起業家の真贋は「言葉の破壊力」で見極めよ──ラクスル福島、オイシックス・ラ・大地松本、新規事業家守屋が推す、次代のBizDevのホットスポット

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インタビュイー
守屋 実
  • 新規事業家 

ミスミを経てミスミ創業者田口弘氏と新規事業開発の専門会社エムアウトを創業。2010年守屋実事務所を設立。ラクスル、ケアプロの創業に副社長として参画。2018年ブティックス、ラクスル、2か月連続上場。博報堂、JAXAなどのアドバイザー、東京医科歯科大学客員教授、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。近著に、新規事業を必ず生み出す経営、起業は意志が10割、DXスタートアップ革命など

松本 浩平
  • オイシックス・ラ・大地株式会社 取締役 経営企画本部長 兼 業務本部 担当執行役員 兼 Future Food Fund代表取締役 
  • 株式会社日本農業 社外取締役 

1984年神戸市生まれ。東工大大学院技術経営専攻卒。
2008年、旧オイシックス(現オイシックス・ラ・大地)に新卒入社。
メディアや海外事業などの新規事業開発や、リクルート社との事業資本提携などを担当後、2012年より経営企画部で新規株式公開やIR、事業資本提携、ベンチャー投資、M&Aを担当。2018年より取締役執行役員。

福島 広造

ITコンサルティング会社を経て、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。企業変革/テクノロジー・アドバンテッジ領域を担当。2015年ラクスル株式会社へ入社。全社の取締役COO及びRaksul事業CEOを経て、現在はストラテジックアドバイザー。

内藤 祥平

高校時代に自転車で日本を縦断し、農業に魅了される。その後、イリノイ大学農学部に留学。鹿児島やブラジルの農場でインターンを経験。卒業後、マッキンゼーにて農業セクターのメンバーとして活動。2016年、株式会社日本農業を設立。

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「産業の変革」を謳うベンチャー・スタートアップは少なくない。しかし、いったいそのうちの何%の会社が、実際に変化を起こせるのかと言えば──おそらく、ほんの1%にも満たないだろう。当たり前と言えば当たり前だ。ラクスル ストラテジックアドバイザーの福島広造氏曰く、一定規模の産業を変革するには、「最低でも売上1,000億円規模」は必要なのだというのだから。

しかし、この「1,000億円規模の事業創出」を本気で目指し、「農業」という超レガシー産業の変革に真っ向から挑戦するスタートアップがある。日本の農産物の海外販路開拓を通じて、「儲かる農業」への転換に取り組む日本農業(以下、ニチノウ)だ。

ニチノウもまた、「産業変革」を標榜する“だけ”のベンチャーの1つなのか。

それとも、いままで誰も変えられなかった業界を初めて変える、“救世主”に成り得るのか。

そこで本記事では、同社に深くかかわる著名な事業家3名を取材。社外取締役として参画する新規事業家の守屋実氏、同じく社外取締役を務めるオイシックス・ラ・大地取締役兼Future Food Fund代表取締役の松本浩平氏、そして株主・アドバイザーとして同社の急成長を先導したラクスル ストラテジックアドバイザーの福島広造氏だ。その証言をもとに、ニチノウの「産業変革」の真贋を明らかにしていくこととしよう。

  • TEXT BY MARIKO FUJITA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「上手に喋るだけの人」と「本当にやっている人」の言葉の破壊力は違う

「あ、これは本物だ」

19歳で会社を設立して以来35年、ラクスルをはじめとする名だたる企業の創業期や、新規事業立ち上げに関わってきた新規事業家・守屋実氏は、ニチノウのCEO・内藤祥平氏と初めて話した時の印象についてそう語る。

何百人という“起業家の卵”と出会ってきた守屋氏が、“本物”を嗅ぎ分ける基準──それは、「圧倒的に行動してきた者」だけが持つ、言葉の破壊力なのだという。

守屋上手なプレゼンをする人はたくさんいます。農業の場合は、「一次産業の課題を解決したい」とか、「農業2.0/3.0」と熱く語る人も多い。でも、本気でそれを言っているんだったら、既に「何か」行動を起こしているはずなんですよ。そして、「上手に喋るだけの人」と「本当にやっている人」の言葉の破壊力は、まるで違う。

内藤さんは、高校生の頃から日本中を巡って「農業をやろう」と決心されて、その後実際にイリノイ大学の農学部に留学しました。新卒ではマッキンゼーのような知的生産性の高い場所に入りましたが、そこでも地域の農産物に関するプロジェクトに関わり、成功に導きました。

高校生の頃からずっと農業の未来をよくするために行動を続けてきたなかで、自分が頑張ることで“救われる地域”と、それにより“農産物が落ちる地域”が同時に生まれてしまう、つまり「産地間競争」の課題を感じていたそうで。

「農業を救いたいと思っていたはずなのに、俺は一勝一敗の無意味なことをやっている」と思い悩んだ末に、海外に活路を見出したのです。

その話を聞いたときに、「あ、これは本物だ」と思わされましたね。思い付きで言っているわけじゃない。ずっと想いを持って、行動し続けてきた人なんだと。

当時はまだ、事業の勝ち筋も全く見えていなくて、正直ヤバい時期でしたが(笑)、内藤さんの言葉からありありと感じられる“圧倒的な行動量”から、この人は間違いなく「変える人」なのだと確信しました。

2017年に初めてニチノウへに出資して以来、同社の事業を支え続けてきたオイシックス・ラ・大地の取締役兼Future Food Fund代表取締役の松本浩平氏もまた、「内藤さんと直接話をして、出資を決めた」と、初めて出会ったときの印象を振り返る。

松本弊社の代表である高島と内藤さんの共通の知り合いからのご紹介で、「オイシックスからの出資はありえるか?」みたいなご相談をいただいたのが出会いのきっかけでした。事業モデルを初めて聞いたときは正直「絶対に出資しないな」と思いましたね(笑)。「日本のりんごをタイに輸出している会社」と言われても、まったくピンと来なかったんです。

でも、実際に内藤さんとお会いして、ガラリと印象が変わりました。エモーショナルで、ロジカルで、こういうピカピカな人が本気でこの産業に関わったら、面白そうだと思ったんです。

とはいえ、守屋氏も語った通り、創業当時のニチノウのビジネスモデルはまだまだ未熟。普通のVCでは、まず出資が通らないような状況だった。オイシックス・ラ・大地の社内でも議論になった部分はあったという。それでも松本氏は、自分の直感とパッションで以って稟議を通した。そして、その後コロナ禍で輸出事業が伸び悩んだ際も、ニチノウを支援し続けた。同じ業界に携わる同社だからこそ、産業の未来に必要なピースが見えていたのだ。

松本当時のニチノウの足元の数字だけ見たら、まず出資は通らなかったと思います。でも、これからの日本の農業や食の未来を考えたときに、「農作物の海外輸出は絶対日本がチャレンジしなければいけない」と確信したんです。そして内藤さんには、それだけの力があると思えた。

だからこそ、「出資させていただいたからには心中する」という覚悟で、ニチノウの事業と経営をサポートし続けてきました。

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“内藤商店”が、“有言実行の大人ベンチャー”へと変わり始めたきっかけ

圧倒的な行動力と、関わる者を魅了する独特のチャーム──これらはニチノウ・内藤氏の、起業家としての明確な強みである。

だがその一方で、事業家としての経験はまだまだ浅かった。2022年より株主・アドバイザーとしてニチノウに参画するラクスル ストラテジックアドバイザーの福島広造氏も、初めてニチノウのP/Lを見たとき、内藤氏の持つポテンシャルと現実の数字のギャップに、思わず感情を露わにしたという。

福島内藤さんに初めてP/Lを見せてもらったときに、「なんだこれは」と。「内藤さん、言っていることと数字が全く合っていないんだけど」「ちゃんと“事業”をやってよ」と、青森のカフェでとても厳しい声をかけた記憶があります。当時はまだ、アドバイザーでもなんでもなかったんですけど(笑)。

もちろん、長い時間軸で大きな目標にチャレンジしていくことはすごく大事なことですし、内藤さんの人間性には可能性を感じた。それはニチノウの素晴らしいところですよ。でも、だからといって、足元を緩くやっていいというわけではない。足元は足元で、きちんと事業をつくっていく。そこをやっていかないと、何が解決すべき本当のボトルネックなのか、見えてこないんじゃない?という話をしたんです。

ラクスル福島氏とのこの出会いが、ニチノウを変えた。これを機に、“内藤商店”だったニチノウが、産業に変革をもたらし得る“大人なスタートアップ”へと変化し始めるきっかけになったのだ。オイシックスの松本氏は、福島氏が関わるようになってからのニチノウの変化について、次のように印象を語る。

松本福島さんの叱責を受けてから、見違えるように数字をきちんと追うようになりましたね。以前は「あの施策って結局どうなったんだろう」みたいなこともありましたが、今では10個以上の重点施策を継続的に徹底して追うようになっています。嫌なことも直視するようになったというか、会社としてよくなってきているのを感じますね。

また、ラクスルの立ち上げにも参画していた新規事業家の守屋氏は、福島氏によるニチノウの変化について、「ラクスルのときと同じだ」と考察する。

守屋ラクスルも、福島さんが入ってから変わったんですよ。何が変わったのかというと、テック系のスタートアップは、いきおい、プロダクトの創り込みやデジマの磨き込みみたいなフロントエンドに偏りが出がちなんですけど、でもラクスルのように実際に「刷ったものを売る」というビジネスをやっている場合は、「どう刷るのか」というバックエンドの部分がめちゃくちゃ大事になるんですよね。

福島さんが入ったことにより、それまで無秩序に増えていた取引先を整理整頓し、印刷屋さんとの関係性をきちんと築いて、ラクスルの利益率を一気に押し上げたんです。それまで“勢いのあるテック系ベンチャー”だったラクスルが、製販を見る“大人なスタートアップ”に変わっていった。

この構造はニチノウも同じです。つまり、農家さんとどうやって関係性を築いていくかが重要でして。2021年ごろに福島さんがニチノウにアドバイスをし始めて、「重要なのは、川下ではなく川上である!」と言って檄を飛ばし始めたことが、一番大きな変化の要因ですね。

実際に、会議体に上がってくる資料が明らかに「福島さんぽい」地に足がついたものに変わったんです。福島さんをニチノウに紹介して、本当によかったと思いました。僕の一番大きな仕事は、これで終わったと思いましたね(笑)。

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「普通なら3回は倒産してる」。
適切なフェーズで、適切な人材を巻き込むのも経営者に必要な能力だ

福島氏の変革は熾烈だった。今回の取材に同席したニチノウの内藤氏も、「毎週1〜2時間、福島さんがOKRのチェックインをしてくださり、何よりも贅沢な時間だった」と当時を振り返る。

このように聞くと、「もはや、福島氏が入れば、どんなスタートアップもうまくいくんじゃないか」と思われるかもしれないが、当然そんなことはない。「結局、変化して成長できるかどうかは本人たち次第。ニチノウは、仮説検証のスピード感と実行力が凄まじかった」と福島氏は、ニチノウの実行力を高く評価する。

福島私もいろんな企業と壁打ちさせていただく機会がありますが、ニチノウほど速く、行動して、結果をだせるところはほとんどないんですよ。

当然、成功もあれば失敗もあるんですけど、「うまくいかなかった」というフィードバックがあれば、「これはラクスルとは違ったのか」と自分自身の学びになる。次は、いっそう責任を持って、意見を言わなければいけなくなる。

アドバイザーとスタートアップは上下の関係ではなく、互いに学びあう関係です。そして、この学びのサイクルが回るかどうかのキーは、全般的に経営陣や事業サイドの実行力にあるんです。

言われたことを、素直にやりきる──あまりにシンプルで拍子抜けしてしまいそうだが、高い実行力を以ってそれができる起業家は意外に少ないのだろう。どれだけ優秀なアドバイザーと壁打ちしたところで、「ありがとうございます、勉強になりました」で終わってしまうことがほとんど。しかし、そこで必死に食らいつき、仮説検証を繰り返し続けた者だけに、成長の道が開かれる。

無論、成長するスタートアップは皆、そのような「やりきる力」を大なり小なり兼ね備えているものである。だがその中でも、ニチノウの「やりきる力」──守屋氏に言わせれば「なんとかする力」──は、頭一つ飛び抜けているのである。

さらに守屋氏と福島氏は、「適切なフェーズで適切な人と出会い、上手に登用する力」もまた、起業家として重要なスキルであると、内藤氏の手腕を評価する。

守屋今日の取材には“ニチノウに関わるアドバイザー”として、我々3人を呼んでいただいていますけど、みんな守備範囲が違うんですよ。

たとえば、僕の場合は初期の初期。ラクスルの場合は創業2週間目で出会っているし、キャディに至っては創業前に出会っている。早ければ早いほどバリューが発揮できるし、後になればなるほどできないんです。

事業を一気に伸ばしていくフェーズなら、僕なんかよりも福島さんの方が100倍いい。だから、先にも述べた通り、福島さんをニチノウに紹介した時点で、「僕の仕事は終わっている」んです。(笑)

福島やっぱり、人それぞれ得意とするフェーズがあって、僕の場合はグロースフェーズ。逆に、もっと早い段階でニチノウに関わっていたとしても、何もできなかったと思います。だって「タイでイチゴを生産したい」と言われても、「それはやめておきなさい」で終わりです(笑)

ある会社ではうまくいったアドバイスが、必ずしも他の会社でバリューを発揮できるわけではありません。フェーズや業界ごとに、ちゃんと合った人を選んでいく必要があります。ニチノウは、この「フェーズのリレー」が非常にうまく機能した例だと思います。無論、オイシックスさんからの出資がなければ、3回くらい倒産していると思いますしね(笑)。こうやって、うまく人を登用する能力も、やっぱり内藤さんのチャームであり、強みなんでしょうね。

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仮にニチノウでなくても、誰かが絶対にやるべき。それが産業というフィールド

ニチノウの組織としてのポテンシャルは、ここまでで十二分に伝わっただろう。

一方で、業界としてのポテンシャルはどうなのだろうか。つまり、「農業」という領域そのものの魅力とは?

この問いに対し、福島氏と守屋氏は「『変えたい』と思っている人が多い」「既にグローバルで戦える下地がある」と、それぞれが感じた魅力を語る。

福島農業は、50年間ほとんど変化が起きていないという点で、まだまだアップデートの余地がある産業ですよね。

加えて、他の印刷、医療、物流のようなレガシー産業では「いまの仕組みを守りたい」と思っている巨大なプレイヤーが少なからず存在しているのが事実です。一方農業は、「いまのままでいい」と思っている人はほとんどいなくて、「変えたい」という想いを持っている人が多い。ただ、それがまだ組み上がってはいないという印象です。なので、それらのエネルギーをうまく束ねることができれば、大きなインパクトを生み出せる可能性が高いと思っています。

また、スタートアップ界隈という観点では、まだまだSaaSをはじめとするテック系のビジネスモデルに関心が集中していて、VCがみんなそこに投資するという構図がある。一方で農業は、ほぼノンテックなリアルな産業なので。いまのVCやスタートアップがなかなか目を向けられていないこの産業でイノベーションを起こせたら、もっとスタートアップのチャレンジの幅も広がるだろうなと思っています。そういう意味においても、やっぱり農業というフィールドは魅力的ですよね。

守屋農作物に関わらず、魚や牛肉もそうですが、日本の農産物はとにかく「おいしい」んですよ。圧倒的に「おいしい」。そして、食べ物における「おいしさ」というのは、自動車における「走る」や「止まる」といった性能と同じぐらいの価値を持っています。でも、自動車はたくさん輸出しているのに、米や果樹はほとんど海外に輸出していない。チャレンジすべきかすべきでないかで言ったら、「絶対にチャレンジした方がいい」領域ですよね。

もちろん、簡単ではないと思います。簡単に海外に流通できるんだったら、もうとっくに流通していますから。たとえば、りんごを1個売ろうとしたって、流通の過程で気づいたらなくなっていた、みたいなことは日常茶飯事。そういう難しさがあるんですよ。でも、そうした流通の課題も含めて、産業に真っ向から向き合い、丸ごと乗り越えようとしているのがニチノウです。それは応援するに値するチャレンジだと思うし、仮にニチノウができなかったとしても、誰かがやるべきだと思うんです。

一方、先駆者として、業界の酸いも甘いも知っているオイシックス・ラ・大地の松本氏は、「道のりは険しい」と冷静に見つつも、どこかオイシックス・ラ・大地の創業期と重なるニチノウの挑戦に、大きな期待を寄せているという。

松本たしかに日本の農産物は「おいしい」ですが、海外のマーケットはまだ本来のポテンシャルに比べれば小さい。もちろん少しずつは成長していて、いまは5兆円ぐらいにはなってはいますが、そういう小さい市場からマーケットをつくるのは、実際に同じ道を通ってきた身として、めちゃくちゃ大変だろうなと思います。

でも、うちの創業期にけっこう似ているなと感じる部分も多いんですよね。オイシックスも学生スタートアップから始まりましたが、内藤さんも大学の友人を率いてニチノウを立ち上げられていて。こういう人たちが、この産業に本気で関わることで、日本の農業がどう変わっていくのか見てみたい。そこはすごく楽しみにしています。

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ここからは、磨いて、磨いて、磨きまくれ

生産、流通、販売までを一気通貫で手掛け、産業そのものに変革を起こす──ニチノウの目指す場所はあまりに遠く、「所詮は絵に描いた餅で終わるのでは?」と、疑問に思う読者の方もいるかもしれない。実際、内藤氏も「30年〜40年スパンの超長期で考えている」というのだから、「あまりに途方がなさすぎる」と思われるのも無理はないだろう。さきほど「大人ベンチャーになり始めた」といったくだりもあったが、とはいえまだまだ創業期。課題は山積している。

だが、その道筋は、おぼろげながらも見えてはいる。3人のアドバイザーたちは、「ようやくゲームの“チケット”を手に入れた」「あとはひたすらやるだけ」と、ニチノウの現在地について語る。

福島この産業で1つのプレイヤーとして成立していくためには、最低でも売上100億円は必要。これは言わばゲームに参加するための“チケット”なんです。

そのうえで、本気でこの産業を変えていくのであれば、売上1,000億円は必要です。そのために、1つ1つが100億円以上の売上になるような事業の玉を、何個つくっていけるかというチャレンジです。そういう意味でニチノウは、ようやくプレイヤーになれたかなという段階ですね。まだまだエンジンがかかったばかり。ここから本当の意味でのグロースに入っていくフェーズだと認識しています。

松本少しずつですが、社会を動かせる状態になっているんじゃないかと思います。去年もニチノウの存在によって、青森のりんごの相場にかなりの影響が出ましたからね。産業全体ではまだまだ存在感は大きくありませんが、「青森のりんご」のような特定地域の農産物であれば、いい影響を出し始められるようになってきているのではないかと思います。

守屋僕は最初から、アジア圏を手始めに、地球儀の三分の一をさっさと取っちゃおうと話しているんです(笑)。つまり、国別・農作物別のマトリクスがあって、その間をヒトやモノが飛んでいるような、大きくて複雑な状態を、早くつくってしまおうと。いまは、その下書きができた段階だと思っています。そして、あとはこれを精緻な絵に仕上げていくだけ。もう、磨いて、磨いて、磨きまくるだけです。

取材中インタビュイー3名が口にしたニチノウ提供の青森のりんごジュース

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あらゆる場所で通用するBizDevを目指すなら、リアル産業へ

グロースのための絵図面はできた。あとはひたすら実行するだけ。そんないまのニチノウに、圧倒的に足りていないのが「人」である。オーナーシップを持ち、自分の事業として100億円、1,000億円規模へと育てていける人。そうしたいわゆるBizDevが、それぞれの地域・農作物のオーナーとして存在しない限り、ニチノウの真のグロースは始まらない。

逆に言えば、これからBizDevとして成長していきたい人にとって、いまのニチノウは唯一無二、またとない絶好のチャンスなのである。福島氏は、「もし、日本農業で事業開発ができたなら、たいていの業界で事業開発できるようになる」と、その環境に太鼓判を押す。

福島一般的なスタートアップのBizDevって、ほとんどがデジタルのBizDevなんですよ。つまり、デジタルのプロダクトがつくれてウェブマーケができるという。そういうビジネスディベロップメントが主流になっている。でもこれは、全体から見ればかなり特殊な事業モデルで、実は意外に汎用性がない。

一方、日本農業のようなリアルな事業開発では、サプライチェーン周りの整理整頓やリレーション構築など、デジタルに限らない幅広いスキルが求められます。テックスタートアップに限らず、あらゆる業界で通用する事業経営者としてのキャリアを磨いていきたいという人にとっては、一番の成長機会だと思います。

無論、楽な道のりではない。松本氏は「濁流の中を泳ぎ切らなければいけない、修羅場を楽しめる人でなければ、フィットしないだろう」という。しかしそれは裏を返せば、それだけ大きな成長機会があるということでもある。

そして何より大きな魅力は、傍観者ではなく当事者として、日本の農業を変えられる点にある。「産業の未来は俺/私に任せろ」──そんな気概のある人物がいたら、ぜひニチノウでチャレンジしてほしい。その先には、まだ誰も見たことのない景色が広がっているのだから。

こちらの記事は2024年02月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤田マリ子

写真

藤田 慎一郎

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