NECが育成するデータサイエンティストのキャリア的魅力に迫る

インタビュイー
孝忠 大輔
  • 日本電気株式会社(NEC) AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長 

大学院での環境工学分野の研究にデータ分析を実行した経験などもあって、アナリティクスの可能性を追求していける場としてNECを選択。2003年に新卒入社した後は、データマイニングやビッグデータなど時代ごとに変化する要請にも対応しながら、リアルな事業にデータ活用の持つ力を反映させてきた。2018年、NECグループのAI・アナリティクス人材育成を統括する「AI人材育成センター」のセンター長に就任。2019年から開始した「NECアカデミー for AI」では学長を務める。また、一般社団法人データサイエンティスト協会のスキル定義委員として「データサイエンティスト スキルチェックリスト」や「ITSS+データサイエンス領域タスクリスト」を作成すると共に、内閣府AI戦略2019に基づく数理・データサイエンス・AI教育のモデルカリキュラム作りにも携わる。

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「DX」や「第4次産業革命」といったバズワードとともに、データドリブンによる変革到来への期待が膨らみ続けている。

そんな中、日本電気(以下、NEC)がリアルな現場で実績を重ね、同時に若手を中心とした次世代人材を続々と育成・輩出している。この事実については、昨年のシリーズ記事でも紹介した通りだ。

そこで今回は「NECアカデミー for AI」で学長を務めている孝忠大輔氏を取材。同社のデータサイエンティストの育成状況や、今後に向けた展望などを聞いた。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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データアナリティクスが注目を集め始めて約10年。データの「蓄積」から地位を確立したのがNEC

今となっては、データの解析や活用を実行するためのプロジェクトにコンサルティングファームやシステムインテグレーション系企業が携わることを不自然に感じる者などいないだろう。

だが、ほんの十数年前まで企業が「データ」に着目をした時の「相談相手=専門機関」は違っていたのだと孝忠氏は語る。

孝忠例えばマーケットリサーチを専業にしている企業や、シンクタンクなどが「データ」のエキスパートだと思われていたんです。

実際、当時からNECのようなSI企業や国内外の大手ITベンダー等は、クライアント企業に向けてシステムの構築や多様なソフトウェアの実装といったサービスを提供していました。

そうした仕組みを通じてお客様は様々な事業や業務で発生するデータを蓄積し、活用していたわけですが、今ほどデータが持つ価値に注目する傾向は強くなかったんです。

潮目が変わったのは2000年代に入ってから。ちょうど孝忠氏がNECに入社した時期だ。「データマイニング」がバズワード化し、“経営資源としてのデータの価値”に一躍注目が集まったのである。

さらに2010年代に入ると今度は「ビッグデータ」や「データアナリティクス」もバズワード化。特に大企業にとっての相談相手はNECをはじめとするSI分野に強みを持つ企業や、IT分野での優位性を伸ばしてきたコンサルティングファームへと推移したという。

一般社会に散在する構造化されたデータをクライアントが欲する目的のもとで収集し、その活用を考えていく局面のみであれば、従来のリサーチ系企業に強みがある。

また、例えばマーケティングなど、特定領域でのデータ活用だけに終始するプロジェクトであれば、広告代理店やマーケティング専任組織が強みを握る。

だが、ビッグデータ時代の到来以降、事業会社が注視したのは「自社が保有する構造化されたデータのみならず、非構造化データまで含めて活用していく」という点である。

そして、データ活用の目的も「継続性を伴うイノベーション」へと変化した。以上の移り変わりを経て到達したのが今の状況というわけだ。

孝忠事業や業務を通じて発生する膨大なデータを高度に繋ぎ合わせ、ビジネスの現場に届ける役割を担っていたのは我々SIerのような企業ですから、お客様が大量かつ多様な技術を活用しようと本気で望み始めた時、役に立てる存在として認識していただいた。

同時にNECだけではなく、企業システムの構築や活用を担っていたITベンダーもまた「データ活用の可能性を拡大する」べくチャレンジを開始。双方の動きが相まって現在の状況が生まれたのだと私たちは捉えています。

競合する企業との差異化において、NECが頭一つ抜けだした要因は前回の記事で本橋氏が指摘していた通り、「課題解決実績における幅の広さ」であり「顧客企業との信頼関係の厚さ」だと孝忠氏も語る。

例えばクライアント企業が新規事業を模索するケースでは、そのためのITシステムを構築すると同時にAIやマシンラーニングなどの技術も必要に応じてそこに導入していく。

企業が何か変化を起こそうという時は、必ずと言ってもいいほどシステムが絡み、データ活用を望む場合にはそのシステムとの連動が不可欠になるため、NECには日々、現場で得たノウハウが蓄積され、それがまた新たな挑戦に活かされるというわけだ。

では、実際にはどのようにデータサイエンティストの育成を進めているのだろうか? これまでの取材でも断片的には聞かせてもらってきたが、孝忠氏は社内・社外双方へ向けて2019年に開設されたNECアカデミー for AIの学長である。改めてその詳細を聞くことにした。

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「分析の専門家」が集うチームで学んだあとに、「顧客の課題解決」をするチームに再配置

テクノロジー系の企業に限らず、昨今ではマトリクス型組織を採用するところが珍しくない。

従来から多く用いられてきたタテ割り組織の場合、扱うプロダクトやサービス、つまり業界や事業ごとに人員が分けられチームアップしているわけだが、これら各部門には共通して用いる機能や技術も存在する。

そこでタテ軸組織を横断する格好で、これら機能別組織をヨコ割りするかたちで設け、タテとヨコの効率的な連動で収益などの効率を上げていく。

これがマトリクス型組織のよくある基本形だが、近年では部門横断でなければ実現しない事業に取り組む企業も多くなり、タテ軸部門とは別次元の活動をするチームも生まれている。

他方、ヨコ軸組織が担い、高めてきた専門性そのものが新たな事業として成立するようなケースも出てきており、ひとくちでマトリクス型といっても各社それぞれに異なる思想で構築されているのが実態だ。

NECのデータサイエンティストの育成も、幾多の変遷を経て今の形になったのだと孝忠氏は言う。

孝忠NECも以前はタテ割りの組織が中心でした。大雑把にいえば、BtoB事業においては向き合う業界ごとに部門が存在し、それぞれのメンバーがそれぞれの業界の企業からの案件に携わる形だったんです。

しかし、先ほども説明したようにほんの十数年の間に、多くの産業が一気に「データ活用」による効率化や業績向上を目指すようになっていく中で、多くの部門がほぼ同時にこの領域での専門性を必要とし始めました。

NECでは早い時期からAIやデータサイエンスの最先端技術を追求していく機関として研究所を持ち、ここで高度な技術や理論を扱う研究者が育っていました。

一方でダイレクトに企業個々の事情に柔軟に対応しながら、最適化した形で顧客に貢献していくには、高度で専門的な要素技術や理論をリアルなビジネスに当てはめ、社会実装していくための別の人材が必要になる……この見通しに基づいて、従来のタテ軸部門とは別の横断型ヨコ軸部門を設けることになりました。

それが今日の「AI・アナリティクス事業部」へとつながっていったのだという。

孝忠氏自身も、まさに「先端技術をリアルな事業ラインに活かしていく人間」として、製造業や流通業のマーケティング領域を得意分野としながら、様々な企業のプロジェクトにアサインされ、データ活用部分で成果を上げてきた。

孝忠節目は2013年から始まったビッグデータ解析のムーブメントです。

あらゆる業界のお客様から怒濤のように要望が集まるようになり、「単に要望に応えていくだけでなく、本腰を入れてデータ分野に通じた人材を育てていかないとNECという組織自体が回らなくなる」という危機意識が高まったんです。

統計学やアナリティクスに関する専門知識を教える学科が何十年も前から存在していたアメリカ、あるいは国策としてデータサイエンスやAIに特化した人材の育成を徹底的に行った中国と異なり、日本にはミドルエイジはもちろん、若手人材の中でも基礎を学んだ経験を持つ者がほとんどいない。

それが米中と比較した時、日本が圧倒的な出遅れを招いてしまった要因の1つなのだが、そんなことを嘆いていても状況は改善しない。

「とにかく自社で0からデータアナリティクスがわかる人材を育てなければ」という危機感から、AI・アナリティクス事業部をベースとした全社レベルの研修制度や育成カリキュラムが作られ、動き出した。

孝忠データアナリティクス案件では、タテ軸部門とは別の組織として活動することもありますが、むしろタテとヨコが連動する形で協力し合う場面のほうが多い。

それならばこのヨコ軸部門がタテ軸部門の人材を少しずつ預かり受けて、データ分析専門家の下、実際に社内で動いているプロジェクトに参画させることで実践力を身に付けさせる。

1年間のOJTを経て、一定の水準まで成長した段階で、その人材を再びタテ軸部門に再配置していく、という組織的な育成サイクルを開始しました。

座学、ケーススタディ、現場での実務体験に加え、全社員対象のデータサイエンスコミュニティなども稼働。

タテとヨコを往き来するジョブローテーションを活用する者もいれば、AI・アナリティクス事業部専任メンバーとして成長する者、さらには研究所などで尖った領域に関わる人材もいるという、他社にはない懐の深い人材育成のエコシステムが回り始めた。

「数多くのデータサイエンティストを育てるといっても限界がある」という考え方が定説のようになっている今、NECで続々と若き人材が育っている背景には、こうした柔軟でリアリティのある育成戦略を全社あげて取り組んでいることが関係しているはずである。

だが、例えばグローバルな巨大ITベンダーや日本でも人気のITコンサルなども、データサイエンスに特化した育成プログラムを実施している。違いはどこにあるのか?

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1年間じっくりと「分析」の専門家から学びつつ、最先端の研究にも触れられる環境はNECだけ?

孝忠NECだけが特別だ、などとは言いません(笑)。データ活用が伴うプロジェクトで活躍できる人材を育てるため、競合各社も独自のプログラムを実施しているようです。

ITやデータサイエンス分野で、いわば「秘伝のタレ」とでも呼べる技術ノウハウを保有しているところなどは、それを社員たちに伝授する仕組みを保有しているでしょう。

しかし、私が知る限り、その多くはある程度固定化されたカリキュラムを数日〜数週間程度で研修等を通じて学ぶレベルにとどまっています。

それらとは全く異なり、NECでは1人の社員の教育に原則として最低でも1年をかけます。現場での体験を盛り込むとなれば、個々のプロジェクトは短くても3〜4ヵ月かかります。

1度の体験で身につく学びでは効果が薄いので、3〜4つのプロジェクトに参画するとなれば、単純計算しても1年はかかってしまうわけです。

また、もともとの部門からAI・アナリティクス事業部に派遣された人材以外の社員も、AI・アナリティクスに特化したサンドボックス(開発環境)、つまり「砂場」で遊ぶことができます。

孝忠氏が砂場と呼んだ場は、NECのシステム内に設けられ、希望社員に公開されているサイバースペース。同社研究所などが把握している最先端のツールやアルゴリズムに自由に触れられる場となっており、現状4500人もの社員が登録しているという。

さらに情報や意見を交換するためのコミュニティも設けられ、ここには5300人が参加しているというのだ。

「砂場で遊ぶ」とはつまり、日々のルーティーンとは関係なく、誰もが空き時間などを利用して、最先端のデータ活用の世界を味わい、これをテーマに社員間で交流ができるということだ。

孝忠先ほども申し上げましたが、NECは実に幅広いお客様とともにデータ活用のチャレンジをしています。

国内有数の案件数と多様性がある中、その現場を「道場」としても活用していけるチャンスがあること。全社レベルの取り組みであるため、部門を超えて学んでいけること、そして誰もがいつでも最先端の知見に触れられるということ。

以上の条件が揃っているのは当社だけだと、自信をもって言えます。

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時代に合わせて提供価値も変えていく。「本気の育成プログラム」を外部企業にも提供

以上は、NECのAI人材育成センターのセンター長としてのコメント。だが昨年、孝忠氏にはもう1つ肩書きが加わった。NECアカデミー for AIの学長である。

2019年に設立された同アカデミーでは、外部企業の要請を受け、データサイエンティストの育成を引き受けてもいる。

この新サービス開始を見ても、多くの企業から「人材育成力の違い」が評価されていることがわかる。

孝忠繰り返しになりますが、これほど恵まれた成長環境はどこを見ても他にありません。

それを高評価してくださった結果、お客様である企業だけでなく多くのところから「ウチの社員も教育してほしい」というお声をいただくようになり、ついに昨年スタートをしました。

もちろん当社としてみれば、新たな教育サービス事業として確立したい意向があるわけですが、スタートした理由はそれだけではないんです。

孝忠氏は近年の企業との関係性における変化について語る。

データ活用の局面に限らず、DX等の変革を成功させようと本気で取り組む企業が増えた結果、NECのようなパートナー企業とのつながり方について、異なる思想が広がり始めているというのだ。

孝忠昔は、例えば「ITのことはシステムベンダーに任せて、うちの人間はそれを見守っていれば良い」という考え方だったり、「経営戦略のことはコンサルティングファームにやってもらおう」という考え方だったり、つまり専門性が問われる分野は外の集団に任せておこうという発想がどこの会社でも主流でした。

しかし今は違います。「変革や企業成長の鍵を握るような分野については、外に任せきっていてはいけない。自社の人材をきちんと育てて、その上で専門的な集団と共創関係を築いていくべき」という内製を目指す考え方が、浸透し始めているんです。

単純に考えたら、我々のようなサービサーにとって「内製化が進んだら仕事が減ってしまうじゃないか」と捉えがちですが、私たちはそう捉えていません。

理由は2つ。1つはITでもデータ活用でも広義のデジタル領域でも、NECには長年培った技術と知見がある、という自信です。こうした地力があればこそ、今後も継続性をもって多くの企業に期待をかけていただけるという自負があるんです。

もう1つの理由は、お客様にとって最適な共創パートナーになるために、社内で培ってきた人材育成の力を高めてきたし、それが結果として評価され、こうして育成サービスを外向けに始めることにもなった、という事実です。

社内において「タテの人材をヨコの組織が預かり育て、タテに戻していく」サイクルが全社的な水準の劇的向上をもたらしたように、今度は「顧客の有望な人材をNECが育てながら、リアルな課題にともに臨んでいく」態勢を進展させ、独自の強固な共創関係を築いていこうとしているというわけだ。

実際、NECアカデミー for AIに通う外部企業のメンバーは、「1年間、週5日NECに常駐してAIを学ぶ」ということからも、外部企業の育成に対しての本気度も伺える。

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学び始める年齢は関係ない。NECという環境をうまく活用できる「柔らかい頭」をもってほしい

日本政府は、ようやく米中との教育環境の差がデジタル社会における競争力の差につながることに気づき、動き出している。文部科学省が大学や企業とともに新たな大学教育のカリキュラムを策定しようとしているのだ。

この記事が公開される頃には、その概要が発表される予定であり、順調にいけば2020年度からデータサイエンスに関わる学校教育が変わるのだという。

孝忠氏は、この国策としての人材育成にも委員として参画中である。そこで、今後のデータサイエンティスト像について、最後に聞くことにした。やはりデジタルネイティブな若い世代にこそ期待をかけるべきなのだろうか?

孝忠ご質問への答えとしては、半分イエスで半分ノーというところでしょうか(笑)。

まず当社の実情をお話すると、育成強化に着手した当初は「若い人たちに」という観点よりも「各部門のエース級にあえて集まってもらい、彼らを真っ先に育てていこう」という意向で進めたんです。

全社組織のあり方を考えれば、いずれ様々な分野で組織やメンバーをリードしていく人材が、未来を築くデータ活用という領域をきちんと理解しておかなければいけないからです。

さらに言えば、現場で活躍する彼ら自身が新しい可能性に対して誰よりも積極的でした。

私が考える「データ活用人材の最大の条件」は、変化を否定せずチャレンジをしていく柔らかな頭と、そこに喜びを感じる情熱とが共存していることですから、そういう意味でもエース級を最初に育てることに意義がありました。

どんな企業でも、部門を引っ張るエース級人材に新たな挑戦をさせることは波紋を呼ぶ。部門長にしてみれば、エースを育成に持って行かれたくない、と考えるのが自然だ。

だが、NECの育成戦略は全社レベルの課題として実行されてきた。だからこそ「最初はエース」だったわけだが、「柔らかい頭」と「熱い志」という条件にも彼らはマッチしていたというわけだ。

孝忠ITもそうですが、データ活用の領域も常に技術革新が起こっています。

例えば20年近くこの領域に携わってきた私であっても、数ヵ月離れてしまえば、もうついていけなくなる恐れがあるほどのスピードで進化しているんです。

つまり、一度学び始めたからには継続性をもって学び続けなければいけないのが、この領域です。

リーダー格に早期からこの学びの習慣を埋め込んでいくことで、チーム全体が継続的に成長していけますし、彼らを間近で見る若手たちにも大いに刺激になるわけです。

ただし、現状のNECでは若手社員が育成プログラムに参画することが、ある種当たり前のようにもなっている。その背景には「若い世代のほうがより柔らかな頭を持ち、そもそもデジタルというものに親和性が高いから」という面もある、と孝忠氏。

孝忠今日お話をした通り、当社の育成は1年という長期間を前提にしていますし、その後の継続的な学びも考慮していくと、若い世代にこそ不可欠な知見と経験だと言えます。

実際、育成中の者や、1年の育成期間を経て現場に出ている若手社員は、ばりばりと実績を上げてくれてもいます。今後は大学教育なども変革が行われて、基礎的な素養を積んだ若者が社会にデビューする傾向も出てくるでしょうね。

ただ、忘れてほしくないのは、そもそも年齢が若くないと通用しない領域ではないし、若ければ誰でも成長できるほど甘くもないということです(笑)。

結局、問われるのは「柔らかさ」と「熱さ」。もしもその両方に自信があるのなら、年齢は無関係というわけだが、そういう者にとっては、「道場」や「砂場」が整い、全社レベルでの育成戦略のもとで継続的な成長を目指したいはず。

数日や週間の「勉強」だけで通用するほどデータ活用の未来は甘くない。NECにある環境と機会をどう捉えるのか、柔らかい頭でしっかりと考えてみてほしい。

こちらの記事は2020年02月28日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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Presented by

執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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