エンジニアとは、事業の“発射台”を創る存在だ──ラクスル開発TOPと考える、100年選ばれ続けるエクセレントサービスに必要なテック人材の在り方

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インタビュイー
渡邊 建

1981年生まれ。京都大学大学院工学研究科卒業後、トヨタ自動車を経て2017年ラクスル株式会社に入社。「安い・早い・ラク」の顧客価値と競争優位を生み出すサプライチェーンを構築。その後、bizdevとして新規事業の複数立ち上げや事業部長を経て、ラクスル初のM&AとなるダンボールワンのCEO就任。PMIをリードし、グループの成長を牽引する事業への変革を実現。現在はラクスル事業本部における事業、組織、財務を管掌。

水島  壮太

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科卒。新卒で日本IBMに入社し、アーキテクトとして金融系システム開発などでキャリアを積んだ後、DeNAに転職。ソーシャルゲームプラットフォームのグローバル技術コンサルティング部門の立ち上げやBaaSの開発・展開をした後に、買収した子会社にて女性向けメディアやECのアプリ開発をリード。2017年10月より、ラクスル株式会社で上級執行役員CPOとして開発組織を指揮。日本CPO協会理事。2021年9月より、デジタル庁CPOを兼任。

岸野 友輔

1994年生まれ。東京工業大学工学部情報工学科卒。2017年、ラクスル株式会社に1人目の新卒エンジニアとして入社。以降、印刷事業でのプロダクト開発を4年間担当する。5年目に入るタイミングでダンボールワンがラクスルへグループインしたこと、内製開発組織の立ち上げを計画していたこと、新しい挑戦をしたいと感じていたことを理由にダンボールワンへ出向し、システム部部長として開発をリード。2023年8月よりラクスル事業本部のCTOを務めている。

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「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というラクスルのビジョンをご存じのスタートアップパーソンは、間違いなく多いだろう。では、ラクスルが実際に、どのようにこのビジョンを実現してきたのかを解像度高く捉えられているだろうか?この問いに対する答えはNoである読者のほうが多いだろう。

ラクスルの本質は、何を置いても、このビジョンにある。すなわち、テクノロジーを活用した新たな仕組みで、既存産業を抜本的に変革するのがラクスルという企業なのだ。では、それを現場で担うのは誰か?BizDevももちろんそうなのだが、エンジニアやプロダクトマネージャー(PdM)も、その重要な役割を担っている。

この記事では、ラクスルのエンジニア、PdMがどのように事業サイドと協業し、事業成長させているかに迫る。語り手は事業責任者の渡邊建氏、全社CPOの水島壮太氏、事業部CTOの岸野友輔氏だ。

キーワードは「カスタマイズECプラットフォーム」──。その知られざる内情を今、改めて解剖しよう。

  • TEXT BY RINA AMAGAYA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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エンジニアも、変革を自ら主導する最重要の存在である

上級執行役員 SVP of Raksul 渡邊氏

渡邊ラクスル事業全体の責任者として「カスタマイズECプラットフォーム」を創り上げていくのが私の役割です。

以前のダンボールワンでの取材でも話していますが、ラクスルで生み出すカスタマイズECプラットフォームを通じて、産業のインフラとなり、100年選ばれ続けるエクセレントサービスにしていく責任があると考えています。

そのためのマイルストーンとして、今は売上規模1,000億円を早期に達成したい。これが事業責任者としてのミッションですね。

水島以前はラクスル事業のプロダクト責任者を務め、現在は全社のCPOとしてデザイン組織やベトナムの開発拠点のマネジメントも含めて管掌しています。

今回ぜひ強調したいことは、「ラクスルは、PdMやエンジニアといったテックサイドのメンバーがビジネスサイドと密に関わり合い、強いオーナーシップを発揮して、非連続成長を生み出しているんだ」ということです。

岸野内製事業だけでなくM&Aを含めて、複数事業にまたがる強力なプラットフォームの基盤を創っていく。これが、事業部CTOとしての私の大きなミッションになっています。

ただ、こうした開発だけが自分のミッションというわけではありません。そのために必要な人の採用・育成であったり、あるべき組織体制の構築だったり、あるいは新たなテクノロジー導入だったりと、これから改めて進めるべきことは無限にあります。ですので、基本的に全部やるというのが今の自分の役割やスタンスであると思っています。

ラクスル事業本部 CTO 岸野氏

社会のインフラとなるプラットフォームを創り、産業変革を引き起こす。そのマイルストーンが、売上1,000億円規模の事業規模だ。

早期にマイルストーンを達成するため、テクノロジーを駆使してそれを実現しようとするラクスルのエンジニアたち。一体、どのようにして事業価値を生み出そうとしているのか?その具体的な取り組みや視点について今回は深く掘り下げていく。

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「入社先を間違えたかも…」事業責任者すら唸る難解なモデル・“カスタマイズECプラットフォーム”

2023年2月、印刷プラットフォーム『ラクスル』の累計登録会員数が200万人を突破し国内のネット印刷サービスにおいて会員数No.1になった。2024年7月期決算の業績予想*としても最大で500億円を超える売上高を掲げており、「すでに完成度の高いプロダクトだ」というイメージを持つ読者が多いかもしれない。

だが、まず注目すべきなのはこうした「今の規模」ではなく「成長率」だ。上述の売上高予想において、年間成長率は20.4〜22.9%を見込む。売上総利益においてはなんと27.7〜31.8%だ。2018年5月の東証マザーズ市場(現グロース市場)上場から5年以上が経過する今もこれほどの成長率を維持している点に、驚きを感じる読者は少なくないはず。

*……2024年7月期第1四半期 決算説明会資料から

国内ネット印刷No.1記念特設ページ」に掲載されたこれらのデータから、プラットフォームの複雑さが垣間見える

そんな前提の上で、3人がこの取材で何度も言及したのが「パッと見では簡単そうなこの開発が、実はものすごく難しい」ということ。それを端的に表す言葉が「カスタマイズECプラットフォーム」だ。

水島『ラクスル』というサービスは一見「EC」に見えますが、世の中によくある「EC」とは全く異なるものです。扱っているのは、ユーザーからいただく発注データをもとに製品をつくりあげる「オーダーメイド型の商品」なんです。

多くのECは、既製品の在庫を並べて届けていく訳ですが、『ラクスル』は違います。一人ひとりのユーザーが持つ目的に沿ったオプションを網羅的にわかりやすく提示し、その枠組みの中でカスタマイズされた製品を、実際に形にしてお届けするのが『ラクスル』なんです。

これを、安く、早く、かつ高品質で納品する。この流れの複雑性を表現した言葉として、一般的な物販と差別化する意図も込めて「カスタマイズECプラットフォーム」と称しているんです。

ユーザーによって、求めるアウトプットが千差万別なのが、この「印刷」という領域です。だから、カスタマイズ性をメインの仕様とする仕組みのプラットフォームを創り上げられたことで、ここまでのスケールが実現したわけです。

上級執行役員 CPO / SVP of Product & Technology 水島氏

「印刷」という産業の特殊性を理解すると、『ラクスル』のビジネスモデルがいかに画期的なものなのかがわかってくるのではないかと思う。せっかくの機会なので、水島氏の想いにもう少し耳を傾けよう。

水島従来であれば、印刷会社のセールスが直接取引先を訪問し、細かなニーズを聞きながらディレクションして印刷物を創り上げていくのがセオリーでした。

そこで、その「オフラインの細々したやりとり」を「オンラインのシンプルなかたち」に移管し、誰でも気軽にオリジナルの印刷物をつくれるようにした。これがラクスルという企業が生み出した、新しくて大きな社会的価値だと思います。

ここまで聞くと、「ラクスルは単なるECサービスの会社じゃない」という意味が伝わるのではないでしょうか?

事業責任者を務める渡邊氏ですら「入社して『選ぶ先を間違えたかな…』と思ったぐらい複雑なモデルだった」と苦笑しながら、続けてこのプラットフォームを運営する難度を語る。

渡邊既製品を販売するECサービスと異なり、『ラクスル』は各商品に対して選べるオプションが膨大な数になり、非常に大きな“複雑性”を持つわけです。

たとえば、「冊子」を発注するという例を想像して見てください。紙質の選定×納期×部数の掛け算だけで、実は1億通りくらいの組み合わせがあります。この構造をお伝えする際に私がよく使う例えは「新車購入」のシーンです。

新車を買う時には、ディーラーオプションやメーカーオプションと呼ばれる様々なオプションを一つずつ、商談の場でセールスの方と一緒に考えて、自分だけのオリジナルモデルを注文しますね。「売る側」は多大なリソースを投じることになるわけですが、新車の販売であれば単価が大きいですから、利益も大きく得られるため、きめ細かな接客が可能になります。

一方の「買う側」も、選ぶのは大変ですが、一生に数回しかない機会ですから、頑張って選びます。これと同様に複雑なオプションが必要不可欠になるのが「印刷」における受発注です。

ただし、「売る側」も「買う側」も、そんなに大きな工数をかけて対応することはできません。コストに見合いませんから。

なので、ここに“仕組み”の力でシンプルな受発注フローを実現することで、接客の要らないEC化を実現させてきたんです。結果として、産業全体で生産性を飛躍的に向上させることができてきました。

この一連の流れの前提となる“複雑性”こそが、ラクスルのエンジニアリングの面白みを引き出すものなのだ。複雑なものをシンプルにできれば、その付加価値は必然的に大きなものになる。

それに、そもそもエンジニアリングとは「複雑に絡み合ったアナログなフローを、テクノロジーとロジックによってシンプルなフローに置き換えること」であるとも言えるはず。それを地で行くのが、ラクスルにおけるプラットフォーム開発である。

改めてシンプルに表現すれば、アナログな業務構造が多く残っている産業領域を「仕組み」によって抜本的に変革するという事業である。この実態を理解できれば、ラクスルという企業がいかに高い価値を生み出してきたのかが、エンジニアリングという視点でも見えてくるのではないだろうか。

渡邊加えて、発注だけでなくサプライチェーンへのつなぎ込みや納品までのフロー、ユーザーの決済システムなどを含めると、ものすごく複雑な開発が必要になるということがわかるのではないでしょうか?

だからこそ、この複雑なフローを、シンプルなソフトウェアにまとめていくことは価値ある取り組みです。ラクスルのエンジニアが担っているのはこうしたミッションなんです。

このような新たな仕組みの構築事例として、『オンラインデザイン』や『最適発注』などがある。ぜひ改めて、ラクスルが生み出す「仕組み」とは何かを知ってもらえれば幸いだ。

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エンジニアこそが、中長期の成長を生み出すべき存在

さて、ここまでの話だけでも、ラクスルのプラットフォームが対象とする産業やビジネス構造の複雑性が見えてきたのではないかと思う。そして、シンプルで使いやすいプラットフォームを構築して提供するエンジニアの役割も、少しずつ見えてきたと思う。

しかし、中にはまだ「ラクスルのプラットフォームの進化は、BizDevだけがリードしてきたのではないか?」「エンジニアは、BizDevのオーダーに応える形で開発を行うスタイルなのではないか?」とうっすら感じている読者もいるかもしれない。

そんな意見を包み隠さず伝えたところ、水島氏は身を乗り出し、エンジニアこそが非連続的な価値創出に貢献した事例を教えてくれた。曰く、ラクスルのエンジニアとは、新しいプロジェクトや事業を始める際の“発射台”の様な存在だそうだ。

水島たしかに、現場でユーザーの声に触れて課題設定を行う仕事を担うのはBizDevが多いでしょう。しかし、そこから更なる拡張を生むという意味では、エンジニア起点で始まるケースも多いんです。

たとえば、BizDevを起点に新しい「チラシ」という商材で機能拡張を実現できた後に、「同じ仕組みを冊子でもやってみよう」という風に、より複雑な仕組みが求められる商材へと展開できるのがラクスルのエンジニアの強みです。

時には経営陣やBizDevから「その商材は開発が複雑化するので今はやめた方がいい」「今実装してもユーザーが価値を感じていないため、その開発は優先度を下げるべきでは」などと言われます。しかし我々は、その意見を重々承知の上で開発してしまうことすらあるんです(笑)。

渡邊補足しておくと、決して本当に身勝手に決めて開発しているわけじゃありませんよ。ラクスルでは半年ごとに、「どのようなゴールに向かうためにどのような開発をするのか」という計画を立てています。

その中で、BizDevからの「今はこういう開発が必要だ」という意見と、プロダクト側からの「今のうちにこの開発をしておいた方が後々スムーズにサービスを拡張できる」といった意見をぶつけ合う。そうして練り上げられた計画を基に、各自がオーナーシップを持って取り組んでいくわけですね。

水島そうそう、エンジニアによる高いオーナーシップとコミットメントによって、BizDevの度肝を抜いたこともありましたね。特に象徴的だったのが、『Payment(決済基盤)』のプロダクトです。

ラクスルのプラットフォーム上で動いているPayment機能(決済基盤)は、BizDev側からの要望ありきで生まれたものではない。実際には、将来にわたって使われるサービスを目指すべく、エンジニアの視点から先取りで開発された仕組みなのであった。

水島エンジニアとしては、「今のうちに共通基盤化しておけば、新たな事業を生み出す際にもスピーディに実装していける」といった見立てがあり、開発を決断しました。

実際に形になった後、社内からは「どうやらPaymentというすごい基盤があるらしい」と噂されるようになりました(笑)。

私はこうした取り組みについて、「エンジニアが、事業の発射台を創っている」と称しているんです。

渡邊他にも、プラットフォーム全体で共通化しているアカウント基盤に関しても、BizDevの要望ではなくエンジニアが意思決定をして創りました。

先ほども言った通り、BizDevから「〇〇な形で新たな利益を出しましょう」というオーダーをもらってからエンジニアが考えるのではなく、「こうすればより大きな利益が出るようになっていきますよ」とエンジニア側から積極的に働きかける。こうした事業家マインド溢れるエンジニアが多いことが、ラクスルのエンジニアカルチャーだと言えるかもしれません。

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三位一体でこそ目指せるのが、「産業の非連続な変革」だ

ここまでに見てきたのは、エンジニアがBizDevと同様に持つオーナーシップと、その裏にある利益創出に向けた強い開発力だ。だがもちろん、エンジニアだけですべての事業創出やグロースができるわけではない。

やはり、カスタマイズECプラットフォームをさらにスケールさせていくために大事なことは、BizDev×PdM×エンジニアの三位一体によるチームの力だ。

渡邊私たちの開発のゴールは、「サービスを新しくしていく」ということではありません。では何か?それは、「今ある産業を非連続的に変革していく」ということです。

したがって、オフラインのリアルな印刷産業の現場を知らないといけないし、ユーザーのペインについても誰よりも深く理解していなければならない。その上で初めて、テクノロジーをどのように活用して価値を生んでいくのかという話になるわけです。

この“課題設定”を、BizDevとPdMとエンジニアが高いレベルで推進し合う。そのうえで、現場ではBizDevがマーケティングやオペレーションを描き、PdMがプロダクト開発を迅速かつ高品質に進め、エンジニアがレバレッジをかける、ラクスルはそんな関係性で成り立っているんです。

ラクスル社内の関係性をここで改めてまとめたのには、大きな意味がある。そもそもBizDevという存在が、一般的に言われる事業開発とは全く異なり、セールス要素は弱く、マーケティングやオペレーションを中心としたビジネスサイドの役割を広くまとめたロールであること。

そして、PdMやエンジニアはそうしたBizDevの存在を前提として、プラットフォームの価値自体を大きく向上させる役回りを持つ。そんな背景を表現するという話である。

前提を確認したうえで、渡邊氏が続ける。

渡邊我々が入り込む印刷産業には、長い歴史があります。その現場には、印刷事業者の方々が何十年にもわたって積み重ねてきた文化やルールがある。外の業界から来た私たちがいきなり「もっとこうした方が良いのに、なぜしないのか?」と“べき論”を振りかざしたところで、現場は変わりません。

ですから、我々はこうした産業を築いてきたプロフェッショナルの方々と対話を重ね、現場に何度も足を運び、産業の解像度を上げていくことを何より重視しています。その土台があって初めて、BizDev、PdM、エンジニアの力が活きてくると思っています。

“産業を変える”というダイナミックな動きの裏には、エンジニアとBizdevを中心とした強力なタッグが存在している。

カスタマイズECプラットフォームの仕組みと、こうしたチームでの連携によって、ラクスルは非連続な事業成長を遂げてきたのだろう。そしてこれからはその勢いをさらに加速させ、売上1,000億円の達成へと突き進むのだ。

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これからの非連続成長を背負う、「ミニCxO」の存在

とはいえ、売上1,000億円という規模を実現させるために、今までと同じ戦略を取っているだけでは一生その時はこない。そんなストイックな姿勢を常に持つラクスルの面々。そこで2023年に打ち出されたのが、M&Aによってさらなる非連続成長を生み出そうという戦略だ。

FastGrowで実施した新代表・永見氏の単独インタビューでも詳細に語られたこの戦略が、エンジニアやPdMという立場にとっても非常に大きな影響を及ぼす。ここで重要になる新たなキーワードが、「ミニCxO」だ。

水島ラクスルには、各事業の責任者やBizDevとチームを組む「ミニCTO」「ミニCPO」のような存在がいます。今後、こうしたポジションを増やしていくかたちになるとも言えそうです。

イメージで言うと、ラクスルグループの中に大小様々なフェーズのスタートアップが多数に存在しているような感じですね。

つまり、このカスタマイズECプラットフォームの中の一つひとつのプロダクトやサービスが、大きなシステムの末端になるのではなく、見た目こそ小さくとも自ら意思決定して動いていく。そんな“経営”の機会を多く創り出していくんです。

まさに永見氏の記事でも語られた“経営”の機会が、エンジニアやPdMのキャリアの上にも広がっているわけだ。実際に岸野氏は、子会社時代のダンボールワンに出向し、CTOという肩書で開発組織を立ち上げた。

水島岸野さんがCTOとして抜擢され、成果を残してこれた理由は、「エンジニアとしての圧倒的な実装能力」に加え、「事業やビジネスに対する理解の深さ」にあると思います。

まさに岸野さんにしか出せない開発スピードや品質がベースにあり、そこに加えてラクスルの事業戦略や顧客価値に対して極めて高い解像度を持っている。

入社してから3年はプレイヤーとして開発にコミットし、ラクスル流の開発手法をインストールしました。その後、自分で好きな事業課題を設定して、「もっとこういう基盤やシステムがあったら事業価値が向上するのでは?」と物申す機会が得られる。

そこで見事に経営にインパクトを与えるアイディアを打ち出すことができたからこそ、ダンボールワンのCTO、そして今の事業部CTOというポジションを掴み取ることができたのだと思っています。

岸野整理していただき恐縮です……(苦笑)。たしかに水島さんのおっしゃる通り、最初の数年はひたすらプレイヤーとしてコードを書いていましたね。

そこで気づいたんですが、開発ができるだけでは事業価値に貢献するアウトカムは出せず、深い事業理解や解像度が必須になってくる。そのためには自ら自社の事業戦略を読み込み、ビジネス側のメンバーとも密にコミュニケーションを取っていくことが重要でした。

あとはやはり、何かを背負うという経験によって、オーナーシップが磨かれていくのだと感じます。たとえば私の場合、あるプロジェクトを1年くらいかけて責任者として遂行してきた経験があり、そこで得られた視野や視座はその後のCTOキャリアにも好影響を及ぼしています。

このように、ミニCxOとして、さまざまなフェーズの事業でさまざまな経験を積んだ面々が、ラクスルの次なる非連続成長を生み出していくのだ。

だがそうはいっても、CxOポジションを経験するのならアーリーフェーズのスタートアップでも同じなのではないだろうか?そんな疑問が浮かんだ読者に、渡邊氏の分析を届けたい。

渡邊事業をいくつも立ち上げたり買収したりしている中で、さすがに全戦全勝とまで言うつもりはありませんが、長期的にはしっかりスケールしていく可能性が間違いなく高いのがラクスルだと思います。スタートアップは多産多死だと言われる中で、私たちの事業はそうではないですよ。

その理由は、大規模な市場に対して、長期的な視点で取り組んでいくことにあります。

ラクスルでは市場選定を大事にします。大規模な顧客ニーズがあり、テクノロジーが浸透していない領域。そこで失敗を許容しながら、長い時間軸で腰を据えて成功するまでやりきる。そういった市場でラクスルのチームがコミットして取り組み続ける上では必ずいつか成功すると思っています。最近では自社立ち上げの成功事例ができてきたのでその勝ち筋に合わせたM&Aも行うようになっています。

とは言っても、事業を立ち上げて即座に成功することは難しく、そこにはそれ相応の時間や労力がかかります。したがって、既に優れたサービスを提供している企業があれば、共に協力してその価値を向上させるためにM&Aを推進していくんです。

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「未来視点のエンジニア」が育つ、稀有な環境

企業のイノベーションでは、ビジネスサイドの経営陣の意思決定に注目が集まることが多い。だがラクスルにおいては、エンジニアやPdMが強力なオーナーシップを発揮し、新たな非連続成長を生み出すこともできるということが、伝わってきたのではないだろうか?

ここで、改めて強調しておきたい。ラクスルでは、未来の産業変革に向けた長期的な展望と、それに向けた実行力を持ち、優れたオーナーシップを発揮する若手メンバーが活躍しているということを。

「ミニCEO」「ミニCTO」「ミニCPO」といったかたちで、20代の若手から30~40代の経験豊富なメンバーにまで、思い切って責任あるポジションをどんどん任せる。これがラクスルの強みとなっているため、中途採用も新卒採用も、レベルの高いメンバーが集まり続けるのだ。

先端技術の活用を謳う新たなIT企業の台頭が続くなかで、ラクスルは独自の強みで圧倒的な差別化を続けている。では、キャリアという観点でどのような面白さがあるのか?最後に、同社で働く魅力を改めて整理したい。

水島ラクスルのエンジニアとしての面白みは、難しいものを抽象化してシンプルに表現する営みにあります。

複雑なものをそのまま複雑なソフトウェアにするのではなく、シンプルで再利用可能な形にすることにこそ、価値がある。シンプルなフローからシンプルなプロダクトを創るのであれば簡単な話ですが、そんなことが求められる現場はラクスルの事業領域にありません。複雑性が当たり前の前提であり、それにうまく対処してシンプルなソフトウェアとして表現できる、このこと自体が楽しいと感じるエンジニアが集まっています。

加えてお伝えするなら、なんだかちょっとカオスな要件が多いという特徴もあります(笑)。そうした案件に、どれだけうまく対応できるかも重要です。そうした環境での開発で、自ら数兆円の産業を変えるチャンスを掴める、そんな環境はなかなかないと思います。

岸野複雑な課題に対してテクノロジーのレバレッジポイントを見つけ、カスタマイズの世界観を追求していくことは、ものすごく価値のある取り組みだと思います。適性として、ものごとの効率化や最適化に関心があるのがそもそもエンジニアの特性だと思います。この観点で自信があれば、ラクスルにおけるエンジニアリングの考え方とものすごくマッチするでしょう。

ラクスルでは、ビジョンや戦略、ビジネスモデルがすべて「仕組み化・効率化」にアラインしており、その実現が「利益」として表出する。エンジニアにとって、これほどわかりやすい環境はなかなかないはず。

どうすれば生産性を非連続的に高められ、新たに大きな利益を創出できるのか。この観点で思考し、日々の開発を最適化させようと取り組む視点を持つエンジニアが、これからも多く育ち、躍動する環境になっていくのだろう。

渡邊日本では2030年に約70万人のエンジニアが不足すると言われています。このまま国内のリソース活用だけを考えていては、創出できる価値の大きさも頭打ちになる。だからラクスルはベトナムやインドにも開発拠点を設けていますし、今後さらにグローバルに広げていく可能性は十分にあります。

そのため、グローバル観点でのエンジニア採用・育成にまで裾野を広げて、あるべき開発体制を志向するくらいの気概が、これからのエンジニアには求められますね。日本国内にとどまらない開発組織で開発を進めるためのスタック選定やアーキテクチャ設計という経験まで、これからのラクスルでなら味わえますから、ぜひ一度検討してほしいですね。

今のラクスルにジョインすることで得られるエンジニアのベネフィットは、高度な技術を駆使した開発経験だけではない。いちメンバーでも、CTOに必須な事業起点でのエンジニアリング経験が当然のように求められる点にあると言えるだろう。

若手だろうがベテランだろうが同じように、責任あるポジションに挑戦できるチャンスが広がる。さらに、グローバル規模の観点を持って開発を進める責任が当たり前のように求められ、様々な観点から技術力を向上させなければならないのだ。

単なる最新テクノロジー活用ではなく、新しい仕組みを徹底的に構築・運用することを通して、印刷産業における変革を実現してきた。まさに「産業変革」を起こす存在であり、挑戦者にとっては魅力的なフィールドだ。ラクスルでの挑戦を通して、未来社会に貢献する経験を積み、自身のキャリアを大きく発展させる、そんな挑戦を今こそ、具体的に考えてみたい。

こちらの記事は2024年01月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

雨谷 里奈

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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