損失を出し続ける「Uber」が世界中から注目される理由──“タクシーの代替”以上に見えてきた可能性とは
2010年にサンフランシスコで誕生した配車サービス「Uber」。
アプリ一つで車を呼ぶことができる同サービスは新しい時代の交通手段として、車社会であるアメリカのみならず、世界中の都市で広まりを見せている。
2018年12月時点でその評価額は720億ドルとされており、IPO申請を行ったという報道も出ている。一方で、2018年第3四半期決算ではGAAPベースで10億ドル以上の損失を計上した。売り上げ規模は拡大しているものの、大規模な損失を出し続けている状況だ。
なぜそのような状況にもかかわらず、Uberは世界中から注目され、評価をされているのだろうか。今回、米国の調査会社CB Insightsが公開したレポート「How Uber Makes Money(Uberはどのように稼いでいるのか)」をもとに、あらためてそのビジネスについて深掘りしていきたい。
- TEXT BY MANA WILSON
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
交通手段」の概念を変えたUber
「ドライバー」と「乗客」をつなぎ、運賃から手数料をもらうモデルで世界各国にサービスを展開するUber。現在は、配車サービス「UberX」の仕組みを軸として、プロのドライバーが運転する高級車を活用した「Uber Black」、乗り合いサービス「Uber Pool」、フードデリバリーサービス「Uber Eats」など、事業の多角化を進めている。
このビジネスモデルについて話すとき、「The two-sided marketplace(両面市場)」という点は欠かすことができないと、同レポートは指摘する。乗客を探したい「ドライバー」と車を必要としている「利用客」という両面での需要と供給をつなぐということだ。
同レポートでは、この両面市場という側面がタクシー業界が抱えていた課題を解決してきたと紹介している。従来のタクシーは各都市ごとにその台数が決められているために、都市の規模が大きくなり需要が増えれば増えるほど、供給率が悪くなるという課題がある。
路上で客を拾うか電話での配送をもとに移動することしかできず、稼働時間の30~50%でしか乗客を乗せていない現状があるという。都市中心部や混雑したエリアに集中することが多いため、郊外などの利用客はすぐに利用できないデメリットもあった。
その点、Uberは都市の規模が大きくなればなるほどドライバーの数が増え、供給スピードが上がり、価格が安くなることさえある。従来よりもドライバーと利用客を密にマッチングすることにより、常に利用客が車に乗っている状態を作り出した。供給量に対して料金設定を変えるという手法を使うことで、郊外に配送車がいる状態も作り出したという。
また、車の所有やドライバーの雇用をせず、あくまでコーディネート業務のみを行うUberは、管理資産が少ないのも特徴である。しかしながら、海外市場でのマーケティング費用や、十分なドライバー数を保つための宣伝費などがかさみ、損失の規模が拡大した。
損失を出しながらも、市場を拡大させ、評価され続けている理由は一体何なのだろうか。
都市生活に浸透したUberの価値
その成長性に期待する人々がいる理由の一つは「継続的に利用する顧客の多さ」という。
一般的にアプリやサービスは、顧客の使用率が徐々に下がったり、他のサービスに移行されてしまうことが多い。しかし、Uberにおいては、アプリをインストールしている期間が長ければ長いほど、利用頻度が多くなるというデータが出たのだ。
Uberが登場した頃、サンフランシスコでUberを利用した乗客一人あたりの売り上げは、一ヶ月間でおよそ40~50ドル、Uberの利益は8~10ドルだった。しかし、投資家のNaval Ravikant氏は「Uberのライドシェアリング事業では古株の顧客ほど使用率が高くなった」と、自身のTwitter上で発言した。
この事実が発覚したことで、同社の共同創設者であるTravis Kalanick氏が、Uberのビジネスモデルに「タクシーの代替」以上の大きな可能性を感じたという。
同レポートでは、Uberのアプリをダウンロードして利用する人々が、今までの移動手段だったバスや自転車をUberで代用するようになったためだと指摘した。
もう一つ、Uberの可能性を計るときに注目したいのは「貢献利益率」だ。固定費を抜いた収益と変動費を見比べる貢献利益率(限界利益率とも呼ばれる)は、ビジネスモデル自体が黒字化できているかが分かる。ビジネスが成長しきっていない段階では固定費も含めて黒字化するのは難しいため、主にスタートアップがビジネスの成長性を訴えるときに使われる。
Uberの場合、同社が2013年に進出した上海での貢献利益率は-158%。このときはアジア進出への経験の浅さ、現地競合の滴滴出行(ディディチューシン・Didi Chuxing)の存在により投資額に見合わず伸び悩み、最終的には滴滴出行がUber Chinaを買収した。
しかし、ニューヨークやボストン、パリなどの大きな都市では8~9%の貢献利益を出している。これはUberの利用者数や使用頻度、単価が上がっている証拠であり、同社CEOのDara Khosrowshahi氏は、英経済紙「Financial Times」のイベントで「3~5年の間には、アメリカとヨーロッパにおいては固定費もカバーできるだろう」と話したという。
大きな都市で貢献利益率が上がっているのは、やはり「継続的で何度も利用する顧客の増加」が関係している。新規ユーザー獲得のために多くのコストをかけることなく、既存のユーザーによって売り上げを拡大できるからだ。長期的な目線で見ると、「都市で暮らす人々の生活に浸透することで、今後も成長が見込まれる」と同レポートは指摘している。
人々の足となるべく、自社事業を超えていく
一方で、大きな資産や知的財産が必要なくコモディティ化された配車サービスは、すぐに競合が現れた。兼業するドライバーも増え、「移動さえできればどのサービスでも同じ」と考える利用客は複数のアプリをダウンロードし、より最適な方を使用するようになった。
現在、アメリカにおける最大の競合はLyftである。以前は資金力がなかったLyftだが、2017年には業績が130%伸び、売上は10億ドルを超えた。2017年第4四半期の売上高は、Uberがドライバーによる人種差別問題や、共同創設者で前CEOのTravis Kalanick氏を解任したことなどで前年比61%と伸び悩んだのに比べ、Lyftは同168%増となった。
また、40億ドルの資金調達やWaymo(Googleの自動運転車開発企業)との連携も始めるなど、トップに君臨するUberへの距離を縮めている。
Lyftの猛追を逃れるため、UberはUber Eatsに加えて、電動自転車や電動キックボードのレンタル事業「JUMP」への投資を拡大していると、同レポートでは紹介した。
2018年に自転車シェアリングのJUMP Bikesを買収し、電動自転車や電動キックボードのシェアサービスを開始。街中の電動自転車やスクーターを人々がシェアする同サービスは、車の混み合った都市であっても渋滞を気にせずに移動することが可能だ。
アプリで近くにあるJUMPの電動自転車やスクーターを見つけ、アプリ上に表示されるコードで鍵を解除するだけで、そのまま目的地まで使用することができる。
UberのCEOであるDara Khosrowshahi氏はFinancial Timesの取材に対して、「人々は今後、今までよりも短い距離の移動を高い頻度でするようになるだろう」と予測したうえで、特に通勤時間帯など「一人を運ぶのに車一台を使うのは非効率だ」と答えた。
「同じ距離で車の代わりに電動自転車を活用すると、Uberの売り上げは下がるものの、より使用頻度が増えることで穴埋めできる。現役ドライバーは収益減になる可能性はあるが、収益性の高い長距離移動の乗客が増えるため、長期的には収益増になる」とも述べている。
また、Dara Khosrowshahi氏は、米テックメディア「Recode」主催の「Code Conference」にて、JUMPが将来的にUberの肝になると述べている。
Dara KhosrowshahiJUMPでわかったのは、JUMPを利用する人の平均移動距離は2.6マイルだということです。Uberがサンフランシスコ内で移動する30~40%にあたる距離ですね。つまり、今までUberXで車を手配していた移動でJUMPを使えば、ずっとずっと安く移動ができることになります。自分たち自身の新サービスで、共食いしているようなものです。
でも、私たちが提供したいのは、これまでにあった交通手段の代替案なんです。Aの地点からBの地点へ、より安く移動するにはどうすればいいか。Uberといえば車じゃないんです。Uberは交通手段を探す人々へ一番の解決策を届けるということです
IPOを控えているUberについて、同レポートでは下記のように締めくくられている。
投資家たちがUberを「競合の多い業界で、支出が多く利益が増えないビジネス」と見るか、「人々の足としてより多くの交通手段を提供し、世界にネットワークを構築するUberには大きく可能性がある」と見るかによって、Uberが成功するか否かは決まるだろう。
こちらの記事は2019年04月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
ウィルソン 麻菜
1990年東京都生まれ。製造業や野菜販売の仕事を経て「物の向こうにいる人を伝えたい」という思いからライターに。職人や作り手に会いに行くのが好きで取材・発信をしています。エシカル、食べること、民族衣装が好きです。
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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