“一本足打法”を避け、“オセロの角戦略”で物流に新たな市場を生み出すHacobu。CEO佐々木×VPoP岡が描く、産業変革スタートアップの勝ち筋とは

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インタビュイー
佐々木 太郎
  • 株式会社Hacobu 代表取締役社長CEO 

アクセンチュア、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。卒業後、ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経てグロッシーボックスジャパンを創業。ローンチ後9ヶ月で単月黒字化、初年度通年黒字化(その後アイスタイルが買収)。食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流業界の現状を目の当たりにする出来事があり、物流の変革を志して株式会社Hacobuを創業。

岡 幸四郎
  • 株式会社Hacobu 執行役員 VP of Product 

経営共創基盤にて、自動車・小売・人材・化学・電力等の幅広い業界にて、成長戦略・事業計画策定、ハンズオンでの実行支援、M&A支援等のプロジェクトに従事。2021年7月Hacobuに経営企画として参画。パートナー協業をはじめとする様々なプロジェクトを推進しつつ営業・マーケティング戦略立案等に従事。2022年1月からプロダクトマーケティングマネジャー(PMM)を兼任し、プロダクトマネジャー(PdM)と連携しプロダクト戦略の検討・推進も担う。2022年11月にプロダクト企画部長 VP of Productとなり、2023年6月より現職。

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物流業界は人手不足という重大な問題と戦っており、他業界に比べトラック運転手の労働時間は特に長い。問題解決の鍵はデジタル化だが、荷主や運送業者間の電話やFAXといった旧式な情報共有がDXの前進を阻んでいる現実がある。

そんな物流DXの領域において一際注目を集めているのが株式会社Hacobuだ。もちろん「物流DX」を謳う企業は近年増えているものの、同社はそのなかでも特に広い「物流“領域”」をターゲットにしていることが特徴だ。

運送会社や倉庫、3PLといった単なる"物流業界"にとどまらず、製造業から卸売業、小売業といった物流にかかわるあらゆる業界の課題を網羅的に解決する必要があるため、ステークホルダーは「物流」にかかわるすべての産業に、無数に広がっていくのだ。

そんな同社は、2023年5月に15億円の資金調達を実施。近い将来、崩壊しかねないと言われている物流領域のDXを実現するプラットフォームの構築を急いでいる。

今回の記事では、Hacobuの代表取締役社長CEOの佐々木太郎氏と執行役員 VP of Productの岡幸四郎氏を招き、同社の戦略と物流DXに挑む面白さについて聞いた。

「“一本足打法”は危険」、「ビジョンセリングとプロダクトセリングのバランス感のとり方」、「全社戦略が事業に与える具体的な影響度」など、物流に関わらず経営者、事業家の読者には必見となる金言が次々と飛び出した。両氏が語る物流DXの未来とHacobuの緻密な事業戦略について、じっくり読んでいただきたい。

  • TEXT BY YUKI YADORIGI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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8年間の準備期間を経て、いよいよ物流DXの大波に乗る瞬間

佐々木すでに存在している配送業務やその管理をデジタル化していく、といった単純な話ではない。それが「物流DX」なんです。

どういうことか?と言えば、たとえばトラックって以前は「とりあえず朝一で物流拠点に向かい、トラックの待機列があったらそこで順番待ちをする」という動き方も多かった。あまり効率的ではないように思いますよね?でもそういう慣習が広く根付いていたんです。

そこに私たちは「物流拠点にトラックが来る時間を事前予約してもらう」サービス(現『MOVO Berth』)を打ち出しました。当初は全くもって理解を示されず……でしたが、粘り強く向き合い、今ではトラックドライバーの2人に1人ほどが登録していただけるまでになっています。

つまり、以前は概念すら普及していなかった「トラックの予約」が、この業界のスタンダードになったんです。しかも、業界の大手企業ではなく、スタートアップのプロダクトによって。

これが「市場を新たに創出する」という、スタートアップならではのやりがいだと感じます。

新たなスタンダードを創っていくことで、市場自体を新たに創出していく。社会変革を着実に進めるため、スタートアップらしい大胆な挑戦を続けてきたのがHacobuだ。業界内でも、同社の姿勢に共感する同社の姿勢に共感する会社がじわじわと増えてきている。

佐々木このような事例を積み重ねつつ、シナジーで大きなインパクトを創ることで、いわゆる「レガシー産業」のDXが実現していくと思います。

ただし、それを実現するためには時間をかければ良いというわけでもなく、時代の大きなうねりを起こすことが不可欠です。私たちが8年間腰を据えて物流“領域”で取り組んできた事業が、ついに大きな花を咲かせようとしていると感じています。

そう語るのは、Hacobuの代表取締役社長CEOの佐々木太郎氏だ。なお、冒頭でも紹介した通り「物流“領域”」という言葉に同社の強みが隠れている。「物流業界」という言葉では、配送や運送、倉庫といった物流そのものの担い手がイメージされるだろう。しかし、現代の物流をかたちづくる存在は、そうしたプレイヤーだけでなく、「荷主」となるメーカーや小売といったさまざまな業界の企業も含まれる。このすべてをターゲットとしてとらえるため、「物流“領域”」なのだ。

変革に向けて動き出したこの物流領域の大波に乗る形で事業創出ができる体験は、なかなか味わえないと思います。

佐々木そうですね。例えば、サーフィンも波が起きる前に沖にでていないと大波にのれませんよね。Hacobuは物流危機が社会課題として叫ばれる前から取り組んできたからこそ、2024年問題として注目を浴びる時に物流の変革者になれるのだと思います。

さまざまな業界を横断し、無数のステークホルダーをつなぎ、物流のリアルに関わっていくのが、Hacobuで働くことの面白さです。複雑性が高い領域で、アナログをデジタルにつなぎ、プラットフォームで最適化していく。その最適なオペレーションの答えは、まだこの世に存在しません。ベストプラクティスや市場そのものを自らの手で創り上げていけるのです。

Hacobuの魅力についてそう続けるのは、同社の執行役員 VP of Productの岡幸四郎氏である。岡氏の言葉からは、誰も見たことのない世界を拓き、産業構造そのものをデジタル変革できる瞬間を、心から楽しんでいることが伝わってくる。

Hacobuは「運ぶを最適化する」をミッションに掲げ、物流に関わる課題を解決するプロダクトを複数展開している。先ほど紹介した、荷待ち・荷役の作業時間を削減するトラック予約受付サービス『MOVO Berth』を筆頭に、荷物の運搬車両の一括管理を行う『MOVO Fleet』、配車手配をデジタル化する『Movo Vista』。そしてこれらのプロダクトに加えて、物流DXコンサルティングサービス『Hacobu Strategy』も提供している。こうした複合的な事業展開によって物流産業のDXに対して網羅的にアプローチできる同社は、いま最も同領域で注目されるスタートアップと言えるかもしれない。

本記事では、Hacobuの戦略性に焦点を当てつつ、動き出した時代の要請に対して同社がどのような未来を描き、どんな事業成長を遂げていくのか、両氏に余すことなく語っていただこう。

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「2024年問題」の解決に挑むべく荷主企業側からアプローチ

まず、物流業界に起こりつつある変革の兆しについて詳しく聞いていこう。Hacobuの事業と時代の大きなうねりは、どのように共鳴し合っているのか。

佐々木物流問題は以前からありましたが、ここ3〜4年で特に顕在化しました。物流業界で深刻化する人手不足について取り上げるメディアが増え、政府も物流領域の問題をより重視する姿勢を強めています。Hacobuは先駆けること8年前から物流問題に着目し、それを解決するための事業に取り組んできました。「運ぶを最適化する」をミッションに掲げ、配送業務の効率化に資する複数プロダクトと、物流DX専門のコンサルティングサービスを提供しています。

読者の皆さんは「2024年問題」というキーワードをご存じだろうか。すでに生じているドライバー不足問題に加えて、2024年からは働き方改革関連法によってドライバーの時間外労働時間に上限規制が適用される。

労働人口不足で今後更に加速するドライバー不足や輸送力の低下に対してこのまま何の策も打たなければ、2030年には全国で約35%の荷物が運べなくなると言われている。Hacobuが提供するプロダクトは、まさにこの「2024年問題」への打ち手になるものだ。迫りくる課題が如実になった今、周囲の対応が変わったのを感じると岡氏は続ける。

私がHacobuに入社した2年前と比べて、お客様も国も反応が変わりました。大きな産業全体がこれほど大きく動くタイミングは、ほかではなかなか経験できないと感じています。

そのなかでも特に、クライアント企業の経営陣の関心が高まっているのを肌で感じます。もちろん、昔から物流を重要な課題だと捉えていたお客様もいますが、多くの会社が「物流会社に外注していることだから(自社で何かを考えるような問題じゃない)」というスタンスだった印象です。今はその姿勢が変わり、物流を経営課題のひとつと捉える人が増えてきました。

産業全体の構造に紐づく課題というものは、企業単体で解決することは難しい。しかし、物流は今、産業全体でその課題解決に取り組む方向へとうねりが生まれ始めている。巨山が動くと表現しても、過言ではないだろう。Hacobuとしては、このタイミングはまさに戦略通りといった感触なのだろうか。

佐々木物流に限らず、レガシー産業のDXには時間がかかるだけでなく、時代の大きなうねりが起こることも重要な要素です。そのうねりを興すためにこれまで我々もロビーイング活動などを続けてきましたが、それを後押しするような形で、国全体の意識が変わるタイミングに差し掛かったのだと思います。

絶好のタイミングを迎えられたのはもちろん運もありますが、準備に長い期間を費やさなければ、この波に乗ることはできなかったと思います。逆説的に言えば、新規参入企業が今から波に乗るのは難しいでしょう。

新しい市場に先駆けて挑むスタートアップの経営者は、大波が来るのをじりじりと待つような年月を経験することも多い。大波が来る前に体力が尽き、撤退していくことも珍しくないだろう。これを表すように「市場撤退こそが最大のリスク」という言葉を耳にしたことがある人もいるのではないだろうか。先に佐々木氏が述べたように、波が見えたときに準備ができていなければ、もうその波には乗れないからだ。

8年間という長い年月を準備運動にあて、沖に出ていたからこそ、物流産業の大波にも乗れるのだと力強く語る佐々木氏。一方で、何度も波にのまれそうな瞬間もあったと振り返る。

佐々木創業から3年間は、物流業界の仕組みに合った戦略をたてられず、本当にしんどかったですね。同業界は荷主企業と呼ばれるメーカーの下に元請けをする大手物流会社がいて、さらにその下に延べ6万社の中小運送会社がいる、という構造です。

物流DXを事業化するのであれば、まず実際の荷物の運び手である中小運送会社の課題を解決するところから始めよう、と考える企業が多いものです。私たちも例にもれず、中小運送会社を対象にサービスを始め、なんとか変えられないか、ともがいていました。

その苦戦が3年ほど続いた頃、あることをきっかけに、発注主である大手の荷主企業にアタックする形にマーケットをピボットしたんです。そうしたら、見える景色ががらりと変わりました。

佐々木物流施設の建設を一事業として展開する大手ハウスメーカーからお声がけいただき、荷主企業を対象としたセミナーで登壇する機会に恵まれました。私たちの「運ぶを最適化する」というミッションや、めざす世界観についてお話したところ、ある大手の荷主企業の方が、コンセプトに共感したと、私たちに直接声をかけてくださったんです。

当時はまだ小さなオフィスだったにも関わらず、わざわざ足を運んでくださって……。対話を通じて「この人たちとやっていかなければ業界全体の構造は変わらない」と痛感したことが、荷主企業へとターゲットを転換する大きな転機になりました。

業界構造における上位層から変えていく一大決心をしたHacobuは、その後事業を着実に成長させていった。大手荷主企業との実績を次々に増やしていき、2022年12月には『MOVO Berth』の累計利用ドライバー数が42万人を突破。翌年4月には経済産業省の「行政との連携実績のあるスタートアップ100選」に掲載。さらに5月には約15億円の資金調達を実施した。まさに物流DXをけん引する存在として、Hacobuの存在感は急速に増している。

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“一本足打法”を避け、オセロの角を取る戦略で独自のポジションへ

さて、ここまでHacobuが成功しているのは、時代の流れと合致したことだけが要因ではない。その躍進の秘密は“オセロの角戦略”にあるという。

この“オセロの角戦略”とは、ビジネスを非連続的に成長させるうえで重要になるポイントや戦略的なポジションを、先回りして確保することを指すとされている。具体例としては、重要な顧客の獲得、コアとなる技術や特許の確保、戦略的なパートナーシップの構築などが挙げられるだろう。

複数の産業や業界に跨ってステークホルダーが存在する市場で戦う場合、特にこの“オセロの角戦略”が効果的だと言われる。Hacobuの狙いは一体どこにあるのだろうか?

私たちが扱う業務アプリケーション、しかも物流管理という領域は、専門的な説明をしないと導入メリットがわかりづらいという難しさがあります。また、物流に関わるあらゆる企業に導入されることでネットワーク効果が強化されるプロダクト。お客様にも意識・業務を大きく変化して頂く難しさを抱えています。その上、“2024年”を迎えるまで時間がない。とにかくスピーディーに盤面をひっくり返していく必要もありました。

そこで、物流、製造業、卸売業、小売業など、それぞれの領域でインパクトを持つ大企業にまず導入してもらうことを目指しました。

これらの“オセロの角”にあたる企業でのサービス導入が叶えば、業界における信用性の獲得や、その業界のサプライチェーンへのスムーズな導入といった効果が期待でき、一気に周辺領域の色までひっくり返せる可能性が高まるんです。

佐々木もちろん私たちもパートナー戦略に注力していますが、一般的に想起されるようなパートナー(代理店)との協業によって、販売チャネルとしての広がりを期待した、販売戦略の一環ではありません。

大和ハウス工業様や東京海上日動様、日野自動車様といった各業界のトップランナーの皆様とパートナーシップを結びながら、プロダクト開発を一緒に行うことで、イノベーションを起こしたいという考えが強いのです。

ちなみに、Hacobuは創業初期からマルチプロダクトを展開しているのも特徴的だ。スタートアップはシングルプロダクトであるべきとの言説もある中、佐々木氏はどのように考えているのだろうか。

佐々木基本的に「一本足打法」は危険だと考えています。もちろん、最初は一本足にならざるを得ないのですが、その一本が折れたらすぐ倒れてしまう危険性は常に伴います。だからこそ、一本足で生き残ったスタートアップには、生存者バイアスがかかるのでしょう。

私はシングルプロダクトが優位だという考えはこのバイアスによるものだと考えており、その裏では一本足で立ち続けられなかった企業がたくさん倒れていることを無視できません。先ほど「社会における大きなうねり」や「業界に訪れる変革の波」について話しましたが、この好機を目にすることなく事業撤退することこそ、最大のリスクです。

だからこそ私は生存戦略を最優先とし、マルチプロダクトを展開する選択を取りました。もしもシングルプロダクトでこの物流領域の多岐にわたる課題の一部に集中していたとすれば、私たちは単なる業務効率化を担う一社と認識されていたのでしょう。

マルチプロダクトを展開してきたからこそ、経営者と直接話し、物流DXのパートナーという唯一無二の立ち位置を獲得できたのです。低温物流事業における最大手企業など、物流において重要なポジションにあるキーパーソンとコミュニケーションを取れているのは、私たちの優位性だと考えています。

物流DXのパートナーという立ち位置へのニーズは、物流が単なるコストセンターでないという認識が浸透したことで一層高まりつつあります。東京証券取引所が「PBR一倍割れ」の企業に対して対策を要請したことが話題になっていましたが、その打ち手としてサステナビリティやESG経営といった観点への重要性が高まってきました。

Hacobuは以前からサステナビリティの重要性について言及し続けてきましたが、その認識が企業側と一致してきた手応えを感じています。今はまだ変革のさなかですから、今後この認識が広まるにつれ、Hacobuのプロダクトを利用する企業はさらに伸びていくはずです。私自身、Hacobuにジョインするまで物流を経営課題と紐づけて考える意識は弱かったのですが、この2年間で大きく意識が変わりました。

オセロの角を取る動きとマルチプロダクト戦略。このふたつの選択が、Hacobuを物流DXのパートナーという唯一無二の存在へと変えていった。ちなみにHacobuは2023年5月の資金調達を皮切りとした新たな事業展開のテーマを掲げている。そのひとつが、「MOVOネットワーク拡大」だ。

MOVOシリーズの価値を広く伝える広報PRへの施策を加速し、「データドリブン・ロジスティクス」の啓発・提供に必要不可欠なマーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった人材の採用強化へと乗り出すことが、ネットワーク拡大のための具体な手段として語られている。市場ニーズとプロダクト、そして価値を伝える人材。Hacobuのプロダクトがしっかりと届くこれらの条件が整いつつある今、事業拡大への道は明確に見えてくる。

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エンプラセールスは“ビジョンセリング”と“プロダクトセリング”の使い分けが命

事業戦略と時代に起きた大きなうねりが重なり、Hacobuはさらなる飛躍のときを迎えている。一方でここから先の道のりにどのような課題を抱えているのかも訊いてみた。

佐々木私たちは今、MOVOシリーズと呼ばれる複数プロダクトと、コンサルティングサービスを展開しています。今後も「運ぶを最適化する」というミッションに資するサービスを立ち上げ、それらを継続的かつ複合的に成長させていくのが望ましいと考えています。

そのためには盤石なビジネスの基盤が必要です。SaaS事業をしっかりグロースさせること、そのためのチーム拡大が今後の重点課題と捉えています。今まで特に苦戦してきたのは、エンタープライズに対して高度な価値を訴求するセールスチームの人材採用です。具体的に、2022年11月からはこの課題を踏まえて戦略を転換し、わかりやすい価値訴求を起点としたスピーディなセールスサイクルの回転を実現させました。

セールスの面での課題と今後の方針として挙げられるのは、ビジョンセリングとプロダクトセリングの使い方を洗練していくことです。これまで私たちはビジョンセリングの観点が強く、現場の人たちに対してもビジョンセリングの型に則ったセールスを展開してきました。

しかし、エンタープライズの顧客に商談する場合、マネジメント層から現場ユーザーまで、幅広い方々とお話させて頂きます。それぞれ関心事項は異なるので、マネジメント層に刺さるビジョンセリングが現場の方々に刺さるとは限りません。

そこをプロダクトセリングに落としていくと、現場でも利用メリットを理解してもらいやすく、導入を促進することができます。一方で、プロダクトセリングに偏りすぎると、訴求価値が下がってしまう。このビジョンセリングとプロダクトセリングのバランスをチューニングしていきました。

どの相手にどのタイミングでセールストークをするか各々が整理することで、Hacobuのセールスチームは成長できたと思います。また、こうした整理ができたのは、安定感のあるプロダクトがあるからこそです。プロダクトの価値が不明瞭な創業期のスタートアップだと、どうしてもビジョンセリングをせざるを得ません。

プロダクトを磨きこんでプロダクトセリング視点の解像度を高め、そこにまた付加価値をつけていく。と同時にビジョンセリングの観点もアップデートしていく。

これらの繰り返しで、プロダクトの機能性と事業価値は双方とも高まっていきます。こうした流れはどの会社でもあるものだと思いますが、その型化を進めることができてきたと認識しています。

ビジョンセリングとプロダクトセリングのチューニングは、今後も変化し続けていく。そのベースにある指標についても、続けて岡氏に訊いた。

「運ぶを最適化する」のをゴールと据えたとき、2025年までにはネットワークを拡げきらなければなりません。そして2030年に向けて、プラットフォームを完成させていくことがネクストステップとなります。私たちは今、プロダクトを拡げるフェーズにありますが、次はプラットフォームとして価値を生み出すところにむけてプロダクトを進化させていく必要があります。

Hacobuはミッション実現に向けてプラットフォームへの進化を遂げていくさなかにある。ここからさらにプロダクトを強化し、適切なセールスを広げていく。

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いかに意思決定をしてきたかが経営者の能力を規定する

ここまで、Hacobuの戦略にフォーカスしながら同社が歩んできた道のりを聞かせてもらった。「“一本足打法”は危険」、「ビジョンセリングとプロダクトセリングのバランス感のとり方」など、顧客のニーズの本質を捉えた独自の考え方が、経営陣の自信と強い意志を示している。

しかし、これらは決して過信ではなく、物流DXの大きな波を乗り越えるために、経営チームが常に進化し続ける必要があるという認識の表れである。

特に、「戦略と事業の接続性」について、アップデートを迫られることが多かったという。両者ともコンサルティングファームでの経験を持ちながらも、従来の戦略策定方法がスタートアップには時として適していないことに気付かされたのだ。

佐々木ここ2年で体感したのは戦略がもたらすインパクトの大きさです。コンサルティング会社でストラテジーコンサルティングをやっていた頃もありますが、今振り返れば、戦略と事業の接続性についてそこまで理解できていなかったと思います。

というのも、実際に自分が意思決定の当事者になって初めて見えてくる景色があるんです。戦略を間違えていると経営に大きく影響すること、逆に正しければいいスパイラルに入ることは、なかなかコンサルタントという立場では体感できません。

また、その経験から、自分の経営者としての役割の重要性についても痛感しました。ステージによって組織全体がどの方向にバットをフルスイングできるかが決まりますから、そのための体制を整えていくのが自分の役割だと今は強く意識しています。

具体例を挙げるならば、戦略と採用の接続でしょうか。

戦略というと資源配分、すなわち「どこに集中するか」を定義するものだと捉えることが多いかもしれません。現在組織に在籍している人材のなかで最適な戦略を立てるほうが一般的で、コンサルタントとしてはそうした経験を多く積んできました。

しかし、スタートアップにおいては、リソースは外から確保していくのが当たり前。いわば、採用を司るのが戦略なんです。リソース自体が変数になることを、ここ数年佐々木さんのもとで経営を学ぶ中で私も理解できるようになってきました。

佐々木特に我々のコンサルタント時代のクライアントである大企業では採用がビジネスのグロースやスケールに直結するとは限りませんからね。コンサルタントが「(うまくいっていないから)人を増やしましょう」という提案をすることはまずありません。

一方、スタートアップは人の数がビジネススケールに直結することが多く、Hacobuほどのフェーズになると、CEOである私がエクゼキューション(実行、執行)の部分にばかりコミットしていてはいけない。

「戦略」と「採用」を有機的につなげる方法や、その重要性が、最近ようやく捉えられるようになってきました。

コンサルタントだった頃は、“たとえ正しいとわかっていても、しんどい意思決定”を自分ですることはありませんでした。それは顧客が最後に意思決定することだからです。

でも、Hacobuで働く上で実際に、意思決定の当事者になってみて初めて感じる部分は大きいです。

佐々木意思決定をどれだけしてきたかが、経営能力を規定すると思います。正解のない中でストレスを抱えながら意思決定していくことこそ、経営の本質です。私も岡さんも振り返って感じるところですが、この意思決定のプロセスはコンサルタントの立場ではなかなか経験できません。

一方で、もちろん、コンサルタントは意思決定の下地を作る能力を鍛えるのには、最適な仕事だと思います。正確には、意思決定に必要な選択肢を並べるまでのスピードが格段に伸びるので、経営者になるまでの“近道”ではあったかなと思います。

当事者意識をもって意思決定を下していくことが、経営者としての能力に直結していく。佐々木氏や岡氏のなかにあるその気付きは、今後のHacobuにまつわる無数の意思決定にも影響を与えていくのだろう。

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あなたの意思決定が物流のスタンダードを作る

Hacobuの直近の組織課題は、ミドルマネージャーや事業家人材クラスの人材育成だ。そこに対して、同社はどんな打ち手を考えているのか。また同社の魅力や成長性についても聞いてみよう。

佐々木事業をゼロから立ち上げるのと基盤があって立ち上げるのとでは、難度が大きく変わります。そしてHacobuは、物流領域においてすでに盤石な顧客基盤を持っており、失敗に対する許容度が高い会社です。この基盤を活かしながら新しい事業づくりに励めるのは、当社の強みと言えるでしょう。

そして、事業づくりの一歩目となるニーズのヒアリング先や、プロトタイプを試していただく先も、物流事業者に限らずたくさんあります。何よりHacobuの想いや姿勢に強く共感してくれている“ファン”ともいえる企業の皆さんが増えてきて、私たちのチャレンジに協力的なのは、心強いことです。こうした周囲の環境を活かしながら事業をつくれるのは、とても面白いですよ。

「物流」というキーワードを通じ、各社がつながっていくことも、Hacobuだからこそ感じられる醍醐味です。物流DXのパートナーである私たちがお客様同士の状況を共有しながら、そのつながりのなかでビジネスをつくっていくことができています。こうした動き方が取れるのは、ほかのSaaSスタートアップでもなかなか味わえない経験だと思います。単に一社ごとにサービスを提案するのではなく、企業同士をつなぐというところで価値提供ができるのです。

改めてですが、物流というレガシー産業が大きく変わっていくタイミングで、その大波に乗ることができるのが、私が感じている面白さです。こんな機会に変革の一端を担える経験は、ほかではなかなかできません。

また、無数のステークホルダーをつないでいくこと、それが物流そのものを変えていくことがやりがいにつながります。複雑性が高い領域で、アナログをデジタルへと接続し、全体をプラットフォームの力を活かして最適化していく。その最適なオペレーションの答えは、まだこの世に存在しません。私たち自身の手でベストプラクティスや市場そのものを創っていけることが、Hacobuの最大の魅力です。

これからプロダクトマネージャーとしてジョインした方が、「ある機能をつくろう」と意思決定を下したら、それがゆくゆくは物流業界のスタンダードになるかもしれません。そんなレベルの意思決定に関わることができる仕事は、なかなかありません。

例えば、『MOVO Berth』の普及以前はトラックが物流拠点に着く時間を事前に拠点側に共有する行為は一般的ではなく、結果として同時間帯にトラックが集中し数時間の待機が発生することが頻発していました。

『MOVO Berth』の利用が広がることで、トラックが物流拠点への到着時間を事前予約するという新たなスタンダードが物流業界に定着し、トラックの待機が大きく削減されたのです。そんな経験ができるのは、Hacobuしかありません。

佐々木私たちは「SaaSをただ提供している」という感覚がないんですよね。例えるならば、今まだ交換器を使っている世界に、電話線をひいて交換器のいらない世界をつくろうとしているのが我々なんです。そのための戦術としてSaaSを選択していますが、私たちがめざしているのは、まったく新しいスタンダードを物流領域にもたらすことです。

物流領域に挑むスタートアップはほかにもある。そして、SaaSの成功によって成長を続けている魅力的な企業もある。しかし、複雑に関わり合うステークホルダーを接続しつつ、領域のスタンダードそのものを刷新し、構造全体を変えてしまうようなポテンシャルを持つ企業はそうそうない。

Hacobuの戦略性とこれまで培ってきた基盤があれば、そんな魅力的なチャレンジに自ら挑めるということを、この記事では十分お伝えできたかと思う。その魅力に心動かされた方は、ぜひHacobuの一員となり、またとない大きなうねりが生まれつつある物流領域をテクノロジーでリードする存在になってほしい。

こちらの記事は2023年12月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宿木 雪樹

写真

藤田 慎一郎

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