“資本主義”を置き換えるスキームを探したい。
19歳の起業家たちはトークンエコノミーに社会への希望を託す

インタビュイー
伊藤 和真
  • 株式会社PoliPoli CEO & CMO 

週刊東洋経済 「すごいベンチャー 100」l LCNEM マーケティングアドバイザー l 2018年春に毎日新聞社に俳句アプリを事業売却 l ex- F Ventures , GeekSalon

倉田 隆成
  • 株式会社PoliPoli CTO(サービス開発責任者) 

桜美林高校卒慶應義塾大学在学中。スタートアップ数社でインターンの後、PoliPoliを創業。PoliPoliではCTO、Project Managerとして開発、法律面、トークン設計などをあらゆるものを包括的に行う。

山田 仁太
  • 株式会社PoliPoli CDO(デザイン責任者) 

灘高校卒慶應義塾大学在学中。スタートアップ数社でインターンの後、PoliPoliを創業。PoliPoliではCDO、Product Managerとしてコンテンツやデザイン設計を中心に行う。

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「テクノロジーで国家システムを再構築する」

そんな壮大なミッションを掲げ、トークンエコノミーを用いた政治プラットフォームを開発するのがPoliPoliだ。

2018年5月の資金調達以来、毎週のように新たなリリースを発表している。

CEO&CMOの伊藤和真氏、COO&CTOの倉田隆成氏、CDOの山田仁太氏は全員19歳で大学在学中。

彼らはなぜ政治の分野で勝負をかけるのか、その手段としてトークンエコノミーを選ぶ理由とは。

勢いに乗る若き起業家の頭の中を少しのぞいてみたい。

  • TEXT BY HARUKA MUKAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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非起業家志望の学生が政治×テクノロジーに挑む理由

ポリポリは発言の評価に応じて独自のトークンを発行し、良質な政治議論の場所を形成するアイディアがベースになっている。

資金調達の1週間後にはβ版のデザインを発表。数日後には伊藤和真氏が、大学1年生の頃に開発したアプリ『俳句てふてふ』を、毎日新聞社に事業譲渡した。得られた資金と、空いた開発リソースをポリポリに充てるためだ。7月にはiOSアプリのβ版を公開し、政治のトークンエコノミーの社会実装に一歩近づいた。

‎「ポリポリ」をApp Storeで

ポリポリを開発した伊藤氏と倉田氏は大学1年生の頃から仲が良かったという。「自分たちは周囲から浮いていた」。すでにVCのインターンや俳句アプリ開発に注力していた伊藤氏に誘われ、倉田氏もプログラミングにのめり込んでいった。

2人は大学1年生の秋、アジアのスタートアップコミュニティ「Tech in Asia」が主催するカンファレンスにボランティアとして参加。その懇親会で山田氏に出会う。山田氏は、「伊藤くんは本当にすごいんだよ!」と、倉田氏に熱弁された様子をよく覚えていると笑う。

その後、スタートアップに関するイベントで顔を合わす機会が増えた3人。その頃から伊藤氏は繰り返し政治系サービスの構想を話していたそうだ。

伊藤米国やエストニアでは、スタートアップが国と協力して、政治を変えるサービスを生み出している。一方、日本で成功している政治サービスは少ない。世界で事例があるのに、日本では圧倒的なブルーオーシャンだったんです。

3人は慶應義塾大学で開かれたビジネスコンテストに参加して、アイデアを試すことにした。その直前に、千葉県市川市長選挙が実施されると知り、「『5分でわかる』政治 PoliPoli」のアプリをリリース。製作期間は10日間だったという。政策、実績、選挙演説といった立候補者の情報を閲覧でき、質問を送れる機能も実装した。「慶應生が選挙用のアプリを開発した」というニュースは大きな話題となった。

しかし、伊藤氏は「政治そのものには興味がありません」と言い切る。それは全員に共通している。いわゆる「起業家としての成功」も範疇外だ。

伊藤興味はないけど、政治システムはイケてない。ただ、面白いとも思っています。この課題を解決できれば、きっと社会に大きなインパクトが与えられるに違いない。ポリポリはそのためのサービスです。

伊藤“起業家としての成功”とか、“女と金を手に入れる”とか、そういう一昔前の世界観には共感できないですね。ビジネスをするからにはキャッシュを稼ぐけれど、資本主義で勝者になることには興味がない。社会により大きな変容をもたらしたいんです。

山田そもそも資本主義ってほかよりマシなだけで、決して完璧なスキームじゃない。僕たちはその頂点に立つのではなく、新しいテクノロジーで資本主義そのものを別のスキームに移行させるために、PoliPoliを立ち上げました。

倉田ポリポリは政治の分野に詳しく、良質な議論を起こす媒介となる人が、評価と報酬を得られる仕組みです。資本主義では「お金」が絶対的な力を持ちますが、ポリポリではそのヒエラルキーが通用しない。まずは根幹となる政治に変化を起こし、いずれは教育や医療に広げていけば、社会は良い方向に進んでいくと思うんです。

山田フランス革命では、啓蒙家の思想が少しずつ広がった結果として、社会が変わっていった。変化のうねりを起こすための積み重ねを、ポリポリから生み出していきたい。ポリポリではサービスを深く理解してくれる人を「アンバサダー」と呼び、広報活動などに協力してもらっています。彼らに価値観をリプレイスする媒介になってもらいたいという想いもあります。

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分散化への共感と、“クリプトアナーキスト”への疑問

市川市長選挙のときにリリースされたアプリから、β版への大きなアップデートは、ブロックチェーン技術の導入だ。「いいね」やコメントの書き込みに応じて、独自トークン「Pollin」が付与される仕組みには、分散型アプリケーションを開発するためのプラットフォーム「Ethereum」の創始者であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏らの思想が反映されているという。

伊藤ポリポリは良質な発言をしたユーザーは、運営から独自トークンの「Pollin」をもらえます。インセンティブ設計があるため、コミュニティが荒れる心配はない。ユーザーはコミュニティ内で良質な発言をしようと務め、サービスの質は維持されます。いずれは僕らが管理者であることも辞めて、自動的に運営されるDApps(自律分散型アプリケーション)にしたいですね。

これまでは政府から銀行、ウェブサービスまで、中央にいる管理者がシステムを監視する役割を担っていた。しかしEthereumを始めとするブロックチェーンの仕組みでは、利用者が相互に監視し、システムの秩序を守るために行動する。伊藤氏はこうした非中央集権化、自律分散化の動きは将来的に「政治の分野だけでなく、社会のいたるところに広がっていくのではないか」と予想する。

さらに倉田氏はブロックチェーンが社会のいたるところに浸透した先に、「機械がシステムの維持を自動で行う世界」を描いている。

倉田将来的には人や機械はマイニングを行うだけで報酬を得られるようになり、そのシステムの維持や運営はシステムそのものが担うようになると思ってます。

「マイニング」とは、ブロックチェーンのシステムにおいて、利用者間で発生した取引を、各自のコンピューターの処理能力を用いて記録する作業だ。その「マイニング」と呼ばれる作業の対価として、報酬が発生している。

倉田例えば、車や信号などあらゆる機械にマイニングの装置が搭載され、自動で価値が生まれる仕組みができる。そのうち信号が共同出資を行い、道路の混雑状況を制御するシステムを構築、道路の建設を指示することだってあり得るかもしれない。自律的に制御される領域が確実に増えていくはずです。

「自律分散」や「非中央集権」に強い共感を示す一方、伊藤氏らは「国家が不要である」と考えているわけではない。

伊藤政治権力に反抗したいとは思わないんですよね。むしろ彼らが何を必要としているのかを考え、そのニーズに応えていくつもりです。サービスを開発する上で、3人とも政治家の事務所で手伝いも経験しました。政治家が想いを持って頑張っていることも知ってますから。

山田正直、政治家に対してはネガティブなイメージがあったんですよね。政治システムについても『何でここを改善しないのか』と疑問に思うことが多かった。でも政治家と話してみると、社会をよりよくしたいというビジョンを持っている人が多い。悪い人ばかりではないんだな、と。

倉田僕もとある政治家の事務所でSNS運用を担当しましたが、彼の信念をツイートすると、見たこともないほどエンゲージメントが高くなる。政治家が得ている信頼の厚さに驚きました。

伊藤大半の政治家って、財政的に困っている上に、いつでも批判の対象になる。政治家は、大変で辛そうな仕事というイメージしかないですよね。けれど、高い課題解決能力とクリエイティビティが問われる仕事。PoliPoliが彼らの信頼を金銭的な価値に変換できれば、もっとお金が循環する。現状ではビジネスセクターに流れているクリエイティブな人材がもっと政治に関わるようになるのではと思っているんです。

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給料は全員で決める、透明性を重視する開発と組織

「いずれはポリポリを自律分散的なサービス」にしたいと語る彼らは、β版のデザインやソースコードをオープンにし、SNSを介して積極的にフィードバックを求めている。

倉田トークンエコノミーではトークンの流動性が高まるほど価値が上がります。そのため、いかに活発なコミュニティを作れるかが鍵になる。開発段階からユーザー参加型にしておいたほうがいいと考えました。

山田僕はアプリのデザイン全般を担当していますが、開発当初はほぼ素人。目立った競合もいないサービスだし、オープンにしてブラッシュアップした方が、確実に良いものが作れるはずだと思いました。予想していたとおり、有益なフィードバックがたくさん届いています。

伊藤そもそも競合に情報を渡さないやり方って謎だなと思います。ブロックチェーンSNSを運営する株式会社ALISのように、いずれはコードや開発用のトレロまで公開して、どんどん透明な組織にしていきたい。

“透明性”は彼らの掲げるバリューのひとつだ。サービスの開発だけではなく、組織を運営する上でも透明性が貫かれている。

伊藤普段のコミュニケーションでも絶対にDMは使わず、みんなに見えるチャット上でやり取りをしています。

伊藤氏の待ち受けには、その週のOKRが表示されていた

“透明性”のほかに、彼らは“遊び心”と“幸福度”をバリューに設定している。この三つの要素を定めた理由はどこにあるのだろうか。

伊藤起業って絶対に甘くないし、これから大変な局面もあると思います。極限の状態にいても、数パーセントは遊び心を持っていたい。ポリポリというサービスに関わる人、社内のメンバー、出資してくださっているVCの方、コミュニティに所属している人全員を幸せにしたい。僕たちのありたい姿を込めてバリューを設定しました。

山田氏の公開したnoteには「PoliPoliは風のように自由に駆け抜けていく"スタートアップ界のSuchmos"を目指しています」とある。これも彼らの目指す姿なのだろうか。

伊藤Suchmosは決して日本の音楽業界ど真ん中に受ける曲を作っているわけではない。けれどクールな感性を生かして、これまでにない音楽を切り拓いたと思っています。僕らの組織の目標にある「時代の先駆者である」を体現している。僕らもビジネスの領域で、Suchmosのように“自分たちの感性”を武器に、より大きなインパクトを与えたい。

ブロックチェーン技術を用いたサービスを開発し、自律分散や透明性といった思想を組織内でも実践する。彼らの感性は、従来の資本主義での成功や、クリプトアナキストの思想とは相入れない。彼らが追い求めるのは、あらゆるステークホルダーの幸せを実現し、最大限の社会インパクトをもたらすこと。その大きなミッションに最短距離で辿り着くために、今日も走り続けている。

こちらの記事は2018年08月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

向 晴香

inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ

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藤田 慎一郎

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