連載メルペイが見据える"決済の向こう側"──新しい「信用」を創るゲームチェンジャーの挑戦

メルペイはなぜ、競合との提携も厭わないのか。
国内事業の躍進・タクシー業界変革をリードした役員2名が事業戦略を語る

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インタビュイー
伊豫 健夫

大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)、株式会社野村総合研究所を経て、2006年に株式会社リクルート入社。中長期戦略策定および次世代メディア開発等、大小問わず多数のプロジェクトを牽引したのち、2015年3月株式会社メルカリに参画。2016年8月より執行役員。US版メルカリのプロダクトマネジメントを担当後、2017年4月より国内版メルカリのプロダクト責任者を務める。2019年7月より現職。

金 高恩

株式会社サイバーエージェント、株式会社ネットプライス、ヤフー株式会社などで事業立ち上げ・開発を行う。2012年4月、株式会社HUGGを起業し代表取締役に就任。2年半後に事業譲渡後、2015年からJapanTaxiに参画し、常務取締役CMOに就任。Forbes Japan WOMEN AWARD 2017 ヒットメーカー賞、第6回Webグランプリ Web人大賞を受賞。 2019年3月にメルカリ参画、2019年7月より現職。

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「決済戦争」と呼ばれる昨今のキャッシュレス決済市場。あらゆる企業が機先を制すべく、UIの向上やユーザー獲得に向けたキャンペーンに取り組んでいる。

そうした激戦下で、株式会社メルペイが提供するキャッシュレス決済サービス「メルペイ」が存在感を発揮している。メルカリにおける売上金をそのまま決済で使える利便性でユーザーの心を掴み、後発でありながら顧客満足度で第1位を獲得。キャッシュレス決済においては、「PayPay」や「LINE Pay」と肩を並べた。

メルペイのデータアナリストを紹介した前回の記事では、決済サービスの心臓部にあたる顧客データを扱う3名から、「経営視点」でデータを扱うメルペイならではのカルチャーを伺った。

今回は、事業のグロースを統括するビジネスオーナーの2名が登場。今年7月にCPOに就任した伊豫健夫(いよ・たけお)氏と、執行役員としてセールス、カスタマーサクセスの統括を担う金高恩(きむ・ごおん)氏だ。事業を横串で捉え、メルペイの普及に向けた戦略を考える2人に、メルペイの事業としての強みや課題意識を訊いた。

  • TEXT BY MONTARO HANZO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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メルペイは、メルカリの「バージョン2.0」を実現する

2019年7月1日に、前任の松本龍祐氏よりCPO(Chief Product Officer)のバトンを託された伊豫健夫氏。2015年にメルカリにジョインし、日米でCPOを経験してきた同氏は、メルペイ社内の誰よりもメルカリグループを知る人物だ。

メルペイで伊豫氏が担う役割は、大きく分けて2つある。1つは、サービスのUIや銀行接続システムの改善、加盟店の管理画面の利便性向上など、プロダクトのあらゆるアップデートを統括する「CPO」としての役割。そしてもう1つが、キャンペーンや決済基盤の利便性向上を通じ、事業のグロースを担う役割だ。

株式会社メルペイ 執行役員CPO 伊豫健夫氏

伊豫ユーザーや加盟店がまず想起するUIやデザインのみならず、ユーザーの目に見えない銀行との接続や本人登録のシステムもまた、「プロダクト」の一部。メルペイには機能ごとに開発チームが存在しているのですが、それらを横断的に管轄し、ToDoをまとめて優先順位をつけるのがCPOとしての役割です。

また、プロダクトの開発とあわせ、現在はシェア拡大にも注力しています。クーポンなどのキャンペーン施策を策定したり、ユーザーを取り込む新たな決済体験を考えたり…。

巷では「決済戦争」と呼ばれていますが、いまはとにかく1人でも多くのひとにキャッシュレス決済を経験してもらうことが“一丁目一番地”。メルペイが普及し、愛されるサービスになるためにできることを全てやっています。

これまで、日本とアメリカでメルカリのCPOを務めてきた伊豫氏は、メルペイでの新たなチャレンジを、「メルカリの“バージョン2.0”を作ること」だと表現する。

伊豫創業以来、メルカリグループが目指してきたのは、個人間で簡単かつ安全にモノが売買される「なめらかな社会」。その意味において、フリマアプリ「メルカリ」は順調にユーザーを増やし、多くのモノがなめらかに行き交うマーケットプレイスとして、国内で一定の認知を得ることができました。

しかし、これまでのメルカリの躍進は、「なめらかな社会」の基盤となる“バージョン1.0”を構築したにすぎません。私たちがこれから目指していくのは、「なめらかな社会」の実現に向け、さらなる具体的なアクションを取っていくこと。その1つがメルペイです。

メルペイで利便性の高いキャッシュレス体験を生み出せれば、オンライン上でモノや価値がなめらかに移動する“バージョン2.0”の実現が可能になると感じています。

もちろん、国内外ともに引き続きユーザーを増やしていくべきですし、個人的にはアメリカでの挑戦を続けたい想いもありました。しかし、単にユーザーを増やすだけでなく、「なめらかな社会」の実現に向けた新たな挑戦に参画したい想いのほうが強くなっていったんです。

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キャッシュレス普及のために、競合との提携も厭わない

金高恩氏は、2019年3月、タクシー配車アプリ「JapanTaxi」で、タクシー業界の大幅なデジタルシフトを実現した実績を引っ下げ、メルペイにジョイン。現在は営業を統括する執行役員として、加盟店に向けたメルペイのセールスチームや、カスタマーサクセスチームを率いている。

金氏は自身がメルペイで担う役割を、「ユーザーの目に見える施策を考える伊豫さんがコインの“表側”なら、私の仕事はユーザーに見えない“裏側”の仕事です」と穏やかな笑顔で語る。

株式会社メルペイ 社長室長 メルペイ加盟店責任者 金高恩氏

私が担っているのは、伊豫さんたちが開発したメルペイを、少しでも多くのユーザーに届ける仕事。全国に展開するチェーン店から、商店街の小さなお店まで、お客様とのあらゆるタッチポイントでメルペイが愛用されるよう、営業やマーケティング、カスタマーサクセスに注力しています。

また、ユーザーや加盟店を増やすために、BizDev的な動きも担っています。最近ではLINE PayやNTTドコモとの提携を発表しましたが、キャッシュレスをより自然に使っていただくために、あらゆる手段を模索するのは、メルペイのセールスチーム、カスタマーサクセスチームの大きな特徴ですね。

金氏はこれまで、株式会社サイバーエージェントやヤフー株式会社をはじめとしたIT企業で事業立ち上げを経験。自身でも起業を経験した後、2015年にJapanTaxiに参画。JapanTaxiでは、それまでアプリやキャッシュレス決済が浸透していなかったレガシーな領域にデジタルシフトをもたらした功労者でもある。

そんなキャリアを経て、なぜメルペイへジョインしたのか。その理由を問うと、金氏は「娘に残したい未来を、一緒に目指していける会社だから」と語る。

そもそも、JapanTaxiがメルペイの導入を早期から検討していたこともあり、キャッシュレスの利便性や可能性を、いちユーザーとして体感していました。

そしてメルペイの担当者と話をするなかで、目指している未来や「なめらかな社会」という考え方が、自分の目指している社会にすごく近いことを知ったんです。子どもたちに残したい未来をメルカリのみんなと創っていきたい、と思うようになっていきました。

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「まだ差別化は不要」決済戦争の裏にある、競合他社との「協業」とは

日本国内におけるキャッシュレスの普及率は、およそ20%弱だと言われている。現在さまざまなキャッシュレス決済サービスが、この巨大市場の先行者利益を奪おうとあらゆる施策を打ち続けているが、執行役員の両者は「決済戦争」をどのように見ているのだろうか。伊豫氏は、キャッシュレスの現在地を「まだ差別化の段階に達していない」と指摘する。

伊豫確かに、一般的に「決済戦争」と呼ばれるような、先行者利益の奪い合いは存在していると思います。しかし、私たちが真っ先にいま考えるべきは、いかにキャッシュレス決済を普及させるか。最初から差別化を意識しすぎた結果、サービスの複雑化を招き、多くのユーザーが使いづらくなってしまうことは、もっとも危惧すべきことです。

なので、私は他社サービスを、競合でありながら、キャッシュレスを浸透させるという点において「協業」であると捉えています。いまはとにかく「わかりやすさ」を重視し、多くのひとにキャッシュレス体験の感動を味わってもらうことが先決。差別化は、キャッシュレスの普及がひと段落ついた先に始まるのではないでしょうか。

伊豫氏の意見に同意しながら、金氏は加盟店への普及の障壁として「わかりやすいメリットを提示できていないこと」を挙げる。

現在、ユーザーや店舗経営者の多くが、なんとなくキャッシュレスがトレンドになっていることを感じています。

一方で、「じゃあキャッシュレスにしたらいくら儲かるの?」といった明確なエビデンスがまだ存在しないため、導入に踏み切れないお店が多いのも事実。店舗経営にどれほど役立ち、儲けにつながるのかを丁寧に伝えていくのが、私たちの役目だと感じていますね。

セールスとしての課題感を挙げながらも、金氏は前職のJapanTaxiの経験から、「まず導入してみる」ことの重要性を指摘する。

JapanTaxiでキャッシュレス決済を導入しはじめたころ、拒否反応が激しく、中には決済サービスの電源をわざと切る乗務員さんもいたほどでした。しかし、いざ導入してみると、彼らが抱えていた問題を解決できることを、少しずつ理解してもらえるようになったんです。

例えば、現金の会計で100円を失くしてしまった時、その100円は乗務員がポケットマネーから補填しているのがタクシー業界のあるあるです。しかしキャッシュレスであれば、そもそもお金を失くすリスクが全くなくなりますよね。

「100円」という金額自体は微々たるものかもしれません。けれども、こうした一つひとつの小さな成功体験が積み重なることで、最終的には乗務員が自ら顧客におすすめするほど、キャッシュレスへの抵抗感がなくなっていったんです。

いまは我慢の時期かもしれませんが、多くのひとにキャッシュレスで感じることのできる「小さい感動」を体験してほしいと思っています。

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ネットビジネスのプロから、コンサルタントまで。メルペイに集う多種多様な才能

メルカリの完全子会社でありながら、メルペイの社員のうち、メルカリの出身者は3割ほど。「外様」が多く集まったメルペイには、いったいどのようなメンバーが在籍しているのだろうか。ビジネスオーナー2人の率直な感想を聞いた。

伊豫メルペイにジョインして1ヶ月ほどですが、さまざまな領域のプロフェッショナルが集まっている組織だと感じています。

メルペイは、オンラインはもちろん、オフラインでの体験をもデザインする必要があるため、人材の多様性も大きくなる。ネットサービスに強い人材だけでなく、ビジネスサイドに立脚したプランニングに強みを持ったひとや、豊かなクリエイティビティを持っているひとまで、多種多様であることが特徴だと感じています。

メルカリ出身のメンバーが少ないにも関わらず、メルカリが大切にしているバリューの1つ「Be a Pro」を実践できている社員が多いことにも驚かされました。私たちの指示を待って行動しない社員は1人もいませんし、会議中でも全員が遠慮なく喋ります。

あくまでメルカリが目指すのは「なめらかな社会」であり、メルペイや決済ビジネスに固執する必要はない。その認識を全社員が共有しているため、闊達な意見が飛び交うのだと思います。

伊豫開発メンバーのなかには、自主的に営業と一緒に加盟店に赴き、プロダクトの改善に向けたヒアリングをする者がいるほど。しっかりとエンドユーザーと向き合い、キャッシュレスを通じて生活を豊かにしようとしているところにも、メルカリの「ユーザーファーストを徹底する」カルチャーが根付いていると感じています。

スピード感はもちろんのこと、専門領域では妥協なく仕事をし、わからないポイントは素直に質問する。IT企業のスピード感を持ちつつも、一人ひとりがプロフェッショナルとしての自覚を持っている、本気度の高い現場です。

金氏は、メルカリに求められる「プロフェッショナリズム」について、とある女性社員を例に補足する。製鉄会社の営業からメルペイに転職した女性は、決済に関する知識がゼロで入社したにも関わらず、いまやトップセールスとして獅子奮迅の活躍を見せているという。

彼女は面接時点から、「決済を通じて世の中をこう変えたい」というビジョンを明確に持っていました。だからこそ、異業種から転職してきて入社時点で知識が劣っていても、他の社員の2倍、3倍と頑張り、トップセールスになることができたんです。

経験や実績よりも、「自分はメルペイを通じて世の中をどう変えたいのか?」というオーナーシップの強さが、採用のキーになっていますね。

そもそもキャッシュレス決済自体、ここ数年で勃興した新しい領域だ。伊豫氏は「金融やアプリサービスの先入観にとらわれず、作りたい未来を持った人材に訪れて欲しい現場だ」と強調する。

伊豫PM人材の転職においてありがちなのが、狭い領域で自分の得意領域を区切ってしまい、入社を諦めてしまうこと。メルペイも一見すると「to C」「スマホアプリ」といったイメージがあるかもしれませんが、さまざまな出自のPM人材を擁しています。to Cサービスのビジネス経験のない、SIer出身のメンバーも活躍してくれていますしね。

活躍できる環境があると断言できる訳ではありませんが、自分で「無理だ」と決めつけず、目指したい未来がメルペイにあるのなら、一度門戸を叩いてほしいですね。

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キャッシュレスのゴールは「お金なんか忘れ去ること」

メルペイは、2019年2月にサービスをリリースしてから、順調にユーザー数を伸ばしてきた。ますます盛り上がりを見せていくキャッシュレス市場で、BizDevやPMとして携わることの面白さはどういった点にあるのだろうか。

伊豫メルペイはようやくローンチに漕ぎ着け、少しずつ強みや課題が見え始めてきた段階です。現在は「あと払い」やメルカリとの連携などを試していますが、これからは、メルペイをより使用してもらえるような打ち出し方を考える必要があります。

自分のクリエイティビティを活かし、「次世代のインフラ」となる決済サービスをコンセプトメイキングから携わることができる。次世代の「当たり前」の基盤を作り、世の中に普及させていけるのは、最初期のいましかできないおもしろい体験だと感じていますね。

いまメルペイで仕事をするいちばんの楽しさは、「時代を作っている感覚」を味わえること。メルカリという基盤の上で、大手IT企業と渡り歩きながらキャッシュレスの普及に打ち込めるのは、緊張感がある反面、非常に貴重な体験です。

キャッシュレス市場は、キャンペーンの施策やアプリのデザインまで、あらゆる面で具体的な「正解」がわかっていない領域。成熟しきっていないなかで、短期間で積極的に「失敗」を繰り返すことができるのも、ここでしかできない経験なのではないでしょうか。

いまのメルペイには、次の時代の当たり前をどう作り上げるかを考え、実行できる環境がある。キャッシュレス黎明期だからこそ経験できる「インフラを創る感覚」は、刺激と緊張感に溢れているはずだ。最後に伊豫氏はメルカリのゴールを「貨幣の存在を意識しなくなること」だと教えてくれた。

伊豫ペーパーレスが普及したのは、「印刷しなくてもいい」ことにメリットがあったからではなく、「紙を使わなくても議論の意思決定が滞りなく行える」ことが決め手でした。キャッシュレスも同じように、ただ単に「現金が不要になる」と言っているうちは浸透しないと思っています。

貨幣の存在を忘れ去り、「個人の信用」に基づいて判断された価値がなめらかに移動するようになって、初めて本物の“キャッシュレス”は実現される。価値判断の軸を貨幣ではなく「個人の信用」に置き換える「なめらかな社会」を築くことが、これからのメルペイのミッションであり、そのミッションこそが、キャッシュレスサービスを提供する他社との最大の違いなんです。

こちらの記事は2019年08月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

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藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

校閲

佐々木 将史

1983年生まれ。保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。フリーの編集者、Webマーケターとして活動を開始。保育・福祉をベースにしつつ、さまざまな領域での情報発信や、社会の課題を解決するためのテクノロジーの導入に取り組んでいる。関心のあるキーワードは、PR(Public Relations)、ストーリーテリング、家族。

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