累計40億円調達。花のサブスク『ブルーミー(bloomee)』は、花き産業のリーダーになれるのか?──全社員がユーザーヒアリングする「ユーザー起点×データドリブン」に根ざした成長の歴史を、CEO武井氏に訊く
Sponsoredサブスクリプションサービス(以下サブスク)を一つも契約していない若者は、もはやほとんどいないだろう。良いサービスには、ユーザーが集まりやすい時代だ。そんなレッドオーシャンで、ビジネスを成功させるカギはどこにあるだろうか。
『ブルーミー』は、10以上存在する花のサブスクサービスの中で日本初・国内随一の会員数を誇る注目のプロダクトだ。運営するユーザーライク(旧Crunch Style)の代表取締役CEO武井亮太氏は、その勝ち筋について「どこよりも徹底するユーザー起点」と強調する。
データ活用が進むイメージは弱く、なおかつ先進的な上場企業がほぼないという「花き業界」で起業し、30名規模ながら累計約40億円もの資金調達を実施。この成長と拡大の背景には、「ユーザー起点とデータドリブンの徹底」という強い信念と、実践の連続がある。起業家・武井氏の妥協せずやり抜く姿から、あるべき事業マインドを学びたい。
- TEXT BY SHO HIGUCHI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
40億調達も上場も、通過点。
目指すは「一家に1つユーザーライク製品」がある社会
ユーザーライクは2022年1月、累計40億円の大型資金調達を発表した。ジャフコやANOBAKAといった名立たるVCが多額の出資を決めたのだ。toCサービスのスタートアップではかなり大きな規模と言える。
「花のサブスク事業単独でのグロースにかける期待だけとは考えにくい、今後の複数事業展開も加味しての評価なのではないか」との取材陣の考えが、まず完全に打ち崩された。VCはいずれも、『ブルーミー』という事業単体へのスケーラビリティを期待しているというのだ。
武井評価をいただいたのは、『ブルーミー』のここまでの伸びと、ユーザー起点へのこだわりですかね。加えて、社内の隅々にまで、数字で語る文化が浸透していること。ここからサービスの磨き込みと非連続的な事業拡大に向け、思い切りアクセルを踏むんです。サービスとして完成しつつあるだなんて、全くもって思っていません。
直近は『ブルーミー』を育てつつも、近いうちにお花のギフト領域のサービスも新規事業として開始します。そうして数年以内の上場を目指します。
「花」を起点に事業を大きく成長させ、上場まで突き進むのが武井氏の考え。だがもちろん、資金調達も上場も通過点でしかない。数年スパンで見据えるのは、複数事業の展開だ。
武井上場前後の頃には、他の業界へも事業を展開していきたいですね。具体的にはまだ何も決めていませんが、花き産業のようにユーザー起点が足りない産業はまだまだあるはず。
例えば、フルーツとか。フルーツのサブスク、という事業は良いかもしれません。あるいはベビー用品とか。すでに「モノ」が存在する産業で、それを日常的にユーザーさんに届けるサブスクサービスであれば、『ブルーミー』で培ってきた強みが活きる領域になります。「ユーザー起点×データドリブン」の基軸を守りながら横展開していきます。もちろん、その業界における仕組の変革まで見据えて、です。
いずれにせよ、ミッションは「ユーザーさんの、うれしいを創る」ですから、『ブルーミー』のように、生活者のみなさんの日常を豊かにするようなtoCサービスを、次々と作っていきます。
つまり、『ブルーミー』が更にスケールした先に、新規事業に対するさらなる資金調達(上場も含む)があるということだ。武井氏の挑戦の壮大さが見て取れる。
新規事業としてサブスクサービスの展開を増やしていく、という絵図も見えた。この戦略に注目する人も一定数いるだろう。だがせっかくなので、武井氏がその先に描く企業像まで聞いてみた。すると出てきたのは、「一家に一台は使われているブランドメーカーになりたい」という答えだ。
武井最終的な目標は、ソニーやパナソニックのように、一家に必ず一台はその製品が使われているようなブランドを持つ企業になることです。そのために、ライフスタイルをさまざまな角度から彩る事業を、多面的に展開していくつもりです。
その先駆けとして展開している『ブルーミー』というサービスの面白さ、そしてその裏側にある産業変革というインパクトをぜひ知ってほしいですね。
なぜ「一家に一台」を目指すのか。その想いには、今の起業家というイメージからはほど遠い、「教員になることを目指していた過去」が色濃く影響している。
武井「教え子たちの人生に良い影響を与えたい、だから学校教員になりたい」と考えていました。教育学部に進み、アルバイトは家庭教師でした。そのバイトの中で、運営会社の事業開発現場にまで関わるチャンスがあったんです。間近に見たのは、たった4人の社員で創ったサービスが、学校教育ではカバーしきれない学生たちの成績不振問題を解決していくというダイナミズム。
経営者になるほうが、ものすごくたくさんの人たちを対象に、良い人生を送る手助けができるかもしれない。そう感じて、人生の方向転換をしました。
この会社で、より多くの人たちが幸せになるサービスやプロダクトを次々に展開していく。そうして「一家に一台」という世界を創ることができれば、私がもともと抱いていた想いを成就させることにもなると考えています。
サブスクこそが、サステナブルな産業を創る。
「ユーザー起点」だからできる産業変革
『ブルーミー』は、「お花」という感性的に購入される商品を扱いながら、ユーザー起点のデータマーケティングを駆使して会員数は10万人超、全国の提携生花店は200超と、業界随一の実績と急成長を見せる。
その急成長のカギは、「ユーザー起点とデータドリブンの徹底」にあるようだ。とはいえ、具体的にサービスやプロダクトがどのように深みを増しているのか、外側から見ているだけでは、はっきりとわからない。どうやら聞いてみると、UIやUXの最適化といった表面的な話だけではないようだ。武井氏らが見ているのは、「もっと本質的な価値の追求」だ。
そう言って語り始めたのは意外にも、「産業変革」という社会的意義について、である。
武井ユーザーさんのニーズに基づき、最適な事業展開を進めるためには、旧態依然とした仕組みを変えていく必要も生じます。私たちは、花き産業の構造変革にまで、ユーザー起点で取り組んでいるんです。
お花は昔から、冠婚葬祭の機会に贈られることが多かった。大きい花束のほうが映えるので、丈が長いお花にニーズが集中していたんですね。だから生産者(農家)さんも、できるだけ丈の長いお花を栽培しようとするのが自然な流れです。市場も「○○センチ以上のお花じゃないと仕入れない」と決めています。具体的には50センチ〜70センチくらいが多いですね。
でも私たちのユーザーさんが求めるものは違います。自宅の戸棚に置くような小さな花瓶に刺すのが目的なので、30センチくらいの短いお花で十分。従来の花き市場には存在しなかった、全く新しいニーズなんです。
ここまで読んで「『ブルーミー』では茎を切ってリサイクルするオペレーションを整備しているんですね」と考えるようなら、あなたの事業家として既存産業を捉える感度にはまだまだ伸びしろがあると言えるかもしれない。武井氏がアプローチしたのは、「花き産業の中の変革」という、さらに大きな課題なのだ。
武井一般的には知られていないと思いますが、お花を出荷する際には「規格」に沿う必要があります。きちんと取り引きしてもらうために、生産者は各出荷元で定められた規格に合わせて商品を作っているんです。
『ブルーミー』でも以前は、長いお花を仕入れ、茎を切り、サイズを調整してからユーザーさん向けに発送していました。でもこれ、かなり無駄が多いと思いませんか?私たちの茎を切るリソースだけじゃありません。生産者さんたちは、茎を長く育てるために時間や労力を惜しまず注いでいます。丈が長い分、輸送費だってかさみます。それなのに私たちはその茎を切ってゴミにしてしまう。
エンドユーザーさんの感覚は変わっているのに、産業構造が変わっていないから、無駄が生じている。この現状を抜本的に変えていくために、「ブルーミーフラワー」と名付けた30センチ丈の新しい規格を花き産業の中に創りました。生産や物流の構造を、時代に合わせて効率化していくための、大きな一歩を踏み出したんです。
農産物マーケットは、難しい事業現場だ。生産者(農家)、農協関係者、市場関係者、卸売業者など、さまざまなステークホルダーが存在する。「新たな規格を創る」と一口に言っても、多くの人や組織を説得したり、入荷/出荷オペレーションを再設計したり、といった泥臭い仕事が必要なはずだ。
煩雑な大仕事をやり抜けたのは、武井氏をはじめとしたユーザーライクのメンバー一人ひとりが、ユーザーさんに対して他にない価値を創出し続けようとする強い信念を持っていたから、なのだろう。
武井とにかく、「花き産業の仕組みを良くする、社会的意義のある事業」という点を強調したいですね。
実は、30センチ丈のお花って、50センチ〜70センチ丈のお花より短い期間で作れるんですよ。だから、旧規格のお花1本を作る期間で『ブルーミー』向けのお花を2本作れてしまいます。生産者さんは販売量を増やせて、売上も伸ばせるし輸送費や茎を切るコストなどを削ることができます。生産者さんもユーザーさんも、みんなハッピーですよね。
このように、単なるサービス提供ではなく、産業構造そのものを変革していくサービスとして拡大していくのが『ブルーミー』なのだ。
武井花き産業で生産や物流の構造を変えられたのは、ユーザーライクしかいなかったのではないかと思います。市場の仕組みといった業界構造が、ほとんどユーザー目線に立てていない現状があったわけです。
新たなプレイヤーが参入して、明らかな価値創出をもって信頼を勝ち得ていくこと──産業変革に必要なのはこれ以上でも以下でもありません。だから、今ようやく変革を実現しつつあるし、これからももっと取り組んでいける、と確信を持っています。
武井氏が進めるのは、サービスの認知を広げてユーザーを連続的に拡大する、という一般的な事業拡大だけではない。参入した産業それ自体を最適化する変革に挑戦し、実績を残し始めているのだ。こうした「長期的視点に立った、サステナブルな事業」こそ、今の時代に求められているものと言える。
部門を問わず、全社員が毎月ユーザーインタビューする。
それが「ユーザーライク」の原点
このように長期的な視点に立って、業界時代の変革まで視野に入れた事業展開が、ユーザーライクの大きな特徴だ。しかしもちろん、成功ばかりではなかった。武井氏も、失敗を乗り越えてここまで来ているのである。
その中で特に「今のユーザーライクの礎」となっている創業期の失敗とピボットに迫りたい。
武井氏は大学卒業後、2社での勤務を経験し、起業した。「より多くの人の日常に、ハッピーを届けたい」と考え、ライフスタイル領域での事業を構想し、『ブルーミー』の前身となる事業を始める。
だが、全くもって鳴かず飛ばずの日々が続いた。そんな苦しんでいた1年後のある時、ユーザーの意見に間一髪救われた、という武井氏自身の経験が、ユーザーライクの原点なのだ。
武井ライフスタイルといっても幅広い。だからどこかにブルーオーシャンがあるはずだ。そう考えていたころ、お花をもらう機会があり、ピンと来たんです。「IT化がまだ不十分で、産業自体に伸びしろがありそうだ」と。
それでまずは、お花のギフトECを始めました。お花って、男性からしたらお店で買うのはなんとなく億劫ですし、女性であっても店頭に買いに行く面倒臭さがある。「イケる」と思っていたんです。私の課題意識から始まった事業構想ですね。
でも実際には、何カ月もユーザーさんが増えず、「どうしたものかな」と。
今では「ユーザー起点」を徹底している武井氏も、起業当初は自らの仮説一本で突き進んで痛い目を見た。そう苦笑いで振り返る。
武井そこで一念発起し、停滞状況を打破して伸ばしていくために、ユーザーヒアリングを本格的に実施したんです。するとユーザーさんから出てきたのが、「お花の値段って、高いよ」という意見。当時、ギフト用のお花は一つ5,000円くらいだったので、「言われてみれば確かにそうだな」と思いました。つまり、「お花の価格を安くしなければいけない」という方向性が一つ、見えたんですね。
もう一つ大きな意見に、「そもそもお花をギフトとして贈ろうとはなかなか思わない」というものがありました。これはちょっと考え込みましたね、どうすればこの課題を解消できるのか……と。チームで議論して至った仮説は、「日常生活にお花が存在していないのが問題では?」ということ。
ワインのような商品であれば、日常的に触れているから「ギフトとして贈ろう」という想いも生まれますが、お花はそこまで日常生活に浸透していない。そこで「お花を日常的に触れるものにしなければいけない」という方向性が新たに見えました。
すがるような思いで進めたユーザーヒアリングから、必死で掴みとった二つのヒント。ここから武井氏の事業は急加速する。
武井お花を「リーズナブルな価格で提供する」、そして「日常的に触れ合えるものにする」という二つの方向性に基づき、ギフトではなく「日常使いでお花を楽しめるサービスにしよう」と決断しました。これが今の『ブルーミー』の始まりです。思い切ってピボットしたんです。
この必死のユーザーヒアリングがなければ『ブルーミー』はなかったですし、ここまでの成長もありませんでした。
2022年1月、会社名をCrunch Style(クランチスタイル)から、ユーザーライクに変更した。社名を変更してまで「ユーザー起点」へのこだわりを内外に示すのは、こうしたピボットの経緯や、事業開発上のこだわりをより強く発信したいから、ということになる。
この体験から、武井氏はユーザーヒアリングの徹底を社の代名詞のように扱い、メンバーへの意識付けに力を注ぎ続けている。まさに「唯一無二のカルチャー」と言える。
武井ユーザーヒアリングは、全メンバーの仕事だと考えています。マーケティングチームだけでなく、全部門・全社員が毎月実施しています。エンジニアや経理、人事など、社内のあらゆる人間がそれぞれ実施し、結果を全メンバーに共有しているので、社内全体が同じ目線に立てるんですね。アルバイトのメンバーにだって、もちろん共有しています。
こうした取り組みを怠ると、同じ目線に立つことができず、どんなに定量的に語ったとしても本質的にはわかり合えません。良い意思決定ができなくなっていくと思うんです。バックオフィス担当であっても「ユーザーさんを知りません」とは言わせたくない。
カルチャー面で言えばもう一つ、冒頭で話した数字やデータへの意識も重視しています。「数字は苦手です」とも言ってほしくない。
「ユーザー起点」と「数字で語ること」をセットにして取り組むことで、他社には真似のできない、圧倒的な成果を生み出し続ける組織カルチャーの醸成につなげようとしています。
ユーザーヒアリングは、マーケターやUXデザイナーが担当するもの、というような感覚を持つ読者も多いかもしれない。だが、武井氏に言わせれば、ユーザーヒアリングこそ、全メンバーで一丸となって取り組むべき仕事になるのである。そこにデータドリブンな意思決定が結びつけば、頼もしい事業推進チームが出来上がっていくことは、想像に難くない。
全職種に求める「データ」へのこだわり
ところで、読者の頭にはこんな疑問も浮かぶのではないだろうか。「花き業界」という感性的に購入される商品を扱う事業領域で、そもそも「データに基づいた効率的なマーケティング」は可能なのだろうか?と。
その具体的な取り組みを聞いてみると、ユーザーライクの事業開発における、他社にはない徹底した「こだわり」が見えてくる。
武井直感的に「お花は感性的な商品なんじゃないか?」とよく言われますが、ビジネスをグロースさせるのに必要なのは、やはり定量データに基づいたアクションです。データ、つまり数字ありきで考えるのがビジネスの基本。なので、常に数字に落とし込んで、定量的な仮説検証を重ねています。
例えば、お花を購入するときにユーザーさんが気にすることとして、お花の色味がありますよね。「このユーザーさんは赤が好きなんだ」とか。あとは「どのお花同士を組み合わせると満足度が上がりやすいのか」といった蓄積もあります。これはまだわかりやすい例ですが、より込み入ったデータもあります。
こうしたものをすべて、当然のように定量的に扱っていくんです。
このようなデータを集めることであれば、今時どのEC企業でも実施しているだろう。しかしながら、当然それだけでは終わらない。「花」という“感性”や“情緒”が販売の成否に関わる商品を扱うサービスならではの定性データの掘り下げ方こそ、ユーザーライクの真骨頂だ。
武井例えばユーザーさんにアンケートを取る場合には、満足度を点数で測るだけではなく、データに基づいた仮説を基に、誰に対してどのような質問をするか、厳密に決めてから、新しい目標となるデータを取るためにヒアリングをします。「商品を購入し続ける中で、心理がどう変わっていくか」ということも、同様にデータ化しています。
このように、どんなに定性的な事象であっても、必ず数字に落とし込んで定量的に捉えようとします。そういう努力をやってみることで、ビジネスの現場で納得感の高い仮説を立て、推進することが可能になります。
さらに驚かされるのが、いわゆるマーケティングやプロダクト開発以外でも、データを重視するカルチャーができている点。武井氏率いるユーザーライクでは、全メンバーに対して、数字に基づく意思決定を求めているのだ。
武井toCのサブスクというビジネスモデルで結果を出すために、「データドリブン」であることは必須です。プロダクト開発ではもちろんのこと、経理やHRなど、あらゆる部門で数字で語ることを徹底してもらっています。
もちろん、全ての事象を数字に落とすことはできませんが、基本的に社内の議論は数字に基づいて語られています。それくらい、数字で語ること、「データドリブン」であることは、私たちにとって至極当たり前のことです。
大型調達しても、大量採用はしない。
「ユーザー起点×データドリブン」の少数精鋭チームで産業変革を続ける
ここまで見てきたように、ユーザー起点やデータドリブン、市場や産業の変革といった「ビジネスのやりがい」が満載の事業展開を進めているのが、ユーザーライクというスタートアップだ。魅力的な起業家が増え、さまざまな新しい事業が国内でも生まれ続ける中、異彩を放つ存在になっていこうと、武井氏は目論む。
それを象徴するのが、採用へのこだわりだ。特に、「数字」に対する意識の高さを驚くほど細かく確認するのがユーザーライク流の選考だ。
武井「2周目人材」とも言うべき人が弊社には多いですね。例えば、サイバーエージェントのようなメガベンチャーや、GAFAMと呼ばれるような外資系大手IT企業の出身者。事業開発やプロダクト開発を牽引し、新たな刺激を求めているような人たちです。
「ユーザーさんと向き合う時間を極限まで増やしてプロダクトを考えたい」とか、「プロダクトだけじゃなくて、組織開発もしてみたい」「もっとチャレンジングな環境で勝負がしたい」といった想いで、弊社に興味を持っていただく感じですね。
こうした人たちの選考を進める際の、ユーザーライクならではのこだわりを紹介させてください。数字にこだわって成果を出してきた人なら、現職や前職の細かい数字も事細かに語れるはずですよね。なので、そこをじっくり聞いていくんです。例えばセールスが必要な事業であれば、年間の総受注数や、受注単価、営業パーソン1人あたりの営業利益、週次のKPIなど。
そういう質問をしてその回答を聞けば、その方がどれだけ意識を高く持って、事業成長に関わる変数を自分なりに因数分解しながら、数字に向き合って日々の業務遂行をしているか、すぐわかるじゃないですか。
あとは、ワイワイ話すのが好きな人が多く在籍してるので、コミュニケーションが好きな人だとフィットするのが早いだろうなと思います。
どのチームのミーティングからも大体笑い声が聞こえてきますが、事業の話は数値で、それ以外はフランクな感じで、というのがユーザーライクのカルチャーなんでしょうね。
採用で妥協するわけにはいきません。これからも「我こそは」と思うみなさんを心からお待ちしています。面談から、レベルの高い議論を楽しめると思いますよ(笑)。
そんな選考を通過するメンバーはどのような人物なのか、具体的に教えてほしい――そんな率直な感想をつい漏らしてしまったところ、武井氏の口から絵に描いたような即戦力人材が出てきた。
武井現在は執行役員になっている久保裕太郎の例を出します。アマゾンジャパンで事業開発を担い、日本で物流拠点を新設したり、倉庫ロボットを新規導入したり、といったスケールの大きな仕事をしてきました。この経験を活かし、弊社でも入社1カ月後には一つ目の自社で花を加工する工場を立ち上げ切り、そこから半年かけて複数の工場を作るプロセスをリードしてくれました。
『ブルーミー』のユーザー拡大に対応し続けるため、出荷量の急拡大と品質担保を両立するサプライチェーン機能を、ユーザーライクでは自社開発している。花を直接仕入れるところから、加工し、発送するまでのオペレーションを構築しているのだ。この実務を中心的に担うのが、久保氏が立ち上げた工場。
自社で運営するからこそ見える課題やノウハウが多くあり、それらを全国の契約生花店にも展開することで、業界内のさらなる効率化や付加価値向上を目指すことができる。
武井今では工場のアルバイト合計数十名程度を、久保が直接マネジメントしつつ、育成も進めて4名を社員登用し、発送オペレーションをさらに洗練させています。このくらいのスピード感で、事業に価値を創出していける人材を探しています。
急成長中のサブスクサービスでは、納品(発送)オペレーションを迅速に構築していくことが必要不可欠。事業成長のボトルネックになりやすい点である。だから、久保氏のように経験豊富かつ数字への意識も高いメンバーが、レベルの高い議論に基づいて意思決定と施策の遂行を進めることで、事業成長を確実に実現できるわけだ。
採用を重視するとは、まさにこういうことを言うのだろう。事業のボトルネックになり得る部分や、非連続的な成長を新たに生み出せる部分を想定し、推進することのできる人材を的確に採用・アサインしていく。早速成果を出した久保氏も当然、大きなやりがいを感じることとなり、さらなる成果創出まで期待できる。
そんな関心しきりの取材陣に対して、「ただし誤解はしてほしくない」と言って武井氏はそのこだわりについて話し続ける。
武井「数字や成果」ばかり言っていると誤解されるのが、「ドライな人間ばかりなのではないか」ということ。ですがそんなことはありません(笑)。チームでビジネスを進める以上、ウェットなコミュニケーションも非常に重要です。クールに数字に基づいて語りながら、先ほどご紹介した通り関係性を上手に構築していって組織づくりも担うことができる。こうした実力を備えたメンバーを増やしていきたい。
武井氏が語るほどのレベルで優秀な人材は、なかなか見つかるようなものでもないようにも思える。でも、それくらいが、あなたも興味をそそられるのではないだろうか?まずは話を聞いてみたいと多くの人が感じるのは、おそらくこういう企業の存在に対して、だ。
そして最後に改めて「採用に妥協はしない」と力強く語って、締めくくった。
武井私たちはたとえこの先上場しても、むやみやたらに企業規模を拡大するのではなく、「少数精鋭」という採用姿勢を貫いていきたいと考えています。というのも、弊社の基盤となるのはtoCサービス。消費者のニーズはすぐに変わっていくものなので、スピーディーに対応して変化を創っていく力量が、メンバー一人ひとりに必要です。となると当然、求めるビジネスレベルも高くならざるを得ない。
一人ひとりのレベルが高ければ、いたずらにメンバーを増やす必要もありません。質の高い議論で、効率的に事業を伸ばしていく組織を理想としています。だから、少数精鋭を目指すんです。
ほかのどの企業よりも、精鋭が切磋琢磨している、そんな唯一無二の組織づくりに、これからますます注力していきます。
武井氏の起業家・経営者としてのこだわりは、非常に細かく、鋭いものだという印象を受けた。さらにそれだけではなく、自社を起点にして、産業変革まで自然と視野に入れていることもよくわかる。
この広い視野でビジネスを前進させていくことができるカギは、やはり「ユーザー起点」にあるのだろう。数多くのユーザーが求めているから、産業を変革するための説得力が増していく。数多くのユーザーを獲得し続けるために、既存ユーザーに徹底して向き合う強いメンバーを集め続ける。
この連環を意識して、調達や上場、新規事業開発を次々と進めていくことが、次世代の起業家に求められる事業マインドなのではないか。そう感じさせられる。
学生時代、教師を目指していた武井氏が、次世代の起業家・事業家にとっての教師となる日も近いのではないか──日本のスタートアップ界でも屈指にユーザー起点を実践する、ユーザーライクのこれからに注目したい。
教師から起業家へ。
「他人の人生に関わる」という夢に、無限の可能性を
「データドリブンを武器に、花のサブスクサービスを運営する起業家」という一風変わったプロフィール。「花やアートが好きで感性を重視する人物」「あえて逆張りするのが好きな、風変わりな人物」など、武井氏の人物像に対するイメージは多方面に膨らむ。
だがその出自は、スタートアップ界隈で想像しやすいもの──大学時代からマーケティングや経営戦略を学び、起業準備をしてきた──ではないようだ。目指していたのは、起業家のイメージからは程遠い、教師という職業だったのだ。
武井具体的にはあまり覚えていないのですが、幼稚園や小学校で出会った先生たちから、非常に多くのことを学んだような気がするんです。そのうち4人くらいは今でも付き合いがあります。
そんな原体験から自然と「自分が教師になって、人生に良い影響を与える側になりたい」と考えていました。経営者になろうなんて、当時は夢にも思いませんでした。大学では教育学部に進んだんです。
その頃に家庭教師のアルバイトを始めたのが転機になりました。大学生ですから、自分で使えるお金を増やしたいという思いがあって、アップセルの提案を始めたんですね。「授業のコマ数を増やしたら成績が上がりますよ」なんて言い方で。親御さんって、成績を上げるために家庭教師を雇っているわけですから、信頼できる家庭教師から勧められたら、やっぱり考えやすいわけです。それで、多くの家庭でコマ数が増え、結果的に私の収入も増えるwin-winの仕組みを、自発的につくりました。
すると、他の家庭教師と比較して多くの授業を受け持っている私の存在が、家庭教師の派遣会社の目に留まったんです。「親御さんからの評判も良くて、全生徒に週二回以上のコマを入れてもらっている。一体何者なんだ、この学生は」みたいな感じで(笑)。
「家庭教師よりも、本社で営業をやらないか」と直々に持ちかけられたことをきっかけに、本社側でインターンとして働き始めました。
学生ながら、「教育」というtoCサービスのフィールドで、今につながる起業家としての片りんをのぞかせていたようだ。そしてこの場所で、「起業家を目指す」という人生の方向転換にまで至る。
武井インターンとして働いていたこの会社で開発したサービスが、全国に広がっていくプロセスを間近で見ることができたんです。本社にはたった4人の社員しかいなかったにも関わらず、その4人が作っているサービスが、学校教育ではカバーしきれない学生たちの成績不振問題を解決していく。このダイナミズムに驚かされました。
そこで、教師として目の前の人に大きな影響を与えていく人生と、経営者として良いサービスを作って無限大の人に影響を与えていくのと、どっちが自分に合っているのかを考えました。そして「自分は、より多くの人に影響を与えたい。だから、経営者になりたいのだ」と悟ったんです。
「教師ではダメだ」と、その道を否定したわけでは決してない。教師になって、若者たちの人生に良い影響を与えたい。そんな想いを突き詰め、昇華させた結果として、より多くの人たちに限りなく幸せを届けるために「起業家への道」を切り拓こうと思い至ったのだ。
教員と起業家。多くの人の目には、まるで異なる仕事と映るだろう。だが、あながちそうではないのかもしれない。特に「ユーザー(教え子)に対する強い想いと、その結果としての影響力」という面を切り取れば、かなり近いものがあるとも言えるだろう。それを証明するかのように、武井氏率いるユーザーライクは、幾多の困難を乗り越え、事業成長を実現させていく。
【1/25開催】ユーザーライク武井氏登壇イベント!詳細はこちらから
こちらの記事は2022年01月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
樋口 正
写真
藤田 慎一郎
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