【トレンド研究:物流】知らないでは済まされない!?──生産年齢人口の減少がもたらす物流危機とスタートアップの攻防

2020年、ドローンを活用した配送サービスの実証実験や、“空飛ぶクルマ”の開発を行うスタートアップが39億円の資金調達を実施。続いて、宅配車両やトラックへの応用が期待される、自動運転システム用のオープンソフトウェアを提供するスタートアップが98億円を調達。

また、2021年には、“荷主”と“配送パートナー”をつなぐプラットフォームを運営するスタートアップが約60億円を調達している。

物流・ロジスティクスの領域──。多くの読者に馴染みのないこの業界でも、目覚ましい急成長を遂げるスタートアップが続々と誕生してきている。そしてその動きは国内だけでなく海外でも顕著。世界ではすでにユニコーンが40社以上も誕生していることは、まだまだ知られていないはず。

こうした急成長スタートアップの存在は、裏を返せば、この業界に解決すべき喫緊の課題が存在していることの証左に他ならない。今、物流の現場にはどのような課題があるのか?その課題は、どういった背景から来るのか?その課題にどのように向き合えば、インパクトのある事業を生み出すことができるのか?

今回はこの物流・ロジスティクスの業界に横たわる“負”を解明していく。諸君らにとって、日本が抱える重大な課題を認識するきっかけとなれば幸いである。

  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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市場規模は24兆円。
ベンチャー投資額は年々増加し、今や約130億円以上に

まずはこの物流・ロジスティクスの市場規模を押さえておこう。業界全体としては約24兆円の規模感を持ち、うち60%の約16兆円に上るのがトラックによる運送事業だ*。内訳はBtoBの“一般貨物”領域が約14兆円、BtoCの“軽貨物”領域が約2兆円を占める。一般的に物流と言うと宅配のイメージが強いが、その実は企業間輸送が大半なのである。

*残りの40%は海運事業、航空貨物事業、倉庫事業など

特にこの軽貨物領域は“ラストワンマイル*市場”と称され、近年のEC市場の成長やコロナ禍の影響によって、2016年以降に急成長した市場だ。

*顧客に物・サービスが到達する物流の最後の接点

そして冒頭にも記した通り、昨今この業界に切り込むベンチャーへの投資が加速している。2016年までは約40億円未満だった投資額が、2019年時点で約85億円、そして2021年には約130億円規模にまで増加を見せている。

と、ここまでだと当業界に対してポジティブなイメージを受けるが、実態はそう容易くはない。少子高齢化が進み超高齢社会*に突入した日本は、今まさに圧倒的な人手不足に陥っている。その影響をダイレクトに受けている業界の一つが、この物流・ロジスティクス業界なのだ。

*65歳以上の高齢者の割合が「人口の21%」を超えた社会

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若者の人材不足やEC市場の伸び。
労働集約型のビジネスモデルに亀裂が入る

読者の中には“2024年問題*”というキーワードを耳にしたことがある人もいるだろう。簡単に言えば、トラック運送業に従事するトラックドライバーの労働環境を守るための規制により、新たに生じうる諸問題を指す。

*2024年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されることで運送・物流業界に生じる諸問題を意味する。具体的には、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される。

トラックドライバーと言えば、長距離移動・長時間労働・低賃金のイメージで、ただでさえ就労先としては若者から敬遠されているのが現状。そこに加えて、先に述べたEC市場の爆発的な成長が重なり、このトラックドライバー不足は物流・ロジスティクス業界の喫緊の課題として掲げられている。

もちろんこの人手不足は運送を担うトラックドライバーに限らず、モノの保管・荷役・包装・管理を担うポジションにおいても言えること。すなわち、物流業界全体だ。この人手不足が発端となり起こり得る問題は、極めて深刻。具体的には、運送・物流会社の売上・利益の減少。そして荷主にとっては運賃の上昇と、幾重にも負が連鎖していくのだ。

なぜならこの物流・ロジスティクスのビジネスモデル、基本的には労働量や労働時間が売上に直結する“労働集約型産業”だからである。そのため、例えば上に挙げた2024年問題によってトラックドライバーの時間外労働時間に上限が設けられると、会社全体で行う業務量が減少し、結果的に売上・利益を損なうリスクが高まるわけだ。

「とにかく人手が、特に若い力が圧倒的に足りない…」

そう口々に語る物流・ロジスティクス業界の従事者たち。そんな業界を救うべく、昨今では様々なスタートアップが誕生し、急ピッチでデジタル化を推進しているのだ。

そんな物流・ロジスティクス業界の今を知る上で知っておきたいキーワードは、“省人化”と“標準化”。省人化は、AIやIoTを基に業務の自動化を推進し、労働集約型からの脱却を目指すもの。そして標準化は、その仕組みを会社全体、ひいては業界全体に普及させることだ。

ここからは、物流・ロジスティクス業界における様々な課題と共に、そこに対するソリューションを展開するスタートアップの活躍事例を紹介していく。

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“2024年問題”における最大の当事者、輸送領域

まず、物流・ロジスティクスを利用するあらゆる事業者にとって最もコストとなっているものが輸送費である。日本における物流費の構成の内、約55%を占める。残りは保管費として約16%、その他荷役・包装・管理費などが約29%といった具合だ。

そしてこの輸送における主役こそ、先ほどからその名が挙がっているトラックドライバーであり、BtoBの貨物輸送なのである。物流・ロジスティクス業界における最も大きな課題対象と言えば、まずはこの輸送。中でも、BtoBにおけるトラック運送の人手不足こそ、早急に解決すべき喫緊の課題の一つであると知っておこう。

そんな輸送課題に対し、日本を含めた先進国では様々な動きが進んでいる。

映像で見たことがある読者もいるかもしれないが、Amazonではドローンを活用した配達システムをテストしている段階だ。また、世界最大の物流会社DHLや、世界最大の小売チェーンであるウォルマートらもドローンによる輸送手段の代替に取り組んでいる。

そして日本。当記事では、大手企業の事例よりもスタートアップの取り組みに焦点を当てていくが、下記のようなソリューションが誕生してきている。

TRABOX』(by トラボックス)

運送会社と荷物を運んで欲しい会社をつなぐ国内最大級の求荷求車サービス。2020年にはビジョナルグループ(ビズリーチ社がグループ経営体制に移行し誕生)へとジョイン。このビジョナルが持つマッチングビジネスのノウハウと資本力を活かし、日本の運送に改革を起こす。運送パートナー社数は約16,000社を超える。

PickGo』(by CBcloud)

物流版Uberと称されるサービス。『TRABOX』が主にBtoBの一般貨物を対象とした配車マッチングサービスとすれば、『PickGo』はBtoCの軽貨物を主な対象とする。ラストワンマイル問題を解決すべく生まれたサービスで、現在登録している軽貨物のパートナー台数は約40,000台。最短60秒以内での配車を可能とする画期的なサービス。

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変化の激しい時代、予測不可能な事態への対応は倉庫領域にも

次に物流費として大きなコストとなるのが、保管費。物流におけるプロセスは、大きく二分すると、モノを輸送する工程と、保管・積み替える工程(荷役・包装・管理など)となる。なぜならば、全ての荷物はどこかで保管され、トラックや船、列車などの輸送機関に積まれた上で、送り先まで届けられるからだ。

そんな保管分野においても、人手不足に限らず様々な問題が存在している。代表的な例を挙げるとすれば、倉庫の稼働問題だろう。従来の商慣習においては、倉庫の契約期間は3〜5年以上の長期契約を前提としている。すなわち、“短期的な”倉庫需要を満たす下地はまだまだ整っていないと言える。

例えば、やはりECを軸とした物販事業の発展による突発的な返品やリコールなどへの対応、在庫が急激に増加した際の保管場所の確保、自然災害時のBCP対策*などだ。

*Business Continuity Plan。企業が緊急事態時に事業継続するための手段を決めておく計画

従来は事業者が倉庫を借りるとなると、それ相応の物量があり、継続的な利用が前提となっていた。しかし、EC事業者の増加によってその前提は変わりつつある。「短期的にモノを保管したい」「物量も(従来の事業者ほど)多くはないため、既存の契約形態ではコストが掛かりすぎる」といった声が挙がってくるのだ。

そんな時代に合わせたソリューションを展開するのが、倉庫のシェアリングサービス『souco』(by souco)だ。全国1,500拠点を超える倉庫ネットワークを持ち、倉庫を借りたい事業者とのマッチングを図る。

この倉庫事業は、輸送の次に物流費としてコストが掛かる領域とされているだけあり、市場規模は2兆円に上る。EC市場の成長と共に小〜中規模なEC事業者が増加していく中、細かく、短く切り出してシェアリングで保管スペースを提供するというサービスは、非常に理にかなった解決策である。

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EC市場の急成長により、膨大なバックヤード業務を余儀なくされる出荷管理領域

物流・ロジスティクス業界の今を知る上で、度々登場してきたEC。ユーザーにとってはこれ以上ない利便性をもたらすものとなったが、その裏側には多くの負担がのしかかっていることを認識したい。最後は、出荷管理領域だ。

おそらく読者もテレビのニュースやドキュメンタリーでその光景を目にしたことがあると思う。倉庫内でフォークリフトに乗り荷物を移動させる者。また、ベルトコンベアの上を流れてくる商品を次々と仕分けする者。こうした作業スタッフも、今まさに人手不足とEC市場の成長によって苦境に立たされている。

捌いても捌いても止まない出荷対応。中には倉庫事業者にとって顧客となる、ECを主とした事業者のキャンペーン施策に応じたイレギュラーな出荷対応も発生。こうした業務を人的リソースだけで行えば、当然ながらミスも多発し、オペレーションは不安定になる。そんな状況に終止符を打つサービスが、『LOGILESS』(by ロジレス)だ。

『LOGILESS』は、OMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)を一体型にしたEC自動出荷システム。従来の商慣習では、EC事業者と倉庫事業者は別々のシステムを用いてそれぞれの業務を管理していた。つまり、情報を連携してスピーディな受注〜出荷対応を実現することは難しい状況にあったのだ。

そんな中でこの『LOGILESS』の場合は、EC事業者と倉庫事業者が同じ一つのシステムを利用するため、受注・出荷にかかる手間と時間を大幅に削減、ミスなくスピーディな業務連携を可能にした。

導入するEC事業者の平均自動出荷率は約93%。受注から出荷まで、ほぼ何もしなくてよい“自動出荷”を実現している。そして倉庫事業者にとっても作業の一部自動化が成され、オペレーションミスの防止や出荷スピードの改善など、大きく生産性を向上させることができているのだ。

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その他、AI・ロボットによる自動化も

ここまででざっくりと、物流・ロジスティクス業界における課題と、そこに向けたソリューション事例を紹介してきた。もちろん本記事でその全てを網羅できているわけではないが、トレンド理解という意味では一通りのインプットができたのではないだろうか。

他にも、倉庫内のピッキングをロボットが行ったり、空飛ぶクルマがヒトやモノを運ぶなど、既に社会実装されているものから、これから実現化されていくものまで多種多様なチャレンジが起きている。

ぜひ、FastGrowの若手読者にも、こうしたテクノロジーを用いて日本の物流課題を解決し、社会を変えていくことに興味を持ってもらえたらと思う。

こちらの記事は2023年03月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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