無理はない。

実際に現場に足を運び、どうすればこれをビジネスとして解決できるのか、考えていくようにしています。

井上それはいいやり方ですね。基本的に僕は、意識的に全部「自分が当事者」だと思うようにクセを付けているんです。今日の天気が悪いのも僕のせい、政治が悪いのも僕のせい、マスコミに問題があるのも僕のせい(笑)。さまざまな問題を、自分事として捉えて思考を回すようになるので、オススメです。

上ノ山強烈な自責思考です(笑)。たしかに、そのような思考実験は、事業の種を見つける訓練になりそうです。私はよく、何か問題に突き当たると「この問題は、お金を払ってでも解決したいか?」を考えてみることをしています。

空き家問題なんかは、誰もが「問題だ」とは思うけれど、ほとんどの人にとって自分の生活に支障が出るわけじゃないので、自らお金を払ってまでどうにかしたいとは思わないんですよね。

上ノ山今日の井上さんとの対談を通じて、私が一番感銘を受けたのが、実はそこの部分です。空き家問題は国が解決すべき公的な課題であると多くの人々が思考を止めてしまう中、当事者として解決の道を考えられたこと。その際、既存事業の枠組みを飛び越え、クラウドファンディングという金融の新しい仕組みや、インバウンド需要と結びつけるスケール感、視野を広くして考える姿勢が重要であったこと。このような姿勢こそが、マーケット・イノベーションを起こすため、ひいては起業家が社会を変革するために必要なことだと再認識できました。

今日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

井上ありがとうございました。

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[文]畑邊 康浩
[撮影]藤田 慎一郎

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