連載私が創業期スタートアップへのジョインを決めた理由

意思決定を他人に任せない。創業期のユーザベースで学んだこと【NewsPicks取締役・坂本大典氏】

インタビュイー
坂本 大典
  • 株式会社ニューズピックス 代表取締役社長COO 

1986年愛媛生まれ。同志社大学商学部在学中に、インターンとしてユーザベースに参画。同大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、再びユーザベースに入社。SPEEDAの商品企画、顧客対応、営業など様々な業務を経験した後、2013年NewsPicks事業の立ち上げに関わる。NewsPicksのビジネス部門を牽引し、2017年4月、NewsPicks 取締役に就任。趣味はいろんな人と飲みに行くこと。

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誰もが知る大企業であっても、創業期を経験していない企業はない。起業を決断した創業者はもちろん、先行きの見えない船に乗り込んだ創業メンバーもまた、勇敢なリスクテイカーである。この連載では創業期スタートアップで働くことのリアルを、実践者の声からつまびらかにしていく。今回は、ユーザベース・グループで株式会社ニューズピックスの取締役を務める、坂本大典氏に話を伺った。

坂本氏は、外資系コンサルティングファームに新卒入社したものの、学生時代にインターンをしていた創業直後の株式会社ユーザベースから強いラブコールを受け、社員としてジョイン。「SPEEDA」の商品企画、顧客対応、営業といった幅広い業務を経験したのち、「NewsPicks」事業の立ち上げを担当。ビジネス部門を牽引し、2017年4月には取締役に就任した。坂本氏はなぜ安定したキャリアを捨てて創業期ベンチャーという茨の道へ飛び込んだのか?そして、ユーザベース躍進の立役者となった坂本氏が考える、創業期スタートアップの魅力と、事業開発の要諦とは?

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「スタートアップが好きではなかった」のに、創業期のユーザベースに飛び込んだ理由

坂本氏は、「もともとスタートアップが好きではなかった」という。

同氏が学生生活を送った2000年代後半は、「ホリエモン現象」に端を発する起業ブームの渦中。起業家へ尊敬の念は抱いていたものの、ブームに乗るように勃興した起業家サークルには「胡散臭さ」を感じていた。

それゆえ、就職活動は大手志向。「レベルの高い環境で成長しながら、MBAも取りたい」との理由から外資コンサルティングファームへと入社を決めた。

しかし、内定が出てから卒業までの間に、その後の人生を大きく方向づける出会いが訪れる。「コンサル×外資金融×商社出身者が立ち上げたベンチャー」と銘打ち、インターンを募集している企業を見つけたのだ。それが、創業直後の株式会社ユーザベースだ。

株式会社ニューズピックス取締役 坂本大典氏

坂本「優秀な人たちが集う企業を辞めてまで、起業するのはなぜだろう?」と気になって。一度はベンチャー企業も見ておこうかな、と軽い気持ちで話を聞きに行ったところ、トントン拍子でインターン採用が決まりました。

関西の大学に通っていた坂本氏は、長期休暇を利用して上京。オフィスとして利用していたマンションの一室に泊まり込んでのインターン生活が始まった。

その頃のユーザベースは、経営陣も含めビジネスメンバー4人、エンジニア数名しか在籍しておらず、プロダクトは1つもリリースをしていなかった。坂本氏は、最若手メンバーとして、銀行の残高確認から国会図書館の資料コピーといった業務を任されるまま、がむしゃらに打ち返していった。

休暇が明けて関西に戻った後はリモートで業務を手伝っていたものの、卒業後は予定通り外資系コンサルティングファームに入社。当時はユーザベースに再びジョインするという考えは露ほどもなかった。

しかし、入社後の新入社員研修が終わろうとしていた頃、ユーザベース共同代表の梅田優祐氏から一通のメールが届いたのだ。「そろそろ戻ってこない?」と。「コンサルティングファームで精一杯頑張ろう」と意気込んでいた坂本氏は、このメールをきっかけにユーザベースに再度ジョインすることになる。

坂本ユーザベースに入社するか迷っていた時、経営者の知人から「5年後の自分を想像してみろ。コンサルティングファームで最年少マネージャーに就任するキャリアと、上場ベンチャーの創業メンバーに入るキャリア、どちらがレアな経験だと思う?」と問われ、後者を取ることにしたんです。

何より、インターン時代に経験した、みんなで同じ釜の飯を食べながら共通の目標に全力でチャレンジする「青春」感と、それぞれ別の強みを持つ3人の優秀な経営者のもとで学べる環境が魅力的でした。事業の内容は、あまり検討材料に入れていませんでしたね(笑)。

また、コンサルティングファームは大学院卒の社員が多かったことも後押しになったという。「当時22歳の自分が2、3年ベンチャーで働いて失敗しても、もう一度入り直せますから」。

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仕事の意思決定を他人に任せない

勢いに任せて飛び込んだスタートアップを上場へと導き、今では取締役を務める坂本氏。創業期のスタートアップで働く魅力を尋ねると「事業から学びを得られること」だと答える。

創業期は、新規顧客の対応や事業課題の解決に追われることになる。目の前の課題を乗り切らなければいけない環境下では、「学ぼう」「成長しよう」といった意識を持つ余裕すらなかった。しかし、そういった状況だからこそ、実践知にもとづく事業開発スキルを身につけられたという。

坂本「一番ハードな仕事をやらせて欲しい」と経営陣に願い出ていたこともあり、抱えている仕事がひと段落すると「こういうのあるんだけど、どう?」と次のハードシングが降ってくるんです(笑)。

新しい領域の仕事を、まずは一人で手探りでやってみて、ある程度やり方が掴めてきたら別の人に引き継いでいく。そのサイクルをひたすら繰り返していました。学ぼうなんて思わなくても事業と全力で向き合い続けることで、事業開発スキルは自然と身につきます。

創業期スタートアップで働くなかで、最もやってはいけないのは、意思決定時に上長の確認を仰ぐことだと坂本氏は語る。創業期メンバーの大事な仕事は、「社長の時間を空ける」ことだ。

創業者は事業の未来を考えることに最大限時間を割き、自らの担当領域はオーナーシップを持って意思決定をしなければいけない。そして、その意思決定の機会の多さこそが創業期スタートアップで働くことの醍醐味だと、坂本氏は続ける。

坂本現場感覚を持っている人間が一番理解しているはずなので、他人に意思決定を任せるべきではないんです。創業期は人的リソースが少ないので、自分でどんどん決めていかないと仕事も回りませんし、上長の確認を毎回とっていたら、自分の存在意義もなくなる。

スキル面では優秀でも、最後の意思決定を他人に任せてしまう人は少なくないんです。どんなに小さいことであっても常に自分で決める。その姿勢を習得することが事業家にとって何より重要だと思います。

また創業期はメンバーが主体的に「事業開発」に取り組むことが必須となる。提供価値と価格をロジカルに説明する「営業」だけでは、プロダクトやサービスのシェアを拡大させていくことが出来ないからだ。

坂本スタートアップが提供する新しいプロダクトは、価値が価格に見合っているかどうか未知数なものです。見合うだけのものを提供するためには、クライアントの声に耳を傾けながらサービスに改良を加え続けなければいけません。

そうした想いから、2018年11月、坂本氏の主導により「スタートアップ ファーストクライアント宣言」が発表された。ユーザベース・グループの企業が、創業1年以内のスタートアップが提供する新サービスのファーストクライアント(最初の顧客)として積極的に名乗りを挙げていくことを宣言したもの。

自身の経験から、「創業期の事業開発には最初に提案を聞いてくれる人の存在が不可欠だ」と知っているからこそ、ユーザベースが率先してそうした存在になろうとしているのだ。

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「やりたいこと」は、意思決定を重ねた先に現れる

ユーザベースは、2016年10月のマザーズ上場後も「entrepedia」「FORCAS」「ami」など、積極的に新規事業を打ち出している。この裏側には、「各メンバーのやりたいことがあり、その実現のためのツールとして会社を活用する」カルチャーがある。

会社の先に自身のやりたいことが存在しているからこそ、新事業が創り出せる。社内での議論も、役職問わず意志の強い人の意見を優先する。また採用時も、「やりたいことが明確にあり、ユーザベースの方向性とマッチしているか」を重視し、「どんな環境でも好きなことを貫く人」を高く評価している。

坂本氏にも「やりたいこと」があるという。ひとつは「地元である愛媛の高校生の人生を変えるような体験を創り出す」ことだ。

自身が高校生の時、フジテレビの買収を進める堀江貴文氏の姿を見て「ビジネスマンって、こんなに自由に生きられるんだ」と憧れを抱いたように、「地方の高校生でも、社会の面白さを知ることができる場を提供したい」と構想している。

そして、「企業間の壁を壊す」こと。日本経済が下り坂にある中で、「全国のエース人材が、企業の枠を超えて協力しあえるような状況を創り出したい」と坂本氏は語る。

坂本この2つが、私が「ユーザベースを辞めてもやりたいこと」ですね。これまでは「上場するまでは何があっても辞めない」という意志のもと「一度決めたことをやりきる」スタンスで働いてきました。

「やりたいこと」は、意思決定を積み重ねていくうちに自ずと湧き上がってくるものです。だからこそ、まずは腹を括り、一つの事業にコミットすることが大切です。私自身、そうした時期を経て、「やりたいこと」に溢れるようになりました。実行力も身についた今、キャリアの中で一番ワクワクしていますね。

創業期スタートアップで働く最大の魅力である「主体的な意思決定」を通じて、やりたいことは見えてくる。責任の重さも伴うが、指示待ちの姿勢では、チャンスを活かせずに埋もれてしまう。

坂本氏が「最もやってはいけないのは、意思決定時に上長の確認を仰ぐことだ」と語ったように、創業期スタートアップでは「自分で決める」という覚悟が求められるのだろう。

逆に言えば、オーナーシップを持って動ける人材にとっては、これほど魅力的な環境もないはずだ。創業期スタートアップでの「事業開発」に必須の素養が、坂本氏の背中から浮かび上がる。

こちらの記事は2019年02月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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