千葉大准教授が、
キャリアを捨てて実現したい
「パーソナル人工知能」のある未来とは?
ネットショッピングが当たり前となった現在、ウェブの通販サイトが購入・閲覧履歴をもとに自分の好みにマッチングした商品をおすすめしてくれる機能に触れること多々がある。
この個人の“好み”や“センス”と呼ばれるものは、所有している物や着ている服など、その人の身の回りのものから一端を汲み取ることはできる。
社会における情報伝達が加速し、個人の“好み”と“センス”がより多様化するなかで、AIベンチャー・SENSY株式会社は個々人たちの細分化したニーズを解明しようとしている。
- TEXT BY KEI TAKAYANAGI
- PHOTO BY YUKI IKEDA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
AIによる感性マーケティング
SENSY株式会社は、パーソナル人工知能「SENSY」のプラットフォームを用いて、エンドユーザー向けからビジネス向けまで幅広く事業を展開している。同社が2017年4月にリリースした、「SENSY CLOSET」は、ユーザー個人が所有している服を登録できるデジタルクローゼットだ。
登録した服は、アプリ上で自由にコーディネートすることができ、一つのジーンズについても「パンツ」「デニム」「ズボン」といった自分なりのカテゴリー分けや、服の種類によって「仕事」「パーティー」「雨の日」といったアクティビティに関連付けたタグを付け、管理することが可能となる。
2018年2月末には、クローゼットに登録したアイテムにもとづいて、AIが新たなアイテムをリコメンドし、さらにコーディネートを自動提案する機能が搭載される。また、ECサイト向けには、同じような服を持っていないか確認し、自分の服とショップの服をあわせてコーディネートできる「SENSY CLOSET at shop」も用意される。
アプリの基盤となっている人工知能「SENSY」は、2013年から研究と開発が始まった。2017年には、より人工知能分野に専門的に取り組むため、SENSY人工知能研究所を設立し、Deep Learning技術を活用した独自のアルゴリズムの開発を続けている。
岡本SENSYは、個人の感性を学習するパーソナル人工知能です。いつ、どこで、誰が、どう感じたか?をAIに学習させることを大きなミッションとして開発してきました。
人工知能研究所の設立は、現在展開している、SENSYのアパレル関連のアプリやマーケティング向けサービスを、他の分野でも活用できるよう研究を進めることを目的としています。
例えば、食や旅行など様々な分野をつなげることで、より精度の高い情報やサービスを提供することができるようになります
そう話すのは、SENSY人工知能研究所の設立とともに、千葉大学准教授の職を辞して、正式に同プロジェクトに参画した同社取締役CROの岡本卓氏。
SENSYの開発にスタート時から携わってきた一人で、現在も千葉大学 グローバルプロミネント研究基幹 特任准教授としても活動している。
現在、SENSYを用いた自社サービスは、前述の「SENSY CLOSET」の他、LINEの会話からユーザーの感性を学習しおすすめのコンテンツを届ける「SENSY BOT」、数十万に及ぶアイテム売り上げデータをユーザー単位・アイテム単位で予測し、商品発注や仕入れなどのMD計画を最適化できる「SENSY MD」、ユーザーごとの属性や購買履歴をもとに、チャネルの選定、レコメンド商品、キャッチフレーズ、デザインなどをパーソナライズし、ダイレクトメールやメルマガに反映する「SENSY Marketing Brain」など多岐に渡る。
また、ビジネス向けに人工知能を活用した新しい事業の構想策定、新規事業立ち上げの支援も行っているという。
機械と人が共生する
そもそも、SENSYが言う「感性を学習する」とはどういったことで、どのような点が機械学習のポイントになるのだろうか。
岡本感性を学習するとは言っても、人間そのものを読み解くというよりは、その人の行動の記録から得られるデータをもとに、いつ、どこで、何に対してどのような行動をしたかという履歴を学習することが基本です。SENSY CLOSETでは、最低3点ほどの服を登録すれば、AIがレコメンドをできるようになっています。一方、機械学習の課題となるのは、記録に残らない人の行動の部分です。
例えば、商品をおすすめされてそのままネットで購入すれば履歴が残りますが、おすすめ商品を見た後に実店舗で購入した場合は履歴に残らない。
また、店舗に買いに行っても品切れで購買につながらなかった、といった情報をどう扱うかということもポイントです。今後はその見えていない部分をより情報収集したいと考えています。
行動履歴の細かい情報さえ集まれば、端的に言えばその商品が『好き』か『嫌い』かといったことから、状況に応じてその嗜好がどう変化するかまでの個人の感性を、より精緻に予測していくことは可能になる実感があります
人の精神、感性そのものを覗くことはできないが、表出している情報から、パーソナリティーを予測し、その行動をサポートすることがSENSYの目的と役割ということになるのだろう。
現状ではある程度の個人情報と、5つの購買履歴があれば、その個人の買いたい物の8割が予測できるケースもあり、精度は日々上がってきている。
岡本現在、SENSYをMD計画に活用いただいているアパレルメーカーなどのクライアントでも、マーチャンダイザーなど個人の考え方や手法と組み合わせないと、予測と現実の運用などでうまくいかない点があり、SENSYのエンジンが、まだすべての事柄に対応できていないということもありますが、現状は人とAIが協力して共生している状態と言えるでしょう。
取り扱う情報量が膨大で、AIに任せたほうが正確かつ短時間でできることはAIに任せ、AIから出力されたデータをもとに、人が商品企画や、データに表出していないファクターを組み込んで考えるなど、ビジネスに効率的に活かしてほしい。
将来、AIが需要予測やレコメンドといったショップの機能をすべて代替するようになるかはまだ分からない。しかし、AIによってショップを効率的に機能させようという意思は、人や企業を起点とするものであり、人の生活を豊かにするためのツールとしての扱い方と心構えを持つことが、より発展的なビジネスを創造するきっかけとなることは間違いない。
こちらの記事は2018年02月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高柳 圭
写真
池田 有輝
編集
海老原 光宏
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