AIは報道を支配するか?
事故からアナウンサーまで提供する
Specteeが作るメディアの未来
SNSの情報スピードと、AIによる情報処理プログラムを組み合わせたアプリ「Spectee」が、今マスメディアにおいて欠かせない存在となりつつある。
アプリを開発・提供するSpectee代表取締役の村上建治郎氏に、アプリ「Spectee」と、同じく同社の注目サービス「AIアナウンサー 荒木ゆい」について、その可能性と今後の展望を聞いた。
- TEXT BY KEI TAKAYANAGI
- PHOTO BY YUTA KOMA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
画像からニュースを判断するAI技術
リアルタイムで起こっている事件や出来事について、情報を収集しようとした時、どのような手段をとっているだろうか。これまでテレビやラジオ、新聞といったマスメディアが情報元として活躍してきたニュース速報の分野において、近年はインターネットやスマートフォンの普及により、SNSが第一の情報ソースとなるケースが増えている。
Specteeは、SNSに投稿されたニュースとなる出来事、事故などの画像や動画をもとに、いち早く「どこで、何が起こっている」かを知らせてくれるシステムだ。
Specteeを立ち上げると、ダッシュボードに速報などのタブと共に、火災の煙や自動車事故、何かに対する野次馬といった、ニュース的な要素を持った画像がグリッド状に並ぶ。各画像には、日時と場所、そして「大阪府 中央環状線沿いでトラックが炎上」という出来事の内容が簡潔に記されている。

提供:株式会社Spectee
これらの情報は、TwitterやFacebook、YouTubeなどに投稿されたデータをAIエンジンが解析して、ニュースとなる情報か否かを判断。位置情報やコメントから場所を特定している。
この画像解析と情報処理を行うAIエンジンは、Spectee独自開発の特許技術。世界中のクラウド上でめまぐるしくアップロードされる画像や動画、テキスト情報を、24時間リアルタイムでモニタリングしている。
村上例えばどこかで事故が起こった時、それを写真に撮ってSNSに投稿している人々は多い。同じ日時に、同じ場所の画像が上げられているクラウド上の変化をAIが察知し、そこで上げられた画像を解析しています。

火災や事故といった画像の内容の判断は、機械学習とディープラーニングによってすでにかなりの精度を持っている。また、位置情報だけでなく、画像内の看板の文字や、投稿者の過去の投稿から生活圏を絞り込むなど、少ない情報でも場所の特定を可能にするアルゴリズムが組まれている。
村上氏は、2012年頃に位置情報と周辺の情報を組み合わせたコミュニケーション・サービスを開発・提供していたが、そのサービスを報道機関が利用しているという声を聞き、本格的にB to Bのシステムとして開発に取り組む。現在はテレビ局をはじめ100社以上の報道機関が利用しているという。
村上IDを持った法人のみが利用でき、複数のアカウントで情報を共有することも可能です。2016年の熊本地震の後に、多く使われるようになりました。報道機関だけでなく、電力会社や鉄道会社、テーマパークでもトライアルで利用されているところがあります。
例えば、テーマパークで何かの事故が起こった時、来場者がすぐにSNSに投稿すると、テーマパーク側が直接、出来事を確認するより前に、情報を察知できる可能性がある。
情報ソースとしての精度はかなり上がっていて、利用者からの信頼度は高い。課題としてはSNS上に上がるフェイクニュースをいかに除外するか。投稿したアカウントの過去のフェイク情報のパターンを解析するアルゴリズムの精度を上げていっています。
今後は、Specteeに用いているAIエンジンを使った別のサービスも模索中だという。
荒木ゆいはもはや人
他方、同社のサービスとして注目されているのが、「AIアナウンサー 荒木ゆい」。「もっとも人に近いバーチャルアナウンサー」をコンセプトにした、テキストの読み上げ、会話をするプログラムだ。
他の読み上げソフトと異なるのは、SpecteeのAIエンジンで、10万件以上のニュース音声を機械学習している点。本物のアナウンサーの息づかいやアクセント、言葉の切り方を学習し、より聞きやすい読み上げを可能としている。

提供:株式会社Spectee
村上機械的な読み方よりも、自然で、キャラクターを感じるものにしたかった。読んでいる姿が想像できることで親しみやすさを持ってもらえるよう、キャラクターイメージや架空のプロフィールも設定しています。文字のよみがなや、アクセントなどは既存の読み上げエンジンよりも質が高いと思います。

名古屋のテレビ局では、深夜に流す短いニュースをAIアナウンサーに読ませるなど、人件費の削減にも貢献している。また、IBM Watsonを用いているため、簡単な会話もでき、将来的には、動画上でゲストとコミュニケーションしたり、現場レポーターとして情報を届けたりといったことも想定している。
ニュース速報アプリ「Spectee」と「AIアナウンサー 荒木ゆい」が示す、新しい報道の手法は、情報伝達のスピードや、コストパフォーマンスの向上といったビジネス的側面だけでなく、それを受けた社会と人の新たな働き方や、ライフスタイルに変化をもたらすきっかけとなるに違いない。
こちらの記事は2018年01月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高柳 圭
写真
小間 優太
編集
海老原 光宏
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