最高の仲間が集結する震源地で、さらなる高みへ──Bet AIを掲げるLayerXに参画した元ラクスル福島氏の覚悟
これまでFastGrowに何度も登場してくれた元ラクスルCOOの福島広造氏。2025年10月、LayerXのCOOへの就任が発表された。
そのきっかけは、同社代表福島良典氏との間での「LayerXの倒し方」の議論だったという。一体どういうことだろうか?
2030年にARR1,000億円を達成する──と打ち上げられた、同社の壮大な目標。その実現に向け重要な役職に就くこととなった福島広造氏。CxO人材の採用をさらに加速させ、組織のポテンシャルを解放しながら、北極星へとチームを導いていく。その決断の過程と、これからの挑戦内容について、同社CHRO石黒卓弥氏と共に語ってもらった。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「LayerXの倒し方、やってくれませんか?」──“無邪気”な一言から決まった挑戦
何年も前からご存知だったLayerXに、なぜこのタイミングで転職を具体的に考えるようになったのでしょうか?
福島広造(以下、広造)fukkyyさん(LayerX代表取締役CEO 福島良典氏)との定期的に実施していた壁打ちの場でのことです。「広造さんならどうやってLayerXを倒しますか?」という問いをもらい、熱く語ったら、「それ、LayerXでやってください」と言われたんです。それで、有言実行することになりました。
その後、石黒さんも含めてお食事に行って、その場でもうLayerXへの参画を決めたという感じです。
事業家としては、自分で思考して、語った戦略を、「やってみて」と言われて、そこで「やりません」と断る選択肢はなかったです。
その決断の背景には、昨今の生成AIの波も影響しているのでしょうか?
広造そうですね。2023年に生成AIが本格的にエージェント化してくるというタイミングで、この大きな変化の「震源地」に身を置きたいと強く感じるようにもなっていました。
「震源地」として、なぜLayerXだったのでしょうか?
広造経営陣の強みはもちろん、テックとプロダクト開発チームに日本中からCTOやCPOクラスの人材が集結していることに、AIの震源地になる確信を持ちました。BetAIへの熱量や、テック人材のブラックホールと称される集結度合いは、圧倒的だと思います。
LayerXで楽しみにしているのはどのようなことですか?
広造良いプロダクトがあって、それをさらにAIも含めたテクノロジードリブンで成長・拡大させ、日本を変えていくという、スタートアップのど真ん中、原点みたいなことを実現していけるんだというのが一番楽しみですね。
私がスタートアップに興味を持ち始めたのは高校時代で、AppleやMicrosoftが出てきてテクノロジーで世界を変えるという動きが目立つようになったタイミングだったんです。
特に、ビル・ゲイツの『The Road Ahead』という本を読んで、テクノロジーで世の中を変えていくことにモチベーションを強く感じるようになりました。
今、この原点に戻って、AIの変革に向き合えることに、本当にワクワクしています。
石黒さん、広造さんがジョインされて、すでに嬉しかったり刺激を受けたりしたことがあればお聞きできますか?
石黒卓弥(以下、石黒)難しい課題を解決するための挑戦に対して、チームが自然と向き合っていけるようなコミュニケーションが、非常に上手だなと感じます。みんなが頑張れる場所をうまく創ってくれるんです。
ベンチャー企業におけるわかりやすいリーダーシップの形として、「○○を大事にやっていくぞ!」と勢いで引っ張るコミュニケーション手法が一般的ですよね。広造さんはそうではなく、もっと自然にメンバーの方向を変えていくんです。
広造それは、LayerXのオンボーディングに「お手並み拝見」の雰囲気がなく、Trust Firstで迎え入れてくれて、Day1からワークできるよう環境を用意してくれたおかげです。Trustful Teamの行動規範が体現できているLayerXのすごさだと感じています。
40代でたどり着いた「自己分析」からのマッチ
他のスタートアップへの転職や、起業などは比較検討されなかったのでしょうか?
広造他は一切考えていませんでしたね。
今回の転職では、進路を考える娘に、初めて「自分にシンデレラフィットする仕事が見つかった」と伝えました。そう心から思えているんです。
大学生が就職活動の時に、自己分析とかやるじゃないですか?キャリア観と仕事のマッチングをどう考えるか、みたいな。あれが今、完全にフィットしたと感じるんです。就活をやっていた頃からもう20年も経つ話ですが(笑)。
自分のやってきたこと全てが、LayerXという場で大きな挑戦をするためにあったんだなと思える、Connect the Dotsを体感しています。だから、比較検討は必要なく、LayerXしかないと考えたんです。
ジョインにあたっての懸念点や悩みはありませんでしたか?
広造一つだけ、最後に改めて考えたのは、「今のLayerXに入って、本当に自分は価値を出せるのだろうか」ということですね。
「2030年にARR1,000億円」という壮大な目標に向けた非連続な成長を目指し、プロダクトの数も質も、一つひとつの成長のスピードも、さらに大きなチャレンジが必要です。「自分が参画して、加速できるか?素晴らしいチームの成長機会に蓋をしないだろうか……」といった懸念はありましたね。ただ、大きな野望の達成には、成長する時に生まれる三遊間を埋めるCOO的な役割や非連続な取り組みの旗振りをする存在も必要と思え、ダメならクビにしてもらおうと覚悟を決めました。
石黒ご本人はこう謙遜しますけど、広造さんほどの適任者は、現存する経営者・事業家の皆様の中でほかにはいません。fukkyyとも、よくそう話していました(笑)。
だから、私たちはずっと「来ていただけないだろうか」と考えてきましたし、その流れでお誘いしたら「やってみましょう」と言っていただけたので、ぜひとお願いさせていただいたんです。
取締役の手嶋もX(旧Twitter)でポストしていましたが、LayerXはCOOというポジションが創業から7年間ずっと空いていました。そこに広造さんが来ていただけることになった。BtoBで複数事業を展開するLayerXとしては、ラクスルさんでのポートフォリオ経営やBizDevの経験がある点で、間違いなくベストといえるCOOです。
元ラクスルCOOの福島kozoさんが、LayerXのCOO兼バクラク事業CEOに。創業から7年、我慢に我慢を重ね、「COO」というタイトルを温存し続け、考えうる限りベストな人材の参画です。 https://t.co/nsd2UsiKye
— 手嶋浩己 (@tessy11) September 30, 2025
オファーレターはほぼ見ず、即決
石黒さん、オファーの内容には気を使ったのでは?
石黒はい、金額やポジションなど、かなり細かく考えました。でも、広造さんにオファーレターを手渡したら、中身はほぼ見ずに「はい、行きます」と言われました(笑)。
広造もう、朝に家を出るときに、LayerXにいくと妻に報告して、家を出たので(笑)。
石黒本当にその場ですぐに返事がありました。私も仕事柄、これまでに数百人レベルでオファーレターをお渡ししてきましたけど、たいていの場合、さすがに一度持ち帰られます。やや緊張していたこちらとしては「マジか」となりました(笑)。
広造まあそもそも入社することは完全に心に決めていたので、オファー内容でどうこう変わることはなかったですね。LayerXにいま参画できることが、他に代えがたいキャリアへの報酬という感覚でした。
ちなみに、内容についてはその後、しっかり読み込まれたんですよね?
広造はい、オファーに関して言うと2点、非常に印象に残っていることがあります。
一つは、オファーレターに「期待値」として書かれていた中に、「非連続な高みを目指していくときの“剛”」という言葉がありました。普通、戦略コンサルからの転職の場合“叡智”とかなんでしょうが(笑)。この一文字で自分がやってきたことを基盤に、LayerXにおいて貢献する形がイメージできて、気が引き締まりました。
もう一つは、CTOの松本さんから「テクノロジー、事業、組織、資本全てを揃えて、社会に今までにない価値を届けたい」と書いてあり、このすべての要素で、自分がこれまでのキャリアで得てきた経験や学びをすべて、LayerXに注ぎ込んで、さらにアップデートしていかなければならないとも感じました。
石黒あと、「できなかったらいつでもクビにしてくれていい。邪魔になるようだったら、遠慮なくクビにしてほしい」とその場で言われました。ポーズみたいにこういうことをおっしゃる方もいますが、そういうトーンではなく、本当に「クビにしてくださいね」というトーンでした。非常に強い覚悟を感じ、「絶対に一緒にLayerXを非連続成長させていこう」という想いは一層強くなりました。
「メーターは時速260キロまである」──LayerXのポテンシャル解放への自信
全社のCOOとバクラク事業CEOの兼務には、どのような意図があるのでしょうか?
広造事業の垣根を気にすることなく動けるように、と理解しています。
まず全社のCOOとしては、北極星としての高い目標(たとえば2030年にARR1,000億円)のために、ビジネスモデルも事業領域も、ポートフォリオを大きく広げていくという挑戦で、非連続的な成長を実現するということになります。ラクスルでもやってきたような、BizDev(事業開発)やM&Aの経験は活かしていきたい。
ただし、事業の創り方・広げ方は、共同代表の二人が見据えるビジョンを叶えるLayerXらしい形をゼロから新しく考えていかなければならないと思っています。
— 福島良典 | LayerX (@fukkyy) September 1, 2025
石黒全社を見ていただきたいということでCOOというポジションになっています。その中で、COOのOはOther(その他)のOとも言われるわけですが、Day0から営業も採用もリファラルの獲得に動き、背中で貢献を示してくれています。
広造LayerXには、非常にポテンシャルが高いプロダクトと仲間がいます。そのポテンシャルをいかにアンロック(解放)していくか、という挑戦をバクラク事業CEOとして担いたい。
これら全てを担って価値を出すために、どこにでも顔や手を出して動けるポジションにいる必要があり、この兼務になったという形かなと。
その「アンロック」とは、具体的にどういうことでしょう?
広造自分たちの本当の限界(=最高速度)に“気付く”ことだと思います。
ドイツに、速度無制限のアウトバーンという高速道路があります。そこを走る経験をして初めて、「車のメーターって、時速260キロまであったのか。自分の車は200キロ以上も出せる。限界までアクセルを踏み込んでみよう」と思えるんですよね。
日本の制限速度100キロで、道路状況をみながら走ることに慣れると、無意識に限界を決めてしまうんです。
LayerXが目指す成長は「Shooting Star(流星)」と呼ばれるグローバルの急成長スタートアップに求められる水準です。
だから自分たちのポテンシャルをアンロックしてほしくて、「もっとスピード出せますよ!メーターは時速260キロまでありますよ!」と伝え続け、限界速度まで成長を加速させたいと考えています。
貢献を早くできるよう、Day1からフィットするために、意識されたことはありますか?
広造まずは「新しい文化に浸って、やってみる」というのは意識しました。
LayerXの「賞賛し合うカルチャー」は、私はこれまであまり経験のない文化でした。それでも、アンラーニングして、とにかくやってみる。やってみると、賞賛し合うことで、向かうべき方向にさらにドライブがかかっていくという新しい成長の型を得ることができました。
自分のマネジメントスタイルも変えていく、新たなひとつのきっかけになっています。
そもそも、私が積み上げてきた経験や知見は、会社のカルチャーや組織との接続ができた後で発揮できるものです。なので、まずはフィットすることを、第一に考えています。
ポラリス──「2030年にARR1,000億円」に、誰よりもコミットする
広造さんがCOOになって、「これで経営陣が完成、盤石だ」と見る人もいそうですが、お二人はどのように考えていますか?
石黒もちろん、まだまだ未完成です。経営陣というのは、当然変わり続けるわけです。個人もチームも、アップデートし続ける必要があります。その文脈で、広造さんが入社して最初の1on1で「CxOをあと数倍採用・抜擢していこう」と話していたところです。
広造私の入社前から、LayerXの経営チームは最高の経営チームだと思います。その一方で、「どの高みを目指しているのか」ということを基準に考えれば、最高を超えていくリーダーシップが必要です。
私が入ることで、完成とは真逆で、更なる高みを目指していることが伝わり、これからより多くのCXOやリーダーシップがLayerXに集結して、リーダーシップチームも、事業も、組織も、すべてが飛躍的にアップグレードされていくんだというメッセージが伝わるといいなと思います。
最後に、広造さんはいつまでLayerXで挑戦を続けるのか、考えていることがあれば教えてください。
広造次の10年を賭けたいと思っていますが、何を背負うかは明確にしています。
経営ポジションであるからには、時間軸や範囲として、自分がファウンダーやCEOよりも、オーナーシップを持つことを決めるべきです。今の私で言えば、「2030年に、ARR1,000億円を達成」というポラリス(北極星、大きな目標)を実現していくという一点においては、LayerXの中で誰よりもコミットして、考え抜いて、やり切る存在であろうと思っています。
なので、この「2030年」まで、というのが、今は区切りになります。その先に、次の山や価値貢献があるかは、山頂で観える景色を眺めて考えます。
こちらの記事は2025年11月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
写真
藤田 慎一郎
おすすめの関連記事
数値計測や育成に、妥協は厳禁──“拡大”と“生産性向上”を両立させてこそ真のスタートアップだ【X Mile渡邉・LayerX石黒】
- 株式会社LayerX 執行役員CHRO
1兆円企業への挑戦──スタートアップ経営の高度化とラクスルBizDevの進化
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
そんな事業計画、宇宙レベルで無駄では!?プロ経営者と投資家が教える3つの秘訣──ラクスル福島・XTech Ventures手嶋対談
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
起業家の真贋は「言葉の破壊力」で見極めよ──ラクスル福島、オイシックス・ラ・大地松本、新規事業家守屋が推す、次代のBizDevのホットスポット
- 新規事業家
「よそ者×スタートアップ」が、業界変革を起こす──増え始めた“産業BizDev”を、ラクスル福島・キャディ・日本農業と共に考察【イベントレポート】
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
事業は、“立ち上げ”だけが価値じゃない──BizDevの本分を、ラクスル福島・狭間、Chatwork福田・岡田が語る
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
常に“インパクトベース”で考えよ──ラクスル福島・Chatwork福田と考える、「これからのBizDev」
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
「既存のBizDevキャリアはコモディティ化する」──ラクスルCOO福島と“産業変革請負人”第一号の上村が語る、もう1つのBizDev誕生物語
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
ラクスルからCxOが続々誕生、その理由こそ「BizDev」にあり──COO福島が、“次世代のCxO輩出企業”への道筋を、ハコベルCEO狭間と共に語る
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
目には目を、グロースにはグロースを──。フェーズ経験者をアサインせよ!急成長するスタートアップ2社が語る成長の秘訣
- WealthPark株式会社 取締役 執行役員CBO
狂ったように事業開発にコミットし続ける──ラクスルとHERPが、事業家のキャリアとして最適な理由を聞く
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
「上場前のラクスル」を経験したいなら、未完の大器「ダンボールワン」に行け!──ラクスル福島氏が解説する、成長続けるBtoBプラットフォームに必要な“3要素”とは
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
他社の決算に“感情移入”せよ──ラクスル福島・XTV手嶋の「ビジネスモデル分析対談」
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
オペレーション創りは、事業創り──ラクスル、キャディが語る、オペレーションで事業を加速させる方法
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
「金融出身」で勝負する人材に、スタートアップでの活躍はない。3社の経営層が語る、カオスな環境に適応できる人材像に迫る
- ラクスル株式会社 代表取締役社長 CEO
ユーザベース成長の立役者が語る、“事業家の仕事術”──BizDevは「自分が去るときに自立できる組織」を作れ
- 株式会社ニューズピックス 代表取締役社長COO
「事業家」としての生き方を知る──今求められるスタートアップ×BizDevのキャリア
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
ラクスルはなぜ、「経験重視」のB2Bで若手BizDevを重用するのか?年間50%成長を支える、20代中心のグロース部隊
- 株式会社LayerX 上級執行役員 COO 兼 バクラク事業CEO
創刊から2年半で1000本の記事を発信。メルカリの採用と情報流通を促進させるメディア活用法
- 株式会社LayerX 執行役員CHRO