連載メルペイが見据える"決済の向こう側"──新しい「信用」を創るゲームチェンジャーの挑戦

世界でもユニークな、“信用をデザイン”するチーム──テクノロジーで「信用」の仕組みを変革する、メルペイのCredit Design

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インタビュイー
山本 真人

2004年 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月より現職。

石川 佑樹
  • 株式会社Jizai 代表取締役CEO 

東京大学卒業後、2012年任天堂株式会社入社。2014年にモイ株式会社(ツイキャス)に入社し、各種開発や新規立ち上げに従事。2017年6月メルカリグループの株式会社ソウゾウ(旧)に入社。その後、株式会社メルカリへ異動を経て、2020年7月より株式会社メルペイ執行役員VP of Product。2021年1月から株式会社ソウゾウ代表取締役CEO。2022年7月から株式会社メルカリ執行役員VPを兼任。2023年5月から株式会社メルカリ執行役員 VP of Generative AI / LLM。2024年6月にメルカリを退職し、株式会社Jizaiを創業。

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顧客の個人情報取り扱いやプライバシーに配慮しながら、日本に合わせた形で、新しい「信用」の形が生み出されようとしていることをご存知だろうか。

キャッシュレス決済サービスのメルペイでは、世界でもユニークな「Credit Design(クレジットデザイン)」チームが、「“信用”を基にしたなめらかな決済体験の提供」というテーマに取り組んでいる。メルカリの持つUXデザイン力、量・質ともに豊富な顧客の利用実績を基に、日本における信用サービスのパイオニアを目指す構えだ。

本記事では、メルペイ執行役員CBOの山本真人氏、クレジットデザインのマネージャーを務める石川佑樹氏に話を伺った。「圧倒的なCtoCマーケットプレイスのログデータを持つ」メルカリグループだからこその勝算、「ビジネスサイドでも機械学習の知見を身につける」チーム構成から、「決済戦争を戦っている意識は一切ない」という理由まで、次世代のインフラづくりに挑む精鋭たちに迫る。

  • TEXT BY MONTARO HANZO
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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「従来の方法ではカバーできない“信用”がある」から、新しい基盤が必要だ

「クレジットデザイン」は、メルペイが生み出した独自の概念だ。

同社のミッションである「信用を創造して、なめらかな社会を創る」の基盤を支える役割を担っていると、CBOの山本真人氏は語る。

株式会社メルペイ 執行役員CBO 山本真人氏

山本クレジットデザインは、新しい「信用」の創造を目指しています。

従来のシステムではカバーしきれない「信用」があると考えているんです。個々人の約束履行能力に対し、どの程度の限度額が最適なのか。既存の金融機関では、勤続年数や勤務先などの基準でしか決められていませんでした。そのため、絶対的な情報量の少ない若者は限度額が少なくなったり、審査に通過できなかったりしていた。

メルペイでは、メルカリ内でのさまざまな行動の傾向をもとに約束履行能力を割り出し、職業や年齢、性別、雇用形態などに左右されない、新たな「信用の証明」を作り出そうとしているんです。この証明こそが、私たちのミッションである「なめらかな社会」、すなわち「一人一人が今よりも自由に、平等にお金を使い、欲しいものを手にいれたり、やりたいことが叶う社会」の実現に繋がると考えています。

メルペイは、2019年2月にサービスをリリースした後、積極的に「信用の可視化」に乗り出してきた。

代表例としては、2019年4月に提供開始された、店舗で支払った代金を翌月にまとめて精算する「メルペイあと払い」だ。メルカリの利用動向に応じて信用度が変化し、後払いできる限度額が増減していく仕組みとなっている。

過去には「メルカリNOW」のプロダクトオーナーを経験し、現在はメルペイのクレジットデザインチームでマネージャーを務める石川佑樹氏は、「メルペイあと払い」の開発が現在にもつながっていると言う。

株式会社メルペイ CreditDesignDepartment ProductManager 石川佑樹氏

石川そもそも「金融」という領域はセンシティブですから、「メルペイあと払い」の実装でも、メルペイローンチ前から1年半近くもの間、テストを繰り返していました。目に見えるデザインやUI設計、銀行との接続やデータ活用法など、財布に代わる新たな生活のパートナーになるための要素を、常にチーム全体で慎重に考え、試行錯誤してきたんです。

山本特に重視しているのは、UXやデザインの磨き込みです。いくらプロダクトの構想が素晴らしくても、体験も含めたデザインが悪ければ使い続けてもらえません。決済のように、生活に寄り添う領域ならなおさらです。

たとえば、限度額をスマホの画面上で表示する際、ユーザーの使いすぎを防ぐために、どういった見せ方が正解なのか。文字の大きさから色のトーンまで細かな調整を積み重ねました。社内テストでも、録画してもらったユーザーテストの様子を見ながら、ボトルネックになっている点を徹底的に議論。体験を磨きに磨いて、手応えを感じながら着実に進んできました。

顧客の約束履行能力を導出し、限度額の増減に結びつけていく審査も、決済サービスにおいては重要だ。メルペイでは、審査を行うのは人間ではなく、AIの役割だという。

石川メルペイでは、マシンラーニングを用いて信用の評価モデルをアップデートしています。世界中から優秀なエンジニアも続々と集まって改善を重ねているうえ、教師データが貯れば貯まるほど精度は上がっていく。ゆくゆくは、過度に人が介在しなくても最適化されるモデルをつくっていけるかもしれないとも考えているんです。

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圧倒的なCtoCマーケットプレイスのログデータを持つ、メルペイだからこそ実現できる

他のキャッシュレス決済サービスに比べて後発であるにも拘わらず、メルペイは快進撃を続けている。メルカリでの売買を通じて発生した売上金をそのままキャッシュレス決済でも使える利便性や、メルカリが持つ膨大なデータが強みだと、これまでの取材でわかった。

クレジットデザインにおいても、メルカリの基盤が大きな恩恵をもたらしている。石川氏は、「メルカリというCtoCマーケットプレイスでの実績とデータを活用できるので、メルペイは、日本に合わせた形での適切な信用サービス提供をリードしていけるはず」と力強く語る。

石川個人間で売買が行われるメルカリ上では、注文から決済までのトランザクションを経るなかで、個々人の「約束履行」が、データとして積み上がっていきます。代金の支払い、発送の手配など、メルカリでは1つのトランザクションから、「売り手」と「買い手」の信用情報を一度に蓄積できるんです。

また、メルカリのMAUは1,300万人を超えるので、集まるデータ量も膨大です。大手IT企業であってもなかなか真似できない、メルペイならではの強みだといえるでしょう。

山本メルカリで売買を経験してみるとわかるのですが、「お金を一方的に支払えばいい」だけのECとは違い、フリマアプリでは「相手との約束を守る」ことが重要です。約束を守り続けてくれているお客さまは、データで見れば浮かび上がってきます。そうした人たちに、クレジットデザインでベネフィットを与えていきたいんです。

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ビジョン達成のためなら、ビジネスサイドでも機械学習の知見を身につける

キャッシュレス決済市場に、クレジットデザインという役割で携わることの面白さはどういった点にあるのだろうか。石川氏は「多くのデータがインターネット上に乗り、『信用経済』『新しい信用』といったキーワードを耳にするようになりました。そうした流れに乗り、クレジットデザインは今年から一気に盛り上がりを見せるでしょう」と期待を覗かせる。

石川信用をマシンラーニングに基づいて可視化するこの領域は、お客さまとコミュニケーションする部分は「デザイン」であると同時に、その根幹は「Credit-Tech(クレジットテック)」でもある。アメリカや中国に遅れをとりつつも、ようやく日本において最先端のテクノロジーを実装できる土壌が整ってきたと感じています。まさに、これからが本番ですね。

また、メルカリグループの武器である、UXデザインに長けたチームと一緒に仕事ができる点も醍醐味です。これから、メルペイを通したKYC(身元確認)情報とメルカリでのデータが深く連動することで、信用を可視化するための情報は深く、厚いものになっていく。

クレジットデザインを手掛けるチームには、エンジニアやデータアナリスト、デザイナーなど、スペシャリストが揃っているイメージが湧く。しかし山本氏と石川氏は、未開拓なキャッシュレスの領域で「自分はどうすべきか」を考えられる人材に活躍の場が与えられると口を揃える。

山本メルペイでは基本的に、「不足している人材を補充する」スタイルの採用は行っていません。仲間に加わってほしいのは、ミッションである「なめらかな社会を創る」を信じ、その達成のために主体的に動くことのできる人材。ビジョン達成に向けた道筋において、自分の能力をどのように活かすのかを構想していないと、活躍は難しいと思っています。

新しい領域なだけに、ドンピシャの人材なんて一人もいません。学び続けるとともに、自分の価値を相対化し、いかに組織でバリューを発揮できるのかを考えられる人と仕事をしたいですね。

石川キャッシュレスの推進は、「なめらかな社会を創る」ための道筋のひとつにすぎません。メルペイには「決済戦争」といった言葉に踊らされず、「どうしたら価値が循環するのか」という大方針から考えられる人が多いと感じます。

また、クレジットデザインで仕事をする人たちの共通点として挙げられるのは、常に事業を俯瞰して眺め、自分の行動を規定できること。プロダクトの品質向上のために必要であれば、専門知識であってもすぐに吸収し、主体的に行動してくれる。たとえば、ビジネスサイドであっても、マシンラーニングについて進んで学んでいく意欲のある人が多いです。

山本仕事がひとつ終わっても、次々とやることが見つかる。常に「ランナーズハイ」な気分を味わえるチームですね(笑)。

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「決済戦争」は幻想。決済サービス各社が戦っているのは「現金」

巷では「決済戦争」と呼ばれるほど、大手企業やベンチャーが入り混じり、キャッシュレス決済市場の覇権を争っているように見える。この状況を、二人はどのように捉えているのだろうか。

山本正直なところ、他社と競合している感覚は全くないです。むしろ、さまざまな決済サービスが束になって「現金」と戦っているイメージがありますね。各社が「どうしてもスマホ決済にしなければいけない理由」をプレゼンしているかのような状況です。

ニーズに応じて決済サービスが乱立してもいいと思っています。ユニークな価値がどんどん提供されていってほしいですね。

石川繰り返しになりますが、僕らが目指しているのはキャッシュレスの普及ではなく、その先にある「なめらかな社会」。近い将来、世の中に浸透したキャッシュレス経済圏に多くのサービスが「乗っかる」ようになれば、劇的に消費行動が変化するはずです。

メルカリが描く「なめらかな社会」は、彼らが強く信じているだけではない。着実に現実のものとなりつつあることを、サービスやユーザーの行動を通じて感じているという。

石川お店でものを買う前にメルカリで同じ商品を調べ、いくらで売られているのかをチェックし、差し引きした金額を「購入金額」として判断する人が増えてきているんです。メルカリの存在が、ものを買うハードルを大幅に下げているともいえます。クレジットデザインでも、「あと払い」をはじめとしたサービスをどんどん打ち出し、なめらかな決済体験を提供していきたいですね。

こちらの記事は2019年08月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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