「正解を出す人」のままでは、事業はつくれない──元BCG大植択真×元IGPI長崎大都が語る、AI時代に手放すべきコンサルスキル【エクサウィザーズ/RightTouch】

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長崎 大都

京都大学 大学院卒業後、2015年に株式会社経営共創基盤(IGPI)に入社。2019年より株式会社プレイドに参画し大手企業向けのカスタマーサクセスやジョイント・ベンチャー立ち上げに従事。そして2021年にプレイドでの新規事業から株式会社RightTouchを立ち上げ、代表取締役として事業全体をリードしている。

大植 択真

京都大学工学部卒業。京都大学工学研究科修了(都市計画、AI・データサイエンス)。2013年、ボストンコンサルティンググループに入社。事業成長戦略、事業変革、DX推進、新規事業立ち上げなどの多数のプロジェクトに従事した後に2018年、エクサウィザーズ入社。2019年4月より、AI事業管掌執行役員として年間数百件のAI導入・DX実現を担当。企業の経営層や管理職向けDX研修の講師実績が多数ある。2020年6月に取締役、2023年6月に常務取締役就任。同年10月よりExa Enterprise AIの代表取締役も務める。兵庫県立大学客員准教授。兵庫県ChatGPT等生成AI活用検討プロジェクトチーム アドバイザー。著書に「Web3時代のAI戦略」(日経BP、2022年)。2023年10月からは新会社「株式会社Exa Enterprise AI」の代表取締役社長に就任。

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AIが戦略の素案を書き、分析を代行する時代に、コンサルタントの価値はどこへ向かうのか。

答えの一つは、事業会社の側にある。

AIが人の業務そのものを担い始めると、どうなるか。「人は何をするのか」はもちろんのこと、「どの権限をAIに渡すのか、誰が監視するのか、既存の業務フローをどう組み替えるのか」まで厳密に決めなければならない。業務を構造化し、組織を動かし、成果が出るまで責任を持つことが、より強く求められるようになる。

コンサルタントが磨いてきた能力が効くのはまさにここだ。ただし、それをやり切れる人材はまだ多くない。

この変化の最前線にいるのが、エンタープライズのCS(カスタマーサポート)/CX(カスタマーエクスペリエンス)領域向けにAIコンタクトセンター基盤を提供するRightTouchと、大企業のAI活用をプロジェクトとプロダクトの両面から支援してきたエクサウィザーズだ。

興味深いのは、二社が同じ循環を逆の入り口から回してきたことだ。RightTouchはプロダクトを起点に顧客の業務へ深く入り、そこで得た知見や示唆をプロダクトへ返してきた。一方のエクサウィザーズは、個社プロジェクトを起点に、そこで得た知見や資産を他社でも使えるプロダクトへと転化してきた。

では、元コンサルタントはその現場で何を活かし、何を学び直すことになるのか。AI時代のプロダクト企業は、どこまで顧客現場へ入るべきなのか。ビジネスとエンジニアリングの境界は、どこまで重なってよいのか。

RightTouch代表の長崎大都氏と、エクサウィザーズ常務取締役COOの大植択真氏。ともにコンサルティングファームを経て事業をつくってきた二人の対話を追う。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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AIを「使う」だけでは、経営インパクトにならない

大植日本のエンタープライズ企業で、AIに対する興味や投資意欲はここ3年ぐらいでどんどん増してきたと思います。会社の中にAIを導入したくない経営者は、ほとんどいなくなってきたんじゃないか、と感じるぐらいです。一方で、現場にAIを導入して、ちゃんと成果を出し、経営インパクトにまでつなげていくという意味では、まだまだギャップがある。エクサウィザーズとしても、そこが勝負のしどころだと思っています。

コンタクトセンター領域を見ている長崎氏も、ここ1年ほどで顧客側の空気が変わったと話す。AIを「試してよいか」という段階から、経営目標から逆算して「本当に業務を変える」段階へ進む企業が出てきた。

長崎2年ほど前までは、お客様からいただくご相談の内容が、人間のオペレーターが社内情報を検索しやすくするということや、入力作業の一部を効率化するなど、そういった人が業務を行う前提での業務改善が中心でした。こうしたことも大事なのですが、私の体感では、「人が使うツールとしてのAI化」を進めても全体における改善はせいぜい10%ぐらいにとどまってしまう。

ここ1年ほどは一気に雰囲気が変わり、「人間が担う業務全体をAIに置き換えることに挑戦したい」というご相談ばかりいただくようになりました。

そうなると、私たちの対応もまるっと変わります。AIと人間の業務をどう棲み分けるのか、そのなかで人間は何をするべきなのか、AIが自律的に応答しているものをどう監視するのか、全社視点でのリスクチェックはどうするのか、など考えなければいけない論点が一気に増えました。

大植そうなんですよね。そこで私たちは、AI活用をざっくり2つに分けて理解し、事業に落とし込んでいます。

一つは、「人がAIを使うこと」を最大化するテーマ。これはSaaSなどをフルに使って人の生産性を上げる話に近い。もう一つは、「人がやっている業務をAIが行う前提で見直す」テーマです。

後者は、一度AIファーストで業務を組み直して、人はどの業務を担うのかを考える。そこまでやろうとすると、単にプロダクトを導入するだけではなく、企業の業務を深く理解して整理する、コンサルティング的な機能まで広げないと価値が出ない。

AIの性能が上がれば、プロダクトを提供している企業側の導入支援は薄くなるのではないか──そんな直感とは逆に、AIでできることが増えるほど「AIを企業の中にどう溶けこませるか」の論点は増えていく。

大植AIをただ使うことと、AIを現場で活躍させることの間には、大きなギャップがあります。特にエンタープライズだと、セキュリティ、権限、ワークフロー、人の再教育と、論点がいろいろある。それを一つひとつ解決しながら現場に実装できる人は、かなり希少なんです。大企業の中だけでは全部できないことがある。

それが、そのまま当社のビジネスチャンスになっている、という構造だと思います。

長崎そうですね。以前のFastGrowでの記事でも、弊社共同代表の野村から「お客様であるエンタープライズの経営層から『プロダクトカンパニー』と見られたら、その時点で負け」とお伝えしました。プロダクトだけで解決できる課題ではなく、もっとお客様の業務フローを理解し、どのようにAIを溶け込ませるかを考える必要があります。これまで以上に総合的な力で解決しに行くべき大きな経営課題に向き合うチャンスが、大きく増えているんです。

では、その変化は、どこから動き出したのか。

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AI変革は、どこから動き出したのか──最初の一手が、コンタクトセンターだった理由

以前のDXやIT投資と、いまのAIは何が違うのか。大植氏は転換点を2022年11月、OpenAIがChatGPTを公開した時点に置く。経営者自身がAIに触れられるようになり、技術がユーザーの側へ降りてきた。

従来のITやDXは、どうしてもDX部門がやるもの、一部の人がやるものだった。AIも同じで、一部のデータサイエンティストがモデルを組んで現場に入れる、というスコープの局所的な仕事だった。それが全体へ広がったことが、この3年でいちばん大きい変化だと大植氏は言う。

一部の部署の課題が、全社の課題になった。経営者の関心が一気に上がった理由であり、同時に、実行の難度が跳ね上がった理由でもある。

顧客応対を含む顧客体験領域に絞ると、長崎氏が見てきた景色は異なる。

この領域では、変化は生成AIの登場と同時には起きなかった。顧客の前に自律的に応答するAIを出すことへの警戒が、長く続いたからだ。ハルシネーションのリスクに目が向き、1年半ほど前まではその空気が支配的だったと長崎氏は振り返る。

空気を変えたのは、技術ではなく宣言だった。長崎氏が挙げたのは2つ。OpenAIとアフラックが、AIエージェントによってコンタクトセンターの人件費を半分にすると掲げたこと。そしてほぼ同じ時期に、ソフトバンクの孫正義氏が、AIへ賭けていく第一弾としてコンタクトセンターを挙げたことだ。

長崎日本の大企業って、結構、右へならえなところがあるなという。赤信号をみんなで渡れば、じゃないですけど、その色をすごく感じたというか。

数字だけが先行しているのではないか。AIはPoC止まりになる、という指摘も根強い。長崎氏は、社名を伏せたうえで、自社がAIコンタクトセンターとCXの支援に入っている大手企業の様子を語った場面を振り返った。

長崎その企業様の社内は目まぐるしく、スピード感を持って動いていました。よく「大企業はスタートアップよりも変化が緩やか」と指摘されますが、まったくそんなことはありませんでした。

目標からバックキャストして、非常に前のめりなスケジュールが設定され、チーム全員が強くコミットしている。経営層への報告も週次で細やかに行っていました。

なぜ、その一手がコンタクトセンターのAX(AIによる業務変革)だったのか。

大植正社員が多い領域ではAXを進めると人員の再配置や再教育が必要になり、改革の難度が跳ね上がる。一方で、コンタクトセンターは外注している企業が多いためAIによる効率化効果をそのまま刈り取りやすい。だから進んでいるという印象がありますね。

また、経営インパクト創出の成功事例が国内外に出ていてわかりやすい点もあると思います。

技術の問題ではない。人件費が固定費となる日本の雇用慣行が影響しているわけなのだ。

AIで効率化した分の人員を、売上を作れる部門へ回すか、新規事業を立ち上げるか。日本企業ではそこまでやらなければ、効率化はコストに反映されない。アメリカでは固定費を圧縮するアプローチとセットで語られることが多いテーマが、日本では再配置の問題に置き換わる。そこに難しさがある、と大植氏は言う。

長崎コンタクトセンター領域で取り組みが進んでいる理由は、大植さんのおっしゃる通りだと思います。キャッシュインパクトも、出ているところは出ている。まあ、まだまだこれからが本番という感じですが。

AIの精度がこの先どれだけ上がっても、日本企業の障害は自動的には消えない。

障害を越えるには、AIを導入するだけでなく、顧客の業務の中まで入り込む必要がある。では、二社はそれぞれ、どこから入り込んでいったのか。

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プロダクトから現場へ。現場からプロダクトへ

エクサウィザーズは、大企業の経営課題に対してコンサルティングから入り、AIのモデルやアプリケーションをつくるプロジェクト型の事業から始まった。そこで見つけた課題や資産を、別の企業でも使える形へ横展開する。その循環を、大植氏は「AIぐるぐるモデル」と呼ぶ。

大植例えばエクサベースロープレ(AIロープレのプロダクト)も、大企業との具体的な取り組みの中で見えてきた課題を、「他の金融機関にも展開できる」「他業界にも横展開できる」と考えて商品化したものです。他のプロダクトも、大企業との取り組みの中で生まれたネタを汎用的なプロダクトに昇華させる、という思想で事業をやっています。

このプラットフォームとプロダクトをぐるぐる回す。この「AIぐるぐるモデル」が、エクサウィザーズの経営モデルになっています。

それを聞いた長崎氏は、すぐに自社との違いを口にした。

長崎なるほど。私たちとは逆の流れと言えるかもしれませんね。

私たちは、プロダクトカンパニーとしての強みだけではこの産業を変革しきれないと感じるようになり、人的支援領域までケイパビリティを一気に広げたという流れです。

なぜ、プロダクト一本では足りなくなったのか。長崎氏が挙げた一つの変化が、商談相手のレイヤーだ。

長崎これまでも一部では、戦略策定の伴走や、コンサルティングに近いハイタッチなオンボーディングを行っていました。その頃にいただいていた相談内容は、コンタクトセンターの課長・部長レイヤーの方々からの、「VoCデータを解析できる状態をつくりたい」といった業務改善レベルの話が多かった。我々が持っているSaaSプロダクト導入を通して業務効率化のニーズを満たそうと取り組んでいたわけなので、オンボーディングや活用支援の部分でフィーをいただくようなビジネスモデルには一切していませんでした。

しかし、1年ほど前から、エンタープライズの経営層と伴走しての戦略策定・実行の機会も多くなってきました。それで、新たなビジネスモデル・商材としての対応を始めていったんです。

AI×コンタクトセンターの注目度が上がって、商談に代表を含めた経営陣も来ていただけるようになっていきました。そうなると、AIコンタクトセンターの業務改善だけではなく、「AIによってCX全体をどう変えていくか」というテーマに広がります。

この規模のテーマになると、お客様ごとに状況をヒアリングし、その会社に合った形で価値を届けることを何度も繰り返す必要があります。コンサルティングとプロダクト提供を両立させないと応えられない。そこで、人による支援を正式なサービスとして立ち上げ、費用をいただいて提供するようにしました。

プロジェクトワークからプロダクトへ向かったエクサウィザーズ。プロダクトからプロフェッショナルサービス側へ広がったRightTouch。

二社が同じ会社モデルになった、とまで単純化できるわけではないが、共通点も見えてくる。

より深く入っていかなければ、業務そのものを変えるところまで届かない。だが、深く入るほど、一社固有の要望やワークフローを自社プロダクトへ持ち込みたくなる。

この矛盾を、どう扱うのか。二人の答えは、驚くほど似ていた。

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顧客解像度の「伝導率」を高める

この問いを考える対話の中で、長崎氏から「顧客解像度の伝導率」という言葉が出た。

発端は、大植氏が話した「つくる」と「売る」の変化だ。

大植商売って、ざっくり言えば「つくる」と「売る」じゃないですか。これまでは、「つくる」側がエンジニア、「売る」側がコンサルタントを含むビジネスサイドの仕事だった。でも、このベン図がどんどん重なってきている感覚があります。

その理由として特に大きいのが、Claude CodeやCodexなどのコーディングエージェントの存在です。エクサウィザーズでも営業のメンバーが、簡単なアプリケーションやお客様に見せるものなら自分でつくってしまうようになってきました。

長崎まったく同じ見解です。もう一つ付け加えると、汎用LLMがアプリケーションレイヤーに入ってきたときに、私たちのようなスタートアップが差別化するうえで大事なのは、やはり「深さ」だと思うんです。

顧客解像度や業務解像度を徹底的に持って、それをAIプロダクトやその裏側のコンテキストレイヤーにきめ細かく落としていく。80点ではなく、100点を目指す。そのときに私が考えているのが、顧客解像度の「伝導率」です。

お客様のことを一番深く理解しているのは、たいていビジネスサイドやドメインエキスパートです。現場で「本当はこうあるべきだ」と掴んだ感覚を、彼らは持っている。問題は、その感覚がプロダクトをつくるメンバーにどれだけ正確に届いているか、なんです。

伝言ゲームと同じで、人を経由するたびに情報は少しずつ抜け落ちていきます。ビジネスサイドが100の解像度で掴んでいても、エンジニアに届くころには50になっているかもしれない。私はこの「どれだけ減らずに届くか」の割合を、顧客解像度の「伝導率」と呼んでいます。

伝導率を上げる方法は、うまく伝えることだけではありません。エンジニア自身がお客様との打ち合わせに同席したり、現場に足を運んだりして、一次情報を直接取りに行くこともあります。

伝導率100%はさすがに難しい。でも、ビジネスサイドが掴んだものの9割がエンジニアに届き、そのままソフトウェアに落とし込める状態をつくれたら、それは本当に強いプロダクトになると思います。

解像度の数値に関しては長崎氏の体感値だが、なんとなく共感を覚える読者も多いのではないだろうか。自分たちが胸を張って「これは、自分たちが得た一次情報をしっかり反映できている」と言える状態を目指す。一次情報を100%反映し切るのは難しいかもしれないが、90%ならあり得るかもしれない。そうして組織で突き詰めていく。

ただし、ここまでなら、「ビジネス側がもっとプロダクトをつくればよい」と読める。しかし長崎氏には、そう簡単なものではないと強く反省を覚えた実体験がある。

長崎モックをビジネス側がつくるのはすごく良いことだと思います。しかし、汎用的なプロダクトやプラットフォームの開発まで進めていくというのは、全く別の話ですね。

たとえば、アーキテクチャやオブジェクトをどう設計するか、今回フォーカスする問題を抽象的に解けるベストなモデルは何か、技術負債が最小化する進め方は……のように、専門的な知見と経験が不可欠な話になります。

そこでプロダクト開発経験に乏しいメンバーがAIの力を借りてそのまま設計すると、一見、課題は解けそうでも、足し算の思想ばかりで組み上げられたプロダクトになってしまう。AIは開発スピードを圧倒的に高める分、間違えた方向でプロダクトを作ったときの負債増加スピードも高めてしまう。追加開発や保守運用の面で、手戻りが非常に多く発生する事態を招くことになります。

だから私たちは、ビジネス側がプロダクトに関わる一方で、最後にどう設計するかはプロダクト側が決めるようにしています。

大植はい、私たちもそう考え、役割分担をしています。全部一人で、ビジネスもプロダクトも分かって、全部できるスーパーマンがいれば良いですが、それだとできる人がかなり限られて、組織がスケールしていかないので、一定の役割分担をする方が事業や組織が大きくなる。

長崎実は私が、そのスーパーマンを目指してしまうような時期がありました(苦笑)。

RightTouch創業時は、私自身がビジネス側もプロダクト側も広く見ていました。もともとのバックグラウンドや経験から、市場の流れや顧客の潜在的なペインを捉えることには自信があった。それを基に、付け焼き刃の知識で、プロダクトづくりも考えて進めていたんです。

ですがその後、現CTOの籔がチームに入ってくれて、汎用的で美しいプロダクト設計を描いていく姿を見て、自分の至らなさを実感しました。それ以来、役割を明確に分けています。

大植大谷翔平選手のように、前例をすべてひっくり返すような二刀流を実現する例も存在はしますが、これはなかなか稀なケースになると思いますよね(笑)。

今、コンサルティングファームで、データやプロダクトへの関わりを持つ人もいらっしゃると思います。ですが、基本的には、そちらにはそちらの道のプロがいます。コンサルタントとしての経験を積んだら、まずはそのまま、ビジネスサイドで強みをつくりながら、プロダクトサイドに染み出していくほうがいいと思います。

長崎私も明確にそう思っています。技術の観点から汎用的な設計ができる人を見て、「私は市場や課題のプロであるべきで、エンジニアは解決策のプロであるべきだ」と考えるようになりました。責任のオーナーシップは、組織においてこのように分岐されるべきだと思います。

顧客解像度は高いまま伝える。しかし、伝わった顧客要望をそのまま足すのではなく、プロダクトの専門家が専門的な知見・経験を持って、抽象化し、汎用化する。

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越境する。しかし、最後は専門家が決める

ここまでの議論を見て、「FDE(Forward Deployed Engineer)」と「DS(Deployment Strategist)」の組み合わせをイメージする読者もいるだろう。これはアメリカのスタートアップ・Palantirが定義し、一般化し始めた役割定義だ。

一般的には、クライアントとなったエンタープライズの現場システムにおける開発・実装を直接担う役割を指す。FDEがエンジニアとしての強みを、DSがコンサルタントとしての強みをそれぞれ活かし、チームでこの役割での実践を進めるケースが、日本でも増え始めている。

大植氏自身、「PalantirのForward Deployed Engineerを、以前からベンチマークしてきた」と話す。

大植先ほどの話とやや被りますが、私たちは常に「エクサウィザーズが持つプラットフォームの成長に、開発資産を活かす」という内容を意識してエンタープライズとの取り組みを行っています。これは、PalantirのFDEの役割と同じようなものだと思います。

単にエンタープライズの一つの業務プロセスで活躍するAIをつくることなら、頑張って勉強すれば、できるかもしれない。でも、たとえばそれを数万人以上の人たちが同じように使えるスケーラブルな技術基盤として開発していくことが必要なのだとしたら、そんなことはできないでしょう。

長崎それは無理ですよね。コンサルティングのケイパビリティと、汎用的なプロダクト開発のケイパビリティには、相性が悪いところもあると感じています。

コンサルタントは個社の課題へ深く向き合ってひたすらに個別化を行う。プロダクトでは、個社の要望を捉えつつも、共通する構造を引き算しながら考え続ける必要がある。似ている部分がないわけではないですが、最終的な着地の方向性が実際には大きく異なる。

大植そうですね。ただし、前提としての目的や在り方の整理を進めるレイヤーにおいては、コンサルタントとの相性が良い場面もあると思います。汎用的なプラットフォームを、クライアントの状況にどのように合わせていくのか、そしてそこで得たインサイトのうちどのような部分をプラットフォームとして汎用化しようとするのか、このあたりの思考・議論は、それぞれが持ち寄ることでうまく進むものだと思います。

ただし、何度も言いますが、やはり「どうつくるか」は、まったく別の話です。

会社として越境は推奨しますが、それぞれの強みや専門性をすごく大事にして、チーミングすべきだと思っています。

インターフェースはコーディングエージェントでつくりやすくなっても、インフラ、セキュリティ、汎用化するためのバックエンドには、捉えにくい論点がたくさんある。そこは、開発経験が豊富なエンジニアが責任を持つ状態にしておかないと、技術負債の積み上がり方が変わり、その後の事業展開に大きなリスクが生まれるものなんです。

RightTouchの「全員プロダクト担当、全員顧客担当」というバリューも、「全員が同じ職能になる」という意味ではない。エンジニアが顧客と話し、ビジネス側がプロダクトを理解する。互いの領域へ踏み込む頻度は増える。それでも、最終的な設計判断や責任まで曖昧にしない。

出典:RightTouch Mind(バリュー・カルチャー紹介資料)

職種の境界が消えるのではなく、境界をまたいで情報が行き来する。その接続が増えるほど、専門性の違いもまた重要になる。

誤解されやすいのは「最後の設計を決めない」ことと「プロダクトを動かせない」ことが、まったく別だという点だ。

どの顧客の、どの業務を、どの順番で変えるのか。何を汎用化して、何を捨てるのか。その問いを立てるのは、一次情報を持っている側である。設計の専門性を尊重することは、決める対象が変わるということであって、決める量が減るということではない。

では、このようなチームで元コンサルタントは何を担うのか。

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「答えを出す人」から、「何を解くかを決める人」へ

ここまでの話は、AI企業側の事情に見えるかもしれない。だが長崎氏は、この変化がコンサルティングファームの提供価値そのものに及んでいると見ている。

長崎私が新卒1年目のときにChatGPTやClaudeを触っていたら、絶望していたと思います。それくらい、ジュニアが担っていた調査や資料づくりの仕事は、AIに置き換わりつつあります。

当然、提言をまとめるだけの価値は相対的に下がっていきます。そしてプロダクトを持たずに変革をやろうとすると、どうしても常駐でひたすらPMOを行う「高級人材派遣」のようなモデルになってしまう。本当に変革を起こすなら、コンサルティングだけでなく、業務に組み込めるプラットフォームをセットで持っていることが大きな価値になる。世の中はそちらに寄っていくんじゃないかと思っています。

そして、そのプラットフォームをつくるには、優秀なエンジニアが欠かせません。ただ、トップクラスのエンジニアがコンサルティング会社を就職先に選ぶかというと、そういう構造にはなっていない。彼らが行くのは、AIやプロダクトを看板にしている会社です。そういう人たちと同じチームで働けること自体が、コンサルティングファームからスタートアップに来る面白さの一つだと思います。

では、そのとき元コンサルタントの何が活き、何を手放すことになるのか。

大植氏も長崎氏も、ファーストキャリアはコンサルティングファームだった。二人の話を聞くと、コンサル経験は「役に立つ/立たない」の二択では整理できない。

では、コンサルティングファームで培ったもののうち、事業会社に持ち出せるものは何か。

大植抽象化と構造化。私は新卒でBCGにいた経験の影響で、物事を抽象的・構造的に考える癖が今も強くあるようです。ある事象が起きたときに、「こういうことが起きるメカニズムがあるということは、○○な構造なのではないか」「○○なマーケットでは、お客様に○○な傾向が見えやすいのだろう」といったことを自然にいつも考える。これは会社経営においてとても役立っています。

長崎私も似たようなことを思います。今は生成AIが、それっぽいアウトプットをいくらでも出してくれる時代です。だからこそ、状況を構造化して理解し、AIが出してきたものを選び抜いたり、きちんと否定して導き直したりする審美眼や判断軸が重要になる。

そのためには、自分なりの仮説を持っておくことが欠かせません。「本来はこうあるべきだ」という意思があるから、「これ、論点がずれているよね」「こっちでまとめた方がいいよね」と判断できる。仮説がないままAIの出力を眺めていても、どれもそれなりに正しく見えてしまいます。こうした現場判断・経営判断のベースになる能力は、AIと協業するこれからの時代でも、まだしばらくは活き続けるものだと思います。

大植加えて、エンタープライズ向けBtoB事業の現場で、経営者と相対して交渉ができる人は、今も人材マーケットにおいて希少です。経営レベルの会話は、現場の事象を統合した抽象的な話が多いので、そこについていけるような経験を多く積んでいることは、コンサルティングファーム出身者の強みとして、今後も活きるものの一つであり続けるかもしれません。

ただし、その強みを持ったまま事業会社へ移るだけで、自然に事業をつくれるわけではない。

大植コンサルタントは、基本的には企業の意思決定を支援する仕事だと思います。より良い意思決定をするために調査や分析をする。

一方、エクサウィザーズでやるのは、お客様とのプロジェクトから汎用化できるニーズを抽出して、AIのプロダクトやプラットフォームへ転化させるという仕事。まさに「事業づくり」であり、コンサルティングとは大きく異なる構造がそこにはあります。

だから、「エクサウィザーズとしてどうするか」という事業の意思やオーナーシップが常に求められる。自社を主語に意思を持てるかどうか、これはコンサルティングファームにいる期間が長くなればなるほど、難しくなっていくものかもしれないと思うんです。

長崎生成AIが出てきて、「答えを出す」部分はどんどん代替されています。私は、どこまでも人間に残る仕事は、自分で「どの問題を解くか」を決めることだと思っています。

ここで大事なのは、「決定」と「決断」は違うということです。決定は、情報が揃った状態で正しい選択肢を選ぶこと。判断も同じで、基準に照らして良し悪しを言うことです。これはAIがかなり得意になっていきます。一方で決断は、正解が分からない不確実性の中で、自分のスタンスを取って踏み込み、その結果に自分で責任を持つことです。ここは人間にしか残りません。

コンサルタントは、「どう解くか」を徹底的に考え抜く。決定や判断の質を極限まで上げる仕事です。一方、事業者(事業家)は、お客様や社会との対話を泥臭く重ねて「実は、重要なのはこのポイントなんじゃないか」と自分の意志で新たなピンを立て、責任を持って推し進め、仮説検証を進めながら成功へと進んでいく必要があります。これは決定ではなく決断の連続で、しかも決断は、何度も決断して何度も失敗した人にしか上手くなりません。

今、この価値がさらに大きくなっていると思います。

大植逆に、「正解を出す」ことに特化したスキルの部分はしっかりアンラーンしないと、現場で苦労することになると思います。活かす部分・手放す部分・学び直す部分が存在しますよね。

もちろん、コンサルティングファームで長くキャリアがある方で、パートナーとして自ら営業して案件を取っている人だったら、ベンチャーで大活躍するでしょう。その一方で、商売の基本である「営業」の経験が薄い層は、そのまま事業会社に来ると苦労しやすいのではないでしょうか。

役職の高さではなく、自分で需要をつくった経験があるかどうか。大植氏の線引きは、そこにある。

「答えを出す能力」が不要になるわけではない。むしろ、AIが大量の候補を返すほど、構造を捉え、良し悪しを見極める力は重要になる。

変わるのは、その能力を何のために使うか、だ。

顧客から渡された問いを高い精度で解くのか。自社の事業として、そもそもどの問いへ資源を張るのかまで決めるのか。

元コンサルタントが事業側へ移るときに必要なのは、前者を捨てることではなく、後者を新しく引き受けることなのだろう。

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事業責任を持つ。その先に、経営の打席がある

その変化を経験する場として、二人が共通して挙げたのが事業責任だ。

エクサウィザーズでは、領域ごとに事業を尖らせ、場合によっては別のエンティティとして経営を任せる考え方をとっていると大植氏は話す。

大植事業責任者・経営者人材が成長できるオポチュニティが常にあるのがエクサウィザーズで、これまでもそうした人材を多く輩出してきた実績があります。

この環境は、コンサルティングファーム在籍者のみなさんにとって新しい挑戦が多くできるという意味で、面白い場所だと思います。

大植氏自身、分社化した会社の代表を経験して、任されることが意思決定の速度とオーナーシップを変えると感じたという。

大植私自身、分社化した会社の代表を3年ぐらいやってきて、非常に大きな成長実感とやりがいを感じました。

やはり分社化した体制だと、事業を推し進めるスピードが格段に上がります。自らが持てるオーナーシップが非常に大きいものなんです。

そんな現場を任せられるメンバーを、これからさらに増やしていきます。

RightTouchでも、長崎氏が元コンサルタントのネクストキャリアとしてまず挙げるのは事業責任者だ。

長崎コンサルティングファームで担う仕事と、自分で意思を持ってアウトカムに向かっていく仕事は、やはり全然違う。その経験をいち早く学べる環境が、RightTouchにはあると自負しています。

しかも、長崎氏が見ているAI×CXの射程は、現在のコンタクトセンターに閉じない。

長崎AI×CXは、これからとてつもなく大きくなっていく市場です。

以前から明確に存在していた「コンタクトセンター」「カスタマーサポート」の部分だけを見ても、多くのニーズやインサイトをお客様から日々いただいており、やりたい事業やプロダクトの構想が無数にある状態です。

つまり、多くの事業責任者あるいは子会社社長のような存在が不可欠になっていく領域なんです。AI時代らしい挑戦のチャンスに溢れた市場だと思います。

もちろん、これは「AIの時代だからコンサルを辞めるべきだ」という話ではない。大植氏は、一社の深い経営課題を、M&Aやグローバル戦略を含めた多様な手段で解きたいなら、コンサルティングファームは今も適した場所だと話している。

選択を分けるのは、どの仕事が上かではなく、どこまで自分で決めたいかだ。

RightTouchとエクサウィザーズの対話から見えたのは、プロダクトカンパニーたちが今、AI時代全盛の中、単に技術者の会社にも、コンサルタントの会社にも変わっていかない、新たな試行錯誤を続ける姿だった。

現場の顧客解像度を高いまま伝える。しかし、個社の要望をそのまま製品化しない。ビジネスとエンジニアリングは互いの領域へ踏み込む。しかし、最後の責任まで曖昧にしない。

その中で、元コンサルタントに求められる仕事も変わる。

何を解くのかを、自分たちで決めること。

大植氏はそれを、任せる側の問題として語った。

大植事業責任者・経営者人材をどれだけ多く輩出していけるかが、会社全体の業績や企業価値に直結する。任せられる人を何人つくれるか。そちらのほうが大事だと思っています。

そしてインタビューの最後に、長崎氏はこの選択を、もっと長い時間軸に置いた。

長崎いま50代半ばから60歳くらいで、業界を動かしている方々がいますよね。検索やポータル、EC、ネット広告──日本のインターネットの基盤になった事業をつくった人たちです。このような方々の多くは、1995年ごろに、まだ誰も市場と呼んでいなかった場所で、自分で触って、自分でつくっていた。

AIは、もう小さな波ではありません。この先50年、100年続く波です。その最前線で、一番高い解像度を持って進めていた人には、絶対にキャリア的な価値がある。

正解はないけれど、最前線の環境に自分を置いておく。それがいまの時代、いちばん大事なことなんじゃないかと思っています。

渡された重要な問いを、深く解き切るのか。それとも、市場や社会の変化を見ながら自分で解く問いを選び、プロダクトと事業へつなげ、その結果まで引き受けるのか。

AIがつくれる「答え」が増えるほど、後者で人間が持つべき意思は、むしろ重くなる。

そして、その意思を持って立った場所が、10年後に何を意味していたか。答えが出るのは、これからだ。

こちらの記事は2026年09月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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