オペレーション創りは、事業創り──ラクスル、キャディが語る、オペレーションで事業を加速させる方法
Sponsored競争優位性を築く上で、「オペレーショナル・エクセレンス」を確立することは非常に重要だ。オペレーショナル・エクセレンスとは、企業が事業活動の効果・効率を高めることで競争優位性を獲得すること。トヨタ自動車やAmazonがオペレーショナル・エクセレンスを確立した好例としてあげられる。
9月19日に行われた「ラクスル×キャディ共催ミートアップ オペレーション構築・運営のリアル」では、オペレーショナル・エクセレンスを構築する上でのヒントが多数散りばめられた時間となった。
登壇したのは、ラクスル株式会社から福島広造氏、渡邊建氏、キャディ株式会社から幸松大喜氏、中原雄一氏。第1部では、福島氏、幸松氏から組織の成長に伴い、どうオペレーションを構築してきたのかが語られ、第2部では、渡邊氏、中原氏を交え、オペレーションチームの事業戦略と採用・人事戦略についてのパネルディスカッションが行われた。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY INO MASAHIRO
属人化、組織の分断、意義の再定義を経て築いた、ラクスルのオペレーショナル・エクセレンス
まずマイクを握ったのは、現在200人以上のオペレーションチームを束ねるラクスルCOOの福島氏。ラクスルは競合他社と異なり、自社の印刷工場を持っていない。そのため、オペレーショナル・エクセレンスを構築することは、事業成長には欠かせず、競争優位を創る重要なファクターとなる。
福島氏が入社した2015年当時、50人ほどだったチームは、どのような過程を経て、今のチームへと成長したのかを3つのフェーズに分けて紹介した。
福島第1フェーズでは、BizDev(事業開発)チームとオペレーションチームの境目が曖昧な状態でオペレーションを行なっていました。ワンフロアで全てが完結することもあり、組織の一体感も強かった。オペレーションチームの手が回らない時は、BizDevチームが電話対応やデータチェックのサポートをすることもありました。一方、繁忙期の前後3ヶ月は部署関係なく組織全員でオペレーションをするため、事業の推進が止まってしまうという課題もありました。
事業開発とオペレーションが一体となっていた時期は、オペレーション人数の増加と共に終わる。第2フェーズはオペレーションを担当するメンバーが100人ほどになり、事業も50億、100億と成長していたときに訪れた。福島氏はこのフェーズが「もっとも苦しい時期だった」という。
福島オペレーションチームとBizDevチームを明確に分けて、一部業務のアウトソースも始めました。事業成長に応じて、チームを分け、スケーラブルな体制を作る。組織づくりのセオリー上は正しいことだと思ったのですが、結果、事業をつくる側と、それを遂行するオペレーション側という形で分断が起こってしまったんです。上下関係が生じ、評価される人が事業開発にアサインされ、オペレーションは評価されにくい体制を生んでしまいました。
当時はオペレーションチームが、事業成長において競争優位の源泉だと理解しきれていなかったと福島氏は振り返る。アウトソースをした業務も、印刷業界のプロセスの複雑さゆえに顧客からのクレームにつながり、事業成長の鈍化にもつながった。
福島BizDevとオペレーションチームを分割するタイミングでは、各チームの意味づけや立場を明確にしなければならないことを学びました。
第2フェーズを経験したラクスルは、オペレーションの重要性を再認識し、オペレーショナル・エクセレンスの確立に向けて舵を切りなおした。彼らがチーム間の溝を埋めるために行なったのが、行動規範のメンテナンスだ。
チーム間に上下関係がないことを示すために新たに策定した3つの行動規範の中に「Cooperation(複雑な事業実行のため異能・多能の連携)」という要素を取り入れた。
福島組織を変えるには経営陣のコミットが必須です。「心を入れ替えました」と口で言うだけではダメで、それを実際の行動で示さなければならない。行動規範の変更を行なったことで、経営陣のコミットをメンバーに信じてもらうことができたと思います。
行動規範が変わったことで、チーム間の軋轢も徐々に解消され始め、現在は年間の売り上げも170億を超えた。第3フェーズの今、ラクスルが対峙しているのが、オペレーションチームの存在意義の再定義だ。
福島2018年から2019年の1年間で、売上高は約60億も増えました。2020年にはこれを超える伸びを達成しなければならない。採用するだけでは追いつけないので、テクノロジーを取り入れて自動化し、生産性を上げる必要がある。
一方、今後自動化しようと考えている業務を、現在手動で行なっているメンバーもいます。彼らとコンフリクトを起こさずに自動化を進めるためには、テクノロジーがすべきこと、人がすべきことの意義づけを行い、テクノロジーがオペレーションチームの全てを代替するわけではないと伝えることが必須。そうすることで、非連続的な事業成長をなし得ると考えています。
組織成長段階に合わせた、キャディの顧客・パートナーとの向き合い方
3つのフェーズに分けてオペレーション構築時にぶつかる壁を紹介したラクスルに対し、キャディのSPS(サプライパートナーサクセス)本部長の幸松氏は、組織規模に合わせて顧客・サプライパートナー(以下パートナー)とどう関係性を築いてきたのかを、同じく3つのフェーズに分けて紹介した。
「キャディの特徴はオペレーションの質を上げていくために、ビジネスのやり方自体を変化させていったこと」だと幸松氏は前置きし、人数が20人未満だった第1フェーズでは、徹底的に顧客・パートナーに合わせたオペレーションを構築していったと話す。
幸松誰もキャディの名前なんか知らないので、とことん顧客・パートナーの商習慣に合わせました。書面をFAXで送ってくれと要望されればFAXで送りましたし、わからない点は全部マニュアルを用意して丁寧に答えました。
顧客・パートナーの数が増えるに伴い、組織は第2フェーズへと突入。メディアへの露出も増え始めて、町工場の方から問い合わせが来るようになった。このフェーズで取り組んだのが、キャディのオペレーションに顧客・パートナーが寄ってもらうことだ。
幸松このフェーズで大事にしていたのが、キャディとのフィットがより高い顧客・パートナーに集中することです。まず、顧客の業界を絞り、共通で使えるオペレーションを構築していきました。業界が同じであれば、多少の差異は顧客が弊社のオペレーションに合わせて調整してくれます。また、顧客・パートナー共に、積極的に業務改善を行う姿勢がある会社との取引を増やしていきました。例えばFAXではなくメールでの対応を心がけてくれたり。こうして、徐々にキャディのオペレーションに寄せてくれる取引先が増えていっています。
組織規模も50名を超え、業界ごとのオペレーションも溜まってきた。キャディの評判は町工場の間で広がり始め、影響力も増大して迎えた第3フェーズでは、パートナーと協業したオペレーション構築に着手し始める。
幸松第2フェーズまでは取りたい案件があっても、自社のリソースだけでは構築不可能なオペレーションもあり、二の足を踏むことがありました。しかし、そういった案件も今ではパートナーと一緒にオペレーションを考え、顧客に提案をすることで取れるようになってきました。キャディが顧客・パートナーからの信頼を得ることでできるようになったことです。
信頼をすぐ得るための魔法の杖なんて存在しません。第1フェーズの時期は、連日深夜まで残ってオペレーションを作ってくれたメンバーもいました。一つ一つの積み重ねの果てに、ようやく『キャディはちゃんとわかってるね』と評価を得ることができ、今のフェーズがある。まず顧客・パートナーとの信頼関係を築くことが、僕らのようなスタートアップがオペレーションを構築する上で、大切なことだと思います。
オペレーションを構築する上で何を優先的に進めるべきか
イベントはラクスル事業本部長の渡邊氏、キャディCS・オペレーションマネージャー兼経営企画の中原氏を交え、パネルディスカッションへと移った。パネルディスカッションは、福島氏がモデレーターとなり、来場者からの質問に答える形で進行した。
まず質問として上がったのが、オペレーションを構築する上での優先順位の付け方だ。中原氏は三つの要素を考えて順番をつけるという。
中原一つ目は、事業が成長した時に、構築したオペレーションにかかる人員やかかる時間などのコスト。
二つ目は、そもそもオペレーションを構築する上での難易度。この難易度は、オペレーションを実行する難しさではなく、そのオペレーションを実行できる人材が市場にどれくらいいるのかという点ですね。
三つ目は、そのオペレーションを構築するのにかかる時間。この三つを考えて優先順位をつけています。
幸松補足をすると、自社で内製すべきかも考えています。オペレーションを細分化した時に、単純作業の繰り返しだと判断できるものは、積極的にオフショアをするようにしています。
続いての質問は、優先順位を決め、オペレーションを構築していく中で、オペレーションにかかるコストを下げて、オペレーションの仕組みを磨くタイミングについて。渡邊氏は、まずはコストをかけて事業成長にフォーカスすべきだと述べた。
渡邊非連続的な成長が求められるスタートアップにおいて、お客さまからの需要がどのタイミングでどれくらい増えるかは予想がつきにくい。仮にオペレーション効率を高めたとしても、純粋に人が足りなければ需要に対して供給が追いつかず事業の成長は遅くなります。ですので、まずはコストをかけて事業成長に振り切り、ある程度組織が成長し、一つのオペレーションに関わる人が多くなった段階でオペレーショナル・エクセレンスを作れる体制に移行していくのが良いと思います。
オペレーションの仕組みが磨きあげられていないとしても、まずは売り上げを追う決断を良しとすることが、組織の共通認識として求められる。そして、経営者にその判断ができるかが、オペレーションを構築する上で、重要なファクターとなる。
オペレーションチームを引っ張るにはどんな人材が最適か
では、オペレーションを構築するチーム自体はどのように作っていけばいいのか。まず最初の質問は、オペレーションチームのリーダーとして配置する人材を決める時に大事にしていることだ。この質問に対し、幸松氏は重要だと考える二つの要素をあげた。
幸松一つは人をマネジメントする力があること。効率化をしていこうとただ呼びかけるだけでは何も変わりません。推進できるかどうかはチームメンバーの心を掴んでいるかにかかっていると思います。
もう一つは効率化と事業を推進する力を兼ね備えていること。先ほど、事業成長とオペレーションの磨き込みのどちらを優先的に行うかという話がありましたが、オペレーションを磨いている間に事業成長をしなくていい訳ではない。短期的な成果と中長期的な成果、両方を上げるための戦略を立てられるかは重要視しています。
続いて、組織として成果が出にくい時、自分自身やチームメンバーをモチベートする方法についての質問が投げかけられた。
渡邊自分を鼓舞する方法について答えると、今取り組んでいる事業が、3年後、5年後にどんな変化を社会にもたらしているのかを描くようにしています。足元だけ見ていると、できることしかやらないという意思決定をしがちです。今やっていることが3年後の時間軸の中でどの位置にいるのかは常に考えています。
中原自分をモチベートする方法については、私も渡邊さんとほぼ同じですね。チームの場合はというと、自分たちが取り組んでいることがどれだけ社会的に価値のあることかを、パートナーも含めしっかりと対話を重ね伝えています。
スタートアップでオペレーションにチャレンジする醍醐味とは
巨大産業を変えるため、チャレンジを続ける–––。彼らを突き動かすものは何なのだろうか。イベントの締めくくりとして、スタートアップでオペレーションに挑戦する醍醐味について、3名が述べた。
中原スタートアップで挑戦する面白さは、オペレーションと事業戦略が近いこと。オペレーション側から事業や経営を変えていくための機会が沢山ある。オペレーションを競争優位性として考えている企業では、オペレーションを構築するキャリアは、実業家としてのキャリアを積むことにもつながります。オペレーションは産業を変革するファクターだと考えています。ゼロから産業を変える仕組みを作ることができる。それこそが、醍醐味ではないでしょうか。
幸松何と言っても現場感です。町工場の人に向き合って様々なトラブルを解決していくと、本当にみなさん喜んでくださる。これが非常に嬉しくて。オペレーションは一番現場の人と向き合う部署だと思っています。オペレーションチームのメンバーも含め、顧客・パートナーと一緒に同じ方向を向いて、事業を作っていくやりがいは他の部署では得られません。
私たちのようなB to Bプラットフォーマーにとって、オペレーションは事業の管制塔です。現場と向き合い続けるがゆえに、今どういう製品が弱いのか、どんなサプライヤーが少ないのかなどが如実に伝わってくる。その課題を潰していくほど、クライアントは喜んでくださるし、自社事業も伸びて、業界全体の底上げにつながります。主戦場とする業界全体に変革を起こせることが、オペレーションの魅力だと思っています。
一方、渡邊氏はオペレーション構築の魅力を「顧客価値の源泉となり、競争優位をつくり出すことができること」だという。
渡邊オペレーションは「ここで買えば間違いない」「他を使うことが考えられない」という状態を作ることができる。オペレーションは経験や組織、文化の積み上げで作られるものなので、基本的に真似ができないんです。私がトヨタに入社したとき、そういったオペレーションがすでにありました。でも、スタートアップでなら、それを1から構築していくことができる。そして、オペレーション・エクセレンスを構築することができれば、業界トップの事業作りに直結します。この経験は、B to Bのプラットフォーマーを目指すスタートアップで、オペレーションを構築する醍醐味と言えるでしょう。
「ただコトを遂行する」ものとして捉えられがちなオペレーション。だが、そこには大きな可能性がある。今一度、自らが行う事業にとってのオペレーションの意味を問い直す必要があるのではないだろうか。プロダクトや顧客接点からでは作り出せない、新たな勝ち筋がそこに眠っているかもしれない。
こちらの記事は2019年10月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
ライター/編集者。1991年生まれ。早稲田大学卒業後、ロンドンへ留学。フリーライターを経て、ウォンテッドリー株式会社へ入社。採用/採用広報、カスタマーサクセスに関わる。2019年より編集デザインファーム「inquire」へジョイン。編集を軸に企画から組織づくりまで幅広く関わる。個人ではコピーライティングやUXライティングなども担当。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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