魅せ方を今、“真似ぼう”──FastGrowが厳選した5社の採用デックから学ぶ採用広報アプローチ
今では多くの企業がつくっているであろう「採用デック」と呼ばれる候補者向けのスライド資料。中でもアーリーフェーズのスタートアップでは、コーポレートサイト全体の充実よりも優先度高く整えられるケースもみられる。候補者へ自社の情報を伝えるため、欠かせない重要なタッチポイントとされている。
ウェブページとは異なり、ミッションから業務現場までのつながりが端的にまとめられた採用デック。事業、カルチャー、実績、変遷など、「まず知りたい情報」が定量・定性両方の尺度で記載されているものが多い。オンラインで常に公開する企業が増えた今、候補者側にとってもはや「企業選びにおける最重要資料」になっていると言っても過言ではない。
FastGrowも2021年12月にはカルチャーブック特集を、そして2023年3月に採用デック特集第1弾をまとめた。これらに続き、学びの多い5社の採用デックをまとめた。
ぜひ自社の採用デックと見比べながら、読み進めてみてほしい。
- TEXT BY TAKASHI OKUBO
外資スタートアップか?と思わせるアジアNo.1を目指す企業の採用デック──Micoworks
企業と顧客のコミュニケーションを最適化するSNSコミュニケーションプラットフォーム『MicoCloud』を提供するMicoworks。アジアNo.1を目指す同社は、名だたる起業家・投資家からの注目度も高く、その秘訣や意思決定の背景を代表の山田氏に以前、語ってもらった。
背景や急成長の秘訣は記事に任せるとして、Micoworksの現在地を知るにはやはり採用デックがもっともわかりやすい。まず冒頭から感じるのは完全に目線がアジア、つまりグローバルビジネスを主眼に置いていることである。成長率の比較も国内企業ではなくUSトップパフォーマーであり、見ている市場もグローバルだ。
また、導入企業の紹介においては国内著名企業の名が多く見られ、その勢いや信頼がうかがえる内容となっている。
実現を目指すべき社会像、自社が立ち向かう市場をきちんと表現しつつ、その後にはユニークなコミュニケーション環境や評価制度など、候補者が知りたい足元の情報も漏れなく入れ込んでいる。全体的にシンプルだが、各スライドのボリューム感にもメリハリがあり、最後まで読みやすい採用デックだと言えるだろう。
決して真似できない圧倒的な実力を、これでもかと魅せつける──Natee
次に紹介するのはNatee。
昨年2022年末には約4.2億円の資金調達を行い、ベネッセホールディングスとも資本業務提携を結ぶなど、周囲を巻き込みながら成長を続けているNatee。TikTokクリエイターを支援し、TikTokを活用したプロモーションのエキスパートとして400社以上に対する支援実績を蓄積してきた。
採用デックで強調するのも、その蓄積に裏打ちされたマーケティングの実力だ。事業紹介で必ずと言っていいほど出てくる“圧倒的”の文字。支援事例も含めると資料のおよそ3分の1が事業説明に使われている。
事業紹介から流れるように組織紹介へ入っていくその流れは、「なぜこうした圧倒的な実力が発揮できるのか」という読者が気になっている心理を意識したものとも感じられる。耳障りのいい綺麗なビジョンを魅力的に見せるのではなく、実力・実績という現実を突きつけるデックは信頼感が違う。
「人類をタレントに。」というエモーショナルなミッションと、事業現場の成果、これらを紐づける採用デック。多くの企業が悩むこの接続について参考にできる部分が多いのではないだろうか。
また、採用ページにほぼ全メンバーの顔写真付きプロフィールを掲載していることも、同社のユニークな点だ。合わせてぜひ参考にしてほしい。
尖った世界観やプロダクトを熱く、そしてわかりやすく伝える手本──Gaudiy
Web3時代のファンプラットフォーム『Gaudiy Fanlink』を提供するGaudiy。創業から5年が経ち、累計約40億円の資金調達を実施してきた同社。100名に迫る組織へと成長し、2023年にはコーポレートブランドも一新。Web3の思想を基にした「ファン国家」の実現を目指してさらなる発展を目指す。コーポレートサイトには独自の思想が色濃く反映されており、採用デックに関しても同じだ。
表紙のデザイン、パンチの効いたプロローグの文面から一気にその世界感へと引き込まれる。中でも特に見てほしいのが「02_MISSION CEO Message」だろう。石川氏がブロックチェーンの可能性に魅せられ、なぜ石川氏がこの事業に取り組むのか、そして5年を迎えた今の心境を熱く語っている。日本の強みであるエンタメと、Web3によって創られるファン国家の未来をともに夢みたいという気持ちにさせられるはずだ。スタートアップ・ベンチャーらしさをとてもよく感じさせられる。
またそれだけではなく、ファンエコノミーなどの抽象的な概念を具体例も交えて丁寧に説明し、その上で解決すべき課題とGaudiyのプロダクトがどのような価値を提供するのかを紹介している部分が非常にわかりやすい。読者がどのような情報を求めているか、考え抜かれたことが見て取れる。ちなみに自社のカルチャーを紹介する部分でも、その思考は十二分に発揮されており「CEOも、CxOも選挙で決める」、「意思決定の質とスピードを高める蠱毒」など、興味関心をいただきたくなる要素がちりばめられている。世界観の構築から内容の構成まで、隅々まで参考になるデックだ。
プロダクトの可能性と技術優位性、そしてそれを裏付けるOrganization──プレイド
CXプラットフォーム『KARTE』を提供するプレイド。「データによって人の価値を最大化する」をミッションに掲げ、企業の事業から一人ひとりの生活体験まで、社会のあまねく場所へ価値を還元する。その思想の根幹には“「自分たちの理想で」圧倒的な価値を生み出す”というIdentityがあり、自分たちが信じる世界観と情熱を持って社会と向き合う姿勢を示している。
プレイドの採用デックは、まさにこうした思想を候補者にきちんと伝えたいということが伝わってくるものだ。
プレイドが提供する『KARTE』はオンサイトマーケティング領域のプロダクトであり、端的に表現すると、オンライン上でユーザーのリアルタイムをより正確に分析し「正しい顧客理解」ができる、という特徴を持つ(詳しくは採用デックやコーポレートサイトを参照してほしい)。こうしたプロダクトを提供・運営できる技術力が同社の強みの一つであり、当然、採用デックも紹介している。さらに、そうした技術力が実現できる組織の構造や環境設計についても触れており、エンジニアなどは特に興味をそそられる内容になっているのではないだろうか。
2019年11月にはGoogleからも出資を受けた。同社のプロダクトが秘めたる可能性とそれを裏付ける技術力という強みが際立った採用デックだと言えよう。
溢れる青春。自社の世界観を詰め込んだ唯一無二のデック──HeaR
採用コンサルティングや採用分析ツール『HITOME』を提供するHeaR。『HITOME』はいわゆるBIツールで、複雑化していくエージェント管理やスカウトの効果分析を支援する。2018年に創業、2022年6月にはあのユナイテッド(ユナイテッドをよく知らないという読者はぜひこちらを読んでほしい)が業務提携も見据えて1億円を投資しており、今後の成長が期待されるスタートアップだ。
そんな同社のもっともユニークなポイントは、「青春の大人を増やす。」というミッションだろう。代表である大上氏の、「世の中の大人達が青春時代を楽しむように仕事ができるために」という意志が込められている。こうしたHeaRや大上氏のユニークさが、採用デックにも存分につまっているのでぜひ紹介させてほしい。
これまで数々の採用デックを見てきて、どの企業も自社の強みや特徴を表現して唯一無二のデックをつくっていると感じたが、中でもHeaRは特に個性的だ。デックの体裁、書体、構成、全てがオリジナリティに溢れている。たとえるならこれは「資料」というよりも「絵本」というようなイメージだ。もちろん、ただ個性的なだけでなく、「青春の大人を増やす。」というミッションからのブレイクダウンが見え、どういう社会を実現しようとしているのかがより具体的に書かれており、イメージが湧きやすいとも感じる。
アーリーフェーズなのだから、他の企業に比べれば歴史や実績といった点の内容が少ないのは仕方がない。しかし、そんな要素を補うほど熱い思いが込められているように感じた。もしあなたが、採用デックづくりで頭を悩ませているのなら一度見てほしい。凝り固まった思考が解きほぐされるかもしれない。
アーリーフェーズから、上場後の企業まで、多様性も意識して並べてみた今回の特集、いかがだっただろうか?取り上げてほしいといった連絡も歓迎だ。ぜひ、じっくり読み比べてみてほしい。
こちらの記事は2023年11月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
大久保 崇
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