商流における“オセロの4隅”を押さえよ──人々の“第3の目”として「映像」を加えるセーフィー。CEO佐渡島氏が語る2030年の社会から逆算した緻密なロードマップとは

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インタビュイー
佐渡島 隆平

1979年兵庫県生まれ。甲南大学経済学部在学中の99年にDaigakunote.comを創業。2002年同大学卒業後、ソニーネットワークコミュニケーションズに入社。その後子会社のモーションポートレートCMOに就任。14年セーフィーを創業。2017年にオリックスや関西電力等の大手企業からの資金調達発表を経て、2021年9月に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たし、引き続き事業を拡大中。2020年には『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2021」で1位を受賞。

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AI、DX、IoTといったトレンドワードに関わるニュースが絶えない中、その根幹を担っているデータに向けられるまなざしは、意外とそれほどの熱量を帯びていない印象がある。しかし、このデータにこそ大きなインパクトをもたらす力があると考えた企業がある。

あらゆる環境を録画・配信するクラウド型映像プラットフォームを提供するセーフィーは、「映像から未来をつくる」をビジョンに掲げ、幅広い業界、シーンの課題を解決するソリューションとして映像データを主軸に事業を展開している。防犯などに用いられるクラウドカメラの国内シェア半数以上を占める同社であるが、ビジョンに掲げられた「未来」とはどのようなものなのだろうか。

セーフィーの代表取締役社長CEOである佐渡島 隆平氏は、「映像データが、人々の意思決定と未来を支えるインフラになり得る」と語る。創業時から2030年を一つのゴールと設定して映像データを軸とした事業を展開してきた背景にある想い、そしてセーフィーが描く戦略とは。同氏へのインタビューを通じ、映像データプラットフォーム「Video & Data as a Service(VDaaS)」がもたらす未来の一端を垣間見る。

  • TEXT BY YUKI YADORIGI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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私たちの目が捉える現実の限界を超える、第3の目としての「映像」

いま、読者の皆さんはこの記事を読んでいる。画面と向き合い、追っている文字情報こそが皆さんにとっての「現実」だろう。一方、この世界では同時刻にさまざまなことが起こっている。それらを皆さんが見ることは当然できない。目は二つ、体は一つ。この限界を超えることはできない……。

──本当に?

すこし変わった話から始めてしまったが、その疑問に対して“映像”という手段を思いついた読者は一人でもいただろうか。映像データがインフラ化し、一人の人間が同時に見られる映像を自在に選べる世界があったとしたら、人々は複数の「現実」を同時に知ることができる。複数の「現実」は人々の意思決定を司り、未来を変えていく。この考えこそが、セーフィーが掲げるビジョン「映像から未来をつくる」の根底にある。

セーフィーはリアルタイムであらゆる環境の映像を録画・配信するクラウド型映像プラットフォームを提供する会社である。同社のファームウェアをインストールすれば、あらゆるメーカーのハードウェアカメラがクラウドプラットフォームに接続される。そしてそこで録画された映像データは、「Safie Viewer(セーフィー ビューワー)」というアプリを通じてマルチデバイスで確認できるだけでなく、AIによる分析・学習が可能だ。利用ケースは店舗・施設や街頭の犯罪防止をはじめ、工事現場の業務効率化や駐車場の自動化、屋外の天候予測や防災など、多岐にわたる。

提供:セーフィー株式会社

同社のCEO佐渡島氏は、映像データが社会に与えるインパクトとその将来性を、時代に先駆けて、広い視野から見据えていた。

佐渡島あらゆる業務の最終的な判断を人間の「目」に頼る世界には、その安全性や意思決定の確度に限界があります。私たちはここに第3の目として「映像」を加えることで、新たなソリューションを生み出したいと考えています。

イメージしやすいよう、具体的な話をしましょう。例えば、あなたがこれから家を出発して駅に向かおうとするとき、時間軸と空間の関係としては自分が居る部屋が「現在」、そして駅は「未来」に分類されますね。

しかし、もしも部屋の中にいたまま電車の運行状況を映像によって確認することができれば、駅もまた「現在」となります。もしも遅延があれば、出発時刻を変更するといった的確な判断もできるはずです。「スマホで調べれば分かることだろう」と感じたかもしれませんが、実際に手を動かすのはちょっと面倒じゃありませんか?私たちは、「調べる」という大きな手間が、テクノロジ-によって省略される未来を、当たり前のものとして考えています。

映像の可能性、というより、「拡張現実」といった言葉を思い浮かべた読者が多いかもしれない。そう、佐渡島氏は、あくまでそのような未来を常に見据えているのだ。

佐渡島昨今は自動車の自動運転技術やドローン技術などが次々と社会実装されていますが、これらの最新技術もまた、現状は安全性の担保については人間の目に頼るものが多いです。ここに運転者や操作者本人の目だけでなく映像も組み合わせ、多角的に見た映像から危険を検出することができるようになれば、新しい技術の安全性は飛躍的に高まるでしょう。

ここまでで挙げた話は、ほんの一例です。AI技術の浸透をはじめ、いま世界はテクノロジーの進化がもたらすパラダイムシフトの渦中にあります。変わりゆく社会のなかで映像データが担う役割は極めて多く、あらゆるシーンにおいて映像データは人々の生活を支えるインフラになっていくでしょう。セーフィーはその未来を見据え、最も身近なデバイスとして防犯カメラから事業をスタートした会社です。

これまでの利用事例としては、やはり防犯カメラが主軸となる。強固なセキュリティとあらゆる空間に対応し得る汎用性は、業界を絞らずさまざまな企業に価値を提供してきた。

しかし、セーフィーがその先に描いている未来は、どうやらもっと広い範囲をカバーしているようだ。セーフィーがミッションに掲げる「映像がつくる未来」とはいかなるものなのか、佐渡島氏の話から紐解いていこう。

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映像がインフラ化した2030年の社会から逆算したロードマップ

セーフィーは2014年に創業したスタートアップで、高画質な防犯カメラのクラウドサービス『Safie(セーフィー)』の開発・提供から歩み始めた。2017年にはオリックス、関西電力、キヤノンマーケティングジャパンなど事業会社大手5社との資本業務提携を通じ9.7億円の資金調達を実施。同年クラウド録画サービスシェアNo.1を獲得し、その存在感を示した。2020年11月に公開された『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2021」では佐渡島氏が1位を受賞、そして2021年には上場を果たしている。この着実な事業成長は、創業時から“2030年”というマイルストーンを立てることで積み重ねられてきたものだ。

佐渡島私たちの事業構想は、「映像データがインフラ化した世界はこうだよね」というゴールから逆算して描かれたものです。まずは防犯カメラにフォーカスし、クラウド化したカメラの映像データをSaaSによって大手企業に提供するところから事業をスタートしました。

やがて各業界の企業がアプリケーションを付与することで、映像データの使い方が増えていきます。これこそ、セーフィーがきたる2030年に確立したい「Video Data as a Service(VDaaS)」の第一歩です。

クラウド上で提供されるサービスを指すX as a Service(XaaS)は今なお細分化され続けており、“X”に入る言葉は多岐にわたる。しかし、Video Data(映像データ)を“X”に入れる発想はそれほど定着していないようで、VDaaSの実現を掲げる企業はセーフィーのほか見当たらない。

つまり、“サービスとしての映像データ”という領域においては、セーフィーが先駆者となる可能性が極めて高いということだ。さて、2023年現在、セーフィーはVDaaS実現に向けてどこまで歩みを進めたのだろうか。

佐渡島2021年の上場以降、私たちはウェアラブルポケットカメラ『Safie Pocket2(セーフィー ポケット ツー)』、そしてAI搭載カメラ『Safie One(セーフィー ワン)』の提供を開始しました。これらはいずれも私たちがやりたかったことの実現に必要な機能を備える製品であり、提供開始をもってようやく2030年に向けてスタートラインに立てたという実感があります。

振り返れば、上場するまでの7年半は“筋トレ”期間だったとも言えるかもしれません。社会で求められていることを愚直にやり続け、力をつけてきました。

佐渡島氏が話す『Safie Pocket2』は、自社開発したLTE回線を内蔵したウェアラブルカメラだ。建設現場や製造業における、遠隔臨場、遠隔立ち会い、遠隔監査などさまざまなシーンでの活躍が期待される。

建設業の事情に詳しい人でなければこの『Safie Pocket2』がもたらすインパクトの大きさを理解することはやや難しいかも知れない。しかし、全ては先ほど佐渡島氏が話した「時間軸と空間の関係」に収斂する。

例えば、事務所から現場まで往復2.5時間かかる現場の立会検査を実施しなければいけないケース。3ヶ月に1回本部のスタッフが現地に出向いて行わなければいけない棚卸・監査。それらが『Safie Pocket2』の導入により遠隔で実施することが可能となれば、発注者は「事務所内のモニター」で現場を確認するだけでよいだろう。まさに、複数の「現実」を同時に見る、つまり人間に“第3の目”を与えることが可能となるのだ。

一方『Safie One』はアプリ(AI-App)と連携し、小売業の課題解決を目的に立ち入り検知・通過人数カウント・立ち入りカウント機能を提供するAIカメラである。アプリは用途に応じて入れ替え可能で、業態によるカスタマイズが可能になる予定とのこと。

いずれも「防犯」というカテゴリを超えたあらゆる期待に応える、映像データの可能性を拡張するプロダクトだ。2023年、これらのプロダクトの展開を通じ、セーフィーは躍進の時を迎える。改めて佐渡島氏は、映像データのインフラ化という事業構想の何に面白さを感じているのだろうか。

佐渡島私がこだわっているのは、事業内容そのものではありません。あらゆるテクノロジーを組み合わせて社会が変わりゆくことは必然で、私たちが開発するプロダクトも、もし私たちが取り組まなければ、きっと私たち以外の誰かが作っていたと思います。誰かがやるかもしれない、誰でもできるかもしれない。でも、その中で敢えて自分たちがやるからこそ「面白い」という感覚が私にはあります。

加えて、映像データのインフラ化に携わるということは、社会の意思決定に対して価値を提供できるということでもあります。運転中渋滞に巻き込まれずスムーズに目的地にたどりついたり、並ばずに空いている店を選べたり……。そういう適切な選択肢という価値を、私たちは人々に届けることができるはずです。

もちろん現在のテクノロジーでも情報を検索することはできますが、あくまでそれらは静的かつリアルタイムで得られるものではありません。一方私たちが目指すインフラとしての映像データは動的で、人々の判断と未来を支えるものです。

電気、ガス、インターネットと、社会にはさまざまなインフラが普及しています。そこに新たに加わるのがデータだと私は考えており、新たなインフラを創っていくプロセスに携われることに面白さを感じています。

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AIではなく映像、今ではなく10年後……
技術進化の歴史に紐づいた確信

2023年現在、注目されている技術領域と言えばAIが挙げられるだろう。AI関連の事業を展開するベンチャーが次々と名を挙げ、AIを活用したソリューションが社会実装されていく華々しいニュースが続くと、ついそちらのほうに目が吸い寄せられる。

2014年から着々と2030年に向けた準備を進め、『Safie One』のようなAI搭載カメラも開発するセーフィーは、なぜ軸足をAIではなく映像データに置くのだろうか。

佐渡島そもそもAIとは何か、というところに立ち戻りましょうか。なんらかのデータがあり、そのデータに意味付けをする。そしてその意味付けされたデータをもとに深層学習して初めて、AIは物事を判断する知能を身につけることができます。つまりAIは、データを前頭とした技術なのです。

セーフィー創業前、私はソニーグループの研究員としてAIやディープラーニングの研究に取り組んできました。当事者として関わっていたからこそ、AIが汎用化される未来はまだまだ先のことだと確信しました。そしてAIに注力する企業は、必ずデータを求めます。

だからAI開発を軸にしようとは思いませんでした。データを持つ企業のほうが、AI開発に注力する企業に対して新しい発見をもたらす可能性が高いからです。私には「AI=凄い」という感覚がないので、AIを動かすデータのほうで日本一、世界一を目指すほうがやりたいと思ったんです。

もちろんゴールをめざす過程ではAI開発にも取り組んでいますが、アルゴリズムで他社と競争する意識はありません。どちらかと言えばAIによってもたらされる明確なベネフィット、具体的には再三申し上げた通り、私たちの目が捉える現実の限界を超える、第3の目としての「映像」がもたらす可能性で勝負したいと考えていました。そのためには顧客、データ、そしてコンピューティングリソースがそろっている必要があります。最近は「やっと条件がそろう時代が来た」と感じています。

AIとデータの関係性を見極め、データで世界をめざすことをはじめから決めたセーフィー。昨今のAIに湧きたつ世界は、セーフィーの描く未来に至るまでの通過点にすぎないのだろう。ちなみに“2023年”というタイミングすら、佐渡島氏は想定していたという。

佐渡島テクノロジーが社会実装されるまでには、一定のプロセスというものがあります。まず新しい技術ができたあと、その技術をコンピュータ上で動かすために半導体のコストが下がります。

さらにその半導体がスマホなどのデバイスにも使われるようになって、初めてその新しい技術は社会実装されていくものです。この一連の流れには、およそ10年間という月日がかかると私は考えています。

この10年間の流れをAIに当てはめてみましょう。AIは2012年ごろ生まれた技術なので、汎用化が進むのはおよそ10年後と考えると2022年~2024年頃……つまり、今なんです。

私が2014年に会社を創業した理由も、この最適なタイミングにデータを提供できる準備を整えたいと考えたからです。これまで防犯カメラを主軸とした事業を通じて映像データを地道に取得してきたのは、すべてAI汎用化が進む“今”に向けた下準備でした。

AIが世で開花するタイミングを見越した創業と、そこまでの10年間を準備期間に費やす忍耐力には、他のスタートアップとは異なる打ち筋、ユニークさを感じる。未来への確信がなければ、この経営判断はなかなか下せないだろう。

佐渡島技術進化のトリガーになっているのは、いつもデータです。インターネットの普及を例に挙げると、テキストデータを扱えるところからまずブログが興隆し、やがて音声データを用いたストリーミングが登場しました。さらに映像データを扱うYouTubeのような配信サービスも浸透し、現在に至ります。

この背景には、技術進化だけでなく、回線速度の向上に伴ってやりとりできるデータが増えたことも要因に挙げられます。

AIもまた、先に挙げたような道のりを今後進んでいくことになるでしょう。まずは文字、そして音声、最後に映像という順でAIが各領域に実装されていくでしょう。そして2023年現在は、ChatGPTをはじめとした文字情報に強いAIがようやく登場したところです。ここからのスピードは速いでしょう。

私の読みでは、2025年ごろにはすでに映像までAIが浸透するはずです。5Gなど通信領域の技術進化も伴うことで、いよいよ映像プラットフォームを作るところに踏み出せる時期が訪れたと思います。

佐渡島氏の話を聞いていると、創業時からここまで解像度高く未来を見据えていたのか、と驚く。掲げられた「映像から未来をつくる」というミッションとプロダクトの間にあったギャップのようなものが、読者のなかでも少しずつ埋まってきたのではないだろうか。AIや5Gが社会に浸透することは、すなわち映像データのインフラ化が始まる幕開けでもあるわけだ。

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“オセロの4隅”を取り、さらに盤面ごと拡げる事業ポテンシャルの高さ

さて、2023年がセーフィーにとって飛躍の年であることは、前章までで十分伝えた。そこで読者が気になるのは、飛躍するための脚力がセーフィーの社内にあるのか、という疑問だろう。「ようやくやりたいことができる」「待ちに待った時代が到来した」と語る佐渡島氏だが、当然これまでの事業で手を抜いていたわけではない。事業戦略面から見たこれまでのセーフィーの歩みを振り返ってみよう。

佐渡島私たちの事業が成功した要因として挙げられるポイントは、ハードウェアではなくファームウェアに軸足を置いたことです。カメラ(ハードウェア)を作る会社にファームウェアを展開することで、広く自社製品が利用される仕組みを作りました。

インターネットが普及する前後で、デバイスとソフトウェアの主従関係は逆転しました。私たちはインターネット普及後の時代の“主”にあたるOS開発に注力し、カメラメーカーにセーフィーの映像プラットフォームが浸透するよう設計しました。

このおかげで、私たちは自社開発のカメラを売るビジネスではなく、他社の製品も含めた何百種類ものカメラを通じてセーフィーのサービスを提供するビジネスを展開できました。

そしてカメラのラインナップが揃っているからこそ、飲食店や建設現場など多岐にわたるニーズにも応じることができ、成功につながったと感じています。

加えてコロナ禍で映像がさらに身近になったことも、私たちのビジネスの追い風になりました。ZoomやMeetといった映像ツールを使うことがオフィスワーカーの間では一般的になりましたが、建設現場など従業員の移動が必要な職場では、このZoomやMeetにあたる製品がまだありません。このニーズに私たちの開発した『Safie Pocket2』がぴたりと合致したことが、2019〜2021年のARR(年次経常収益)4~5倍という業績の伸びにつながりました。

カメラメーカーを横断し、さまざまな業界課題を解決するソリューションを提供する。この経営判断の背景には、「いいものを作ったら売れる」という日本のものづくり企業にありがちな思い込みに対する佐渡島氏の疑問があった。徹底してユーザーに向き合うことを重視する佐渡島氏は、”商流を見極める”ことの重要性について語る。

佐渡島お客様が欲しいものを作るのは大前提として、お客様の目の前に“買える状態”で準備することもビジネスにとっては重要です。例えば、水のペットボトルは、ほとんどの場合「美味しいから」選ばれるのではなく、「コンビニで手軽に買えるから」購入されるものです。これはハードウェア、ソフトウェアにおいても同じことが言えます。努力を重ねて良いものを作る姿勢ももちろん大切ですが、それだけでは事業がスケールしません。要は、商流を見極めることが大切なのです。

セーフィーにおける商流は、「BtoBで求めるカメラは、どこで販売しているのか」と「カメラが欲しいときに誰に問い合わせるか」の2点から絞り出すことができます。

「警備会社」、「通信」、「デバイスメーカー」、そして「既にビルの設備として入っているパターン」。この4つが私たちにとっての商流のポイントであり、この4点を押さえることを私たちは「オセロの4隅を取る」と例えています。私たちは商流の各ポイントに属する企業に資本業務提携を持ち掛け、カメラを求める全企業の手にセーフィーのプロダクトが渡るよう地固めをしました。

さらにリース会社との連携に取り組むことで、私たちは「時間」を買うことに成功しました。スタートアップはどうしても営業力と時間に限界がありますが、リース会社と連携することで、レンタルなどの手段が増え、常にお客様の前にラインナップを置いてもらうことができます。こうした戦略的な他社との連携を重ねた結果、私たちは着実に事業を伸ばしていきました。

オセロで4隅を取れば、あとは盤面を一色に染め上げていくだけだ。セーフィーのクラウドカメラは急速に広まり、現在は国内クラウド録画サービスカメラシェア56.4%を占める。NTT、セコム、キヤノンといった大手企業が、自社製品をセーフィーのOEMに切り替えた。

(*)株式会社テクノ・システム・リサーチが調査した「ネットワークカメラのクラウド録画サービス市場調査(2022)より

業界を超えた企業が手を取り合い、映像プラットフォームを創り上げていくVDaaS構想に向けて、着々と準備が進んでいることがわかる。セーフィー全体に視野を広げてみると、そこにはまだまだのびしろがあるようだ。

佐渡島そもそも国内におけるクラウドカメラは、防犯カメラ市場全体の10%にすぎません。私たちはそのうちの過半数を取ったに過ぎないということです。ですので、カメラのクラウド化によるマーケット拡大については十分のびしろがある状態です。

それに加えて、『Safie Pocket2』のようなウェアラブルカメラについては、上記の市場には含まれていません。建設業界などのDXにおいて活用されることが期待される持ち運び可能なカメラについては、およそ3000万台の市場成長可能性(TAM)があります。これらを開拓していくとなると、国内だけでも凄まじい成長ポテンシャルがあることがわかるでしょう。

特に建設業界からの期待は高く、国内ゼネコントップ30社のうち29社がすでに私たちのお客様です。その背景には、業界の深刻な状況があります。建設現場は労働生産人口の減少が著しく、一部の生産改革ではもはや間に合いません。例えば全体の半分の工程をすべてロボットに任せるというような、ドラスティックな変革が求められているのです。

こうしたパートナー企業に対する深い理解も、私たちは重視しています。現場を実際見に行って、起こっているトラブルなどの話も聞いたうえで、それを解決する製品開発に取り組んできました。その結果、建設現場の物理的な安全性の向上や、デジタルツインによる業務効率化などの面で、セーフィーが幅広い意味で皆さんの安全を守る役割を担うことも実現し始めています。

私たちはこうした各業界の課題解決に製品を通して応えていくことで、やがて産業そのものの活性化にも挑戦できるかもしれません。例えば、セーフィーのプロダクトやサービスを利用していただいている施設をスマートビルディング化し、お客様のビジネスモデルそのもののDXに貢献する、といった価値提供の在り方も今後は増えていくでしょう。

市場ののびしろから始まった話は、やがて未来の市場開拓、産業拡大まで広がっていった。顧客の課題に真摯に向き合うまっすぐな視線は常に未来を見通し、インフラ化する映像データが染み出せる新たな商流を探している。

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仲間と共に顧客と向き合い、サイクルを回し続けることこそイノベーションだ

「映像から未来をつくる」という言葉に込められた想いと拓ける可能性を、ここまでさまざまな観点から描いてきた。読者のなかのセーフィーへのイメージも、ずいぶんと変わったのではないだろうか。ここで改めて、セーフィーがどのような人材と共に、「映像データがインフラ化した世界」へと続く道を歩みたいのかを聞いていく。

佐渡島IT領域の事業に対しては「計画したことがそのまま形になりました」という輝かしい成功のイメージもあるかもしれませんが、実際には現場を駆けずり回り、お客様と共に一歩ずつ泥くさい努力を重ねています。そのサイクルについては、下記の図がわかりやすいでしょう。この図をもとに、セーフィーが重視するマインドを説明させてください。

提供:セーフィー株式会社

佐渡島まず、私たちは「異才一体」というチーム単位で成果をもたらす姿勢を重視しています。デバイスを作る、AIを作る、オペレーションを組む……さまざまな異才を持つメンバーが一体となることで、1人では成し得ない成果を出すことが求められる環境です。

そして「超自分ごと化」という意識も大切にしています。お客様と真摯に向き合い、お客様の課題を自分ごと化して、お客様の想像を超えるような価値を提供することをめざします。

そして、その先に『三方よし』の仕組みを描いて、新しいチャレンジへとつなげていきたい。このサイクルをぐるぐると回しながら私たちはミッション実現へと歩んでいます。

イノベーションというと、革新的なアイデアから生まれる偶発的なものという印象があるかもしれませんが、私はお客様の現実と向き合い、地道にサイクルを回し続けることこそイノベーションだと思います。なぜならそれがお客様に喜んでもらえる一番の方法ですし、会社の成長にもつながるからです。ここまで話したようなカルチャーに共感してくださる方と共に働きたいですね。

セーフィーが確かな足取りで事業を成長させてきたストーリーの裏には、地道にサイクルを回し続けてきた泥臭い努力の積み重ねがある。そして同社の哲学には、社内外問わず競争ではなく協働に重きをおいている姿勢が垣間見える。“オセロの四隅をとる”話にも通じることだが、業界・市場を巻き込み、広く夢を語りながら仲間を増やしていくような戦略が印象的だ。

佐渡島結局なにごとも一人ではできない、ということが前提にあります。社員、パートナー企業、メーカー、株主……自分が実現したい世界を一緒に作っていける仲間づくりが何よりも大切だと感じています。上場するときも各社と協働するという意識が強く、仲間づくりの一手段と捉えていました。

よくビジネスでは「勝ち馬に乗る」という表現を耳にしますが、私は「勝ち馬を作る」という感覚のほうがしっくりきます。それぞれ異なるジョブを持つ者同士が、みんなで手を取り合い、課題を解決しにいく。そうした動きができることこそスタートアップの面白さであり、イノベーションそのものです。

2030年、「エコシステムになりたい」という想いがあります。セーフィーはあくまでそのきっかけを作っていて、映像データというインフラ上に乗るアプリケーションの可能性は無限と言えるでしょう。

まだ誰も答えを知らない白い地図に絵を描いていくような時代の流れのなかで、いま求められているのは地図をデザインしていくことです。その意識を持ちながら、進化していくエコシステムを映像プラットフォームというかたちで作っていきたいですね。

セーフィーが見据える映像データがインフラ化する未来と、そこで同社が果たす役割の大きさは、やはり私たちの想像をはるかに超えるものなのだろう。そこにどんな絵が描かれるのか見たいと感じた読者は、ぜひ同社の一員として地図のデザインを自らしてみてほしい。

こちらの記事は2023年06月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宿木 雪樹

写真

藤田 慎一郎

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