INTERVIEW
加藤 恭輔
18-08-21-Tue

「情報発信は、投資価値の高い“GIVE”」
メドレーの組織ブランディングの秘訣を、執行役員 加藤恭輔氏に聞く

TEXT BY MARIE NISHIBU
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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#1
連載 スタートアップ採用広報・ブランディング
#2

「伝える」のはとても難しい。特に、採用のシーンにおいては。

同じ方角を向いた人に振り向いてもらうには、
バリューやカルチャーを言語化し、発信していくことが求められる。

採用広報と聞いて頭に浮かぶのは、今、この会社ではないだろうか。
株式会社メドレー。

医療×IT分野のリーディングカンパニーを目指し、
オンライン医療事典「MEDLEY(メドレー)」などを運営する企業だ。

「Wantedly」やSNSを効果的に活用し、自社の魅力を広く届けるメドレーにおいて、
組織ブランディングを担当する執行役員の加藤恭輔氏に「伝え方」のポイントを伺った。

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「メドレーって何?」が発信のきっかけに

加藤氏がメドレーにジョインしたのは、2016年7月1日。その頃のメドレーは、およそ90名の組織だった。約2年で、従業員数は約270名になった。

メドレーの採用ページからも分かるように、社員による会社紹介や入社動機にまつわるコンテンツが充実している。Wantedlyブログを活用した「私がメドレーに入社した理由」シリーズは、すでに40本を連載している。

インタビュー|採用情報 | 株式会社メドレー

なぜ、それほどまでに紹介コンテンツを厚くするのか。クックパッドで執行役員をしていた加藤氏がメドレーへの転身を決めたとき、周囲から「メドレーって何?」と幾度となく聞かれたという。それが発信のきっかけとなった。

加藤その頃のメドレーは、事業の成長に採用が追い付いていない状況でした。人も事業内容も魅力があるのに可視化できておらず、世間からあまり認知されていなかったんです。メドレーのことを知ってもらえれば、状況は必ず変わっていく。そのために最適なコミュニケーションプランを考える必要がありました。

加藤氏は、採用のほかに広報も兼任している。しかし、自身の責務を「採用広報」ではなく、「組織ブランディング」と表現する。

加藤採用ブランディングは、採用のための広報という局所的な印象を受けませんか? わたしからすれば、メドレーの魅力を可視化して広く届ける、その中の一つに採用があるイメージです。採用だけを視野に入れていると、どうしても厚みのない表面的な取り組みにとどまりがちです。もっと会社全体の魅力をさまざまな視点から掘り下げていくべきだと思うのです。

組織ブランディングに取り組む上では、ミッション・ビジョンをいかに体現していくかが重要になる。医療分野が抱える大きな課題に立ち向かうために、メンバーが同じ方角を向いていることが必須だからだ。会社のストーリーを社外へ伝えるとき、「未来志向」と「凡事徹底」がメッセージの核となった。

加藤医療の課題をITで解決するといっても、もちろん簡単ではありません。医療という命に直接関わることに取り組む以上、安全性を最優先に考えつつ、さまざまなステークホルダーと協調しながら進めていくことが大切です。メドレーはただなんでもアグレッシブに挑戦するスタートアップではなく、長期的にじっくりと課題に向き合う会社であることを認識してもらいたかったのです。

メドレーが発信する内容は奇をてらっていない。尖ったメッセージを発信する方法もあるだろうが、無骨で真面目な姿勢を押し出していくため、どれも正統派の内容ばかりだ。

また、全体は個の集合体であるからこそ、個人が日々の仕事の質を高めることで、組織としての大きな成果に繋がっていくと加藤氏は伝え続けている。その姿勢をメンバーに理解してもらうために、経営層が実感を込めて自分の言葉で伝えられるキーワードとして「バリュー」を設定する必要があった。それがメドレーにとっては「未来志向」や「凡事徹底」だった。

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組織は人格のようなもの。複数の連載で人格の深みを表現

社内のビジョン・ミッションを社外に語るための手段として、メドレーではいくつかの連載コンテンツを展開している。現在は7つの連載を展開しながら、外部メディアでの露出も狙う。

複数のコンテンツを並行して展開する理由は、「組織は多面的である」からだ。経営層、広報、エンジニア……それぞれが異なるバックグラウンドを持ち、幾重にも重なる価値観が積み重なっているのが組織だ。それらを一つの器に無理に詰め込んでいくわけではなく、それぞれを並列させる形でさまざまな切り口の連載が次々と生み出されていくことが、メドレーという会社の「人格の深み」を純度高く映し出すことにつながる。

例えば、「私がメドレーに入社した理由」シリーズでは、Wantedlyのフィード機能を使い、社員それぞれが自らの動機や仕事への思いを綴っている。連載第1回となる加藤氏の「ぼくがクックパッドを辞めてメドレーに入った7つの理由」を皮切りに、「厚生労働省の医系技官だった私がメドレーに入社した3つの理由」「元タカラジェンヌの私が、第二のステージにメドレーを選んだ理由」など、「○○な私がメドレーに入社した理由」というフォーマットが目立つ。

登場人物の選定も、採用チームの仕事だ。現場からの採用要件に合わせて、それを体現するメンバーに顔出しでの発信を依頼しているそうだ。「○○な私がメドレーに入社した理由」は、社員自らが筆を執る。広報や外部のライターではなく社員が書くことで、その人の想いが文章に載りやすく、人柄も伝わりやすいと考えたからだ。

加藤コンテンツを確認する際に、文章を大幅に直すことはありません。チェックするポイントは、メドレーとはどのような会社なのか、どういった価値観を大事にしているのか、などの空気感が記事から伝わるかどうかです。

加藤最初は、当時Wantedlyさんにいた友人から『フィード機能を追加するから使ってみてよ』と言われたのがきっかけでした。ちょうどコンテンツの発信を進めていこうと思っていたので、「ここで書いてみよう」となり、その流れがやがてほかのメンバーにも広まっていきました。発信で気を付けているのは、雰囲気が伝わること。必要なのは、笑顔とその人自身の言葉です。

メドレーでは、採用要件の定義から実際の選考までを、基本的には各ポジションのマネージャーが担当する。採用チームは、「誰に、どういうメッセージで、どのようにアプローチするのか?」を設計していく。

加藤採用を人任せにするスタートアップは伸びないと思っていて。自分の部下を自分で採ったという意識を持ってほしいんです。マネージャーが採用要件を決めたら、その層に対するアプローチ方法や、コンテンツとして何を打ち出すべきか、を設計していく。加えて、全体感のチューニングを採用チームで行っています。

入社理由ブログでは、書いた本人がSNSで進んでシェアしてくれる。アクセスの多いものでは約10万PVをたたき出したものもあるという。2017年末には、採用広報の成功事例として「WANTEDLY AWARDS 2017」のFEED賞に選出された

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ストックされたコンテンツは、会社の助けになる

発信を継続することで、コンテンツに注力することのメリットも整理されてきたという。

加藤メルカリを受ける人はほぼ100%『メルカン』を見ているそうです。メドレーは調査こそしていませんが、入社理由ブログも100%に近い割合で見てくれている肌感覚があります。こちらから情報を出しておくことで、応募者の中でも事前に価値観の擦り合わせができるからか、選考の直前キャンセルがかなり減りました。

候補者向けの意識醸成ツールとしての役割のほか、人材紹介エージェントに対して「欲しい人材像」を共有するための資料としても効果を発揮している。入社理由ブログのコンテンツを再編集してKeynoteなどに落とし込むことで、社内コンテンツの二次利用とは思えないほどの立派な資料が完成する。

その他、エンジニアの平木聡氏がインタビュアーとなり、ざっくばらんにメンバーとの対談を行う「メドレー平木の『気になるあの人に聞いてみた』」や、オフィシャルブログで広報チームが展開する「週刊メドレー」、広報(採用)チームによる「土曜日に読むメドレー」を展開。

「土曜日に読むメドレー」では、広報や採用の取り組みで得た知見や、メドレー社内で起こった裏話を積極的に発信する。加藤氏も発信者の一人だ。加藤氏は、各採用媒体の反応、Wantedlyの返信率を上げるコツといった、通常ならば内部に秘めておきたい情報を惜しみなく公開する。そうすることで、かえって自分のもとに情報が集まってくる実感を得ているという。

加藤メドレーでは、人格の深みを7つのブログで表現しているんです。入社理由シリーズに登場するメンバーは、特徴的なキャリアの人も多く読みごたえがある反面、『特別な経歴を持った人じゃなきゃ入れないのでは?』とも思われがちです。

その分、土曜日に読むメドレーや平木のコーナーでより身近に感じてもらえるような『人間味』の部分を打ち出す。なぜなら、人が人を知り、好きになるプロセスは、直線的ではないと思っているからです。かっこいい部分もあれば可愛い部分もあるのが、人間ですよね。

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会社の顔となるアイコンの売り出し

加藤氏がメドレーにジョインしてから、コンテンツ拡充のほかに行ったことがある。それは、共同代表・豊田剛一郎氏のメディア露出だ。

豊田氏は特異なキャリアを持つことでも知られている。東京大学医学部卒業後、米国で脳神経外科医として働き、マッキンゼーへ転職。2015年にメドレーの共同代表に就任している。

メドレーの認知度を上げていくタイミングで、加藤氏はアイコンが必要だと考えた。医師と外資系コンサルというキャリアを持つ豊田氏が最もキャッチーな存在だった。

会社の知名度がそれほど高くなかった当初は、豊田氏と著名人との対談を設定。一例として、2017年1月にはロンドンブーツ1号2号 田村淳氏のラジオに出演したり、同年3月にはダイヤモンドオンラインで堀江貴文氏と対談するなど、医療の未来について語る企画を実施している。

外部メディアでの露出も増えてきた2018年1月には、豊田氏が自身のキャリア観や医療に対する情熱を書き下ろした自著『ぼくらの未来をつくる仕事』を上梓した。会社や事業の広報にも効果を発揮したが、この出版は、採用活動でも狙いがあったと加藤氏は語る。

加藤メドレーに入社してくれるメンバーの保護者の方に、少しでも安心してもらえるように、という思いも込めていたんです。いわゆる一流企業を辞める決断をしたり、地方からわざわざ上京したりするとき、入社先が名前も聞いたことがない会社だと保護者の方としては当然に不安です。スタートアップ企業だからこそ、ご家族の安心感を大切にしたかった。

本というのは、手触り感を持って伝わり、書店にも並ぶもの。インターネットだけの世界から一歩外に出る発信、本という媒体に安心感を覚える方に向けた発信という位置付けでした。会社が一回り大きくなっていくために、そして首都圏から全国に影響範囲を拡大するために、必要なプロセスだったように思います。

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採用広報は「対外」だけじゃない

メドレーは、外部への情報発信と同時に、社内向けの情報共有も行っている。メンバーが270名ともなると、名前を知らない人の存在が出てくる。そのため、全体会議で積極的に採用状況を共有し、全社的に採用への関心を高めるようにしている。

例えば、リファラル採用で決まったメンバーが入社すると、「○○さんの前職の同僚である●●さんが入社しました!」と紹介をする。関係性を示すことで、知人を紹介しやすくなって、心理的ハードルを下げる働きを持つ。また「今月、特に注力しているポジション」を公開し、自身の周囲で紹介できそうな知人がいないかイメージをしてもらう。

しかし、それらの取り組みもあくまで「手段」の一つだ。

提供:株式会社メドレー

加藤いろいろな取り組みをしていますが、本質的には良い会社になることが全てだと思います。プライベートの友人に、会社を紹介するのは心理的なハードルも高いはず。まずは魅力的な会社になることが大前提。自分たちが必要とされているのを実感することが、事業そのものへの情熱を注ぐことになります。

その上で、いかにハードルを取り除くか、いかに鉄の熱いうちに声を掛けるかといったソフト面での施策が活きてくるのです。

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情報発信は、投資価値の高い“GIVE”

加藤氏の入社から2年足らずで、メドレーは認知度を高めた。情報発信、メディア露出、インナーブランディングなどの施策を実施するが、目標への到達率はどのように測っているのだろうか。

メドレーは採用と広報の領域において、KPIを設定していないという。目に見える数字より、空気感を大切にしているからだ。応募数や露出の広告換算といった切り口はあったとしても、あくまで参考値としてみるにとどめている。

仮に、応募数が5人だった場合、一般的には少ないと思われるかもしれない。だが、メドレーにとって最良の5人にアプローチして採用できれば、その数字の価値は変わる。

加藤氏は、かつてのメドレーと同様に、採用や情報発信に悩むスタートアップに対し、このように提言する。

加藤手段から入らないことです。メドレーは個性的なメンバーが魅力なので入社理由のブログが支持されたけれども、全ての会社にこの方法が向いているわけではありません。そもそも、発信と相性が良くない会社もあります。中身がない状態で表面だけをすくっても、あまり意味はないと思っていて。それなら発信する前に、まずは事業を育てることに集中したほうがいいですね。

世の中に出ている表層的なものに惑わされず、自社の魅力の分析に時間を割くこと。自社の哲学、メンバーの特性、市場環境、事業の分かりやすさ、KPIの状況、ユーザーの気分──自社の現状を理解するためのヒントはあちこちに転がっている。

メドレーの強さの秘訣は、それらをかみ砕き、社内に価値観を浸透させ、実行を続けることにあるだろう。そして、情報発信を投資と考えている点も特筆すべきだ。発信というGIVEの継続は生半可にはいかない。コンテンツがなくとも事業は回る。しかし、発信すればリターンも大きく投資価値が高いことを、経営層もメンバーも理解している。

「伝える」のは難しい。しかし、伝わったときの大きなパワーを得たいのならば、粘り強く続けるしかない。そして、本質とは何かに目を向けること。その先には、組織の価値をさらに増進してくれる、力強い新メンバーが待っているだろう。

[文]ニシブ マリエ
[撮影]藤田 慎一郎

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