“ダンボールEC”の未来を想像できるかで、事業家としての伸び代が決まる──ダンボールワン新代表・渡邊氏が描く、“100年変わらぬ産業を変える”BtoBプラットフォーム革命

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インタビュイー
渡邊 建

1981年生まれ。京都大学大学院工学研究科卒業後、トヨタ自動車を経て2017年ラクスル株式会社に入社。「安い・早い・ラク」の顧客価値と競争優位を生み出すサプライチェーンを構築。その後、bizdevとして新規事業の複数立ち上げや事業部長を経て、ラクスル初のM&AとなるダンボールワンのCEO就任。PMIをリードし、グループの成長を牽引する事業への変革を実現。現在はラクスル事業本部における事業、組織、財務を管掌。

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「自分が手がける事業の未来にポテンシャルはあるか。ワクワクできるか。常に想像しきることが重要です」。

そう話すのは、2022年8月にダンボールワンの代表取締役に就任した渡邊 建氏。トヨタ自動車、ラクスルと常に成果を出し続けてきた、同氏の事業に対する姿勢が感じられる一言だ。

そんな渡邊氏が今、“社会のインフラ”になり得る事業として全力投下するのが、ラクスルの成長戦略の要であるダンボールワン。

かねてよりダンボールや梱包材などを展開するECプラットフォーマーとして事業を拡大させてきた同社は、2022年2月、資本提携を結んでいたラクスルの完全子会社となった。

ここで多くの読者は、“ダンボール”というワードが持つアナログなイメージから、「今の時代にダンボールの事業で何をするの?」と首をかしげるに違いない。それもそのはず。ダンボール業界は、この100年もの間、大きな産業変革がないまま今日に至っているのだ。

しかし、渡邊氏は取材の中で「“ダンボールEC”の未来を想像できるかで、事業家としての伸び代が決まる」と看破してみせた。ぜひ、読者にはその想いにも触れてほしいと思う。

さて、そんな渡邊氏率いるダンボールワンだが、同社はその名の通りダンボール業界において、最先端のテクノロジーを用いて産業全体の変革に挑んでいる。

「我々は、いずれ既存のECジャイアントを超える、BtoBのバーティカルプラットフォームになる。ダンボールワンはそんなポテンシャルを秘めた会社だ」と、同氏は自信をのぞかせる。

果たしてダンボールワンが描くミッションとは何か──。

本記事では、ダンボールワン代表・渡邊氏に取材を慣行。ラクスルの完全子会社化に至った背景から、前代表・辻氏との代表交代の裏側、そして今、ダンボールワンに入る魅力まで、余すところなく語ってもらった。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「1番難しい課題にこそ、リーダーが取り組め」。
渡邊氏のダンボールワン代表就任の舞台裏と成長戦略

2022年8月1日、ダンボールワンの成長を長年にわたって牽引してきた前代表・辻氏が代表を退任。後任には、2021年8月よりラクスルからダンボールワンに移り、副社長として辻氏を支えていた渡邊氏が、新たな代表の座に就いた

この渡邊氏、ラクスルでは経営陣として執行役員 / VP of Growth BU, Raksulのポジションを担う人物。印刷・広告のシェアリングプラットフォーム『ラクスル』を運営する印刷事業の責任者として、売上高を100億円から200億円にまで拡大した実績を持つ。そんな人物がダンボールワンの代表も担おうとは。その背景には、一体どんな出来事があったのだろう?

渡邊代表交代の際、辻からは「15年間つくり上げてきた事業です」という言葉をいただき、事業承継における責任の重さを実感しました。彼にとってダンボールワンは、大切に育ててきた我が子のようなもの。決して生半可な覚悟で引き受けてはならないと思ったんです。

2021年8月にダンボールワンの副社長に就任してからは、1年間かけて同社の事業の執行を担いながら事業の解像度を上げていきました。そして、あらゆる意思決定において「自分のスタンスが取れるようになった」と確信を得た上で、今回の事業承継に踏み切りました。

現在、ラクスルの成長戦略の大きな柱となるダンボールワンの取り組み。まずはそこに至るまでの背景から見ていきたい。 

 

渡邊事業家として0→1タイプであると自認する辻は、ラクスルと資本業務提携を結ぶ2020年12月に至るまで、提携先を探していました。「ダンボールワンは適切なパートナーと組めば、さらに大きく成長できる」。彼はそう考えていたんです。

その中でラクスルと出会い、“仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる”というビジョンに共鳴した辻は、「ダンボールワンの事業をラクスルグループに任せていきたい」と動き始めます。

一方で、その時ちょうどラクスルも、紙の印刷からモノへの印刷領域へと、事業拡張を模索していました。そこで縁あってダンボールワンと繋がり、同社に秘められた大きな事業ポテンシャルに確信を得ました。

「ラクスルとダンボールワンが組めば、どのようなシナジーが生まれるのか」「きっととんでもなく大きなインパクトを起こせるに違いない」。

そんな期待を抱きながら、お互いの相性を確かめる上で、2020年12月より資本業務提携を結びます。そして翌年の2021年8月に、副社長として私がジョインすることになりました。

そこからダンボールワンの事業組織を立て直し、「お互いにバリューを出していける」と判断した上で、2022年2月1日、ダンボールワンはラクスルの完全子会社となったんです。

そんなラクスルとダンボールワンの出会い〜提携当時のエピソードについては是非コチラの記事を読んでもらいたい。

ここで読者が気になることは、「なぜ、“渡邊氏が"ダンボールワンの経営を担うようになったのか?」という点ではないだろうか。その答えはこうだ。

ラクスルには、「1番難しい課題にこそ、リーダーが取り組め」というカルチャーが存在する。そう、つまり印刷事業で責任者を務め、売上高を100億円規模で成長させた実績を持つ渡邊氏こそが、このダンボールワンが取り組む課題を解くにふさわしい人物だったのだ。

なぜなら、ラクスルでは、顧客のニーズや業界の競合など、事業に対する解像度がもっとも高い人材に機会を与えること、これこそが成功への近道だと考えているからである。

こうした点をふまえ、自他共々に渡邊氏こそが適任だと意見が一致。そして2021年8月、満を持してダンボールワン副社長として経営に参画することが決まったのだ。

渡邊私自身は、もともと自分で事業をつくりたくてラクスルに入社しました。そして、ダンボールワンの事業によってラクスルがより成長することも分かっていました。ですから、この機会をチャンスと捉え、迷うことなく自ら「ダンボールワンの経営を任せてください」と志願したんです。

そこから副社長として1年間、さらなる飛躍のための事業開発を進め、今年2022年8月の代表交代へと進むわけである。

とはいえ、この代表交代劇は、ダンボールワンの既存メンバーにとっては長年にわたり求心力を持っていた代表を失うことと同義。渡邊氏はどのように対応を進めていったのだろうか。

渡邊この交代によって、組織としてダメージを受けてしまう可能性も考えられると想定し、既存メンバーの方々とのコミュニケーションには細心の注意を払いました。

そして、ダンボールワンの新たなリーダーとして足り得る信頼の証明は、1年間の実務の中で積み上げていきましたね。もともとダンボールワンの経営は辻一人が担っていた状態。ラクスルからの出向と採用で経営チームを組成し、組織骨格や風土づくりにフォーカスしていきました。

一方、ダンボールワンの事業はコロナ禍の影響で、「まるで、ジェットコースターのように暴れていた」という。コロナ禍前の2020年度は年商50億円と記録を更新したが、翌年は好調だった上期から一転。下期で逆風が吹き、最終的に年商60億円で着地した。

だが、同社は2021年12月に「コロナに惑わされず、顧客に選ばれる価値をつくり、成長を目指す」という方針を打ち出し、梱包資材領域の商品拡充、安価なPB品の拡大、デザインサポートサービスなど、顧客への提供価値の向上に邁進。結果、半年後には事業が上向きに回復する。

辻氏は、その事業成長と、渡邊氏の確かな手腕を見届けた上で、渡邊氏にバトンを渡したのだ。

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ラクスル得意のオペレーションエクセレンスを活かし、高難度なカスタマイズパッケージの3兆円市場も攻略する

渡邊氏が率いる新体制でスタートを切ったダンボールワン。ラクスルとの経営・事業シナジーによって、どのように変わろうとしているのか。まずは今の市場での立ち位置から尋ねていった。

渡邊ダンボールワンの目指す先は、産業を変え、世界を変えることです。

世界を見渡せば、ECプラットフォーマーによるカスタマイズパッケージ*市場の成功モデルは存在していますが、日本ではまだ成功モデルがあるとは言えません。だからこそ、伸びしろが大きいこの業界で取り組んでいきたいと考えています。

*梱包材のサイズやデザインをユーザーの好みに合わせて自由に制作すること

具体的な数値で言うと、日本のダンボール市場は1兆円、カスタマイズパッケージ市場(パッケージ包装)まで含めると3兆円規模だと言われている一方で、我々の年商は現状わずか60億円です。

産業変革の挑戦権を得るためには、まずは年商200億円、次に1,000億円と、早期の達成を目指していく必要があると考えています。

産業を変え、世界を変えることをミッションに定めるダンボールワン。ダンボール市場から切り込み、そこからダンボール周辺の梱包材へと事業を拡大。そしてゆくゆくは、カスタマイズパッケージ市場全体を捉えていくというのが同社の算段だ。

渡邊カスタマイズパッケージの領域になると、例えば商品によってダンボールの形や大きさを調整したり、ロゴやデザインなど企業にとって重要なブランディング要素が入ったりと、商品購買の難易度が一気に高まります。

そういった産業課題である商品の複雑さ、取引の煩雑さをテクノロジーで解決し、ラクスルのコアバリューである短納期と低コストで、日本一のサービスへと磨きをかける。

そのためには、地道に事業の解像度を上げながら、やるべきことを高速でやり切り、市場を広げていく。こうした一連のサイクルは、『ラクスル』の事業でやってきたことと同じですね。

一方で、ラクスルの完全子会社化というと、端から見れば「親会社の言いなりではないか?」「裁量という意味では、やりたいことができなさそう」などネガティブな印象を受けやすいようにも思える。そうした懸念に対し、渡邊氏は次のような見解を述べる。

渡邊おっしゃる通り、子会社というと、親会社から一方的に戦略方針が下りてくるイメージがあるかもしれません。しかし、ラクスルグループには、“事業本部に独立性を持たせる”という考え方が根付いているため、あくまで事業の意思決定権はダンボールワンにあります。

実際にスタートアップの経営経験を持つ、ダンボールワンCOO木下・執行役員コーポレート統括の前田・執行役員マーケティング責任者の藤谷らからも「前の会社と変わらず決定権があるし、なんならスピードは前より早い」と言われるほどです。

これぞまさに、前章で記したラクスルグループならではの、裁量の大きさを示すメッセージではないだろか。

親会社だから、株主だから事業に対してイニシアチブを持つという構図も、一般論で言えば正しい。しかし、そうした立場においても該当する事業に対しての解像度が低ければ、それは悪手となりうる。

「事業や現場、またその顧客についての解像度をもっとも高く持っている人材に裁量を持たせる方が、当然ながら事業は伸びるだろう」という、ラクスルグループならではのスタンスがあるのだ。

ラクスルグループが掲げる、ビジョンを分解した行動指針、“Style”

渡邊ラクスルグループでは、こうした核となる人材によって事業を拡大させていくことを、“遠心力を効かせる”と表現しています。全社的な行動指針としても、事業に対する解像度の重要性を掲げていますが、事業部毎に、その領域において最も解像度の高いリーダーがいるからこそ、独立性が保てるわけです。

そういう意味では、一般的に想像されるような親会社と子会社という関係ではありませんね。ラクスルの言いなりになった時点で事業解像度とスタンスを失ったことを意味するので、ダンボールワンの未来はないとすら思っています。

むしろ見方によっては、ラクスルという安定した事業基盤を持つ株主がいると捉えることもできますよね。株主に対して事業計画の承認さえ得られれば、事業運営や基本的な意思決定権はダンボールワン側に持つことができます。

スタートアップが事業を運営する上で直面する資金調達の課題に対して一切の懸念がなく、株価を気にせず事業価値創造に集中できる体制があると捉えることもできるのではないでしょうか。

ラクスルの完全子会社とはいえ、事業の方針を主導して描いていくのはダンボールワン側である。一般的な「子会社だから裁量がないのでは」という心配はここでは不要ということがわかっただろう。

次に渡邊氏は、そんなダンボールワンで過ごすキャリアを「事業家として、産業の種を大きくし、育てていくチャレンジができる環境」だと明かした。

渡邊辻が0→1で事業をつくることに長けた人材であるならば、私はその種を引き継ぎ、事業戦略と組織強化によって、1→10、10→100へとインパクトを出していくことが得意な人材だと思っています。

そうした中、ダンボールワンという環境にはまさにそのチャンスがある。今ここで全力コミットせずに、いつするんだという感じです(笑)。

そう語る渡邊氏からは、今の状況を心から楽しんでいるようで、取材中しばしば期待に溢れた笑みを見せる。そんな渡邊氏は、これまでどんな道を歩んできたのか。次章では、事業家・渡邊氏のバックグラウンドに迫りたい。

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トヨタ勤務時代、テスラ・モーターズから受けたカルチャーショックが、価値観を変える

社会にインパクトを与える仕事をしよう──。

渡邊氏は大学時代、日本の製造業に大きな可能性を感じ、オペレーショナルエクセレンスで世界を変えたトヨタ自動車(以下、トヨタ)へと入社する。トヨタでは、製造エンジニアとして完成車工場のオペレーション設計に従事していた。

転機となったのは4年目。今では完全なライバル関係にあるが、当時トヨタはかのイーロン・マスク氏率いる米ベンチャーのテスラ・モーターズに多額の出資を行っており、その一環で共同開発のプロジェクトが発足された。

渡邊氏はそのプロセスを管理する責任者として、カナダの製造子会社へ2年間渡った。そして、そこでのカルチャーショックが、のちの事業家マインドを生み出すきっかけとなる。

渡邊例えば、テスラの開発者たちは、必要とあれば走行中の車であってもその場でネットワーク経由でプログラムをアップデートするんですよ。ただただ衝撃で戸惑いレベルではなかったですね(笑)。堅実さや完璧さを求める傾向の強い大企業の人間からすると、当時は信じられないことでした。

(人の命を扱う自動車産業での是非はあるものの)世界のベンチャーパーソンは、プロダクトが完璧じゃなくても、とにかくまず市場に出してフィードバックを得ることを重視します。そのフィードバックを得てから問題を改善する仕組みをつくるため、失敗を恐れずチャレンジするんです。

大手企業の保守的なスタンスとは異なり、リスクをとってでも進化を望み、素早くPDCAを回して結果に繋げていく。そうした開発の姿勢に「世の中に新しいものを生み出し、社会構造に変化をもたらすのは、こういう人たちなんだ」と大きな感銘を受けましたね。

もちろん渡邊氏は「トヨタも元々そういう事業開発のプロセスを経て顧客価値を生み出し、世界でもトップクラスの素晴らしいオペレーションの仕組みを進化させ続けている最高の企業だ」と補足する。しかし、こういった経験を経て「自分で仕組みをつくる側になりたい」と強く感じたという。

その体験から程なくして、10年間勤めたトヨタを去ることを決意。そして2017年の7月、ラクスルの取締役COO・福島氏に招かれ、ラクスルへとジョインするのだ。

渡邊ラクスルとの最初の面談では、福島から「伝統的な印刷事業でも、テクノロジーによって変革し、世界は変えられる。その変革のコアは、サプライチェーンなんだ」という壮大な話を聞きました。

もともと事業の仕組みづくりがやりたかった私は、「これは面白そうだ」と即座に惹き込まれました。また、同時に「自分ならやれる」という確信も持てました。それだけラクスルの事業にポテンシャルを感じると共に、これまでの経験やスキルを存分に活かせると感じたんです。

ここで、その時渡邊氏が感じた、福島氏に対する印象的なエピソードを紹介したい。渡邊氏曰く、福島氏は「何があっても同じ北極星(目標)を目指せる人」だという。その真意とは一体──。

渡邊会社に勤めていれば、自分ではどうにもならない会社側の意思決定に沿わなければいけないこともあります。しかし、福島と話をする中で、彼の口からはしばしば「顧客価値があってこその事業」「長期的・本質的に価値を提供し続ける仕組みをつくるのが我々の仕事」「次世代に残る事業をつくる」といった言葉が飛び交います。

そうしたスタンスに触れるにつれ、「この人は、この経営陣は、事業の本質を間違えない人だ」と強く感じたんです。同じ北極星という目標に向かって進んでいけば、たとえその道中で何があろうとも、道に迷ったり間違えたりはしないだろうと。

そしてさらに、ラクスルには同じ北極星を目指す優秀な仲間たち、自分と同じく事業づくりが楽しいと感じる仲間たちが大勢います。そんな人の魅力も相まって、迷うことなくラクスルへの参画を決断することができました。

トヨタという大手企業からスタートアップへの転身。2017年当時、上場1年前だったラクスルは、事業が伸びていた時期とはいえ組織規模はわずか70名ほど。今と比べて、組織体制は整備されていなかったという。

入社当時、すぐにでも経営メンバーになろうという野望はあったのか?という取材陣の投げかけに対し、渡邊氏は首を横に振る。

渡邊入社当時は、とにかく「良い事業、仕組みをつくりたい」という気持ちしかありませんでした。その時はただただ、目の前のことに夢中でしたね。自分が最優先の事業課題だと思うことにコミットし、それを成し遂げてきました。あらためて振り返ると、「思えば遠くにきたものだ」という感じですね(笑)。

「自分で仕組みをつくる側になりたい」──。その一心でトヨタを飛び出し、ラクスルに参画した渡邊氏。そこからラクスルでどのような活躍をしていったのか、次章で紐解いていこう。

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ダンボール企業の経営ではなく、“日本におけるBtoBプラットフォームの新たな仕組み”の創出をしているんだ

2017年7月にラクスルに入社した渡邊氏のキャリアは、現在のダンボールワンの代表に至るまで、大きく3つのフェーズに分けることができる。ここではその足取りを順に追っていくことから始めたい。

渡邊第1フェーズは、ラクスル入社当初のSCM(サプライチェーン・マネジメント)業務。ここでは、印刷事業部のSCM部の一員として、BtoB印刷プラットフォームのサプライチェーン構築を担当しました。

今では“安い、早い、ラク”というイメージが浸透している『ラクスル』ですが、その実現に向けてサプライチェーンを変革して競争優位性を構築することが、私に与えられたミッションでした。

第2フェーズは、新規事業開発です。ラクスルでは全社戦略として、印刷・広告におけるカスタマイズ可能なシェアリングプラットフォームを目指しているのですが、当時は紙の印刷以外の領域への開拓が進んでいませんでした。

そこで新しく、シール印刷・ステッカー作成・ラベル印刷というカテゴリーを0→1で立ち上げたところ、半年で売上5倍という成果が出て、新たな成長戦略を確かなものにするスモールウィンを生み出すことに成功しました。

顧客のニーズや業界の競合などの解像度を上げて、提供するサービスレベルと顧客のニーズが合っているかを確認し、従来のサプライチェーンをつくり直したことが功を奏したのだと思います。執行役員事業責任者に就任したのもちょうどその頃ですね。

そして第3フェーズが、第2フェーズで行っていた新規領域への開拓というテーマの延長線上にある、現在のダンボールワン事業になります。

簡単ではあるが、こうして渡邊氏がラスクルに貢献してきた軌跡を辿ると、着実に実績を積み上げてきたことが分かる。これまでの抜擢理由はもちろん、ラクスルにとって価値の高い、非連続な成長を生み出すことができる人材であり、ラクスルグループはそうした人材をこそ重宝するからである。

その中で気になる点は、なぜ上に挙げたような結果を出すことができたのか、という点だろう。トヨタ、すなわち大手企業のスキルや経験が活きる部分はあったのだろうか。逆に、大手企業での経験がスタートアップで足枷になることはなかったのだろうか。

渡邊大手企業のエグゼキューション能力、つまり目標を掲げ、“やり切る”という力はラクスルで大いに活きた部分ですね。

私に限らず、大手企業に属してこうした経験を積んできた人であれば、どこのスタートアップへ行っても活かせる武器になると思います。なぜなら、顧客から選ばれ続けるために必要な、また、エクセレントカンパニーになるために必要なサービスレベルを体感として分かっているからだと考えるからです。

一方、大手企業では自分で課題設定をするチャンスが少ないため、事業において解くべき課題を決める、これが苦手な人は多い印象です。実際に私もそうでしたから。なので、ラクスルに入ってからは自分で問いを立て、その都度フィードバックをもらいながら克服していきましたね。

中でも、「あるべき姿を描き、そこから逆算して今すべきことにフォーカスせよ」「本質的な課題に取り組むべし」というフィードバックは今に活きています。

それによって、例えば事業をつくる上でもその先に何があるのか。そのために今は何をすべきか。何をやらないべきか。他の領域はないのか。そういったところまで思考を拡張できるようになったのは、“事業価値を高め続ける”ことを大切にしている、ラクスルでの仲間や経営陣からの徹底したフィードバックのおかげです。

渡邊氏の話を聞けば、トヨタの経験がラクスルの事業成長に活きたことは間違いないだろう。とはいえ、こうした成果を出し続けるには、渡邊氏自身のマインド面でも何か特筆すべきものがあるはずではないだろうか。率直に渡邊氏に疑問をぶつけてみた。

渡邊目の前の、自分が取り組もうとしているテーマに対するオーナーシップですね。オーナーシップは、自分が本当に「これをやりたい」と思えなければ持てません。だからこそ、自分が取り組む対象の未来や、あるべき姿を考え尽くします。それが持てていないということは、その事業に対するインプットや思考が浅いということではないでしょうか。

もし考え切った上でワクワクできないなら、別のテーマを選んだほうがよいのではないか、とすら思います。

そのあるべき姿に対して、今の環境がまだ達していないとすれば、自分から周囲に働きかけ、環境を変えていくことが重要です。そのように自らが一番の当事者となって事業を牽引していく気概を持つことで、事業は着実に進んでいき、最終的には事業価値の向上にも繋がっていくのだと思います。

その中で、時には周りと軋轢が生まれることもあるという。しかし、そこで妥協はしない。結局、中途半端な遠慮の中でやり切っても誰も幸せにはならないことを渡邊氏は知っているからだ。

渡邊私はこうしたスタンスを、「自意識過剰な当事者意識」と呼んでいるんです(笑)。要は、目の前の事業がいかに社会にインパクトを与えるものなのか、いかにポテンシャルがあるものなのかを常日頃から考えています。

例えば、今私が手がけるダンボールワン事業も、単にダンボールを扱う会社の経営と捉えるのではなく、「日本におけるBtoBプラットフォームの新しい仕組みを生み出すチャレンジだ」と考えるんです。

そうすれば、目の前にあるミッションの捉え方、重要度が変わってきます。私の中では本気で、「ECジャイアントを超えるBtoB・バーティカルプラットフォームになれる」と確信しています。

「ダンボールワンの事業は可能性しかない」と力強く語る渡邊氏。そんな渡邊氏は今のダンボールワンに、どんな未来を描いているのだろうか。

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100年間変化なしのダンボール業界。
今こそ“日本初”の成功モデルを創るチャンス

ラクスルの成長戦略の柱である、ダンボールワン。

今回の取材を通じ、ラクスルの子会社とはいえ、事業としては独立していること。さらに、ダンボール業界はカスタマイズパッケージ市場を含めると3兆円という巨大な市場があり、それゆえダンボールワンにも大きな成長余力があること。そして、渡邊氏の経歴や強みを知ることで、今後のダンボールワンが繰り広げる進化の大きさが、より具体的に見えてきたのではないだろうか。

あらためて、ダンボールワンとして目指す最終的なゴールはどこか。そして、世の中にどのようなインパクトを与え、何を生み出そうとしているのかを尋ねてみた。

渡邊ダンボールワンとしてのゴールは、Amazonやモノタロウ、ユニクロ、トヨタに匹敵する産業インフラになることです。そもそもダンボールは、プロダクトとして1つの完成を迎えているため、100年間、大きな変化がなく使い続けられてきた。

けれど、100年に一度の大変革期を迎えている自動車産業のように、ダンボール・梱包資材業界にもテクノロジーで大きく進化できるタイミングが訪れています。具体的には、誰もが気軽に、自分の欲しい梱包材パッケージを手に入れられる世界をつくりたいと思っています。

例えば、中小企業を中心とした多くの企業が、自社の商品に合ったパッケージを小ロットで制作しようとした際、これまでの手段では求めているようなパッケージを仕立てる術はほとんどありませんでした。仮にカスタマイズ制作することができたとしても、それはコストや納期の観点で課題が多く、誰でも素早く気軽に実施できるものではなかったんですね。

そういった、個社毎にニーズの異なる、難易度の高い課題に対して、ラクスルグループが培ってきた「産業インフラの仕組みを変える」、いわば産業をDXしていく知見・ノウハウを活かすことで、課題解決に繋げることができる。ひいては、誰も達成したことがない、日本初の仕組みを確立できると思っています。

ラクスルグループであるシナジーを活かすことで、カスタマイズパッケージ市場における「日本初の仕組み」として確立できる。渡邊氏の中に、その勝算はすでにある。

また、最近ではメルカリをはじめとするCtoCプラットフォームが社会に普及しており、「手軽に安く、小ロットで梱包材を買いたい」という顧客ニーズにも応えている。基本はBtoB向けのサービスを展開してはいるが、インフラとして大きくなれば、toCの領域にまで染み出すことができる。

そんなポテンシャルあふれるダンボールワン。新体制となったこれからは、更なる飛躍を遂げるべく、より強力な仲間を集めていく必要があるだろう。今後のダンボールワンを牽引するにピッタリの人材とは、どのような逸材なのだろか。

渡邊我々が大事にしているマインドセットで、“本質志向”・“インパクト志向”・“オーナーシップ”の3つを兼ね備える人材を求めています。

短期的な成果やリターンを求めるのではなく、長期的な産業構造の変革を見据えて、「本気で世界を変えよう」と価値を発揮してくれる人ですね。

特にスタートアップにおいては、机上の空論ではなく、自ら実行し、インパクトを出すところまで成し遂げる力が必要です。さらに、ミッションに対して主体性を持ち、最後までやり切るという事業家マインドのある人に参画してほしいと思っています。

具体的にダンボールワンで取り組める機会としては、やはり先に述べた、カスタマイズパッケージ領域への展開です。チラシや名刺といった商業印刷品には、取引の煩雑性や印刷処理の難しさといった課題があるんですが、今後狙っていくカスタマイズパッケージはそれよりもさらに、難易度が高いんです。

パッケージとなると、顧客が持っている商品に応じて形やサイズを合わせたり、デザインによるブランディング要素が入ってきたりと、カスタマイズのレベルが上がります。もちろん、難易度が高い分テクノロジーによるレバレッジが効きますし、それはすなわちダンボールワンやラクスルが競争優位性を出せるところでもある。ここの仕組みさえ我々でつくってしまえば、あとは無双できますよね(笑)。

もちろん、その実現に向けたコミュニケーションやフィードバックの場は密にあります。ダンボールワンには、先に挙げたCOO木下・執行役員コーポレート統括の前田・執行役員マーケティング責任者の藤谷など、スタートアップでの事業経験がある、つまり失敗も含めた成功体験を持つ経営人材が豊富に在籍しています。そのため、若くして事業家人材を目指す人に向けても、経験に裏打ちされた、再現性ある事業家視点のフィードバックを提供することができるんです。

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“ダンボールのEC”。
この未来を想像できるかで事業家としての伸び代が決まる

現にダンボールワンでは、産業変革を担う長期的な視野およびそこに向けた実行力、またオーナーシップに優れた若手も参画し、活躍の場を広げている。

ラクスルとの安定した資本関係がある中、そのアセットを存分に活かして、自由に、誰も変革をしてこなかった領域にチャレンジしてみたい。そんな事業家を目指したいという人にとって、ダンボールワンは文字通り、事業価値を高めることだけにコミットできる。これ以上ない最高の環境ではないだろうか。

最後に、同社で働く魅力をあらためて整理し、幕を閉じようと思う。

FastGrowが考える、ダンボールワンで働く魅力とは?

(1) 3兆円にも上る巨大な市場規模に挑める

ダンボールワンが属する領域は3兆円と巨大な市場であり、その中で事業が急激に伸びている状況。未だ成功モデルのない領域のため、マーケットリーダーとしてトライ&エラーもし放題。多くの挑戦機会とフィードバックに溢れる環境が用意されている。

(2) ラクスルグループとしての事業ノウハウを豊富に備えた経営人材と仕事ができる

まさに、“ここでしか得られない”明確な価値と言えるだろう。スタートアップにおいては、事業を動かす経験が初の1周目人材なのか、ひと通りの事業経験を積んだことがある2周目人材なのかで、成功の再現性が大きく異なる。そんなダンボールワンには、2周目人材である渡邊氏、木下氏、前田氏、藤谷氏といったタレントたちが多く揃っているのだ。

(3) 100年変わらない産業のDXに立ち会える

これ以上ダイナミックな挑戦の機会があるだろうか。Amazon、モノタロウ、ユニクロのような社会インフラとなるべく、大きな社会変革を仕掛ける舞台が今、君の目の前にあるのだ。

しかし、ここまで読んでもまだ「とはいえダンボールでしょう?そのダンボール自体にどうしても興味が惹かれなくて…」と感じている読者もいるだろう。そう、君のことだ。

そんな懸念を見越して、FastGrow取材陣は渡邊氏にも同様の質問をしていた。最後にそのワンシーンを紹介しよう。

渡邊ダンボールへの興味?今では職業病のように見てしまいますが、当初は、ダンボール自体には特段強い思い入れはありませんでしたよ(笑)。でも、これまでの経験で学んだんです。「自分が何かにワクワクできていないということは、未来を鮮明に描ききれていないんだ」ということを。

ダンボールワンが今やっていることだけを見て、「あぁダンボールのEC事業か、興味ないな」って思ってしまうのは、事業家としての伸びしろを自ら縮めているのではないでしょうか。「このダンボールのEC事業は、10年後にどんな価値を持つのか?」を考え抜くことが重要なんです。

どこまで考え抜くかと言うと、自分がワクワクできるまで、です。結構タフな作業ではあるのですが…。事業家として、事業リーダーとして、私はいつもこの思考を大事にしています。

なのでもし、「ダンボールに興味がないんですが…」という人がいたら、私の目の前に連れてきてください。ものの30分で、この事業の虜にしてみせますよ(笑)。

以上。今回は新生ダンボールワンの今とこれからについて、新代表となる渡邊氏に話をうかがった。だが、FastGrowはここだけで終わりにするほどお人よしではない。

実際に今、ダンボールワンにはどんなメンバーが集まっているのか。独立性ある環境を掲げるのならば、具体的にどれだけ自由度高く事業を推進できているのかを見せてもらおうではないか。

次回は、ダンボールワンでマーケティングとコーポレートを管掌するCxO陣2名に登壇いただき、その実態を明らかにしていく。しばし待たれよ。

こちらの記事は2022年12月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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