一般企業より4倍速で働ける。
freeeの成長を後押しするタイムマネジメント手法「3か月」ルール
実践と振り返りのサイクルをスピーディーに。その重要性は理解できても、適切なスパンを判断するのは、意外に難しい。株式会社freeeは「3か月」スパンでアウトプットを出して振り返りを行うことで着実に業績を伸ばしているという。
2018年7月、同社創業者・代表取締役CEOの佐々木大輔氏が、初の著書『「3か月」の使い方で人生は変わる』を上梓。佐々木氏と、同社セールスマネージャー・髙村大器氏、UXデザイナー・春田雅貴氏にインタビューし、「3か月ルール」の全貌に迫った。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
4倍速でものごとが進む、Google直伝の「3か月ルール」
まず、「3か月ルール」とは、どういった仕組みなのでしょうか。
佐々木「3か月」スパンで一つのテーマに取り組み、何らかのアウトプットを出していくタイムマネジメントの方法です。まず3か月間の目標を設定したら、一旦はがむしゃらに取り組んでみて、3か月経ったら振り返る。
3か月という期間は、一定レベルのアウトプットを出すためには適切なタイムスパンなんですよ。新しい分野であればある程度の専門性は身につきますし、誰も着手していないイノベーティブなビジネスならば、徹底的に取り組むと一定の成果を生むことができます。
反対に、3か月取り組んでみて道筋が見えなかったら撤退も考えるというように、進退の基準にもなります。
1年単位で戦略を立てる企業からは「短すぎる」と思われてしまいそうです。
佐々木一般的に日本人は、「一つのことを長く続ける」ことを美学とする傾向にありますよね。しかし、短い期間で区切ったほうが、新しい挑戦に取り組む機会が増えます。
著書には「Google在籍時に出会った考え方」と書かれています。
佐々木はい。Googleに限らず、外資系企業はクォーター(四半期)ごとの決算を重視していて、3か月ごとにプロジェクトが動いたり、チームが組まれたりします。1年だと間延びしてしまうし、1か月だと短すぎて何もできない。こうした働き方に出会ったとき、1年単位で仕事を進めていく日本と比べ、体感値では4倍のスピードでものごとが進んでいく印象を受けました。
外資系企業のスピードにはすぐに馴染めましたか?
佐々木むしろ、自分はこっちの方が合っているという感覚があり、スムーズに受け入れられましたね。もともと僕は飽きっぽく、長い期間、一つのことに没頭し続けられない性格なんですよ(笑)。
3か月を「やり切る」ことで見えてこないもの
組織拡大に伴い、佐々木さんご自身は経営者としての仕事が増えてきたと思うのですが、「3か月ルール」は事業フェーズが変わっても有効ですか?
佐々木はい。ただ、「3か月」の中身はかなり変わったと思います。プレイヤー時代は、やることを決めたらあとは3か月間、試行錯誤を繰り返すだけでした。しかし経営者になると、2ヶ月目に入ったころには次のタームの計画を先回りして立てておく必要が出てきます。「情報収集をして、次の3か月の動き方を考える」ことに時間を割いていますね。
社内制度にも、「3か月ルール」が落とし込まれているのでしょうか?
佐々木はい。社内のさまざまな仕組みが3か月単位で設計されています。
たとえば、目標管理。チームも個人も、3か月単位で目標を設定してもらっています。また、組織体制も同じです。「この体制で動いてみよう」と一度決めたら、3か月間はその体制で走り抜けます。逆に言うと、3か月経てば、変えたばかりの組織でも柔軟に変革させていますね。
組織が小さいスタートアップだと、組織体制や方針が3か月より早いペースで変わることも多いです。
佐々木組織の立ち上げ時などはピボットを繰り返すことも多いですよね。ですが「3か月やり切る」ことでようやく見えてくるものが多いと思います。たとえば、新しいサービスを売り始めたときも、3か月経たないと売り方が見えてきません。ある程度の粘り強さは必要なのではないでしょうか。
「生きている時間軸が違う」──他企業からの転職時に抱いた印象
ここからは、セールスチームのマネージャーを務める髙村さん(新卒で入った会社で約3年間働いてから、3年ほど前にfreeeにジョイン)とUXデザイナーの春田さん(2016年からfreeeで2年間インターンとして働いたあと、2018年4月に新卒入社)をお迎えして、社員目線での話を伺います。まずは、佐々木さんの本を読んで、率直にどう思われましたか?
春田「いつもやっていることが、そのまま書かれているな」と感じました。先ほど佐々木が話したこととも通じますが、2か月目には次の3か月の戦略を考えています。3か月スパンで、だいたい半分くらいの組織が改変していくので、マネージャーは組織体制を考えるのに、かなりのリソースを割かなければいけないんです。
佐々木確かに、平均すると3か月に1回くらい変わっているかもしれないですね。もちろん、変動が多い時期と少ない時期に差はありますが。
前職での働き方とギャップはありませんでしたか?
髙村「生きている時間軸が違うな」とは思いました。一般的な日本企業が1年間で回すサイクルを、freeeでは3か月に集約しているんです。前職は個人の成果や成長を1年単位で振り返っていたので、たとえば1週間を無駄にしても痛くないんですよね。それが3か月スパンになると、1週間という時間のインパクトは4倍。1年スパンで考えた時の1か月分に相当します。
このスピード感に慣れるまでは苦労しましたが、僕は1か月ほどで馴染めました。ただ、マネジメント職としてさまざまなメンバーを管理するようになってみると、人によってはやはり早いと感じる人も少なくないです。前職がほぼルーティンワークだったという人は馴染むのに時間がかかっている傾向がありますね。
早いサイクルに慣れるために、意識的に行なっていたことなどがあればお伺いしたいです。
髙村freeeでの勤務年数が長く「3か月ルール」にどっぷり浸かっている人と積極的にたくさん会話するようにしていました。それにより、身体レベルで慣れることができました。
また、転職して環境が変わった直後は3か月先を見通すのはなかなか難しいので、まずは1か月先を見通すようにして、徐々に慣れていきましたね。
新卒入社の春田さんは、逆に「3か月ルール」以外の働き方を経験したことがないということですね。
春田おっしゃる通りです。3か月スパンでものごとが動き、変わっていくのが当たり前だという価値観で働いています。もちろんしんどさはありますが、それは当たり前なので違和感を感じることはなく、必死で食らいついていますね。
UXデザイナーとなると、どういった目標設定になるのでしょうか?
春田開発チーム共通の目標として「ユーザーにこういう状態になってもらう」といったものがあり、それを必要な機能やワイヤーに分解していき、個々の目標が設定されるイメージです。
「3か月ルール」を前提に、制度とカルチャーが設計されている
中途採用より、新卒採用の方が「3か月」ルールに馴染みやすいのですね。
佐々木そうですね。1年単位でのタイムスパンに馴染んでないぶん、新卒社員の方が自然に受け入れてもらえる印象があります。
逆に、中途採用の方のオンボーディングは、まだ方法論が確率されておらず、手探りで最適解を探っているところです。
髙村また、チームや個人の目標達成に向けて、1on1のミーティングを行なっています。週次・月次と、目的と粒度を分けてセッティングしていますね。週次は月単位での目標に対する議論や雑談、月次は先月の振り返りなどをする場にしています。
春田1on1の存在には助かっていますね。詰まっているところがあっても、定期的にメンターからフォローが入るので、常に3か月サイクルを意識してPDCAサイクルがまわせます。
「3か月ルール」が、かなり制度に落とし込まれているんですね。
髙村そうですね。実際、3か月単位で一定のアウトプットを出して、振り返りを行うカルチャーはかなり根付いていると思います。たとえば、3か月で取り組んだ成果をドキュメントにまとめて共有すると、社内の会ったこともないような人からもコメントでフィードバックをもらえたり。
弊社では100点じゃなくてもいいから、60点くらいの出来でも、とりあえず何かしらのアウトプットを出し切ってしまう。そして、それを「あえて」メンバーに共有するようにしているんです。フィードバックをもらえれば、「どうすれば改善できるか」を思考し、スピーディーにブラッシュアップしていけます。
そういったサイクルをまわしていくための区切りとして、「3か月」という期間設定がうまく機能しているのではないでしょうか。逆に言うと、こうしたカルチャーもないのに表面的に「3か月」という期間だけ制度化しても、成果は出ないと思います。
最後に、3か月サイクルをうまく機能させるための心がけを教えてください。
春田振り返りを意識的に行うことです。僕は週に一度、Googleカレンダーを見返してタスクの優先順位づけを行っています。複数のプロジェクトに関わることが多いのですが、そうなるとどうしてもリソース配分に偏りが出てしまうので。
髙村僕は目標の立て方が大事だと思っています。「この3か月、何に時間を割くのか」をしっかりと定め、それに対する振り返りを週次・月次でしっかりと行なっていくことが重要です。
佐々木氏関連書籍はこちら
こちらの記事は2018年11月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
写真
藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
おすすめの関連記事
「提供バリューとキャッシュポイントを分けて考えよ」社会課題領域でビジネスを興し、チェンジメーカーを目指す鉄則とは
- 株式会社LIFULL 代表取締役会長
"新陳代謝は当たり前か?"非連続成長を追求する組織の落とし穴━Asobica×ナレッジワークが挑む、新・スタートアップの成功方程式とは
- 株式会社Asobica VP of HR
事業も組織も、「善く生きる」人を増やすために──社会へのリーダー輩出に邁進するSTUDIO ZERO仁科の経営思想
- 株式会社プレイド STUDIO ZERO 代表
「究極の裁量って、ビジネス全体のデザインですよね」──ソルブレイン新卒BizDevとエンジニアに訊く、20代前半でビジネスの全体最適に心血を注ぐべき理由
- 株式会社ソルブレイン
組織の“多様性”を結束力に変える3つの秘策──Nstock・Asobica・FinTのCEOが実証する、新時代のスタートアップ経営論
- 株式会社Asobica 代表取締役 CEO
経営者は「思想のカルト化」に注意せよ──企業規模を問わず参考にしたい、坂井風太とCloudbaseによる“組織崩壊の予防策”
- 株式会社Momentor 代表