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“広く浅い学問”MBAを確かなスキルとするために…三谷宏治「働きながら国内MBA」のススメ

国内MBA3校(K.I.T.虎ノ門大学院、早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院〔2017年3月まで〕)で教鞭をとる三谷宏治...
国内MBA3校(K.I.T.虎ノ門大学院、早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院〔2017年3月まで〕)で教鞭をとる三谷宏治氏は、その肩書に反して、いや、その経験があるからこそ、「MBA=スキルアップ、キャリアアップ」という信仰に疑いの目を向けている。
特集 MBA再考
目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。
17-08-03-Thu
三谷 宏治(みたに・こうじ)
K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授

国内MBA3校(K.I.T.虎ノ門大学院、早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院〔2017年3月まで〕)で教鞭をとる三谷宏治氏は、その肩書に反して、いや、その経験があるからこそ、「MBA=スキルアップ、キャリアアップ」という信仰に疑いの目を向けている。

自身はボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)時代に社費留学(東京オフィス第1号)という形でINSEAD(インシアッド)仏・フォンテーヌブロー校でMBAを取得。国内と国外、MBAを取り巻く異なる環境を知る彼に、MBAに対する考えを語ってもらった。

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INSEADで“世界はバラバラ”と学んだ

実はBCGではMBA取得が必須だったわけではなく、三谷氏は社費留学が決まった時点ですでにアソシエイトからコンサルタントの地位に昇格していた。それでもキャリアを中断しての海外留学を決めたのは、ご本人曰く「One Year Vacation」を過ごしたかったから。なるべく広い世界を見てみたいという思いが強かったため、留学先は米国でなくフランス。ヨーロッパの他国に、もっともアクセスしやすいからだ。

「それにINSEADは、非常に多様な国籍の学生が集まるところが特長で、当時すでに38カ国から学生がやって来ていました。フランスにあるのに、フランス人は10%もいないんです。だから、1年通うだけで世界中に友人ができました」

そんな環境で学んだのは、“世界はひとつではなくバラバラ”ということだった。多様なバックグラウンドを持つ学生が在籍する同校ならではの授業だが、まず基礎を習った上で、しかしイギリスでは違う、アメリカではもっと違うと“世界中、環境もルールもこんなに違う”ということを教えられたという。また、グループワークも印象深いものだった。前半は学校側がメンバーを指定していたのだが、そういうときは文化的衝突が最大限に起こるような組み合わせになっていた。

「だから『船頭多くして船、山に登る』どころか、“空を飛ぶ”くらいの状況になっちゃう(笑)。お互い『自分は優れているのだと認めさせたい』という欲があるし、人種も文化も多様な中でぶつかり合ってへとへとになるんですが、次第に相手の能力を認められるようになっていくんです」

互いの能力を認められるようになると、作業は自然と効率のいい分業制をとるようになっていった。それぞれ常識が違う中でいかにアウトプットしていくかという課題に必要なのは、まずは認め合い、そして個人的な友だちになること。それが海外MBAによって、三谷氏が得た実感だった。

俯瞰の見方をMBAで獲得

繰り返すが、三谷氏はBCGにおいて、クライアント企業の経営戦略コンサルティング業務のすでに中核メンバーだった。MBAで新たに学ぶことはあったのだろうか?と質問してみると、彼はなんと「ない」とキッパリ答えた。しかし、経験の中で獲得していったバラバラの知識が体系化されたのは、非常に価値あることだったという。MBAに対して、三谷氏はショッキングな指摘をする。

「MBAは、ものすごく広く浅い学問なんです。マーケティング、会計、経済、生産、人事といった、それぞれ習得するのに何年もかかる学問領域を1年や2年でサラッと学ぶものなんですから、学問と呼んでいいのかもわからない。でも、MBAを学ぶ中で、広く浅くではあっても、『経営全体を俯瞰する』という貴重な経験ができます。それはふつうに働いていては、なかなかできないことなのです」

三谷氏は、自らの経験や知識が体系化されたことは、他人に知識や意見を伝えるとき非常に役立つと語る。まんべんなく全体を理解しているから、人に伝えられるということだろうか?

「まんべんなくというより、俯瞰には“高さ”があるわけです。蟻がゾウの周りをグルッと回って『全部知っています』と言うのではなく、鳥の視点なんですよ」

彼は、会社経営について、マーケティングや商品開発など、さまざまな要素が重なり合った“ピラミッド”のイメージとして捉えている。そのピラミッドの頂点に据えられているのが、ビジョンだ。ピラミッドを俯瞰で見て、ビジョンとその他全体に整合性がとれているか考える──。そのような視点を獲得できるのは、MBAの価値のひとつだという。

“働きながら国内MBA”の長所

核心的な質問になるが、現代の若いビジネスパーソンにとって、MBAは必要なものだろうか?

「学位として必要かと言ったら、多くの人には必要ないでしょう。一部の外資系では、持っていると採用面接に呼ばれやすいとか外国人上司と会話がスムーズになるということはあるでしょう。でも日本企業で普通に働く場合にはほとんど必要ない。MBAを取得したから、何かが大きく変わるというわけではありません」

なんとなくMBAを取得してみた人が、周囲からの扱いも変わるだろうと期待していたら、まったくそんなことはなくて落胆した……という話もよくあるとのこと。MBA取得には“明確な目的意識”が必要だと訴える。

「INSEADのほとんどの学生たちは、明確なキャリアプランを持った上で、ステップとしてのMBAの位置づけもハッキリさせていました。一方、日本人の多くは、『このままでは将来つぶしが効かない』という漠然とした不安感でMBAに行くんです。MBA学位を取ることで先がもっと広がるはず、能力が高まるはず、と」「基本的な経験や能力ある者が一生懸命やれば、学位はとれます。単位さえ落とさなければいいから。でもそれだけじゃダメなんです」

自身は海外でMBAを取得したが、現在は「学んだことを即実践できる」という点で、“働きながら国内MBAに行く”という選択に価値を感じている。彼の教え子だったコンサルタント志望の20代男性は入学後、コールセンターの平社員からグループリーダー、事業企画とキャリアアップしていき、その後転職して本当にコンサルタントになってしまった。彼が夢を実現させたのは、現場に身を置きつつ学んだことを即使うというのを必死に繰り返したから。実践を繰り返してこそ、広くて浅いMBAというものが、確かなスキルとして見に付いていくのだ。三谷氏は、グローバルキャリアとして明確に意味づけられる自信があるなら海外MBAも良いが、多くの場合働きながらの国内MBAがいいだろうと勧める。ただし、「実践を繰り返すなら」だ。

「もちろん国内MBAもいろいろです。教授と接する時間を多く取れるのか、自分のテーマを追究できるのか、ちゃんとゼミがあるのか。そういう点をしっかり調べて良い選択をして貰いたいと思います。なにせ高額(200~300万円)かつ大量の時間投入が必要で、しかもふつうはひとつしか経験できない特殊な商品ですから(笑) 慎重に選んで、全力で学びましょう。そして実践を通して学びをスキルにすれば、必ず新たな道が拓けると思いますよ」

MBAは“どう利用するか?”が問われるものであって、けっして「MBA=成功」のような安易な方程式は存在しない。MBAの内部の人間だからこそ、三谷氏は厳しい言葉を投げかける。明確なビジョンや実践によるスキル化がないまま取得して、無用の長物にしてしまわないために。MBAを少しでも意識している人は、自分のキャリアビジョンを今一度見つめ直して、本当に必要なステップなのか考えてみてほしい。

MBA再考

目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。