プラットフォームは、「ステークホルダーの結節点」を押えよ──“オセロの角戦略”を起点に市場創造を行うHacobuとセーフィーが明かす、事業の意思決定軸

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登壇者
佐々木 太郎
  • 株式会社Hacobu 代表取締役社長CEO 

アクセンチュア、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。卒業後、ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経てグロッシーボックスジャパンを創業。ローンチ後9ヶ月で単月黒字化、初年度通年黒字化(その後アイスタイルが買収)。食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流業界の現状を目の当たりにする出来事があり、物流の変革を志して株式会社Hacobuを創業。

佐渡島 隆平

1979年兵庫県生まれ。甲南大学経済学部在学中の99年にDaigakunote.comを創業。2002年同大学卒業後、ソニーネットワークコミュニケーションズに入社。その後子会社のモーションポートレートCMOに就任。14年セーフィーを創業。2017年にオリックスや関西電力等の大手企業からの資金調達発表を経て、2021年9月に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たし、引き続き事業を拡大中。2020年には『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2021」で1位を受賞。

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スタートアップでも「ソーシャル・イノベーション」や「社会課題解決」といったワードが当たり前に使われるようになった。国内の労働人口問題や、事業評価におけるESG指標の導入など…これらは企業経営においてもはや避けて通れない大きなテーマだ。

しかし、もちろんその道のりは平易なものではない。業界全体・社会全体の産業構造を的確に捉えて、事業モデルを構築し、泥臭く地道にプロダクトをつくっては改善を繰り返すことで、やっとPMFというスタート地点に立てるのが、「真の社会課題解決型事業」だ。

この荒波を乗り越え、日本社会に新風を吹き込んでいる代表的なスタートアップが、Hacobuセーフィーだ。

Hacobuは、「運ぶを最適化する」をミッションとして、持続可能な物流インフラの構築を目指し、シェアNo.1のトラック予約受付サービス『MOVO Berth(ムーボ・バース)』をはじめとする企業間物流を最適化するアプリケーション群を開発・提供。2023年5月には約15億円の資金調達を実施を発表した。

セーフィーは「映像から未来をつくる」をビジョンに掲げ、クラウドカメラ・映像データプラットフォームを提供。NTT、セコム、キヤノンなど大手企業と資本業務提携し、ネットワークカメラのクラウド録画サービス市場調査にて、エンジン別カメラ登録台数ベースでシェア率56.4%を占める

2社に共通する強みが、労働の「現場」に存在する膨大な定量/定性データを基に、新たな事業の種を生み出していることだ。そこで今回FastGrowは、この2社の創業代表を招いて対談イベント実施。

・どんなデータを、どのように蓄積して、どう分析すれば、新たな事業のタネになるのか

・多様なサプライチェーンやビジネスモデルがある中、どのようなアクションが変革の実現につながるのか

といった産業DXにまつわる事業創造の知見は、なかなか得られるものではない。2社の未開拓市場で社会課題を着実に解決していく事業戦略を、生々しい事例を基に明らかにしていく。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
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リアル産業に横たわる社会課題に挑むHacobuとセーフィー

──では、お二人の自己紹介、企業紹介から始めたいと思います。Hacobu代表取締役社長CEOの佐々木さんからよろしいでしょうか?

佐々木皆さんこんばんは、Hacobuの佐々木と申します。私の経歴としては、大学卒業後にアクセンチュアに入り、アメリカ留学やコンサルティング会社を経て起業し、3回目の起業が今のHacobuです。Hacobuは2015年に創業し、今は約130人の規模になっています。

物流というと、よく「宅配」が取り沙汰されていますが、実は「企業間物流」という、大きなトラックで工場から物流センターに大量の荷物を運ぶ領域の方が圧倒的に市場規模が大きく、約30兆円ほどの規模があります。この企業間物流のインフラが非常に非効率となってしまっている。情報は断絶し、人手不足も相まって崩壊しかけているのです。

Hacobuはこの領域のアップデートを試みています。労働力不足は国としても大きな問題で、2023年6月には物流革新のための政策パッケージが出され、2024年の通常国会で法制化されるほど深刻な状況です。

この「企業間物流」は、メーカーの工場から倉庫、流通事業者、小売というあらゆるステークホルダーが存在する世界。このステークホルダー間の情報のやり取りは今でも電話やFAXと言ったアナログな手法で行われているんです。

結果としてデータが各ステークホルダー内にとどまってしまうことで、部分最適になり、全体としては非最適になってしまっています。そこで我々は、ステークホルダーと情報をつなげる物流情報のプラットフォームをつくっているのです。

現在、プラットフォームの利用数は1万5,000事業所を超え、各領域を代表する大手の企業様にも利用いただけるようになりました。またドライバーさんも、日本に約80万人いるうちの50万人まで利用が広がってきています。

中長期では、ミッションである「運ぶを最適化する」ために必要なあらゆる事業を手がけていきたいと考えており、今期中に新事業の立ち上げにも取り組みたいと考えているフェーズです。

──ありがとうございます。次にセーフィーの代表取締役社長CEO佐渡島さんからも自己紹介、企業紹介をお願いいたします。

佐渡島セーフィーの佐渡島と申します。私のキャリアとしては、大学のときに起業したあと、ソニーグループに入り、その後2014年にセーフィーを創業。クラウドカメラ事業をして市場をつくってきました。

セーフィーは「映像から未来をつくる」というビジョンのもと、あらゆる映像のデータから様々なDXの実現を考えています。行っているのは、クラウドカメラなどをベースに多くのデータをクラウド上に集約し、それを新しい、拡張性あるソリューションにつなげていくこと。2021年9月にIPOをしており、今は約400名規模、売上は100億円ほどの会社になっています。

事業の特徴は、SaaS企業でありながら、ハードウェアが絡んでいることです。大手メーカーの方々と業務提携するとともに、一部の企業様には株主にもなっていただいて、一緒に市場そのものをつくって成長してきている状態です。現在、クラウド録画サービス領域では6割ほどのシェアを持っています。

特に建設現場には、多数のカメラが入っており、人手不足の中で現場に行かなくても施工管理できるようなサービスを展開しています。最近は無人店舗が増えてきていますが、店舗省人化の文脈でもカメラを使ったソリューションを提案し、好評いただいています。

このように、産業のありとあらゆる場所にカメラを入れ、ありとあらゆる業種に対してDXをご提案できる事業だと考えております。私たちは映像プラットフォームの価値を上げていくことを目指し、自社の映像基盤を使いながらも、他社にもどんどん出資しながら、新しい映像のプラットフォームをつくり、サービス展開しています。

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市場創造は、徹底的に現場に入り込むことからはじまる

──今回は、お二方からお話しいただいた内容を前提に、3つのテーマをご用意しております。1つ目のテーマが、「両社の“市場創造術”とは?」。まず、Hacobuさんは物流DXという、これまでになかった市場をつくってこられたかと思いますが、どのように取り組んできたかお伺いできますでしょうか?

佐々木創業した8年前には、物流をDXするなんて無理だと言われていました。

そんな中、まず我々がしたことは、物流の末端に位置する中小の運送会社さんへのアプローチです。物流業界の構造として、大手の物流会社の下に、中小の下請け運送会社が全国に6万社ほどあります。大手企業が、出来立てのスタートアップを相手してくれるとは思えなかったため、中小の運送会社から攻めようと考えたのです。

しかし、これははっきり言って失敗でした。

業界の構造に加えて、「どこに力点があるのか」がわかりきっていなかったんです。今となっては、物流会社というよりもメーカーや小売、卸の方々に力点があることがわかりますが、そこに気づかず、苦しんだ3年間がありました。

そんな中で、転換点になったのが大和ハウス様との提携です。提携後、大和ハウス様が建てた物流センターに入っているテナント企業約200社のうち、大手企業を対象にしたセミナーに登壇させていただいたところ、イオン様と花王様に声をかけていただくこととなったのです。

これを機に、我々のターゲットは中小の運送会社から、大手企業中心に変わりました。

──業界の構造を理解して力点を押さえることが重要なポイントになったということですね。まさにそこは2つめのテーマ「オセロの角戦略の裏側とプロダクト成長の伸びしろ」のうち「オセロの角」のところにつながるのでしょうか。

佐々木そうですね。結局オセロも角を取るということがゲームの力点だと思うのです。そこを押さえない限りは、そのゲームには勝てないので、「どこが角なのか」を捉えていくことがすごく大事だと思います。

──佐渡島さんも頷かれていますが、共感ポイントがあったのでしょうか。

佐渡島リアル産業のDXは、正攻法では攻めきれないところがあるので、そこに強く共感しましたね。Hacobuさんはいわゆるセンターピンとなるお客様がいて、そこからサプライチェーンがぐっと広がったと思いますが、その際「これは良い攻め方だったな」というものはありましたか?

佐々木セーフィーさんとHacobuはともに社外取締役としてアスクル創業者の岩田さんに入っていただいていますが、岩田さんはことあるごとに「大義のあることをやらなきゃいかん」と言ってくださいました。Hacobuには、その大義が明確にあったのです。

「このままいくと企業間物流は崩壊し、我々の生活レベルが下がってしまう。それをデジタルとデータプラットフォームを通して何とかしたい」と。その想いをしっかりと、お客様に伝えること、そして共感いただくこと、これにより実力のある大手企業の方々が“応援団”となってくれたのかなと思っています。

──佐渡島さんはセーフィーでどのように市場創造に取り組まれてきたのでしょうか。

佐渡島実は我々は最初、BtoC、かつカメラのクラウドファンディングを意気揚々とスタートしたんです。幸いクラウドファンディングは成功し、3,000台生産したものの、なんとWi-Fiが全くつながらないカメラになってしまいまして(笑)。いきなり3,000台がゴミ同然という状況。4年ほどは全く売れませんでした。

そんな中、ある日建設現場から問い合わせをいただきまして。建設現場の方が、我々のカメラを建設現場向けに無理やり改良して使っていたのです。「BtoCのようなUIで、現場で使える、こんなカメラを探していたんです!1,000台買うので、一緒に開発しませんか?」と熱く語られたのです。

佐渡島正直なところ、かなり我々のプロダクトを変形させて使われていたので、プライドが傷つきながらも(笑)、とても熱い思いを持ってくださっていましたので、早速一緒にカメラづくりを開始してみたんです。

佐渡島建設現場でニーズがあることはわかったので、共同創業者がお金のない中でルーターに5,000万円かけて開発。完成したタイミングで、なんとコロナになりました(笑)。

大変だと思いましたが、逆に「現場のリモート管理需要のある人のためのツール」として打ち出したところ、見事に大当たりしたといった経緯です。

我々は建設現場だろうが倉庫だろうが、徹底して現場に入っていったことで意外なニーズが見つかって、結果IPOできるまでに事業を広げることができました。もちろん“たまたま”の要素もありますが、その前提として、お客様を大事にすることは創業当初からこだわり続けています。あの時、必死になって一緒にお客様とプロダクト開発したことが、市場創造のきっかけとなったのです。

どうしてもHowやWhatが先行してしまうと「Who」が見えなくなって七転八倒することがありますので、このバランスは非常に大事です。技術だけに傾倒せず、お客様に根ざしていくことが、市場創造に大事な要素だと感じますね。

佐々木やってみてわかることって、考えてわかることの1,000倍くらいあるので、すごく共感できるなと思って聞いていました。「現場に入り込む」というのも本当に共感です。大企業の中でも、Hacobuファンになってくれた結果、業界や、企業の課題について熱心に教えてくださった現場の方々が大勢います。

正直、初めは、物流の現場の方々は我々のような“他所者”には排他的なのではと思っていたのですが、実際は「よくここに来てくれたね」「いろいろ協力するから頑張って、やめないでね」とあたたかい言葉をかけてくださって。苦しい時、非常に支えられました。そういう応援してくれる現場の方々からの“生の声”がプロダクトをつくるヒントにも繋がるので、現場に入り込むことは重要ですよね。

佐渡島我々も同じですね。重荷を背負って苦しい思いをして過ごしていらっしゃる現場の人たちに向き合って、共感をとにかく得ていくことで、リピートオーダーにつながっていきます。建設現場は特にその連続でした。

これまでは、インターネット完結のビジネスが非常にスケールしてきたかと思いますが、これからはリアル世界をインターネット化するようなビジネスが大きなマーケットになっていくと思います。その過程ではつらい思いをすることはあるものの、現場の方たちと一緒に成長していくことは非常に楽しい経験だなと感じます。

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オセロの角戦略とは、「ステークホルダーの結節点」を見つけ押さえること

──Hacobuさんから2点目の「プロダクトの伸びしろ」というテーマでぜひ聞きたいなと思うのが、『MOVO Berth』の話です。『MOVO Berth』は、従来の業界ではありえなかったトラックの予約受付という“慣習”を新しく生み出したプロダクトでもあると思いますが、なぜそれができたのか、教えていただいてもよろしいでしょうか。

佐々木Hacobuのプラットフォームの広げ方として、単に箱だけを用意して、皆さんにデータをアップロードしてもらうやり方ではダメだと思っていたので、プラットフォーム上に物流現場の課題を解決するためのアプリケーションをつくりました。そのアプリケーションを使うとデータが生成されて、プラットフォーム上で情報が他のステークホルダーに共有されるという仕組みです。

一つひとつのアプリケーションはSaaS型で提供しており、そのうちの1つが『MOVO Berth』というトラック予約受付サービスにあたります。

例えば、イオンの大きな物流センターにメーカーが水を1000ケース納品する予定があるとしましょう。『MOVO Berth』内で、その前日にイオンの物流センターに対して、「明日1,000ケース納品したいです」と連絡をします。そうするとイオンのセンターから「朝9時に来てください」といったように返事が来るので、その時間にトラックが行くと、スムーズに納品ができる仕組みです。

「え、そんなの当たり前じゃないの?」と他業界の方は思うかもしれませんが、これまではこのような事前の納品の合意などはなく、いきなり朝やってきて納品するというのがこの業界の常識だったのです。納品の時間帯が朝に集中すると、当然混雑を起こしますし、納品できるまで何時間もトラックの中で待たなければならない。これを「待機時間問題」といって、社会問題化しているのです。

また、仮にイオンが『MOVO Berth』を導入すると、その後イオンに納品しているサプライヤーたちはみんな『MOVO Berth』を使うことになります。すると、例えば次にセブンイレブンが『MOVO Berth』を導入すれば、同じサプライヤーはセブンイレブンにも情報を共有することができる。

このように、多対多がつながる情報のハブとなるプラットフォームになれるのではと思い、リソースを全投入したプロダクトをつくり、迅速にユーザー数を広げていくことで、現在6割ほどのシェアを持つまでになりました。

──『MOVO Berth』は、プラットフォームとしての価値を引き上げるきっかけにもなったのですね。

佐々木ステークホルダーの人たちの「結節点」がわかったので、そこに全力投球するという決断ができました。しかしながら、これらは自分たちだけでは難しかったと思います。待機時間問題を解決するための「政策」という国の後押しがあったからこそ広がった部分もありますね。

──情報プラットフォームを謳う企業は他にもあると思いますが、この「結節点」をいかに見つけられるかが大事だなと感じます。セーフィーさんもデータプラットフォームの側面があると思いますが、佐渡島さんはどのように考えていますか。

佐渡島リアルワールドをどうビジネスに変えていくか考えるときには、「因数分解する力」が非常に重要です。要は「事業者間に落ちてしまう球」がどこなのか。佐々木さんがおっしゃる「結節点」もおそらくその意味合いではないでしょうか。

我々の場合、建設現場でビルを建てる際、ゼネコンの他にいろいろなサブコン(電気・消防・空調設備などの業者)が入って現場をつくり上げるので、安全管理がどうしてもずさんになるケースがあります。

しかし、ゼネコン側からすると、死亡事故を1件でも起こしてしまうと、何百億円もの工事が入札停止になってしまい、一気に事業が成り立たなくなる。そうなりたくないから、クレーンの下に人がいないか、上に登っていくときに安全帯をつけているかなどを、我々のカメラで見て管理していくニーズが高いのです。

単なるカメラではありますが、それによってお客様が何を解決できるかというジョブを、因数分解して理解できると、その価値は格段に上がります。そこが非常に大事だなというのは、佐々木さんのお話を聞いて共感しました。

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どの課題に集中し、どのように登るべきか?
市場拡大のためのプロダクト戦略

──分解して理解することが大事だという先ほどのお話に関係しそうなご質問を視聴者からいただいています。「どのように課題を発見したか、どの課題に集中して事業を起こすかの意思決定軸はどこにあるのかをお伺いしたい」ということですが、まず佐々木さんいかがでしょうか。

佐々木BtoCの領域は普段の生活の中で課題が発見しやすい一方で、BtoBの領域は見るきっかけがないと、なかなか課題の発見ができないと思います。私の場合はたまたま2つ目の会社をやっているときにコンサル先で見る機会があったことで企業間物流が非効率で大きな課題があるということに気づくことができました。

その課題に取り組む意思決定をした大きな理由は、「人生をかけてやる意義のあるものだと思えた」から。Hacobuを創業する以前に立ち上げた2つのビジネスは正直「あったらいいな」というレベルのサービスでした。

一方、物流というインフラ業界の情報プラットフォームをつくることは、残りの人生をかけて全力投球しても悔いはないと思える、不可欠な事業だと感じたんです。

もう1つ、みんなに「これは無理だ」と言われたことも意思決定のポイントでしたね。本当に無理なのか?と考えて、だからこそチャレンジしたいと思ったのです。

──2つ目の「無理だ」と言われたからチャレンジしたいと思った理由は何でしょうか。

佐々木まず、明らかに「負」として課題が存在していることだからです。時間軸を飛ばしてみたときに、例えば西暦2100年になっても従来と同じ仕組みで業界が動いているかというと、絶対そうではないと思います。つまり、この状態は変わりうるものだと思えた。それを仕掛けている人が“今”はいないだけで、世の中の流れは確実にそちらの方向に変わっていくだろうと。だったら自分がやればいいと思ったのです。

──時間を飛ばして考えるというのは思考のヒントになりそうですね。佐渡島さんにも、「どのように課題を発見したか、どの課題に集中して事業を起こすかの意思決定軸はどこにあるのか」をお答えいただいてよろしいですか。

佐渡島因数分解するといったときに、その事業の「Who」は誰か?と聞くと、多くの方が「業界」と答えるものです。しかし、本来は「○○さん」というお客様のバイネームであるべきだと思うのです。

「○○さんの困りごと」といえるレベルになるまでたくさんお客様と会って業界に踏み込んで見ると、結果的にそういうものが事業として筋がよく当たりやすいのだと思います。業界の漠然とした課題から入るのではなくて、「○○さん」の粒度までまず深く掘ってから、共通項を抽象化していくことで、課題の大きさとスケーラビリティが見えます。

佐渡島加えて、事業としてスケールする仕組みになっているかどうかも大事になってくるでしょう。我々は「家から街までをデータ化したい」と考えていますが、一方で我々が工事現場にずっと張り付いているようでは、スケールできませんよね。なので、我々は流通も大事に考えています。

例えば皆さんが普段飲んでいるミネラルウォーターは、日本で一番美味しい水だからではなく、コンビニにあって手ごろだから飲んでいる。物づくりをする人は、つい自分のプロダクトはすごいと思ってしまうものですが、お客様に届かない限り、それはほとんど意味のないもの。

我々の場合はスタートアップなので自分たちだけではできないことも多いです。そこを割り切って、デバイスメーカー、通信インフラ、デベロッパーなど、それぞれの領域でNo.1の人たちに使ってもらえるようにしようと考えました。そうなれば、プロダクトがその領域に一気に広がります。

さらに、金融的な要素も大事になってきます。我々はオルタナティブなファイナンスができて一緒に営業もできるオリックス様に入ってもらうことで、オセロの隅×金融の力で一気にスケールすることができました。

──ありがとうございます。佐々木さんにも、Hacobuの事業プラットフォームとしてどうスケールしていくのか、戦略や見立てをお伺いできればと思います。

佐々木先ほど話したことと重なる部分もありますが、力点になるステークホルダーは、サプライチェーンによって違います。例えば食品や消費財流通では小売や卸が該当しますし、自動車であれば自動車メーカーが力点となります。

この力点になるステークホルダーにいかに使ってもらうかが、プラットフォームとして広げていくために大事なことです。3年間、押してもダメなところをずっと押してきた苦い経験があるので、「どこを押すのか」は非常に考えながらやっていますね。

──ここまでプラットフォームやプロダクトのお話が多かったのですが、Hacobuさんはコンサルティングサービスも提供されていますよね。その理由とは一体なんでしょうか?

佐々木例えば「物流DXをやります」と言っても、まだまだそこにお客様の予算が落ちてこないケースがあります。「物流DX」が必要なことは自明ですが、まだその重要性を経営として認識されていないお客様も多いので。上流のプランニングをお手伝いすることで「物流DX」の中期経営計画から入ることが必要なんです。

すると、「このポイントではHacobuのプロダクトを使えますね」と導入いただくことも可能になりますし、一緒に3ヶ年での投資予算なども考えることができます。

まとめると、コンサルティングを通じて上流から経営陣の意思決定に加わることで、我々のプラットフォームの広がりを加速するという手法です。私や役員が直接「今こういう状況なので、これはもう経営アジェンダとして対応しないといけないですよね」と説得に伺うことも多々あります。

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ルールメイクや国策転換に影響を与える。
市場づくりの醍醐味

──ここから3つ目のテーマ「発展途上の市場づくりで得られる経験値・社会的意義」に移っていきます。セーフィーさんとHacobuさんのフェーズの違いを意識してお話を聞くとわかりやすいかと思います。改めての自社のフェーズと、そこで得られる経験値について、佐渡島さんからお答えいただけますか。

佐渡島今は大体400名強、売上が100億円強のフェーズです。一番面白いなと思うのは、業界内でも非常に感度が高く優秀なNo.1企業の方々の課題に触れることができ、現場に行って解決のお手伝いができるところです。

例えば、リニアモーターカーをつくる現場、タンカーから鉄鉱石が運ばれてきて鉄が生成されていく製鉄所の現場など、“社会科見学の大人版”をひたすらやれるイメージです。

会社が軌道に乗るまでは、どうしても物をつくって出さないといけない、そのために走り回らないといけないフェーズなので、もちろんそれ自体は会社がスケールしていくという意味で面白かったのですが......(笑)。

今はお客様の現場に向き合って、大手企業や社会がこれから目指すべき方向性に対してつくり込めるフェーズに来たので、非常に面白いと思っています。

また、国の政策転換にまで影響を及ぼせるというのも面白いですね。例えば、コロナによって人が現場に行けなくなってしまったときに、カメラと映像で管理していこう、働き方を良くしていこうという文脈で「遠隔臨場」という言葉を、アンドパッドさんたちとともに、ロビイング活動させていただきました。

その流れで国交省に呼びかけて「目視点検項目」を全部やめようと、建設現場だけでなく、全業界の目視点検項目が廃止されることになりました。

これって、新しい産業が生まれる前夜なわけです。課題に立ち向かったことでそういう影響が与えられた。このように、社会を変えていくことに自ら携われるのは面白い経験だと思います。

また、我々もHacobuさんも非常に大事なデータを扱っていますので、データガバナンス委員会に所属し、憲法学者の先生、プライバシー権威の弁護士さん、キヤノンやセコムといった大企業の方々とともに、新たなルールをつくろうとしています。

先ほど、「大義を持ってやることの重要性」をお話ししましたが、データガバナンス委員会のような、社会の先頭に走りながらも一番高い基準でやっていこうとすることは、なかなか得られない経験だと感じています。

──ありがとうございます。佐々木さんからも、自社の今のフェーズの面白さや得られる経験値についてお話いただけますでしょうか?

佐々木会社が成長していく過程で、追い風が吹くタイミングがあると思います。それは、自分たちのコントローラブルなケースと、外部環境的なケース、両方ある気がして。例えばセーフィーさんであれば、コロナが追い風になったと思いますが、そんなタイミングでしか得られないチャンスがありますよね。

まさに今我々は、その追い風が吹いているところです。国を巻き込みながら、社会課題を解決できる。なくてはならないインフラをつくっていけることは非常に面白いタイミングだと考えています。蛇口をひねれば水が出るのと同じくらい、「このインフラがないと社会が成り立たない」というものをつくれる経験は得難いですよ。

我々の組織はまだ100名程度。今入っていただくメンバーは、300人、500人と大きくなったときのコアメンバーとなる方です。そこを担えるチャンスがあるというのが、今のタイミングに入る魅力だと思っています。我々は「運ぶを最適化する」ために必要な事業を全部やっていきたいと考えているので、それぞれの事業を牽引する人として、チャレンジできるはずです。

物流というと狭い領域と感じるかもしれませんが、私もいつも参考にしているエムスリーさんが挑む医療の市場規模は実は物流と同じ20兆円ほどなんです。エムスリーさんは2000億円ほどの売上で1兆円以上の企業価値を持つため、この領域でも同じくカテゴリーキラーとなれれば、少なくともそのくらいの規模感の会社になれると考えています。

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企業選びで見極めるべきは「フェーズ」と「課題の明確さ」

──両社の共通点として、国の政策や政府に影響するくらいインパクトが大きく、かつ先んじて取り組んでいる事業だということが理解できました。

佐渡島「ソフトウェアが世界を食い尽くす」という格言がありますが、まさに今、全ての産業にそれが起きて、人々の生活が変わっていっています。インターネット完結のビジネスの市場はたかだか数十兆円ですが、一方のリアル産業は400兆~500兆円の規模。そこにようやくインターネットやAIが入って基盤づくりが進んできた段階です。全ての産業とデータ、AIが切り離せないような世界になってきているので、チャンスしかないと思いますね。

──いわゆる「AI企業」も多いですが、セーフィーさんもHacobuさんも、AIとは言わないまでも、当然活用していくわけですよね。

佐渡島我々はAIの会社に出資もしていますし、かかわることも非常に多いです。ただ、やはり「How」からスタートして、お客様の根っこにある課題にたどり着けていない会社が多いように感じます。産業の中の人たちがヘビーユーズしてくれて、「このプロダクトはいいよ」と言ってもらえるくらいファンづくりができる会社じゃなければ、ソフトウェアでレガシー産業の重たい課題解決なんてできません。転職するときもそこは見るべきポイントかなと思います。

佐々木今の佐渡島さんのお話、本当にその通りだなと思います。しっかりとイシューから入っている会社かどうかは重要です。テクノロジーから入っていく会社は、どの問題を解決していいかわからず、「こんな技術を持っているんだけど、何かできないか」と迷うケースが多い。

セーフィーさんも我々もイシューから入っているので、解決したい課題が明確で、働くときにも迷いがないのです。私はこの8年、いろいろと苦しんできましたが、非効率な物流インフラは社会の絶対的な負だから何とかしたい、そのために「運ぶを最適化する」という想いはぶれたことがありません。そこは働く場所を選ぶ際の分水嶺のような気がしますね。

──かなり共通点が見えてきた感じがしますが、一方で「ここは相違点である」と感じるポイントがあればお伺いできますでしょうか。

佐渡島現状の企業規模が違うところは明らかな相違点ですよね。規模の違いによってやるべき仕事の性質は変わってくるので。我々は今、各インダストリー間の課題にフォーカスしながら一つひとつプロダクトをつくっていくフェーズに来ています。

一方で、おそらくHacobuさんはまだまだ何でもやれることを追求していくフェーズではないかと思います。若いスタートアップであればあるほど、もう365日以降24時間ビジネスのことに没頭できると思いますので、その辺は相違点になるとは思います。

佐々木私が会社を選ぶ側だとすれば、やはりフェーズはすごく意識しますね。最初の10人くらいなのか、50人くらいなのか、80~150人くらいなのか、300人くらいなのかで、やれることも得られるものも違います。自分が今何を得たくて、どのフェーズが合っているのかを見極めていくことが大事なことではないでしょうか。

──最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

佐々木今のHacobuは「これが崩壊すると自分たちの生活が立ち行かなくなる」というような社会の重要なインフラの変節点に立っています。変節点に関わることができ、かつその変化に力を及ぼすことができるタイミングです。今後の組織の中で中核メンバーになれる可能性があるところも面白い状況だと思いますので、興味のある方はぜひお声がけいただければと思います。

佐渡島我々セーフィーは今、グローバル展開を始めています。今年新卒入社した方が、早速海外にチャレンジする事例もあり、またいろいろな会社のDXをお手伝いすることで、新しいビジネスチャンスがどんどん増えてきているフェーズです。

生成AIの登場などを踏まえると、これからマルチモーダルな世界が必ず来ます。目で見ているもの耳で聞くもの、全てをAIがつくり直していく世界へと変化していく中で、データのプラットフォームをつくる企業としてチャレンジする。それはここでしか、今でしかできないことだと考えています。

デジタルがリアル産業にどんどん入っていく中、優秀な才能はこういうスタートアップで、どんどん花開くと思うので、自分の得意な領域があれば、ぜひチャレンジして欲しいなと思います。ありがとうございました。

こちらの記事は2024年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

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