【トレンド研究】あなたの「リスキリング」解釈、間違ってますよ!?──今更きけないDX時代の正しい人材戦略とは

インタビュイー
山田 晃平
  • 株式会社テックピット CEO 

学生時代にインドのデリーにある世界2位のA/Bテストツールベンダーでグロースハッカーとして働いた後、HR系スタートアップの立ち上げに従事し、新卒でGaiaxに入社。複数の新規事業の検証を行う。入社3ヶ月後に、インドと日本のテクノロジー学習環境の違いを実感し、株式会社テックピットを創業。企業向けプロダクト「Techpit for Enterprise」を提供し、エンタープライズ企業向けにIT技術者を中心とした育成・リスキリングの支援する。

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昨今、「リスキリング」という言葉を頻繁に耳にするようになった。

リクルートワークス研究所によると、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する / させること」とされている。

その意味するところは読者もぼんやりとイメージできるが、従来のいわゆる「アップスキリング」との違いや、「リカレント教育」といった新しい概念との違いを問われると、途端にわからなくなってしまうのではないか。

詳しい解説は本編で語るとして、核の部分だけ先にお伝えすると、リスキリングとは企業の人的資本経営の一翼を担う、重大な人材戦略と言っても過言ではない。少なくとも、個人がキャリアアップのために任意の学習に取り組むといったものではないのだ。

今回はその詳細を読者と共に学ぶべく、リスキリング領域における専門家をお呼びした。株式会社テックピット代表取締役の、山田 晃平氏だ。このテックピットは、まさに今回取り上げるリスキリング領域において学習プラットフォームを提供しているリーディングカンパニーであり、すでに大手SIerや大手人材などの上場企業を中心に、多数の導入実績を持つ。

文中には、当領域に明るい山田氏ならではの必読ブログや参考情報もふんだんに記載しているので、是非参考にしてみてほしい。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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国も1兆円の投資を表明!
リスキリングとはデジタル時代の人材戦略だ

まず最初に、「リスキリング」と他の概念との曖昧な線引を整理しておこう。

そもそもスキリング(スキルの習得)の概念が生まれてきた背景には、世界的なデジタル化の流れが関係している。テクノロジーが発達し、あらゆる業界でDX化が進んでいる今、それに対応するためのデジタル人材が不足しているのだ。

テックピット、コーポレートブログより抜粋

こうした問題は国単位の課題であり、GDPにも大きく影響してくる。2022年10月、岸田首相が「リスキリング支援に1兆円を投資する」と表明していることが何よりの証拠だろう。

もちろん企業単位でも同様の課題感がある。デジタル化の流れにあわせた事業変化を余儀なくされている以上、既存社員の職種転換を前提としたスキル習得は避けられない重要課題になっている。

つまり昨今の情勢で語られているリスキリングという概念は、その背景からもわかる通り、基本的にはデジタル領域にフォーカスを寄せた考え方であり、「個人」ではなく「国」や「企業」が主体となりトップダウンで行うアクションなのだ。

ここで、よく似た概念として「リカレント教育」という言葉がある。いずれも社会人を対象としており、「学び直す」という意味では近い部分もあるが、どちらかといえば“人生100年時代において、個人の生涯をより主体的に学びあるものにする”という考え方から生まれたものである。“学ぶ領域がデジタルにとどまらない”という点も、大きな違いの一つだ。

また、従来の「アップスキリング」、一般的に言うスキルアップのことだが、これとリスキリングの違いは何かというと、“労働移動*を前提としているか否か”という点だろう。アップスキリングでは、“同職種での延長線上のスキルアップ”を目的としているため、その背景からして違う概念であることがわかる。

*労働力の担い手が主に労働市場の機能を通じて、異なる企業や業種、職種、地域の間を移動すること。

まとめると、主体が国や企業であり、領域はデジタル分野がメイン、また学習後は労働移動を前提としていることが、リスキリングを定義する主な特徴なのだ。

テックピット山田氏が推奨する、読んでおくべきリスキリングの基本概論

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世界では「10億人」に向けたリスキリングが急務に!?

リスキリングという言葉は、日本において近年ようやく、しかし急速に注目を集めるようになった。

一方、世界的に見れば、2018年の世界経済フォーラム、通称ダボス会議でその重要性が叫ばれ、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言

欧米ではすでにその概念が普及してきており、米Amazonでは2025年までに従業員10万人をリスキリングすると発表していたり、マイクロソフトでは社外的に失業者2,500万人のリスキリング支援を行ったりと、加速度的に変容している。

山田経済的なインパクトでいうと、2025年までには世の中の従業員の約半数がリスキリングを必要とする人材になると言われています。そして、新型コロナウイルス感染拡大の影響でこのリスキリングに対する企業側のニーズはさらに高まりました。

事実、LinkedInの調査レポート(P8の#5)では、L&D(人材開発)の担当者からのリスキリング重要度が上がっているとのデータも出ています。

LinkedIn-Learning_Workplace-Learning-Report-2021より抜粋

山田逆に言うと、そうした世の中の動きに対して適切に対応することができれば、企業としての生産性も格段に高めることができます。

「2030年までにリスキリング対象者に対して適切な学習支援を行うことができれば、全世界のGDPを5%も上げることができる」と言われているほどですから。これがリスキリングの可能性であり、市場規模でもあるんです。

リスキリングの概念が、一時的な流行りではなく、デジタル化が進む現代における世界的な問題の突破口であることがおわかりいただけただろう。

数値的に見ても、リスキリングの重要性と影響力の大きさは計り知れない。特に日本においては、終身雇用の文化が未だ色濃く残っており、簡単に社員をやめさせるということができない以上、リスキリングは避けては通れないのだ。

では、世界的に見て4〜5年の遅れをとっている日本において、巻き返すことは可能なのだろうか。これが可能だとしても、他分野のように外資のサービスがそのマーケットを独占してしまうのではないだろうか。

テックピット山田氏が推奨する、世界のリスキリング参考情報

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リスキリング独自のステップ、「スキルの可視化」や「学習の伴走」

同分野におけるサービスについての話を進めるためには、リスキリングを進めるステップについて先に話さなくてはならない。

リスキリングには大きく分けて4つのステップがある。「スキルの可視化」「学習プログラムの準備」「学習の伴走」「スキルの実践」だ。

リクルートワークス研究所「リスキリングする組織」よりFastGrowが図式化

「学習プログラムの準備」というのは、すでに世に出回っているようなeラーニングのサービスや研修、OJTなどの学習コンテンツを指している。リスキリングにおいては、ただ学習コンテンツを用意するだけでは不十分で、すでに別のスキルを持っている人に対して、職種転換などを目的に何を学ばせるべきかを判定する必要がある。それが「スキルの可視化」だ。

誰に何を学ばせるかをクリアにすることではじめて、最適な学習コンテンツを提供することができるのだ。

しかし、それでもまだ不十分。その提供した学習コンテンツを“学習しきる”仕組みを作らなければ意味がない。

実際、福利厚生としてeラーニングのサービスを利用している企業は少なくない。しかし、実態としてはその受講完了率は極めて低く、ほとんどの人が学習しきらずに離脱してしまっている。

そこで重要になるのが「学習の伴走」だ。外発的な強制力だけでは学習コンテンツを学習しきることができない。ならば、学習者の内発的な動機を高める必要がある。そうした動機づけまでをも、サービス提供側が担っているというわけだ。そうすることで初めて、最終的な「スキルの実践」、つまり実際の労働移動に繋がる。

こうした4つの工程の中でも、特に「スキルの可視化」と「学習への伴走」が重要だと山田氏は話す。

山田一昔前までは社員の教育といえば、オフラインの集合研修が一般的でした。しかし、それだとコストもかかるし人数制限もあります。「じゃあいつでもだれでも自由に学べる環境を用意しよう」という文脈で生まれてきたのが、eラーニングを主軸に据えた概念であるMOOCs*(Massive Open Online Courses)です。

*学習者が事前に登録し、課題に取り組むオンライン講座。一般的なオンライン講座と異なり、受講生は講座の修了要件を満たすと、修了証が交付される仕組みであり、Coursera、edX、Udacity、Future Learn、Open2Study、OpenEdといった欧米発のMOOCsのプラットフォームに国を問わず各種教育機関が参画し、全世界の学習者向けにオンライン講座が提供されている。

実際にそうしたサービスは今では広く普及しましたが、蓋を開けてみると全然継続できてないんですよね。eラーニングの平均受講完了率は5%ほどとも言われています。

その理由は、学習すべきものが何かが明確ではなかったからであり、学習し続けるための動機づけがなかったからなんです。リスキリングにおいてそうした工程を重要視しているのは、これまでの取り組みで可視化された問題があったからこそなんですよね。

弊社が提供している企業向けのリスキリング支援プラットフォーム『Techpit for Enterprise』でも、そうした点を重視して開発を進めており、実施に学習完了率は90%を超えています。

ただ学習コンテンツを用意するだけではなく、“最適な”学習コンテンツを、“学習しきる”体制を用意しているというのが、リスキリングサービスの特徴であり、重要なポイントなのだ。

そうした前提を踏まえて、ここからは同分野におけるサービス提供企業の現状について紹介していく。

テックピット山田氏が推奨する、リスキリングの具体的な導入に関する情報

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MOOCsからCBCsへ!?
新時代の教育市場で頭角を表す猛者たち

リスキリングの普及が日本よりも数年先行している欧米をはじめとした海外では、リスキリング領域においてすでにいくつものサービスが存在している。

代表的な企業を挙げるとすれば、AIを用いた労働力や労働市場の分析をベースにリスキリングのプラットフォームを提供しているSkyHiveや、キャリア支援を行っているFuture Fit AIなどがある。

こういった企業では、先に上げた「スキルの可視化」の部分でAIを活用し、求人データをクローリングすることで、最新の職種と必要な技能を判別するといった取り組みをしている。

その他にも、学習コンテンツを販売するマーケットプレイスを提供している企業や、コーチング等によって学習支援をするサービスなども出てきているという。

また、先に上げたMOOCsにかわる概念として、CBCs(Cohort-Based Courses)に注目が集まっているというのも大きな流れとしてある。Udemyの創業メンバーが辞めて新しく立ち上げているのも、このCBCsのサービスだ。

CBCsは個人で学習するのではなく、グループ形式で共同学習を行うスタイルのこと。リスキリングにおける「学習の伴走」に当たるソリューションであり、こうした新しい学習スタイルでは学習継続率や学習完了率が極めて高くなる傾向にあるという。

このように、海外ではリスキリングにおける全ての工程を網羅的に備えたサービスよりも、スポットでの強みを発揮しているサービスが多い。

一方、日本ではまだまだそのワードが広まってきたフェーズで、代表的なサービスというのも確立されていないのが現状。広義で言えば、EdTech系のサービスもリスキリングサービスと言えなくはないが、実質的にその分野にフォーカスしているのはテックピットを始め、僅か数社あるかないかといった状況ではないだろうか。

テックピットが提供しているサービスでは、海外の事例とは異なり、先に挙げたリスキリングに必要な4ステップすべての工程を網羅的に備えている。山田氏いわく、「その理由は、日本のSaaSツールの連携を主とした、ITリテラシーと関係している」という。

山田日本の大手企業はまだまだデジタル化の波に乗りきれていないところが多いと感じています。先に挙げたリスキリングの4つの学習ステップに応じて、異なるサービスを選定して使いこなすというのは、まだまだSaaSツールの連携を主としたリテラシーの観点で難しいと感じています。

であるならば、「スキルの可視化」「学習プログラムの準備」「学習の伴走」「スキルの実践」とすべてのステップに我々が入り込み、企業のリスキリング支援を行う方が合理的だと判断したんです。

そうした強みもあって、テックピットはすでに上場企業を筆頭に大手SIerやSES企業、派遣会社などからサービス導入のお声をいただき、実際の学習完了率に関しても高い数値を維持できています。

テックピット山田氏が注目する、リスキリングに関する国内の業界団体や社団法人

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「スキルの定義」の創造者こそ、リスキリング市場における勝者だ

国内外において、広がり始めているリスキリングサービス。しかし、明確なリーディングカンパニーと呼べる企業はまだ出てきていない。

そのせめぎ合いを制するための鍵はどこにあるのだろうか。

山田最終的には、「スキルの定義」を取りきった企業が勝つと思っています。

今、EdTechプレイヤーやHRTechプレイヤーたちが各社こぞってこのスキルの定義に奔走しています。エンジニアの職種やレベルを細かく区切り、そのそれぞれに対して必要なスキルを明文化しています。

こうした動きは日本の経産省でも行っていますが、1年か2年に1度のアップデートでは間に合わないほどに目まぐるしく仕事内容が変化している現在において、現場との乖離がかなり大きくなっているのが実情なんですよね。

必要なのは、職種やスキルを定義して、さらにそれを常にアップデートしていく仕組みをつくることです。ここの基準さえとれてしまえば、求人サービスにも教育系サービスにも展開していけますから。

テックピットでは今、まさにその「スキルの定義」に注力して開発を進めている。これまでの学習プラットフォーマーとしての強みである、500名以上の優秀なエンジニアとの繋がりを活用し、現場で実際に使われている技術などを参考にしたスキル定義を行っているのだ。また、それだけではなく、リアルタイムで更新され続ける求人情報から職種の定義をしていくというアプローチもとっている。

こうした「スキルの定義」のやり方が確立できれば、国内に留まらず海外展開も十分に可能だと山田氏は言う。

山田もちろん難度は高いですが、だからこそ面白いですよね。どの企業もまだ正解を見つけられていない領域、どこが勝者になるのかワクワクしますね。

リスキリング分野における企業間の戦いはまだ始まったばかり。その中でテックピットは、リソースの限られるスタートアップだからこそ最重要課題にフォーカスし、そのエンジニアネットワークや機動力を武器に競争優位を築いている。

山田氏が言うように、ここから3年〜5年たった先にはどんな企業がその頂きに立っているのだろうか。新産業領域で活躍するベンチャー/スタートアップを応援するFastGrowとしては、是非今後のテックピットの活躍を期待したい。

さて、本記事を通じてリスキリングについての正しい見識が得られた読者諸君。ここまで読んだからには是非、明日からの人材戦略として、リスキリングの導入を検討してみてはいかがだろうか。引き続きFastGrowでも本領域には注目していく。乞うご期待。

こちらの記事は2023年03月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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