【三越伊勢丹×BCGDV】「対面の接客ノウハウがあるから仮説が作れる」異質が混ざり合って生まれた、パーソナルスタイリングという新しい価値

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インタビュイー
山敷 守

東京大学経済学部卒業。2010年、新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社し、無料通話アプリ「comm」など複数の新規事業を立ち上げ。2016年にBCG Digital Venturesの日本拠点の立ち上げフェーズから参画し、様々な大手企業との新規事業開発に取り組む。2019年4月DROBEを設立し代表に就任。

佐熊 陽平
  • 株式会社三越伊勢丹ホールディングス デジタル戦略部 デジタル企画ディビジョン 
岩下 えりさ
  • 株式会社三越伊勢丹ホールディングス デジタル戦略部 デジタル企画ディビジョン 
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「世界にインパクトを与える事業創造」をミッションに、大企業のアセットとデジタルを掛け合わせて新たなビジネスをゼロから生み出すBCG Digital Ventures(以下、BCGDV)。革新的アイデアの創出から事業立ち上げ、グロース、投資に至るまで、サービスローンチにとどまらず成長に向け伴奏している。同社は、世界有数の経営コンサルティングファームBCG傘下の独立した組織で、大手企業を活用したベンチャーズビジネス立ち上げに特化した会社だ。今回は、同社とプロジェクトを組んだ三越伊勢丹ホールディングス(以下、三越伊勢丹)の事例から、いかにして新規事業を立ち上げているのかを紐解く。

  • TEXT BY TOMOMI TAMURA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「百貨店だけでは生き残れない」を解決するために

まずは、なぜ三越伊勢丹がBCGDVとプロジェクトを立ち上げたのか、その背景から教えてください。

佐熊以前から、百貨店だけではお客様の変化するライフスタイルや要望に対応しきれない、百貨店ビジネスだけでは生き残れないというのが、大きな課題としてありました。

佐熊それまでは、新店舗をオープンさせてお客様との接点を増やしたり、商品を磨いて価値を高めたりすることに試行錯誤していたんですね。でも、お客様に来店いただいて販売する以外の方法も考えないといけない。デジタルを使って三越伊勢丹の強みを活かせる何かを生み出せないかと模索するようになりました。

岩下とはいえ、百貨店の現場では、デジタルの知識や経験はなかなか得られず、やってみたいと思うことがあってもすぐに実現できる手段やノウハウを知らなかったんです。

佐熊そこで、2017年に、三越伊勢丹のデジタル化戦略を一緒に描くパートナーとしてBCGと取組みました。

一緒にお客様にインタビューをして、いろんな可能性を模索する中で、スタイリストがチャットでお客様の要望を掘り下げて聞き、ご自宅に配送する形でファッションを提案するサービス「パーソナルスタイリング」のアイデアが生まれました。

ただ、三越伊勢丹だけではプロダクトを作れません。一緒に戦略を練ってプロダクトを作り、マーケットに投入してサービスを成長させていくパートナーを検討した結果、BCGDVと組みたいと思ったのが始まりです。

BCGDVならデジタルの知見や経験はもちろんのこと、BCGが持つ知見や考え方、グローバルのエキスパートとのコネクションもあるため、グローバルな視点でもイノベーティブなサービスづくりができるのではないかと思ったのが決め手でしたね。

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スピード感、働き方、考え方。全てが違う対等なパートナー

実際、プロジェクトを組んでみて、お互いの印象はいかがでしたか?

佐熊知見や経験はもちろんですが、想像以上だったのはスピードです。百貨店で何か新しいことをしようとすると、企画から実行まで短くても3ヶ月は必要ですが、今回のプロジェクトは2018年6月4日にキックオフをして、6月11日にはサービスを市場にて実際にトライアルしていた。「1週間でサービスって出せるんだ!」と周囲が騒然(笑)。このスピード感には心底驚きましたね。

岩下考え方も働き方も全然違いますよね。BCGDVの人たちは自由な格好で出社してくる自由な雰囲気。これまでずっと百貨店しか知らなかった私には、PMF(プロダクト・マーケット・フィットの略)とかアジャイルとか、話している言葉もよくわかりませんでした(笑)。とにかくスピード重視で、トライ&エラーを繰り返しながらプロダクトを次第に大きく成長させていく手法に、驚きの連続でした。

山敷これまで、いろんな企業のプロジェクトに携わってきましたが、三越伊勢丹さんは「あれはできない、これはできない」の“ないない論”が無かったんですよね。それに、最初からアイデアがあったから、それならプロダクトという仮説を持って検証した方が早いと思って、1週間でプロダクトを作りました。

長井歴史ある企業であるにも関わらず、いつもと違う言語や考え方、進め方でも、みなさんがアレルギー反応を示さずに受け止めてくれたのが、早いスピードにつながったと思います。山敷が「1週間後にこのプロダクトをリリースする」と言ったときは僕も驚きましたけどね(笑)。

佐熊それに、三越伊勢丹の社内ではなく、プロジェクト用にオフィスを別で構えたことは大きかったと思います。まさに「出島」です。完全に切り離されていなかったら、やはりどうしても社内のルールに従う必要はあったんじゃないかなと。もちろん、働き方や時間軸の違いに慣れは必要でしたが(笑)。

山敷BCGDVでは、基本的に一緒にプロジェクトを組む企業の方に常駐しに来ていただいています。まさに「1つの会社」のような雰囲気です。その場その場でFace to Faceでの意思決定ができますし、フラッと遊びに来る他のベンチャー企業の人たちからの刺激をもらうのも、大事かなと思っています。

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キーワードは、アジャイル開発

ベータ版とはいえ、1週間でのローンチは素早いですね。プロジェクトはどのように進めてきたのでしょうか。

山敷今回のプロジェクトでキーワードとしてお渡ししたのが「アジャイルで進める」こと。パーソナルスタイリングのサービスは、スタイリストがチャットでお客様を接客し、スタイリングした洋服を配送するサービスです。だからといって、チャットの接客マニュアルを用意した上でサービスをローンチしたのでは、時間がかかりすぎる。

そこで、先にテストモニターを募集し、実際にサービスを開始する48時間後までにある程度のマニュアルを制作。作り込みはサービス開始後から始めたので、「考えたけど実は不要だった」という作業はありませんでした。本当に必要なマニュアル作りだけを効率的に進められたと思います。

佐熊これまでの進め方は、「こう言われたらどう対応するか」など、一個一個のリスクを完全にクリアした上で世に出すスタイルだったので新鮮でした。リリース後に広告を出稿したら、すぐに百名以上からの応募があり、そこでまずニーズを把握できたのも良かった。

実は、チャット以外にも「テレビ電話」や「直接会いに行く」などの選択肢もあったのですが、チャットでの接客ニーズが圧倒的だったので、他を考える必要がなくなったんです。

岩下数多くの応募から15名に絞って、リリースから数日後には接客をスタートさせたのですが、最初は、好きな色を聞いて「赤」と言われても、どんな赤なのかがわからなかったり、好きなスタイルが「フェミニン」と言われても、どれくらいフェミニンがいいのかがわかりませんでした。

岩下だから改善策として、すぐにデザイナーさんにイメージボードを作ってもらうなど、何十回もマニュアルを更新しながらブラッシュアップしていきました。プロダクトを世に出して検討していくスタイルじゃなかったら、何が本当の課題なのかも分からなかったと思います。

それから、これもBCGDVからの発案で「まずはやってみよう」とはじめた施策なのですが、サービスを使っていただいたお客様にすぐにインタビューに行ったんです。直接お会いすることで、サービスに対する温度感や期待度が手に取るようにわかり、即座にサービスの修正ができたのも良かったです。

佐熊インタビューでは新しい発見が多かったですね。今までもお客様とは店頭で「買っていただくまで」を中心にお話はしていましたが、インタビューで「実際の使い心地」であったり、「日常生活での趣味・嗜好」であったりを2時間じっくり話を聞くのでは、訳が違いました。どんな暮らしをしていて、どんな悩みを持っていてなど、話を深く聞くことで、きちんと理解できたなと思いました。

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大事な軸はブレないから、やり方が違っても対応できる

一方で、それだけカルチャーが違うBCGDVとのプロジェクトで、大変なことはありませんでしたか?

佐熊僕は、違和感がある異質なパートナーとやりたいと思っていたので、大変である一方、刺激的でした。同じような雰囲気の2社がタッグを組んでも新しいものが生まれる気がしないじゃないですか。異質のものが混ぜ合わさったときに、何が生まれるのかを見たかった。

プロジェクトをきっかけに、プランを練って良いアクションを取るのではなく、やりながら考えるのでいいんだという考えがメンバーにも広がり、新しい選択肢が増えたように思います。

長井最初はマニュアルがないと不安だと言われていましたが、今はやりながら考えるスタイルが三越伊勢丹さんにも定着していますし、(三越伊勢丹さんの)スタイリストさんからの提案も増えてきましたよね。

山敷みなさんは、もともとお客様のことを誰よりもすごく考えていて、顧客第一主義のベースがあったから、やり方は変わっても軸がぶれずに適応しているんだと思います。

長井そうですね。三越伊勢丹さんは顧客第一主義で、スタイリングのプロ。特にスタイリングに関してまったくの素人の僕らに対して、「これだと満足させられない」「このクオリティでは出せない」と言ってくれるから、いいバランスが取れるんです。

たとえば、Webやデジタルの文脈で「これはいらないだろう」と僕らが消したり、選択肢から外してしまう内容も、佐熊さんや岩下さんが「これは接客や顧客理解の上で、絶対に必要」と指摘してくれます。

チャットの文章1つとっても、僕らはとにかくシンプルに・短く・端的にしがちだったり するのですが、接客に細かい言葉のニュアンスが大事なことを知っているから、軌道修正してくれる。対面で、リアルなお客様の感情、表情の変化をきちんと知っていて日頃から意識しているからこそ、このサービスが作れるんだなと思っています。

山敷たしかに、IT企業が同じサービスを作ろうとしても、同じスピードでは改善サイクルが回らないと思います。リアルな店舗での接客経験、ノウハウがあるからこそ、「ここはこう改善すべき」という仮説がすぐに思いつける。そういった数字では判断できない細かい改善の積み重ねが、顧客満足度につながっていますよね。

佐熊顧客分析にはものすごい時間をかけているので自信があります。ただ、それを今までは店頭でしか活かせていなかったのですが、デジタル領域でも生かせるようになり、改善の幅が広がりました。

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BCGDVとのプロジェクトが広げた価値観と可能性

サービスの本ローンチは今春を予定していると聞きました。その後、プロジェクトはどうなるのでしょうか。

長井ローンチ後こそよりシビアなフィードバックを元にPDCAを回していくことが求められるので、ターゲットとしているお客様に満足して使ってもらえるサービスにブラッシュアップしていきます。

佐熊プロジェクトとしての形は終わったとしても、弊社の新事業にできたらいいなと思っています。今のスピード感でサービス運営を続けるにはBCGDVさんの知見は必要なので、何かしらの形で連携を継続したいですね。

山敷これから必要になるのはカスタマーサポートや物流、マーケティングなどのスペシャリストです。そのときに、三越伊勢丹さんの100%子会社になると組織構築が難しい面もあると思うので、ジョイントベンチャーをつくるのも一つのオプションとして考えていいと思っています。ただ、それはあくまで方法論の話。この事業にとって最適な形は何かを考えたいですね。

長井巨大リアル産業のオフラインとオンラインの掛け合わせで次のトレンドを生み出す今の流れに、このサービスはすごくマッチしていると思います。ゼロからブランドやスタイリスト、物流などを揃えるのは難しいですが、三越伊勢丹さんのアセットを生かした上で、新しい事業に裁量を持って取り組めるなら、働く人にとっても魅力になるな、と。

このサービスを通じて、どのような未来を作りたいですか?

佐熊今回のプロジェクトを通じて、ファッションに迷っている人が数多くいらっしゃることが改めてわかったんですね。たとえば、30代半ばだけど20代の頃から同じブランドの洋服を着続けている場合。それは正解なのか分からないけれど、わざわざ雑誌を見たり、いろんなお店に足を運んで試着しようとまでは思っていない人が非常に多いことが分かった。まさに僕たちのターゲットは、「ファッションに興味はあるけど受動的な人」。そうした人たちの漠然とした悩みは、このサービスで解決できるのかなと思っています。

将来的に、洋服はチャットで信頼できるプロに選んでもらったものを家に居ながらにして買うことがスタンダードになっていく。お店は「非日常の特別感をもっと楽しむ場所」に変わると思っているので、そういう世界観をリードできるサービスを作っていきたいですね。

岩下私は、日用品ですらインターネットで買わないようなタイプだったので、なぜこのプロジェクトにアサインされたのか分からず、最初は左遷されたとさえ思いました(笑)。それに、これまでの百貨店のお客様とも少し異なり、さらにお会いしていないお客様のことをなかなか具体的に想像できず、インターネットでのサービスを自分の中でうまく落とし込めない期間もありました。

だけど、インタビューでお客様から直接お話を聞いたり、サービスの話を友人にすると「ぜひ使ってみたい」と言われたり、モニターを募集すると数百人もの方が応募してくださったり。今の時代に響いていることを日々実感できたんです。

職業柄、友人からお洋服選びの相談を受けることがよくあるのですが、このサービスはそれをたくさんの人にできるんだと気づいてからは、世の中に必要なサービスだと思えるようになりました。今では、本当にやりたいと思える仕事です。

三越伊勢丹だからこそ実現できる、お客様に寄り添い、できる限りお客様の立場に立つことでスタイリングをプロセスからいっしょに楽しんでいただけるような体験。それが、このパーソナルスタイリングの価値であり、これから世の中に必要とされるサービスにしていきたいと思っています。

こちらの記事は2019年01月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

田村 朋美

写真

藤田 慎一郎

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