“お飾り”にならないビジョン・ミッションのつくり方を、10兆円産業へ挑むシタテルCEO・河野秀和が語る
Sponsoredテクノロジーで“レガシー産業”の変革に挑むスタートアップが頭角を現しているなか、10兆円規模の“衣服”産業へと挑む企業がある──衣料生産プラットフォーム「sitateru」を中心に事業を展開する、シタテル株式会社だ。
「スタートアップ経営において、“ミッション” という旗印はなくてはならないものだ」という声が年々強まるなか、シタテル代表取締役CEOの河野秀和氏は「ただし、耳触りの良いだけのミッションを掲げることに、違和感を感じます。」と異を唱える。
本記事では、シタテルが掲げるミッション「ひと・しくみ・テクノロジー」の真意と、河野氏の「大きな産業課題を解決したい」というスタンスを掘り下げ、スタートアップが真に掲げるべき「共感と資源(人・資金)を集める力を持ったミッション」のつくり方を明らかにする。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「産業の救世主」というキーワードや自社ミッションを"お飾り"にしないために
「シタテル」はアパレル事業者・プロ・アマチュア問わず、「衣服をつくりたい」人をサポートするサービスだ。デザイナー、パタンナー、縫製工場、生地・資材メーカーなどと連携し、工場探しから生地選定まで、衣服生産の全工程を専任コンシェルジュがサポートする。
その他にも、衣服ECから受注、生産までをサスティナブルに一元管理できる「SPEC」などの事業を展開している。
「産業の救世主」のように扱われることもあるが、河野氏は「ビジネスの力で産業課題を解決したいだけであり、人びとがシタテルの事業で救われたとしても、それは目的ではなく結果である」と話す。
河野僕たちは「あたらしい価値」をつくるための事業行っており、「産業を救う」ことを掲げて事業をスタートしたわけではありません。良いプロダクトをつくった結果として産業を救えるのは良いことですが、あくまで掲げたミッションの結果として課題が解決され「産業が救われる」だけであり、正義を掲げることが先行するのではなく、その順番であるべきだと思います。
シタテルが掲げるミッション「ひと・しくみ・テクノロジー」は、「新しいビジネスの力で産業課題を解決し、豊かな社会を実現する」ために必要な力をストレートに並べたものだ。河野氏は「ミッションに事業や組織のスタンスがフィットする言葉を設定しているかどうかが、組織全体のモチベーションに大きな影響を与える」と指摘する。
しかし、事業に向き合ううちに考えや目的が変化していき、起業時に掲げたミッションと乖離してしまうことも、“あるある”だ。そういった事態を防ぐためのポイントを河野氏は2つ挙げる。
河野まず、トレンドに左右され近視眼的にならず、長期に渡ってチャレンジできると確信を持てるミッションを設定すること。事業にまつわるハードシングスが次々と起こるなか、ファウンダーが困難なミッションを完遂する強い意志を持ち続けるのは容易ではない。自分が事業を通じてどれだけ成長できるかも計算に入れ、どれだけ事業にコミットできるのか熟慮し、完遂できるイメージを持てるミッションを設定すべきです。
もうひとつは、たくさんの人を惹きつける強い魅力を持ったビジョンを設定すること。そのためには、シンプルで力強い「言葉」の選定が大切です。ビジョンやミッションは事業の本質や魅力そのものを伝える言葉であり、会社を急成長させるために、どれだけ共感や資源(人・資金)を集められるかにのちに大きな影響を与えます。
何かを伝えるときは「本当に相手が求めている情報」だけに絞り込め
河野氏はプロダクトづくりにおいて、組織内の都合で意思決定するのではなく、組織外のユーザーの視点に立つことを大切にしている。「普遍的」で洗練されたプロダクトを追求しているので、新しい機能を追加することのみならず、不要な機能が見つかれば取り除いていく。
シタテルがミッションの上段に掲げるビジョン「IMAGINATION(イマジネーション)」は、「ユーザー(人)の想像力」をエンパワーする姿勢を表している。シタテルでは日常的に「このアイデアは 、良いイマジネーションだよね。」「いまのはイマジネーションが足りていないよね。」といった会話が飛び交うほど、組織にビジョンが浸透しているという。
河野氏はビジョン・ミッションだけでなく、事業計画書をはじめ、あらゆる場面においてシンプルな表現を用いる。これは日頃から常に「相手が求めるものを分かりやすく伝える」スタンスを大切にしているからである。
河野何かを伝えたいときは、細かい要素をたくさん書き込むのではなく、本当に相手が求めているであろう情報だけを絞り込むようにしています。自分の言いたいことをぎっしり詰め込んだ事業計画書(プラン)をつくっても、最初は誰も熱心に読んでくれませんからね。
特にビジョン・ミッションに関しては、複雑なゴールを掲げてしまうことで多大なコストを抱えてしまうケースをいくつも見てきました。そういった状況を避けるため、シンプルで明確な言葉を用いるようにしています。
シタテルを手がけるのも「イマジネーション」を得た人が何かをつくる際、それを実現するインフラを提供したい意志からだ。実は河野氏は「衣服だけでなく、あらゆる産業課題の解決が必要な時期に来ている」という。非大卒でメーカー・外資系金融機関を経て独立後、さまざまな領域で事業支援を行っていた河野氏は、インターネットが普及したにも関わらず、ビジネスモデルにITを組み込めていない例を数多く見てきた。
情報共有がうまくいっていない現場を直に見て「ITの活用による産業課題の解決」を標榜するようになったのだ。身の回りのあらゆる産業課題に関心を持つようになった河野氏は、誰もが毎日触れている衣服領域に狙いを定めた。他の産業領域にも興味はある一方で「まずはもっとも身近な衣服産業でやるべきことを果たしたい」と河野氏は話す。
河野衣服産業が抱える課題は多大で、やるべきことをまだまだ実現できていません。これからコミットしていくのは、「ひと・しくみ・テクノロジー」を用いた衣服産業のクラウド化です。“衣服産業のAWS”のようなポジションを取り、「10着つくりたい人」も「1万着つくりたい人」も、皆が自由にシタテルを使ってくれる未来を目指しています。
「ミッションが好き」 では不十分。強い使命感を持つ人材を採用する
未来への歩みを止めないシタテルは、新たなメンバーの採用にも意欲的だ。求める条件を問うと、河野氏は、「シタテルで活躍するメンバーに年齢は関係ない。ミッション・ビジョンを『やりたい』ではなく『やるべき』と捉えている人は強い」と話す。
河野何となくスタートアップ的なノリを持って 「ミッションが好き」くらいでは当然不十分。シタテルでは、ミッションに対する強い使命感を持っている人でなければ活躍できないと思います。「産業課題の解決」という大きなテーマにおいて、シンプルに個人が掲げるミッションと、会社の掲げるミッションが近く「何が何でもやり切りたい」 という想いを持ち合わせているひとは強いですね。
面接では模範解答はありませんがシタテルのビジョン・ミッションをどのように解釈しているかを自分の言葉で良いのでしっかり聞きます。
また、ビジョン・ミッションへのフィットだけでなく、各人の持つスキルセットやコミュニケーション力も見ているという。
河野産業課題の解決への想いがどれだけ強くても、高水準なスキルセットがなければ目の前の壁を超えられません。インターネットビジネスに携わった経験なども大事ですが、それ以上に重視するのはコミュニケーション力。無知の知というわけではありませんが相手の意見を「聞く力」が欠けていると成長機会を逃し、新しいものを生み出す力やフレキシビリティが徐々に失われていってしまいますからね。ステークホルダーからは既存のメンバーについて「柔和な人が多い」とよく言われます。
落ち着いた口調で質問に答える河野氏は、一見すると穏やかな人物だ。しかし、まるで“青い炎”のように、対面した人にしか感じられないような、圧倒的な熱量を持った人物だった。河野氏の想いの強さに惹かれるのか、シタテルでは「設定した高いハードルを乗り越える、優れた人材が数多く集まっている」そうだ。
河野氏が話したように、シタテルの掲げるビジョン・ミッションに対して使命感と呼べるほどの強い想いを抱く人であれば、同社で大きく活躍できるのではないか。衣食住と掲げられるほど、人にとって欠かせない「衣」の領域。かつてないほどのインパクトがある未来を、一緒にのぞくチャンスが今、拓かれている。
【8/7開催/少人数座談会】ステークホルダーが多く、構造が複雑な衣服業界のテクノロジー変革を率いてきたシタテルCEO河野氏にその事業創造ノウハウを聞く
こちらの記事は2019年06月27日に公開しており、
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執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載テクノロジーが最適化する10兆円市場〜衣服産業で起こる変革の兆し〜
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