連載スタートアップ採用広報・ブランディング

創刊から2年半で1000本の記事を発信。
メルカリの採用と情報流通を促進させるメディア活用法

インタビュイー
石黒 卓弥

NTTドコモに新卒入社し、営業、採用育成、人事制度を担当。一方で、事業会社の立ち上げや新規事業プロデュースなども手掛ける。2015年1月、株式会社メルカリに入社。現在はPeople Partnersマネージャー。

西丸 亮

福島県生まれ。中央大学大学院修了後、株式会社スマイルズへ入社。店舗運営やWeb社内報の運営・企画・執筆に携わる。その後、株式会社CINRAに転職。クリエイティブ業界の求人サイト「CINRA.JOB」の企画・編集などに従事。2018年、株式会社メルカリに入社。「人」に関わるブランディング業務全般を担うPeople Brandingに所属している。

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毎月数十人を採用しながらも、強力なカルチャーフィットとチーム力を維持したまま成長を続けている株式会社メルカリ。 採用において重要な役割を果たしているのが、コンテンツプラットフォーム「mercan(メルカン)」だ。同メディアはメンバーへのインタビュー記事などを、創刊からわずか2年半で1000本以上公開している。

そんなmercanを運営するのが、主に採用ブランディングなどを担う「People Branding(ピープルブランディング)」チームだ。メルカリでは、今後「人」を軸にしたブランディングに、より力を入れていくことを宣言している。その宣言には、どういった意図や狙いがあるのだろうか。

People Partners(旧HRグループ)マネージャーとしてメルカリの快進撃をリードしてきた石黒卓弥氏、People Brandingチームのメンバーでありmercan編集者の西丸亮氏が、これからのメルカリが目指す「人」ありきのブランディングを語る。

  • TEXT BY RYOKO WANIBUCHI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY NAOKI TAKAHASHI
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人事・採用チームで考える「人」を魅せるブランディング

メルカリの採用といえば「mercan」の存在抜きには語れないと思いますが、人事・採用の部署内に編集チームがあるという運営体制は他に類を見ません。どのような目的があるのでしょうか。

西丸「社外と社内の情報やイメージの格差をなくし、入社後のミスマッチをなくす」というのが、mercanを運営している理由です。組織の透明性を増し社外から「メルカリの人って◯◯だよね」というイメージを持ってもらうことで、ギャップを感じずにチームに入ってもらえる仕組みを作ろうとしています。

僕が入社した今年7月に、「People Branding」というチームが立ち上がりました。これはmercanを含めた企業の一連のブランディングを、「組織」や「プロダクト」ではなく「人」を軸に行っていくための体制です。社内のメンバーをより正しく社外に伝えるための仕組みなので、人事や採用となめらかに連携するかたちでチームが設けられました。

石黒採用目的で「人」起点のブランディングを行うチームを作るのは、とても特殊だとは思います。物理的な資産をもたないインターネットビジネスは特に「人」が資産なので、人事としてプラットフォームを持ち、会社のメッセージを出していこうというのが始まりでした。

People Brandingの目的は、より広い意味で「メルカリ内のタレント」を外に出していくことです。メンバーの活躍を支援するためのプロデューサー的な立ち位置で、個人のメディア露出などをプロデュースしていく役割ですね。メディアに出ることがすべてではありませんが、世の中からの信頼を個人に積み上げていきたいという意図もあります。

株式会社メルカリ People Partnersマネージャー 石黒卓弥氏

その役割を広報が担う会社も多くありますが、PRチームとの連携はどうなっているのでしょうか。

石黒それぞれの強みを生かして連携する体制を取っています。上場時など、社会に向けて広く情報発信をするときのPRチームの動きは「さすがプロだな」と思いながらも、やはり人のブランディングをするチームは人事の中に置くのが最適だと感じています。オウンドメディアで社内の人間を紹介する際に、「うちのメンバーって最高だよね」という直接的な表現はしないまでも、プレスリリースほど客観的にしてしまうと面白みがない。その微妙なさじ加減は、ブランディング機能を人事チームの中に設けているからこそできています。

西丸メルカリのPRチームはコーポレートPRとプロダクトPRの2つに分かれていますが、People Brandingは「人を軸に」その根底に横串を通すようなイメージです。「人ありきの発信をする」というのが大方針で、外部のメディアが取り上げないようなニッチなポジションのメンバーにも光を当て、出すタイミングや記事の順番なども自分たちでコントロールしています。社内コミュニケーションの役割や機能も大きいですね。

mercan(メルカン)記事|(左)「世界一働きやすいIT環境を整備していく」メルカリCIOに長谷川秀樹さんがジョイン/(右)Evaluating each and every member’s performance: What Mercari hopes to achieve with its new evaluation system

株式会社メルカリ People Branding 西丸亮氏

石黒広報にPeople Brandingのチームがあったらどうだろう、と考えたこともあるのですが、広報が「人」のことばかり発信して「採用、採用」と謳っていたら、組織全体の見え方としては違和感がありますよね。そこは上手く線を引き、なめらかに連携できる体制です。時間の使い方という意味では、広報が社外を向いているのに対して、我々は9割ほどが社内とのコミュニケーションになっています。社内の誰かから情報をもらい、発信力はなくてもユニークなネタを持っている人たちを拾い上げる。発信を通して注目され、mercanをきっかけに外部のメディアにも出るようになったりと、人が変わっていく姿を見るのはやりがいがありますね。

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mercanで築いてきたPeople Brandingの影響

mercanには多くのメルカリメンバーが登場していますよね。採用にはどのような影響がありましたか?

西丸取材をしてくださるメディアの方はやはりネームバリューのあるメンバー、活躍がわかりやすい職種を取り上げますが、実は社内にはあまり社外に露出していないスタープレイヤーがたくさんいる。彼らを他のメディアより先にmercanが率先して取り上げることで、後日mercanを見て取材依頼が来ることもあるんです。

他のメディアがカバーしきれない範囲まで光を当てることで、わたしたちが伝えたい「人」の情報をも届けられる。それを候補者がきちんと見て知ってくれているので、採用活動もスムーズに行うことができていると感じます。

「コンプライアンスは企業の成長武器になる」メルペイ鈴木秀俊 - mercan(メルカン)

最初からメルカリを知っている人が応募してくれるわけですね。

石黒それは大きな成果のひとつですね。候補者の方は多くの場合記事を読んできてくれていますし、中には隅々まで読み込んで「あの記事を読んで一緒に働きたいと思いました!」と言ってもらえることもあります。

面談や面接のときに、会社や事業の説明をすっ飛ばして、未来のことやビジョンの話ができますからね。採用はわずかな時間でお互いを知らなければならないので、本当に嬉しい成果です。

社外と社内の情報格差をなくす、というmercanの目的は達成できていると。

西丸例えばコンプライアンスやリスク管理の部署など、外のメディアからの取材が難しいようなジャンルやポジションも、自社メディアなら積極的に出せる。一見、地味だけれど重要なポジションをあえて発信し、情報のギャップを埋めることができています。

石黒そこで編集の腕が光ります。ややもするとPVだけを目的にしたキャッチーなタイトルを付けてしまいがちですが、mercanの記事ではその人の「目的」にフォーカスするようにしています。「人」に寄り添ったメディアなので、読者にとっての課題がそこにあるかという意味で、「なぜ」がわかればいいんです。

西丸社外・社内の両方から見て面白い切り口になることを意識して、自己陶酔した記事にならないように気をつけています。「メルカリにはこんなに優秀な人材が揃っています」と前のめりに伝えたところで、誰も振り向いてくれませんからね。とても微妙なニュアンスですが、その人の中にある「想い」の部分にフォーカスするようにしています。この人と一緒に働いてみたいと思えるかどうかが重要ではないかと。

メディアをおもしろくするために、全メンバーでフィードバックをするカルチャーもメルカリらしさですね。

絶妙な線引きが記事の質を決めると思います。記事にするかどうか、どこまでを出すかといった判断はどのようにしているのでしょうか。

石黒新聞記者のような立場でいられるといいよね、とよく話しています。新聞記者って、上の人が「これを書け」と言っても、記者自身のジャーナリスト魂で書かないという判断もありえます。mercanでも「編集会議で考えます」と持ち帰ることはよくあります。

西丸社内からの「タレコミ」や、経営陣からのリクエストもあるんです。それに対して、もう少しアウトプットが出てから切り口を練り直しましょう、社会的にもインパクトを残せそうなタイミングを考えて取材は数ヶ月後にしましょう、というようにコントロールしています。

メルカリのことを知らない人にもちゃんと面白いと思ってもらえるかどうかは、とても大事にしています。避けたいのは「メルカリだからできたよね」と言われてしまうこと。普遍的に良いと思われる記事を出せなければ、編集者として採用に関わる意味はないと思っています。

第三者目線をいつも大切にしていると思いますが、社内に視点が寄ってしまうことはないのでしょうか。外からの視点をキープするために意識していることはありますか。

石黒会社全体に、自分たちが社会からどう見られているかを気にする意識が浸透してきているんです。mercanのコンテンツを社外から見て恥ずかしくないものにしていくために、言いたいことを言い合える空気ができています。

記事を上げると社内チャットツールで共有するのですが、たとえばプログラミング言語の表記が間違っていようものならエンジニアから総ツッコミがきたりします(笑)

社内からの目線があることが、クオリティの担保につながっているのですね。

西丸いろいろな角度から指摘してもらえるので、常に見られているという意識が持て、編集部としても背筋が伸びます。社内を歩いていて「あの記事読んだよ」と声をかけられたり、社外の読者から「編集部の人が変わった?」と言われたりすることもあります。想像以上に読まれているので、オウンドメディアの概念を超えて「メディア」になってきているとさえ感じています。

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メルカリ内の個人を外へ。「People Branding」が目指すもの

そこまで個人に寄った見せ方を考えている会社はあまりないですよね。なぜこの方向に振り切ったのですか?

石黒これはある意味、チームを大きくしていく宣言でもあります。企業を個人の集合体として捉える動きはグローバルでも起きていて、もっと一人ひとりにフォーカスして社外・社内に伝えていくのは、今のメルカリだからこそやる価値があると思ったんです。

人数も増えグローバルに拡大しているので、社内の情報流通も考えていかないといけません。今も「会ったことはないけどmercanで見たことがある」という関係性が生まれていて、それは一定の意味をなしています。やはり会社は「人」の集合体なので、内部の関係づくりも「人」ありきで行うことに意味があります。

西丸従来の社内報のような役割も大きいですね。mercanは言ってしまえば、「社外に出せる社内報」のような立ち位置です。良いと思う会社の社内報って、ちょっと覗いてみたいですよね。社内・社外問わず、情報をオープンにしていきたいので、あえてクローズドにする必要もないと思っています。

外から見ると順風満帆なイメージがありますが、人事・採用チームから見て課題はどこにありますか。また、People Brandingでこれから何を目指していくのでしょうか。

西丸人や事業拠点が増えれば増えるほど、メルカリのミッションやバリューの解釈が経営陣とずれていってしまうことも起こるかもしれません。People Brandingチームが媒介となり、第三者目線を保ちながら伝えていく役割は増えていくと思います。もちろん伝えるためには、手段を問いません。Webを介したコミュニケーションに留まらず、直接的なコミュニケーションも行っています。mercanだけがすべてではありませんからね。

まだまだ設立5年目の会社だなと思う部分はあり、できていないことは山のようにあります。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションに向かって、今後はグローバルも含めた「人」のブランディングをしていきたいですね。

石黒課題はまさにその外からの見え方の部分で、順調に見えると「そこに仕事があると思えない」と感じられてしまいます。山に例えると、今を1合目と思うか8合目と思うかで全然違う。これから社員数が数千人、数万人になったらどうなるか。採用の観点から、メルカリがもっと遠くに描いているビジョンを、一緒に見られるように伝えていかないといけません。

メルカリが今後大きくなることはあっても、小さくなることはありません。チームをもっともっと拡大して、いろいろなことを試していきたい。社会のためになるのであれば、メルカリの人事制度や社内wikiなどもどんどん社外にオープンにしていきたいですね。そういう動きを見せていくことで「あっち側に行きたいな」と思ってくれる人を増やしていくのが、People Brandingでこれから目指していきたいことです。

こちらの記事は2018年12月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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雪山と旅を愛するPRコーディネーター。PR会社→フリーランス→スタートアップ→いま。情報開発や企画、編集・ライティングをやってきて、今は少しお休みしつつ無拠点生活中。PRSJ認定PRプランナー。何かしら書いてます

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藤田 慎一郎

編集

高橋 直貴

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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