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「MBAは起業には必要ない」元官僚・エフマイナー森田博和CEO

経済産業省時代、国費留学でアメリカ・シカゴ大学ブースビジネススクールにMBA留学をした森田博和氏。エリート官僚という地位を退き、なぜ起...
経済産業省時代、国費留学でアメリカ・シカゴ大学ブースビジネススクールにMBA留学をした森田博和氏。エリート官僚という地位を退き、なぜ起業したのか。その決断にはMBA取得が関わっているのか。
特集 MBA再考
目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。
17-08-04-Fri
森田 博和(もりた・ひろかず)
株式会社エフマイナー CEO

経済産業省時代、国費留学でアメリカ・シカゴ大学ブースビジネススクールにMBA留学をした森田博和氏。エリート官僚という地位を退き、なぜ起業したのか。その決断にはMBA取得が関わっているのか。

起業したくて行ったわけではなくそのプロセスを学びたかった

現代アートのオンラインレンタルサービス「ClubFM」や、手軽にVRコンテンツの制作、編集、管理が可能なクラウドソフトウェアを展開する「3D Stylee」など、革新的なサービスを提供するFm(エフマイナー)のCEO森田博和氏。

MBAホルダーとなって起業家へと転身する前は、経済産業省の内閣官房宇宙開発戦略本部事務局で宇宙開発に関する仕事に従事していた。そんな彼がMBA留学を決めた理由は、経済産業省の仕事の中の1つでもあるスタートアップのサポートだ。

サポートしていく中で、アントレプレナーシップについて自身の中で深掘りし、起業するためのプロセスを学ぶという面に興味が持ったという。しかし、「そのときは起業しようという気持ちは全くなかったですね」と振り返る。

国家公務員の海外留学は選抜試験こそあるものの、望めば比較的行きたいと思う人は行ける環境になっており、渡航年齢は30歳前後が最も多かった。その理由は、その年齢を超えると外交官として海外に行くことのほうが多くなるからだ。

また、留学はMBAという選択肢以外に国際法を学ぶ目的など、パブリックなもののほうが多いそうだ。そんな中にあってなぜ彼はMBA留学を選んだのか。

「エンジニアリングやパブリックの分野にいたので、いろんなものを体験したいという意味で、違う切り口でビジネススクールのほうが学びが多いかなと思ったんです」

シカゴ大学在学中の起業、卒業前の悩み

卒業後は経済産業省に戻ることを前提としたMBA留学だ。スクールの授業に通う中、周囲はリクルーティングなどに励み、森田氏はどこか物足りなさを感じていた。そんな折、彼が起業を考え始めるキッカケとなったことがあった。それはシカゴ大学の名物授業と評される、「ニューベンチャーチャレンジと、アクセラレータープログラムに参加できたこと」だ。

授業で実際に事業プラン立ち上げを経験していくことで、森田氏の胸の内には経済産業省に戻ることと、起業して事業を作ることとの間に悩みが生まれた。

「会社を作るってことも(経済産業省に)戻るつもりの前提でした。だから会社を作っても綺麗にして戻れるように考えながらやっていました。独立しようって気持ちはなかったですね。だから(起業を)いつ決めたかというと、卒業1ヶ月前なんです。もちろんその前から悩み始めてましたけど」

国費留学、つまりは税金での留学ゆえ、経済産業省に戻らないという選択をすると1000万円近い借金としてのしかかってくる。しかし、それを肩にのせてでも森田氏は起業の道を選択した。

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MBA留学をきっかけにパブリックが越えられない壁を感じた

森田氏は、経済産業省の仕事に不満を感じていたわけでもなく、やりたいことができる環境にあったという一方で、どんなに頑張ってもパブリックという役割の中では、“壁を越える、何かを変える”ことができない壁があることにもどかしさを感じていたという。

「スタートアップのコミュニティーの中にいると、小さくても0から1になる、物事を変えるということがあまり特別なことじゃないという感じがしました」

日本国内では、“起業する=すごい人”という単純なイメージによって作られた等式があるが、これは正しい表現ではなかったのだ。もちろん起業家の中にはすごいと言われる人はたくさんいるが、アメリカでは起業する人々の多くは“普通の人”なのだ。

日本では起業に失敗すると終わりというイメージがいまだに根強く残っているが、それは単純に失敗を恐れているだけなのだ。

「起業して2-3年で失敗しても、その失敗も含めてちゃんと評価してもらえるから、その後就職したければすればいい。(留学中の友人は)そういう感覚で言っていて、それってすごくいいなと思って。『失敗しました』がプラスになるという感覚を持ってるって、やっぱり違うと思うんですよね」

身近にリアリティーを感じ、起業を実際に体験することで彼は経済産業省には戻らず起業する道を選んだ。

アート、バーチャルリアリティーの分野で起業した理由

先述した通り、森田氏は経済産業省時代は宇宙開発の分野に従事し、自身も航空宇宙工学修士を持つ身。しかし、起業で挑んだ分野は現代アート領域とVR(バーチャルリアリティー)領域だった。

「単純に好きな分野なんです。現代アートとかが好きで、でも問題意識のある分野でした」

と理由について話す。もちろんゆくゆくは宇宙に関する事業をやりたいと考えているが、まだそれはぼんやりとした域を出ていないらしい。

また、現事業分野はこれまで培ってきたキャリアを無駄にしていないことも強調する。特にVRの領域が一般への認知が高まったのは2016年を境とするが、宇宙分野ではそれまでにも利用されてきた分野であり、彼には知見があった。そしてVRでアートが空間に残せるようになったというタイミングもピッタリだった。

現在エフマイナー社では、ブラウザーベースでVRコンテンツを制作、編集、管理できる“どこでもかんたんVR”を謳うサービス「3D Stylee」の開発に力を入れている。

今年2月にはニコンのコーポレートアクセラレータープログラムで最優秀賞を受賞。7月24日には従来のVRヘッドセットとは一線を画する持ち歩きスタイルのスマホ用VRグラス・3D Stylee「カセット/Cassette」の販売も事業者向けにスタートさせた(発送は9月予定)。手のひらサイズに折りたため(W6.2×H6.2×D1.7cm)、スマホに簡単にセットできるデバイスだが、その展開構造に宇宙工学の技術を応用していると自信をのぞかせた。

スマホ用VRグラス・3D Stylee「カセット/Cassette」

MBAはそれだけでは意味をなさない。ただし多くのキッカケを与えてくれた

MBA取得は実際のところ自身の役に立っているのかを問うたところ、「物作りをしている現状では意味をなさない」、とキッパリそう答えた。ただ、「起業する上で大事なマインドセット、これまで学んだ悪い癖を捨てる、unlearnするという点では直接的では無いけど活かされている部分はあるだろう」という。

また、まったく役に立っていないわけではなく、まだ同社がそのフェーズに立っていないから役立てることができないと言ったほうが正しいだろう。

MBA留学をキッカケに起業を選択した森田氏が思う最大の魅力は、リスクフリーな状況で新しい選択肢やオポチュニティーが見られることだという。結果的に就職を選択するにしろ、起業するにしろリスクフリーに可能性を探れる機会が多くあると語る。

また、学び舎で学んだこと以上に縦横のつながり、特殊なコミュニティーの中にいられる、様々な人々との繋がりや、それを広げる機会を得られることも魅力だという。

「内容だけなら日本でも学べますからね」

ただし、最後にこうも付け加えた。

「MBA留学の先に起業があるのであれば行く意味はないですよ。とっとと起業した方がいいですから。弊社の規模ではまだMBA取得者は必要ないですし。MBAの知見は起業には必要ありません」

すでにやりたいことが決まっているのであれば、同じ2年を学びに費やすのか、それともやりたいことに費やすのか。時間の使い方をしっかりと考える必要があるだろう。学費を会社設立資金にすることだってできるのだから。

MBA再考

目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。