“起業家集団”BCG DVが中国でも成功させた「事業創出メソッド」とは?
Sponsored世界有数の経営コンサルティングファーム、ボストン コンサルティング グループ(BCG)から生まれた「BCGデジタルベンチャーズ」は、BCGの顧客とのリレーションをベースに、グローバル企業のデジタル領域の新規事業創出を担う、ベンチャーズビジネス立ち上げに特化した会社だ。
同社がユニ・チャームとジョイントベンチャー・Onedotを生んだプロジェクトに参画した3人に、“BCGデジタルベンチャーズ流”の事業立ち上げメソッドを聞いた。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
第三者的なコンサルティングではなく、当事者としてビジネスをつくる
世界有数の経営コンサルティングファームとして知られるボストン コンサルティング グループ(BCG)は、名だたるグローバル企業をクライアントに持つ。そうした大企業の資産を活用しながら、デジタル領域でのベンチャービジネスを、共に創出するのが、「BCGデジタルベンチャーズ(BCGDV)」である。
BCGDVは米国で生まれ、現在は世界7拠点に展開。そのうちの一つとして東京の拠点が立ち上がったのは2016年4月のことだ。東京のBCGDVは、ベビー用品などのメーカーであるユニ・チャームとの共同出資で、Onedot株式会社を2017年2月に立ち上げた。
Onedotは、中国・日本の市場向けに育児動画を配信するメディア「Babily(ベイビリー)」を提供している。育児のノウハウや、育児用品などを紹介する1分の動画を、さまざまなSNSに分散配信する、広告モデルのビジネスだ。
BCGのイメージが強いためか、BCGDVも新規事業のコンサルティングを行う会社だと誤解されがちだが、実態はそうではない。自らが“当事者”となって事業を創出する。その証拠に、立ち上げた事業にはBCGDVも出資。プロジェクトに関わった鳥巣氏と坪田氏の2人はBCGDVを退職し、自分たちが立ち上げたOnedotへ転籍している。
今回は、ユニ・チャームとのジョイントベンチャー立ち上げに関わった、BCGDVのLead Product Manager・山敷守氏と、Onedot CEO・鳥巣知得氏、CCO(Chief Creative Officer)の坪田朋氏の3人に、BCGDVがどんなやり方でビジネスを立ち上げるのかを聞いた。
起業経験、新規事業経験あるT型人材が集う
そもそもBCGDVでは、プロジェクトがどのようにして立ち上がり、そして今回のプロジェクトに3人はそれぞれどのような立場で関わっていたのか。そこから話をスタートしてもらった。
鳥巣今回のプロジェクトは、2016年の6月にスタートしました。私が全体のリーダーとなり、当初はBCGDVとBCG本体からもメンバーが参加して、約10名の混成チームでプロジェクトを進めていきました。
山敷最初の時点ではどんな事業をやるかは決まっておらず、「中国市場で」「デジタルビジネスで」「育児をするユーザーを獲得しにいく」というスコープが決まっていて、そこからスタートした感じでしたね。
鳥巣私の場合、BCGDVの中ではベンチャーアーキテクトという立場で、経営の観点から全体を見渡すポジション。プロジェクトの方向付け、お金・時間などの資源配分、ステークホルダーとの合意形成、この3つに集中しなければいけないということは意識していました。そしてその役割の延長で、OnedotのCEOになった形です。
坪田自分は普段「デザイナー」というラベルを使っていますが、何でもつくれるのが長所だと自認しています。ユーザーニーズをヒアリングして、スピードと品質を担保しながら最後までモノを作る役割ですね。動画事業は経験ありませんでしたが、そうであっても、自分で手を動かしたり外部のパートナーに頼んだりして、とにかくつくり切る。そこに必要であれば、組織づくり、オフィスの手配から事務的なことまで何でもやります。
山敷僕はプロダクトマネージャー的な部分では一部、坪田さんとかぶるんですが、社会のトレンドを把握したり、ユーザーの声を聞いてビジネス要件に落とし込んだりといった辺りが好きですし、自分の強みだと思っています。
よく「T型人材」といういい方をしますが、幅広い領域を一定レベルまでできる上で、どこかの領域に関しては他の人より抜きん出た専門性を持つT型人材を、BCGDVでは人材要件として必須にしています。
BCGDVには、ビジネスサイドに限らず、エンジニア、デザイナーに関しても起業経験や企業内での新規事業経験を備えた人材が集結している。ベースに幅広い経験とスキルがあって、その上に固有の強みを持った人材が集まるからこそ、BCGDVの新規事業創出のプロセスが、強力なものとなる。
BCGDVのプロジェクトの進め方には一定の「型」があり、案件に応じて多少アレンジされるが、基本的には3つのフェーズに分かれる。ユーザー調査を経てアイデア出しをする「イノベーションフェーズ」、開発を行う「インキュベーションフェーズ」、運用に乗せる「コマーシャリゼーションフェーズ」の3つだ。
山敷プロジェクトが始まると、基本的にメンバーは全員そのプロジェクトにフルコミットします。複数の事業アイデアをつくり、それらをチームに分かれてそれぞれ検討しながら事業プランへと落とし込み、その中からビジネス化するものを絞り込むというプロセスを踏みます。私がOnedotのプロジェクトに関わったのはイノベーションフェーズまでですね。
坪田後半になるにしたがって、プロトタイプをつくって検証したり、実際のモノ作りを進めたりするので、デザイナーやエンジニアが加入して、場合によっては外部パートナーと協業し、逆にBCGDVのメンバーは絞るケースもあります。
観察型の徹底したユーザーインタビューで潜在的かつ本質的なニーズをつかむ
BCGDVのやり方で非常に特徴的なのは、ターゲットとなるユーザー像の調査を徹底的に行うことだ。
山敷BCGDVにはユーザーファーストの考え方が通底しており、われわれはプロジェクトの最初の期間をユーザーインタビューにあてます。
鳥巣調査会社に依頼してアンケートをとったり、何人かをどこかの場所に集めてグループインタビューを行ったりするだけではなく、エスノグラフィックリサーチという手法を採ります。ターゲットとなる消費者の生活の場に実際に行って「観察」し、そこからニーズを見いだすやり方です。
坪田僕らの場合は、プロジェクトメンバー全員で中国に行き、日本と中国のユニ・チャームの方とでユーザーインタビューを行いました。子育て中の家庭にお伺いさせてもらい朝から夕方まで一緒に生活しつつ行動観察を行い、気になる行動があれば直接話を聞きながらユーザーの本質的な課題を把握する。出発点は必ずそこです。
そこから事業のアイデアを複数出し、チームに分かれて検討する。その中から最終的にどれを行うかが決まったのが2016年10月頃だという。
鳥巣実際にやる事業を絞り込むところが、今回のプロジェクトでは一番難しかったと感じます。各チームで検討するとどれもいい感じに仕上がってくるんですよ。でも、スタートアップはリソースの問題もあり、複数並行して行うことはできないので、一つを選ばなければいけない。
ただ、そこで客観的な基準からだけ選ぶのがベストかというとそうではないんですね。ベンチャービジネスって、「これは絶対にいいものだから、やり切る!」といったモチベーションが成否を左右する部分もあるので、そこの見極めが難しかったですね。
最終的にOnedotの動画配信ビジネスに決まった決め手は「タイミング」だと思っています。ベンチャービジネスはタイミングが超重要で、同じ事をやるにしても、それを「いつやるか」によって状況が変わりますから。
プロトタイプを作り込み、2016年11月に「Babily」のβ版の配信を開始。検証を経て、12月の時点でユニ・チャームが中国で法人を設立し、そこへBCGDVが出資をし、ジョイントベンチャーとしてのOnedot株式会社が出来上がった。
現在、鳥巣氏は上海のWeWorkを拠点とし、プロダクトグロースに邁進中、坪田氏は日本で動画制作を行っている。
スタートアップのスピード感で大企業とビジネスを共創
BCGDVの大きな特徴の一つに、大企業とコラボレーションがある。BCGのクライアントとのリレーションをもとに、大企業の豊富なアセットを活用しながら、小さいチームでスタートアップ的に事業を立ち上げる。単純にスタートアップを立ち上げる場合とどのような違いがあるのだろうか。
坪田やはり意思決定のプロセスにおいて、きちんと材料を集めてコーポレートパートナーにも納得してもらう必要がある点が少し違います。ステークホルダーが多いので、例えば、社長がOKといっても、現場のガイドラインに沿っていなかったら実行できないし、関連部門の協力を仰がなくてはいけない場面もある。
ただ、コンサルティングファームならドキュメントで説得材料を示すところを、僕らの得意なやり方として、プロトタイプをつくりWeiboというプラットフォーム上でβ版でテストをして、それに対するユーザー評価とKPIの数字を見てもらいGOサインが出たという経緯があります。
山敷大企業のアセットを使って新しい事業をつくる場合、そのアセットが有力であればあるほど、本業に近いアセットである可能性が高く、それを毀損するリスクも高くなります。アセットというのは、販売網、店舗、ブランドなど、さまざまなもののこと。
例えば販売網を使うなら、他のものを売れたかもしれない機会損失を背負うかもしれないし、ブランドなら、レピュテーションリスクを負うかもしれない。そのリスクを考えると、われわれがつくる新規事業には、ビジネス規模としてそれなりの大きさが求められるし、難易度も上がっていきます。その反面、学ぶところも大きく、それがBCGDVでやることの面白味でもあります。
坪田僕は、サービスやモノ作りにフォーカスしている人間なので、本当はプロダクト開発以外の事は極力やりたくないんです(笑)。スタートアップ企業では、そうも言っていられないですが、コーポレートパートナーには、「つくる」ための環境を構築する資本も仕組みも揃っているので、「つくること」に集中できる。そこは、通常のスタートアップと違うところですね。
例えば、このOnedotの日本オフィスはほぼ制作スタジオなんですけど、制作に特化できてるのは、人事労務などのバックオフィス業務をユニ・チャームにサポートいただいているおかげです。
鳥巣中国でビジネスを展開していく上で、例えば会社の設立手続きを行う際にも、ユニ・チャームの中国ビジネスの実績・ノウハウが生かされました。
また、Onedotのビジネスを拡大する上で、広告主を開拓する営業が肝になりますが、ユニ・チャームのネットワークを生かして活動できているところは、Onedotの強みになっています。
1プロジェクト・1部屋の仕組みで“大企業的”な仕組みごと変える
坪田チームのファシリテートは特徴的です。BCGDVのオフィスは恵比寿にありますが、フロアが分かれていて、1プロジェクトに1部屋が割り当てられる形になっています。そのプロジェクトルームで僕らとコーポレートパートナーで一緒に仕事をします。なぜそうするのか。調査からMVP制作まで物理的にも閉じた空間で集中する事で従来の環境に縛られず仕組みごと変えるマインドが大事だと考えています。
坪田BCGDVのモノのつくり方として、「デザイン思考」がベースになっていますが、それを純粋な環境で実践するために、コーポレートパートナーの環境とは物理的に分離するわけですね。
そこで僕らは、フラットな組織を自分たちで“演出”します。例えばユーザーインタビューでも、全員がインタビューに行って、全員がメモを取る。上下関係はない。そういう環境で一緒に仕事をしていくうちに、気がつくと皆が同じ肌感覚で話ができるようになり、自然とチームとしての一体感が醸成される。結果として、僕らのデジタル領域の知識と、コーポレートパートナーの持つ業界の専門的な知識が掛け合わさって、イノベーションを生み出すことが可能になると信じています。
山敷そこは文化の違いもあるのかなと思います。僕らがコーポレートパートナーの方と話をするときも、「営業」という感じではなくて、基本的に服装もこの格好です。無理に大企業のやり方を合わせると、われわれの良さが失われてしまいますから。
鳥巣BCGDVの仕事の進め方は、母体となるBCG本体が培ってきたフレームや方法論をベースにしている部分もあります。実際、BCGでコンサルタント経験がある私から見ても、事業を立ち上げてからの、仮説・検証を進めながらグロースするという仮説思考のフレームワークは非常にパワフルで、そのまま応用が利きます。
反対に、BCGの経験が全く役に立たない、むしろ忘れなければいけない部分もあります。それがBCGとBCGDVとで大きく違う点でもあるのですが、BCGDVは「ベンチャービジネス」にフォーカスし、極めて不確実なものにチャレンジする組織なのです。人間観察からボトムアップでアイデア出しをするとか、場合によって何度もピボットをするなど、いわゆる「デザイン思考」的なやり方がBCGDVの特徴ですね。
坪田BCGDVでは独自のフレームワークが組まれていて、基本的にはそれを実行するのですが、各々のプロジェクトに応じて、プロジェクトを統括するケースリーダーと現場で話し合いながら個別最適なやりかたを決めていく感じです。
山敷われわれが参考とするBCGのフレームワークもありますが、常にチームで議論しながら、「今回はこっちのほうがいいね」と、案件に合わせてカスタマイズしていますね。あまり型を決めておらず、かなり頻繁に変化し続ける組織だと思います。
起業できる人が“あえて入社する”環境
鳥巣 BCGDVは、ベンチャービジネスを立ち上げるためにできた組織であり、個人が立ち上げようと思っても難しいような規模・種類のビジネスを立ち上げられるということが特色だと思います。まだ世の中にないものをつくりたい、かつて個人ではできなかったことを、大企業のアセットを使ってもう一度チャレンジしたいと思う人に来ていただきたいですね。そして、そういう人が向いていると思います。
山敷 ただ、大企業のアセットも、所与のものではないことは、認識していただきたいと思いますね。何が有用なアセットが最初から明確なわけではなく、事業においてどういうアセットを使うとインパクトを生み出せるのか、どうすればそのアセットを引き出せるのかを考えて、コーポレートパートナーに働きかけていかなければなりません。誰かが仕事をセットアップしてくれるわけじゃない中で、自ら考えていく必要があります。
坪田これまで採用にも関わってきた経験上、コンサルティングファームとしてのBCGのイメージを持っている人はフィットしない印象があります。泥臭く何でもやって、ゼロから立ち上げていくことに興味がある人、自分でも起業できるけど、よりインパクトを大きくするためにBCGDVで大企業とやる、それくらいの感覚の人が向いていると思います。
企画した事業は自分でやりきる。“卒業は当たり前”のカルチャー
今回話を聞いた3人のうち、鳥巣氏と坪田氏はBCGDVを退職してOnedotへ移籍している。出向ではなく転籍の形をとることに躊躇や迷いはないのだろうか。
坪田自分は前職のDeNAの次は、自分で起業することも考えていました。ただ、大企業のアセットにはデザイナーにとって魅力的なモノが多く、BCGという母体があるところでそれらを使ったサービスがつくれそうと思い、BCGDVに入社しました。そんな経緯もあり、これを言ったら怒られるかもしれないんですけど、僕はBCGDVに入る時、卒業するつもりで入ったというか、あまり長くいるつもりはなかったです(笑)。だから、特に迷いはなかったですね。
山敷でも、うちにいる人はほとんど皆そうじゃないかな(笑)。
坪田自分が企画しておいて、実際やる段階になって「誰か他の人お願いします」というのはイケてないじゃないですか。こういう形でゼロから会社をつくって、何らかのインセンティブを受けながら、自分の好きな環境をつくり上げられる機会は相当レアだし、面白い経験だと思います。
山敷私もいずれ、自分の携わったプロジェクトで会社ができれば、おそらくそちらへ移ることになるだろうとは思っていますね。
鳥巣私の場合は、いろんなアイデアを見つつ、最終的に一つを選んで、それを事業化しようということが決まりつつあった時に、並行して「誰がやるのか」という話は持ち上がっていました。私としては「やるなら自分しかいない」と思っていましたし、幸いユニ・チャームもBCGDVも同じように考えてくれていたので、自然な流れでCEOに就きました。
Onedotの事業が伸びることは分かって、ある程度のサイズまで成長しました。ただ、競合も徐々に出てきていますので、それを横目に見ながら、自分たちがどうやってアクセルを踏んでいくか判断するのが今後の課題。さらにその先は今のところ考えていません。できるだけOnedotを大きくできるよう、頑張りたい一心です。
山敷今後、一度会社を立ち上げて転籍し、またBCGDVに戻ってくるケースも出てくると思いますし、BCGDVとしてもそれはウェルカム。今のところ、彼ら2人のように出て行く人のほうが多いので、だからこそ採用にも力を入れています。いずれINとOUTがバランスして、次々に新しい事業を創出できる会社になり、BCGDV自身が「新規事業輩出会社」として認知されるようになっていければと思っています。
こちらの記事は2018年03月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
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