INSIGHT
18-11-02-Fri

経費管理サービスは表の顔。リサーチ企業への栄転を狙いデータを集める「Siftery」の長期戦略

TEXT BY TAKASHI FUKE

2015年にサンフランシスコで創業し、
累計410万ドル(約4.5億円)の資金調達に成功したフィンテック企業が

「Siftery(シフテリー)」だ。

企業がサブスクリプション利用をしているB2B SaaSの支出を、
自動的に算出する経費管理サービスを提供している。

サブスクリプション事業の特徴は、
顧客データを効率的に集め、パーソナライズ提案できる点にある。
各顧客(または、ユーザーそれぞれ)のサービス利用状況を反映した
“個客単位”の考えに基づき、継続的に契約してもらうことが肝要だ。

本記事ではSifteryの事例を出しながら、
SaaSビジネスにおける長期的な戦略思考を探っていきたい。

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B2B SaaSの支出を識別し、利用状況を可視化する

経費精算は非常に面倒である。なかでもB2B SaaSのサブスクリプション利用は、固定費としてコストがかさむため、漏れなく把握しておかなければならない。

しかし、経理担当者が各部署やチームからSaaS利用後に請求書を渡されても、不明瞭な用途のことが多い。また、事前にSaaS利用を承認し、各部署に導入したとしても、サービスを使わないメンバーが発生することも考えられる。その際、事前に想定していた利用率と実態に大きな差が出てしまう。本来的には、実態に即したROI(投資対効果)を見極めなくてはならない。

そこでSifteryは法人向け銀行口座や、導入しているサードパーティーの財務・経費サービスと連携して、自動的にB2B SaaSの支出を識別する。カテゴリーごとに、どのような種類のSaaSにいくら予算を使っているのか円グラフで確認できる。

各SaaSを導入したメンバーの数と、定期的にログインしているユーザー数のモニタリングもできる。たとえば、導入を決定したにも関わらず、アクティブユーザー数が少ないSaaSも可視化される。

アクティブユーザー数がわかるため、従業員一人当たりの利用価値も数値化できる。簡単に言えば、月額1,000ドルのSaaSを10人のメンバーがアクティブに使っていれば、一人当たり100ドルのコストをかけている計算になるわけだ。

利用度合いが極端に少ないサービスや、従業員当たりのコストが著しく高い場合、経理担当者が該当チームの代表にメールやSlackでアラートを飛ばし、継続利用を検討させる。

Sifteryは支出を識別する機能だけであれば無料で使える。各サービスの利用状況モニタリングや従業員当たりのコスト計算など、追加機能が増えるほど99ドル〜499ドルと料金が上がっていくプラン設定になっている。

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経費管理からリサーチ企業への栄転なるか

Sifteryのビジネスモデルが巧みな点は、無料ユーザーにも経費精算プランを解放することで、データを大量に集めている点にある。Sifteryの最大の目的は、データ収集なのだ。

利用企業が増えれば、業種ごとにB2B SaaSの利用状況がわかるデータを集められる。その先にあるのは、ビジネス“個客単位”でのパーソナライズ提案だ。

たとえば、Netflixは、継続利用するほど各顧客に合った作品をレコメンドしてくれる。Sifteryの場合、顧客企業にとっての競合・類似企業が導入する“SaaSレシピ”を共有して、最適なSaaSを提案し、パフォーマンス向上や業務効率化の支援をする。

企業が抱える経費精算の課題を解決するだけでなく、データを駆使してB2B SaaSのレコメンドサービスを提供する。その長期戦略を持ちうるのがSifteryの強みだといえる。

各企業のSaaSの利用度合いも把握できるため、導入だけでなく実際に使われている人気SaaSのデータも集められる。こうした細かなデータを基に、SaaS市場の動向まで把握する。アプリ市場データを提供する「App Annie」と同様に、B2B SaaS市場の最新トレンドデータを提供するリサーチ企業への事業拡大も考えられる。

Sifteryのサービス利用料だけでなく、市場リサーチデータを提供する調査会社へと事業を進化させることができれば、B2B SaaSの膨大なデータ源を握るプラットフォーマーになれるはずだ。

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“ビジネス個客”を意識するスタートアップ

Siftery同様、課題を解決することでデータを収集し、戦略的な展開を目指している可能性のある企業が見受けられる。簡単に2例、紹介したい。

2016年に米国ユタ州で創業し、累計5,250万ドル(約58億円)を調達した「Divvy(デイビー)」はSifteryの競合と言えるかもしれない。同社は利用企業の各部署や従業員向けに、大きく2種類のデビットカードを発行する。

1枚目は私たちが普段から持ち歩くのと同様の「現物カード」だ。このカードでは従業員の懇親会費など、オフラインで発生する経費計上に利用される。2枚目は「バーチャルカード」だ。ウェブ上で16桁の番号が発行され、オンラインでの購入に利用される。

バーチャルカードはさらに2種類に分けて発行される。「サブスクリプションカード」はB2B SaaSを中心に、月額や年額で定期的に支払いが発生しているものに使われる。主に部署担当者に持たせる。もう1つは「バーナーカード」で、支払いが随時発生するものに使う。こちらは各従業員が持つ。

機能が異なる複数のカードを発行することで、普段利用するB2B SaaSだけでなく、従業員が計上する経費を自動でカテゴライズし、管理できる。また、カードごとに予算を設定できるため、それを超える経費が請求されることもない。

Divvyの収益は、Mastercardと提携し、カード利用手数料を分配することでまかなう。利用企業から一切の料金を徴収しない点も評価されている。

ただし、従業員の経費管理を自動化することに特化しているため、SaaSの利用度合いなどが計測されないのは、Sifteryとの違いだ。しかし、「サブスクリプションカード」を通じて、各社におけるB2B SaaSの利用状況は把握できるため、長期戦略上でリサーチ企業を目指しているとしたら、Sifteryと市場を争うことになるだろう。

2016年にニューヨークで創業し、創業からたった1年で米国大手オフィス管理サービス企業「Managed by Q(マネージドバイキュー)」に買収されたのが「Hivy(ハイビー)」である。著名アクセレータ「Y Combinator(Y コンビネータ)」のプログラムを卒業している。

同社はオフィスマネージャー向けの管理ツールを提供する。たとえば、パソコンやケーブルなどの備品が壊れてしまったら、管理部門まで出向いて修理を申請するだろうが、その作業は非常に億劫だ。大手企業であれば各階に自動販売機が置かれていることもあるが、陳列された商品は従業員の要望に沿ったものではないかもしれない。

億劫で改善したいこと、あるいは従業員からの要望などを、手軽にSlackやウェブサイトを通じて直接オフィスマネージャーに進言できるのがHivyである。マネージャーからすれば、毎回対面で従業員の要望を聞く必要がなくなる。必要な備品はAmazonですぐに注文できる導線ができているため、検索する手間も省ける。

現在の収益源は、利用企業からの月額サブスクリプション料金だ。ここでもSiftery同様に、購入履歴から各社がどのような備品を揃えているのかというデータが集まれば、オフィス管理を最適化するための“レシピ”が集まる。オフィスマネージャーの課題を上手くSaaSの切り口で解決し、データ企業にまでなれる可能性を持っている。

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スタートアップがDay1から考えておくべきこと

経費管理を切り口とし、最終的には巨大なリサーチ企業へと舵を切っているSifteryを代表例として、いくつかスタートアップを紹介してきた。いずれも企業の課題を的確に見抜き、自然な形でデータを収集していることがわかる。

利用する企業が増えれば、Hivyのようにいかなるニッチな分野であったとしても、価値のあるデータプラットフォームとなるに違いない。たとえば、先行企業がどのようなサービスを利用しているのか、従業員にどのようなサービスを提供しているのかといった“レシピ”があることは、0から自社で検討、配備する手間を省くことができる。

また、最も注目すべきは、新たな収益源になるという点だろう。リサーチ企業となれば、B2B向けに価値ある情報を高い単価で売れるかもしれない。ゆくゆくは収益額の急成長が望めるのだ。

起業のファーストステップとして、なるべくコストのかからない形で、どのような切り口をもって、企業の課題解決を図るのかを考えるのは重要だ。しかし、5〜10年後にはどのような企業アイデンティティを持ち、どう収益源を複数持つかの長期戦略も考えておくべきだろう。この点を学ぶのに、Sifteryの事例は最適であると思われる。

[文]福家 隆

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