「産業ポテンシャル」を「稼ぐ力」に変える思考法──農業界のグローバルリーダー3社が語る、産業輸出の真髄とは【イベントレポート】

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登壇者
高橋 大就
  • オイシックス・ラ・大地株式会社 Global Executive Officer 
内藤 祥平
  • 株式会社日本農業 代表取締役CEO 

高校時代に自転車で日本を縦断し、農業に魅了される。その後、イリノイ大学農学部に留学。鹿児島やブラジルの農場でインターンを経験。卒業後、マッキンゼーにて農業セクターのメンバーとして活動。2016年、株式会社日本農業を設立。

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日本の農業といえば、何を思い浮かべるだろうか?田園風景、緑豊かな畑、または伝統的な農家の風景かもしれない。だが、その裏には世界から注目される絶大なポテンシャルが隠れている。その実態や未来について、私たちはどれだけ知っているのだろうか?

この記事は、そんな日本の農業のポテンシャルに焦点を当て、スタートアップとしてグローバル規模で戦う3人のプロフェッショナルにその考えを伺ったイベントのレポートである。

登壇したのはオイシックス・ラ・大地のGlobal Executive Officer 高橋大就氏、あさい農園 代表取締役CEO 浅井雄一郎氏、日本農業 代表取締役CEO 内藤祥平氏の3名だ。

モデレータを務めるのは新卒でベイン・アンド・カンパニーに入社し、10年近くあらゆる業界のクライアント企業の価値向上を追求し、その後、子供のころからの夢であった農業の道を選択した木村 敏晴氏。

4名の口から明かされたのは、日本の農業のポテンシャルは無限大であるということ。そして、その一方で、「ポテンシャルをものにする力」つまり経済的な価値に変える能力がこの日本社会では欠如しているということだ。

日本の農業は国際舞台でどのような課題に直面しているのか。一体なぜ、スタートアップという立場でなければ課題を克服することが難しいのか。そして、日本の農業に未来はあるのか。このグローバルな闘争の舞台裏に足を踏み入れ、その緊張感を体感してみて欲しい。

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日本は“なりわい的”、アメリカは“ビジネス的”。
両国の農業を分かつもの

──初めまして、モデレーターを務めます木村です。

私は農業の世界に足を踏み入れた当初は大きな農業法人に参加していました。のちに長野県・軽井沢近辺で独自の農業を展開し、にんにくや様々な野菜を栽培し、それらを卸す活動も行っていました。

しかし、なかなか長野で1億〜2億円規模の農家になるというのは、10年以上をかけても難しいものだと感じ、海外での挑戦を決意した人間です。これまで、中国・上海で多種の野菜栽培、インドネシアでの稲作などを手がけてきました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

それではまず、日本農業の内藤さん、自己紹介をお願いいたします。

内藤  私は学生のころから農業に興味を持ち、新卒ではマッキンゼーに入社したものの、その後1年半で退職しました。日本の農業を使った海外ビジネスの構築を志し、大学の友人と共に起業に至りました。

その際、「リンゴ 輸出 東南アジア」といったキーワードで検索したところ、木村さんを発見しまして(笑)、彼とは7年前からの繋がりがあります。

私は農業に関わって7年。海外留学の経験や、短い間の外資コンサル経験から多角的な視点で農業に取り組んでいます。今日は様々な話を共有し、盛り上がることを楽しみにしています。よろしくお願いします。

──最初に私から内藤さんに、2つのトピックをお伺いしたいです。まず、日本とアメリカの農業における違いについて、アメリカの農業を特に意識しつつ、内藤さんが感じるその差異をはどのようなものでしょうか?また、そのギャップを背景に、日本の農業がどのように進化、変容していくべきかお聞かせください。

内藤良いか悪いかはともかく、日本とアメリカの農業のアプローチには明確な違いがありますね。日本は家族経営や地域に根ざした形での農業を行っている一方、アメリカは完全なビジネスとしての農業を展開していると感じます。特にアメリカの農学部では、M&Aやビジネス的なケーススタディが当たり前のように取り組まれていますしね。

一方、そのビジネス志向の裏で、ドミトリーとかで野菜とかフルーツを食べるとそんな美味しくないんですよね(笑)。

このように、日本はなりわい的で、アメリカはビジネス的というアプローチの違いが、資金面などでの影響につながっているようです。アメリカでは大手銀行やファンドが農業に大規模な投資を行い、農業法人も多岐にわたるビジネス展開を行っています。それに伴い、人材や資金が集まり、多様なビジネスが行われる。一方、日本の農家は、品質追求と匠の技を大切にしながら農業に取り組んでいるんです。

日本とアメリカでは、そういう大きな違いが良くも悪くもあるかなと思っていますね。

──そんな状況を内藤さん自身は悪いと捉えていますか?また、日本も“なりわい的”な農業から脱却して、ちゃんとした規模のビジネスとして拡大していくことができるのでしょうか?

内藤経済の変動や技術の革新に伴い、農業の立ち位置も変わりつつあります。現状、日本の農業は多くの耕作放棄地を生む一方で、業界への新しい人材の流入も乏しい。このままでは、持続的な農業が難しいと思います。

日本の農業の最大の強みはやはり品質です。長年、小規模でも品質を追求するように研究や開発が行われ、高品質な品種の開発や栽培技術といった観点で、良質な製品づくりのインフラとなっています。また、日本は巨大なアジア市場への地理的アクセスの利点などもあり、ポテンシャルは非常に高いなと思っています。

その上で、日本の農業がグローバルに戦うためには、2つの大きな課題を乗り越える必要があります。まず一つ目が「生産性の向上」です。どんなに良質な作物を作っても、国際競争の舞台で魅力を放つには、高い生産性とコストパフォーマンスが求められる。具体的な方法は、ぜひこの後のディスカッションパートでお話ししましょう。

二つ目は「規模の拡大」です。やはり小規模で世界のマーケットで戦うのはある程度限界があります。資金調達、人材育成、そして農地問題など、様々な課題がありますが、言い訳をしている暇はありませんよね。

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農業とは新規事業アイディアに困らない稀有なビジネスフィールド

──ここからは、パネルディスカッションに移っていきたいと思います。オイシックス・ラ・大地の高橋大就さん、あさい農園の浅井雄一郎さん、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?

高橋私は、もともと安全保障関連の仕事をしていたのですが、国の外からの脅威よりも、日本の地方経済、特に農村の衰退が、緊急かつ大きな課題と感じまして。その結果、地方や一次産業に貢献できる仕事を模索し、コンサルタントとしてのキャリアをスタートさせました。

その後、自ら農業を海外展開するビジネスを検討している最中に、2011年の東日本大震災を経験しまして。これを機に東北で「東の食の会」を設立しました。さらに、オイシックスのGlobal Executive Officerとして、香港や上海でのビジネス展開にも取り組んできた人間になります。

私は、実際の農業は手掛けていないため、今日は流通の視点からお話しできればと思います。

浅井私は逆に農業ど真ん中の農業法人の社長という立場で参加させていただきます(笑)。ただ、農業ど真ん中とはいえ、私は研究開発を重視した農業カンパニーを目指しています。というのも、単なる「生産だけが農家の仕事」という時代は、すでに変わっていると感じています。

今の農家の人々には、高学歴の方や優秀な方もたくさんいらっしゃいます。自分自身、農家の5代目として生まれ、農業を継承していますが、古くさい固定概念に縛られず、どうすればこれまでの日本の農業の壁を超えられるか日々考えています。

そんな中、新しい風として日本の農業界に現れた内藤さんのような人物に刺激を受け、自分も42歳となった今、次世代に何かを残さなければと考えています。その一環として、大学での非常勤講師や、イギリスでスタートした国際的な奨学金制度「ナフィールド」の活動をサポートしたりと、さまざまな活動を行っています。

──それでは早速パネルディスカッションのテーマである「日本の農業の今後とグローバル展開」について話していきたいところですが、視聴者の方々の中には、そこまで農業を知らない人も参加されていると思いますので、まずは御三方にとって「あなたにとって農業とは?」と聞かせてください(笑)。

高橋無茶振りありがとうございます、緊張が解けました(笑)。

私の農業に対する情熱は、私のルーツにあります。埼玉の田舎での生まれた私は、幼い頃から農村や山村の衰退を目の当たりにし、情緒的にはそれが辛く、農業に進む一つのきっかけとなりました。ただ、情緒的な側面だけではなく、農業や食文化、漁業といった分野に関与することに、私自身強い意義を感じているんです。

というのも、私が取り組んでいるこの仕事について、これまで違和感や矛盾を感じたことが一切ないんです。私個人レベルでも、また社会全体においても、農業や食文化の価値を疑う人はほとんどいないと思います。

実際、私の知っている教授が示すデータによれば、農業や食文化に関わる仕事をしている人は幸福度が高いとされています。このデータは、私の感覚や体験ともしっかりとシンクロしていますね。

もちろん、仕事には困難な局面もありますが、真の価値や意味を感じられる仕事をしているからこそ、どんな困難な状況でも続けられるのだと信じています。

浅井私も農家に生まれたので、高橋さんの話には共感する部分が大きいですね。一方、正直な話、高校時代には「親父は農業やってる」と胸を張って言えるタイプじゃなかったんです(笑)。

そんな私が農業に目覚めたきっかけは、19歳、大学1年の夏。アメリカでのインターンシップ中に、「ビジネスとしての農業」に初めて触れた時です。アメリカの農業と我が家の農業との差に、とても魅了されたと同時に、少しの危機感も感じました。そこから自分の家の農業を、もっとかっこよく、仲間たちと一緒に成長させたいと思ったんです。日本の農業を良くするという志は、19歳のあの時から、24年間変わらずに続けてきています。

今、農業の未来を考えたとき、大きなチャンスが広がっていると感じるんですよ。世界中の人口が増えている一方で、農家の数は減少しています。そんな状況で、一つ一つの農業経営が担う社会的な役割は計り知れない。本当に、エッセンシャルな仕事だと思います。そんな大切な農業を、自分らしく、もっと価値を上げ、産業化していきたい。これが、私の農業に対する思いですね。

内藤私は、農業をスタートした理由と、7年間も日々楽しみながら続けている背景が少し違ってきたなと思います。はじめの頃は、ほんとうに感覚的なものでした。畑を歩く感覚や、日本の地方の祭りや料理を楽しむ気持ち。それに、学生時代にブラジルへ行った時、あるブラジル人が1万ヘクタールの広大な土地で農業をやっている姿がかっこよくて、農業、いいなと感じました。

しかし、長く楽しんでやってる理由はちょっと違います。農業って、新しい事業アイディアには一切困らないんですよ。多かれ少なかれ、他の分野は競争が激しく、新しいことを始めるのは大変ですが、農業は違うんです。確かに小さな競合は存在するかもしれないけど、競争ではなく、一緒に取り組むチャンスが溢れている。

また、食べ物を作る人と食べる人どちらが多いか?消費者の方が圧倒的に多いですよね。この需要と供給のギャップはとても面白いですし、さらに、供給側にはやるべきことや改善すべき点が山ほどあるんです。

毎日、新しい事業アイディアを次々と思いつくことができる。これが、毎日、飽きることなく楽しく仕事を続けられる農業の魅力かなと感じています。

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国ごとに180度異なる農業の“常識”、突破するには粘り強い交渉あるのみ

──皆さんの農業に対するストレートな気持ちが伝わってきました。一方で、イベントの雰囲気としてもう少し笑いがほしいので(笑)、逆に大変だったことなどもお聞かせいただけますか?

高橋農業の生産に直接携わっていない私ですが、農作物の流通は非常に複雑です。例えば、輸出において国境を越えるためには、本当に頭痛いことが多いです(笑)。

私が主に取り組んでいた香港などでは、自由貿易圏としてほとんど規制がない場所です。それでも、細かい部分で意外な課題が待ち受けていました。

例えば、肉は動物検疫が必須なのですが、肉加工品であれば問題なし。だけど、何をもって肉加工品とするかの明確な言語規定は難しく、結果として不要に幅広い範囲が制限されてしまうこともあるんです。このような細かい規制を粘り強く規制当局と交渉し、変えていくのはとても大変でしたね。

浅井私のこれまでの15年の時間を遡ると、最大の悩みは農地でしたね。まだ駆け出しだった頃、地元の農家の方々と交流をしたり、農地を貸してくださいと交渉に行くのですが、とある地元の方々から「おまえ、何も分かってねえ」と厳しい言葉を浴びせられることも多かったですね(笑)。

また、10年ほど前、20ヘクタールの園芸団地を仲間4人と作る計画でしたが、38人の地権者の中の一人を最後まで納得させられず、結果的に5,300万円を失ってしまいました(笑)。

──今日は暑い夜ですが、背中が少し寒くなるようなエピソードでした(笑)。内藤さんはいかがでしょうか?

内藤ベンチャーとしてゼロから始めた頃、売り先も海外で、当然LCCを利用して、何人かで同じ部屋に泊まりながら、日々地元のスーパーに飛び込む活動をしていました。

印象的だったのは、タイで初めての売上が確定し、日本の美味しい蜜入りリンゴを出荷しようとした時ですね。タイでの検品では、蜜入りリンゴは「ウォーターコア」と呼ばれ、中に水が入ってしまい日持ちしない、欠陥品と見なされ弾かれてしまうんです。

そんな中、バイヤーや小売店に「実際に食べてみなよ美味しいから、日持ちもするよ」と地道に1店舗ずつコミュニケーションを重ねました。結果、リンゴの中の水分は欠陥ではなく「ハニーコア」、つまり、甘味の象徴であると話題を呼び、人気商品になりました。

ビジネスは誤解や既成概念の中で行われることが多いです。国や農家の違いによる既成概念を乗り越え、消費者にとっての本当の価値を追求し、愚直に対話することが極めて重要だなと感じましたね。

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「ポテンシャルをものにする力」が最大の課題

──それでは次のお題として、「日本の農業のポテンシャルとは」というテーマに触れていきたいと思います。

高橋私ポテンシャルと感じるポイントは、要するに「クオリティフードの需給バランス」です。2050年には100億人となる人口の増加は明らか。この増加率は食料やエネルギーの需要増大を意味します。しかしそれ以上に、特にアジアの中間層や富裕層の増加は、彼らの食の要求が変わることを示唆しています。

昆虫食などの新しい食の形が現れてはいますが、彼らが求めているのはただの「量」ではなく、「質」。特に中国やインドで所得の高い層が増加すれば、彼らの食の要求はさらに高まるでしょう。

その時、真っ先に考えられるのが「クオリティフード」。そしてこの高品質な食を供給可能な国として、日本が挙げられるのは明白ですよね。日本は技術やブランドを持ち、食のクオリティを追求してきた歴史がありますから。ただ、この巨大な「クオリティフード」の需要に応えるには、単に「物」として供給するだけではなく、技術やブランドを生かす戦略が求められる。そう考えると、日本の農業が提供できる価値は計り知れないと考えています。

浅井日本の農業の未来について、真摯に考えると、まず我が国のリソースと環境をしっかりと把握することが重要だと感じています。とあるブラジルの大農場の話を聞いたとき、驚いたのですが、一つの農場が三重県の面積と同じなんてこともあるんです(笑)。

日本の規模やリソースを考慮すると、高橋さんも仰った通り、単純な量での勝負は難しい。それゆえ、質や付加価値の追求が日本の強みとなります。

また、食料安全保障の観点からも、日本の農業が質の高い産品を生産し続けることは不可欠です。日本の人口が減少する中で、農業が外貨を稼ぐ重要な産業としての地位を維持するためには、質の高い製品の輸出と、次いで日本の文化や技術の輸出を追求すべきだと考えています。

というのも、日本の技術力や知的財産は、世界的に見てもトップクラス。オランダやイスラエルのような国々が、高度な技術や知財を活用して国際的な成功を収めていることから、日本もその道を追求すべき。例えば、ニュージーランドにグローバル売り上げが3,000億円を超えるゼスプリ(Zespri)という会社があるのですが、同社のようにマーケティングや販売に特化した組織の力を借り、日本の農産物を世界に広める戦略も考えられます。

我が国のトマトやキウイフルーツのように、特定の品目に焦点を当て、それを世界にアピールする。そうした戦略性と高い技術力が、日本の農業の未来を明るく照らすキーとなると考えています。

──「文化の輸出」とはどういったイメージなのでしょうか?

浅井日本の農産物や食品の輸出の方法を考えると、現状は主に単品ベースでの展開が中心ですよね。ホタテやリンゴ、サツマイモといったアイテムが増加しているのは良いことですが、各地域が別々にプロモーションをしているのは、効果的でない気がします。日本食や和食としての総合的なアピールや、日本へ訪れた外国人観光客が感じる日本の魅力を最大限に活用した輸出戦略を模索する時期だと思うのです。日本の文化や伝統、食文化の価値をしっかりと打ち出すことで、単品だけでなく、日本らしさを伝える戦略的なアプローチが必要だと感じています。

──タイ料理などは文化として戦略的に海外に輸出されている感覚がありますよね。イメージができました。内藤さんはいかがでしょうか?

内藤日本の農業のポテンシャルは先ほども述べた通りです。最近だと、南アフリカの農業者たちが、日本の「紅はるか」サツマイモの美味しさに感動していました。また、デコポンやシャインマスカットなど、我が国のフルーツは国際的にも評価が高いですね。

ただ、問題は、「ポテンシャルをものにする力」、つまり経済的な価値に変える能力があるかどうか。例えば、シャインマスカットは元々は日本が開発したものの、商売として成功しているのは中国や韓国です。彼らは価格や生産技術で競争して、市場を確保しました。また、かつて日本が輸出していた和梨も、同様に中国や韓国に取って代わられた現実があります。

このような状況を見て、日本の農業の最大のポテンシャルである品質を、ビジネスとして拡大する能力が求められていると感じます。つまり、美味しい品種を開発しただけでは不十分で、ブランディングや海外の市場を獲得する戦略といったも総合的な取り組みが重要なんです。

──ゼスプリの成功事例が示すように、日本の高品質な農作物のポテンシャルは確かに大きいですよね。

一方、ポテンシャルを活かすという観点では、地域や組織のバラつきがまだまだありそうですね。今後は、各県や地域単位の農協がどう連携していくかが鍵となるわけですか。

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知らぬ間に技術が海外に流出している?
日本が直面している「知財の危機」

──先程の話にもあった通り、クオリティフードの輸出、これには絶大なチャンスがあると思いました。輸出で外貨を稼ぐ手段として、また知的財産権を活かして技術の売却など、広い視野での取り組みが今後日本に求められるなかで、例えばゼスプリのようなスキームをどう構築していくかがキーポイントとなると思います。

そこで、ここからは「輸出」と「知財の産業化」この2つのテーマを中心に議論したいと思います。

高橋そうですね、まず農業における日本の知的財産(知財)とは、具体的には品種や作り手のノウハウ、それに伴う技術やハードの部分などを指します。この全体像をみると、"種、ソフト、ハード"の三位一体のようなイメージが浮かびますね。

私が過去の失敗事例として、絶対に忘れてはならないのは、和牛により失ったポテンシャルだと思っています。もしこれが外貨として日本に流入していたら、日本の経済インパクトはどれほどだったでしょうか。

また、驚くべきは、私たちが気付かない間に日本の農業ノウハウが外国に流出していることです。とある国では、日本の技術者を呼び寄せ、彼らの知見をほぼ無償で取得しているなんて事例もあったりします(笑)。本来、このノウハウはビジネスとしてマネタイズされるべきものですよね。

今後同じ轍を踏まないために、技術の流出は避けなければなりません。例えば、日本の野菜の品質は世界で見ても圧倒的。その美味しさ、高い糖度、安全性…これらの技術は、知財として非常に価値があると言えるでしょう。これをしっかりと守り、活用するべきです。

浅井非常に共感します。ただ、品種改良や育種の専門家として活動する私の立場としては、この業界は極めて、農業技術とか栽培管理技術みたいなところを知財化して、そこで儲けるビジネスモデルを立てるのは難しいということです。

例えば、ゼスプリも過去に中国市場では製品が完全コピーされ、結果的に撤退を余儀なくされました。果樹などは簡単に繁殖可能。一方、種子はハイブリッドなので守られている分、市場は限られています。

実際、農業のビジネスで大きな市場規模を持つのは、種よりも農薬。大手のバイエルモンサントを見ても、彼らのメインは農薬。重要なのは、どこにキャッシュポイントを持ってくるのかということ。例えば、ゼスプリも種からではなく、流通で利益を上げていますからね。

──なるほど、それでは日本はどうやって知財と向き合い、ビジネスに昇華させていくべきでしょうか?

浅井オランダがモデルケースになると思います。オランダはトマト業界や施設園芸業界における世界標準のノウハウや、農業に必要不可欠な設備を次々と生み出してきました。

キャッシュポイントという観点では、一つはゼスプリのような流通で利益を得る。もう一つが、このオランダのように、どこの国でも必要不可欠な設備や資材の開発です。

どの果物でも、世界中の生産手法はほぼ同じ。だからこそ、農家の作業を楽にし利益を上げる設備や資材を生み出すことができれば、即座に世界に輸出できると思います。

ただ、もちろん新技術の開発には、専門の人材が必須。日本の農業界には、そのような人材が多くはない。イノベーションの鍵は、現場を知る技術者の育成だと思っています。

内藤また、流通や知財の守り方という観点では、適切なパートナー選びが課題となりますよね。一番わかりやすい事例として、アジアとアメリカ、どちらで事業展開するかがあります。

というのもアジアは、日本からの流通がしやすい。すでに物の輸出のノウハウがあり、強いブランド力も手助けになる。しかし、知財の保護や生産規模の課題もある。

一方、アメリカでは、強固なパートナーシップを築けており、生産はグリップできるが、流通面での課題が浮かび上がる。まだアメリカ向けの流通ネットワークが整っているとは言えないですし、消費者動向も異なります。つまり、両者を満たす完璧なパートナーが見つからない状況なので、最初の一歩としては物の輸出から着手するというのが現実的になっていますね。流通や知財のポテンシャルは我々も認識していはいるものの、実際のビジネス展開にはまだまだ高いハードルがあります。

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日本酒、おにぎり、TKGが日本輸出の鍵となる?

──それでは日本からの輸出という観点で、最もポテンシャルを感じているものはなんでしょうか?

内藤もちろんたくさんあるのですが、やはりリンゴは外せないですね。数年前、青森県はリンゴを約45万トン生産し、その内3万トンが輸出される状態でした。つまり、全生産量の約7%が輸出となります。

当時、これ以上の伸びは期待できないとの声もありましたが、今では輸出量が4万トンを超え、全生産の10%近くが海外へ輸出されているんです。これを受けて、30代の比較的若い世代が、リンゴ事業の魅力を感じて祖父母世代から事業を継承するケースが増えてきました。

リンゴの輸出においては、今後もその市場をしっかりと掴み、他国に取って代わられないようなポジションを築くことが大切です。より生産と流通を強化し、需給のバランスを保ちながら、ゆくゆくはリンゴでの成功を元に、他の商品への展開も視野に入れていきたいと思っています。

高橋日本の文化を輸出するという大事な観点に立ち返った時、私は日本酒、おにぎり、そしてTKG(たまごかけご飯)にポテンシャルを見出していますね。これらはみんなお米に関連してますが、日本酒なんかは、近年価値が高まっている酒米の生産地としての期待が大きいです。

特に、近年のクラフト酒の動きは、グローバルマーケットでの成功を確信させるほどです。ワインと同じような“うんちく”の余地があると言えるでしょう。つまり、無形の“うんちく”というものに付加価値が付くので、クラフト酒はワインのマーケットを切り崩していける大きな武器です。

次に、おにぎり。私はこのおにぎりをハンバーガーに代わる世界の食のプラットフォームにできると思っています。具は、その土地土地のものを入れればいいわけですし、既に香港なんかでは成功例も存在しています。

最後はTKG。日本の鶏卵の高品質と安全性が生み出した産物は、海外の人に生の卵を食することの驚きや感動を与えることができます。その鶏卵の輸出も現在急速に伸びており、TKG自体が食のプラットフォームとして世界に広がるかもしれません。例えば韓国であればキムチ、中東ではフムスをトッピングみたいにです。

総じて、日本の食文化が世界の舞台でどれほどのインパクトを持つか、その可能性に私はワクワクしていますね。

浅井日本の食文化の可能性には私も大きな期待を寄せています。

実は私、最近土鍋のご飯にハマっていまして(笑)。特に伊賀焼の「永谷園のかまどさん」は、炊き上がりがつやっつやで、クオリティが高いんですよ!

カセットコンロに乗せて13分で炊くだけ。これ、実は文化輸出の素晴らしい例だと思うんです。世界でのカセットコンロの普及状況は不明ですが、もしまだ普及していなければ、日本の企業が頑張って普及させるべき。土鍋の制作は海外では難しいと思うので、このような日本独自の文化をもっと世界に広めるべきだと思います。

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今求められるのはオープンイノベーションの精神

──視聴者の方からいただいた質問も取り上げていきたいと思います。地域の農家との関係をうまく築いて、チームを作ることが立ち上げのファーストステップとしてすごく重要だと思いますが、どうやってリーダーシップを発揮しますか?

内藤我々日本農業としての産地に入っていかせていただくパターンとしては、まず自社生産からスタートすることが多いですね。

例えば、サツマイモの場合、海外輸出を見据えて砂地の土地を集めて、農地を集約化して栽培を行います。このような取り組みから、「輸出向けにエコノミクスが合います」となるまで、自分たちがまず率先してやってしまうんです。

一方、自社生産だけでは輸出量は賄えませんから、他の生産者からの仕入れも始めていく。このような取り組みが拡大する中で、新たに輸出向けの大規模生産に興味を持つ農家も増えてくるので、どんどん巻き込んでいくんです。

ただ、声を挙げてくれた農家さんも、規模の拡大に必要な資金調達などの壁にぶち当たるので、我々が公庫などとの連携もサポートしながら、ひとつずつボトルネックを解消していきます。我々としては作ってくれたものは確実に売りますよというスタンスで販売ルートを提供し、最後には、畑ごと契約を結ぶこともありますね。

私の同年代や少し上の兄貴分たちと協力し、共同でビジネスを拡大している感覚ですね(笑)。

浅井いやあ、本当に共感します。競争力を高めるために、戦略的なアプローチを練ろうとしても、規模が小さすぎると、戦場にさえ立てないですしね。

だから、一人で輸出をやるとかは考えずに、皆で力を合わせて成長を目指すべきですよね。オランダなどは、オープンイノベーションの精神が普及しているので強いなと思います。

国内マーケットだけだった過去、私たち農家は皆ライバルでした。しかし、海外マーケットの広大さを考えれば、むしろ仲間ですよね。共通のビジョンや戦略の下、皆で助け合い、互いに刺激し合って高め合う時代が、今、求められていると感じます。

──ありがとうございます。まだまだお話ししたいことはありますが、お時間も迫ってきましたので、最後に一言ずつ視聴者の方々にメッセージをいただければと思います。

高橋マクロな視点で見れば、日本の農業は巨大なポテンシャルを持っていますが、それを現実にする力にまだまだ伸び代があります。そのためにはもっとこの業界に優秀な人々が飛び込んできてくれないといけません。

つまり、本日視聴いただいている、皆さんがどれだけ農業の世界に入ってきてくれるか次第なんです(笑)。

浅井僕も高橋さんと同じで、本当にこの業界には人材が必要だと感じています。いかに優秀な人が農業とか食の業界に入ってきてくれて、みんなでイノベーションを起こすことができるか。日本ではそれが今までできてなかったので、やっぱりチャンスしかないですよね。まだまだブルーオーシャンだと思います。皆さん、ぜひ一緒に頑張りましょう。

内藤農業業界は今、一見危機的にも感じられますが、一方で巨大なポテンシャルを秘めています。しかし、それをものにできていないのが実情。

確かに大きなマーケット、国際的なプレイヤーも多く、競合は激しい。でも、その中でのチャンスも多い。私たちはそんな中、日々楽しみながら仕事をしています。

お二人からもあった通り、やはり優秀な人材が農業に参加していただくことは欠かせません。例えば、今日も話題に出た「米」ですと、私たちの企業名が「日本農業」ですから、「米」を外すわけにはいかないと思っています(笑)。

もし米に全力を注ぐと決めれば、具体的な計画や売り方、海外展開など、どんどんビジョンが広がっていきます。しかし、そんな夢を実現するためには、推進するメンバーが重要です。少しでも農業に興味を持ってれた方、私たちと一緒にチャレンジしませんか?業界全体での皆様のジョインを心より願っています。本日は本当にありがとうございました。

こちらの記事は2023年09月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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