小さくても、当事者意識が持てる組織で働きたかった。
ラクスル・西田真之介氏が、創業期スタートアップに参画した理由
たとえ誰もが知るような大企業であっても、創業期を経験していない企業はない。起業を決断した創業者はもちろん、先行きの見えない船に乗り込んだ創業メンバーもまた、勇敢なリスクテイカーである。この連載では創業期スタートアップで働くことのリアルを、実践者の声からつまびらかにしていく。
今回は、印刷・広告・物流のシェアリングプラットフォームを運営し、2018年5月に東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たしたラクスル株式会社で執行役員・経営管理部部長の西田真之介氏に話を伺った。森ビル株式会社に新卒入社したのち、株式会社DeNAへの転職を経て、社員30名に満たないラクスルにジョインした西田氏。安定したキャリアを捨て、創業期スタートアップに参画した理由とは?
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
小さくても当事者意識が持てる組織で働きたかった
なぜ大企業から創業期のベンチャーに転職したのでしょうか?
西田一言でいうと、当事者意識を持って働きたかったからです。DeNA時代も、財務・会計のプロとして、事業責任者と膝を突き合わせながら新規事業や子会社の立ち上げに関わらせていただいていましたが、あくまでもサポート役。大組織の一機能を担うのではなく、小さくても、目の前で起きていることに自分ごととして取り組みたかったんです。
そんな中、DeNA時代の同僚であり、私より一足早くラクスルにジョインしていた取締役CFOの永見世央に「上場に向けて、一緒に会社を創っていかないか」と誘われました。詳しく話を聞いてみると、人事、総務など広範囲にバックオフィスの制度構築を任せたいと言われ、「これはいま自分が求めている環境そのものだ」と思ったんです。
実際に入社してみて、望んでいた働き方は実現できていますか?
西田はい、想定以上に「当事者」になっていると、日々実感しています。というか、当事者意識の持ち方以前に、自分でしっかりと意思決定して動かしていかないと、仕事が何も進まないんですよ。DeNAでは、施策を実施する際、しっかりとシミュレーションして十分に事前検討し、周囲の承認を得る必要がありました。対してラクスルでは、決断するのも実行するのも全部自分です。すると、会社への当事者意識は自ずと高まりますよね。
不安定な環境に飛び込むことに恐れはありましたか?
西田あまりなかったですね。「会社が潰れても転職活動すればいいや」くらいに思っていたので(笑)
ただ、今まで森ビルやDeNAで培ってきた、財務・会計のプロフェッショナルとしての知見が活かせないのではないかという懸念はありました。森ビルからDeNAに移ったときも、連結決算、不動産流動化に関わる税務・会計の仕事から、会計知識を使って事業推進を行う仕事に変わり、専門知識の活用の仕方が変わったんです。なのでラクスルに入社する時に「自分の専門性をどう活かすことができるのか?」と見通しが不透明なところはありました。
実際、それまでに培ってきた会計の知識を活かす場面はあまり多くないです。しかし、プロフェッショナルではなく、組織経営に関わるジェネラリストとしてのキャリアを歩むためにスタートアップに入ったので、望み通りの変化ではあります。会計の専門知識が必要になったら、またいつでも学び直せますから。
短時間労働で生産性を重視するラクスルの組織風土
ラクスル入社後、具体的にはどういった業務を担当されてきたのでしょうか?
西田現在は経営管理部の責任者として、財務・会計管理から、労務・法務関係まで、バックオフィスを全般的に担当しています。また、会社の状況に応じて、株式上場に向けた準備や経営管理の枠にとどまらず現場のオペレーション改善なども担当してきました。たとえばコールセンターの強化が全社的なボトルネックだった時期は、採用から研修プランの策定まで私が執り行っていましたね。
創業期はとにかく様々な問題がフルコースで出てきて、都度対応していくのには苦労しました。財務に取り組んでいたと思ったら、今度は法律上の課題が出てきて、同時に人事を進めなければいけない……という状況が当たり前でしたね。自分一人だけでは到底対応しきれないので、各領域に強いメンバーや専門家の力も借りながら、一つひとつ手探りで解決していきました。
創業期のベンチャー企業だとハードワークを強いられることも多いですが、労働環境はいかがでしたか?
西田「死ぬ気で長時間働く」ことを是とするスタートアップも中にはありますが、ラクスルはむしろ逆の価値観なんです。大半の人は20時前には退社していますし、労働時間は私個人としては前職の時代よりむしろ減りました。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げ、産業構造を変革し、効率化する事業を展開しているのに、サービス提供側の生産性が低かったら説得力がない。なので業務における無駄の削減は徹底していて、従業員の評価項目にも生産性の向上度合いが含まれています。どの業務を何時間削減できたのか、できるだけ数値化するようにしていますね。
創業期スタートアップならば、当事者として組織を創る経験ができる
大企業、メガベンチャー、スタートアップとあらゆる規模の企業に在籍された経験がある西田さんが考える、創業期のスタートアップで働くことのメリットとは何でしょうか?
西田繰り返しになってしまいますが、一番は当事者意識を持って働けるようになることです。これは一定以上の規模の会社だとなかなか得られないと思います。
また、ゼロから組織を作り上げ、成長していく面白さを味わえるのも創業期スタートアップならではの経験です。事業拡大に伴い、新たな役割が必要になり、それにあわせて採用や配置転換を行い組織を強くしていく。スタートアップの人からすると当たり前のことに思われるかもしれませんが、大きい組織だと欠員補充の目的での採用が多く、各人の果たすべき役割が細分化されてしまいますから。組織が成長していく面白さを味わえるのは、創業期にジョインしたからこそですね。
ただ、これらはラクスルがフラットに意見を言い合える環境だったことも関係しているかもしれません。過去にマネージャーがお互いの業務課題についてフィードバックを行う研修を実施したことがあったのですが、お互い本音で本気でぶつかりあい、感情が高まって涙する者もいたぐらいです。ここまで主体的に組織のことを考えて働く経験は、大きな企業だと味わえないと思いますね。
「この人と働きたい」と思える存在が何より重要
西田さんが考える、創業期スタートアップにジョインする際に必要な素養やマインドセットはありますか?
西田大前提として、何が起きても全てを受け入れられる「寛容さ」が必要だと思います。スタートアップでは、毎日予想外のことがたくさん起こります。昨日言っていたことが今日覆されるようなことは日常茶飯事。何が起きてもまずは寛容に受け止め、フラットに良い悪いを判断していかなければいけません。
そして、課題設定能力。大企業だと、課題は一握りのトップが決め、大半のメンバーにとってはそれをどうやって効率的に解決していくかというゲームになります。しかし、スタートアップでは、「課題設定をする人」と「課題を解く人」が分かれていないんです。自ら課題を見極め、取り組んでいかなければいけません。
最後に、「この人と一緒ならば、失敗しても諦めがつく」と思えるくらいの人に出会えるかどうかも非常に大切です。僕にとっては、CFOの永見がそんな存在でした。業務や事業の内容なんて、1年後にはガラリと変わっていることがほとんどです(笑)。だからこそ、自分の人生の貴重な時間を費やしても良いと思える“人”がいることは、決定的に重要なんです。
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こちらの記事は2018年10月09日に公開しており、
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執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
写真
藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載私が創業期スタートアップへのジョインを決めた理由
4記事 | 最終更新 2019.05.30おすすめの関連記事
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