INTERVIEW
山川 恭弘 小村 隆祐 漆原 琢雄 平田 美奈子
18-12-07-Fri

起業家は「意味のない出会い」を求めよ。ボストン発ベンチャーカフェが目指す、イノベーション・エコシステム構想

TEXT BY YASUHIRO HATABE
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

2018年3月に日本に上陸を果たした米ボストン発の「ベンチャーカフェ」は、どのような場所なのか。
「野心を持って四六時中働いてこそスタートアップ」、そんな固定観念を覆す、
ゆるくてカジュアルなコミュニティの運営者たちが考える、
イノベーションを生み出すための「構え」について聞いた。

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イノベーションを生み出したい人たちが集まる「場」

2009年にアメリカのボストンで設立されたベンチャーカフェは、セントルイス、マイアミ、ウィンストン・セーラムの拠点に加え、オランダのロッテルダムにも展開している。それに次いで、米国外2つ目の拠点として2018年3月に東京に進出した。

そのローンチを先導し、現在ベンチャーカフェ東京の運営責任者を務めるのは、多くの起業家を輩出していることで名高いバブソン大学で、まさしく「起業学」を教える山川恭弘准教授だ。

「ベンチャーカフェ」と聞くと、そういう名前のスペースがあるのかと思われるかもしれない。ベンチャーカフェとはその運営主体の名前でもあるが、その本質は何かといえば、山川氏をはじめとする4人のメンバーとそこに集まる人々から成るコミュニティにより企画・運営されているイベント・プログラムのことであり、そこへ集まった人たちが作り上げるソフトウェア的な「場」のことである。

ベンチャーカフェにはさまざまなプログラムがあるが、最も象徴的なのが、毎週木曜の16時〜21時までの5時間、虎ノ門ヒルズで開かれる「Thursday Gathering」。これは世界のどの拠点のベンチャーカフェにも共通のプログラムだ。

「木曜日に集まろう」、ただそれだけの掛け声で開かれるこのイベントの参加者の共通項は、「イノベーション」。木曜の夕方になると、社会に対してイノベーションを生み出そうとする起業家や、これから起業を志す人、企業の新規事業担当者、CVC・VCなどの投資家、インキュベーター、アクセラレーター、官僚、大学関係者、研究者など多様なイノベーターたちが虎ノ門に集う。

Thursday Gatheringの5時間の中では、1時間のセッションが3〜4コマ行われる。そこに、例えば「今週のテーマはFintech」といったような週ごとのテーマは基本的には設けられていない。

起業家が登壇してビジネスプランをピッチするセッションもあれば、IoT、Fintech、社会起業などをテーマにしたワークショップ、セミナーのようなエデュケーショナルなものまで内容・形態はさまざまだ。英語のセッションもあれば日本語のセッションもある。

あえてそうしている理由を、プログラム・マネジャーの小村隆祐氏はこう話す。

小村テーマを一つに絞ると、集まる人の“色”が同じになってしまう。だからセッションのテーマはバラバラです。そのほうが、いろいろなバックグラウンドや興味・関心を持つ方に、毎週来てもらえる。

5月からは、Thursday Gatheringの18時〜19時のセッションを「J-Startup Hour」として固定し、その時間は毎回、経済産業省が選んだスタートアップ92社「J-Startup」の起業家が登壇している。

「日本ではスタートアップもまだ少なく、起業家に会える機会は限られている。毎週木曜に行けば必ず起業家の話を聞けて、ネットワーキングの機会が持てるのは、起業を志す人にとっては非常に有意義」と山川氏は話す。

Thursday Gatheringのある木曜夕方は、虎ノ門ヒルズのいくつかの部屋・スペースがベンチャーカフェ用に貸し切りとなる。セッション会場とは別に、ネットワーキングのための広々としたスペースも用意されているので、セッションに興味がなければ、そこにいる人たちとビールやワインを片手に話してもいい。いろいろなことが複数の場所で同時進行していて、その中で個人は興味の赴くままに自由に過ごせる。

イベントの運営を取り仕切るオペレーション・マネジャーの漆原琢雄氏は、とりわけ「自由」へのこだわりが強い。

漆原もちろん全てのスペースで何が起きているか把握はしています。ただ、あまり細かくマネージしようとはしません。こちらから「○○してください」と口出しすると、それだけ自由がなくなってしまいますから。

当初は20〜30人くらいしか入れないスペースしか確保しておらず、実際の参加者数もその程度だったが、この約半年で人づてに輪が広がり、いまでは毎回150〜200人程度は集まるようになった。若い人だと女子高生から、年輩者まで年齢層も幅広い。

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日本のエコシステムにアクセスする「タイガーズ ・ゲート」

今、東京でスタートアップといえば渋谷のイメージが強いが、ベンチャーカフェがあえて虎ノ門に着目したのはなぜなのか。ジャパン・プロジェクト・マネジャーとして日本進出を主導した平田美奈子氏は、その理由をこう語る。

平田今、都内ではで大規模な再開発が行われています。渋谷エリア、東京駅周辺、虎ノ門エリアなどです。その中で私たちが虎ノ門を選んだ理由は、まだ“色”がない”から。

渋谷にはIT系を中心にスタートアップが集積していますが、製造業など大企業の本社は少なく、両者のコラボレーションに断絶がある。一方、東京駅周辺は、そうした大企業の本社はたくさんあって金融機関も多いですが、スタートアップからすると家賃は高いし、少し近寄りがたい雰囲気があります。

その点、虎ノ門はこれといった“色”がないから、誰でもウェルカムであることが伝わりやすい。加えて、VCは赤坂周辺に多くいるし、霞ヶ関は徒歩圏。東京駅周辺、あるいは渋谷エリアの両方からもさほど遠くなく、ほどよい立地です。そういうエリアにこそ、起業家も投資家も、スタートアップも大企業もすべて飲み込んだ「イノベーション」という色のエコシステムを創り上げられるのではないかと考えたのです。

今では、海外から来る起業家や投資家が、空港から虎ノ門に直行してThursday Gatheringに参加し、そこで日本のスタートアップに関する情報をざっと集めてから、滞在中の活動プランを立てる人もいるのだという。

山川虎ノ門を直訳するとタイガーズ・ゲートですよね(笑)。その意味で、日本のイノベーション・エコシステムにアクセスしようとする時に必ず通らなくてはいけない“ゲートウェイ”のイメージが重なって、海外の方には分かりやすいようです。

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ベンチャーカフェから日本発・日本独自のイノベーションを

ベンチャーカフェは、米国東海岸のイノベーション拠点Cambridge Innovation Center(CIC)の姉妹組織だ。その設立の目的は、イノベーションの第1歩目を踏み出すことを支援することにある。

山川氏はもともとケンブリッジのベンチャーカフェ本部でアドバイザーを務めていたが、日本で暮らしたこともあるCICの創業者ティム・ロウCEOの後押しもあって、ベンチャーカフェの日本進出のリーダーとなることを決めたのだそうだ。

山川日本には、モノづくりに強みがあります。また、世界のどこよりも早く少子高齢化社会を迎えた“課題先進国”であることも日本の特徴。そうしたベースの上に、日本発のイノベーションを起こしていければ、世界規模の問題の解決に寄与する可能性を秘めています。

そのようなイノベーションを起こすために、ベンチャーカフェはどういう役割を果たそうというのか。そのヒントは、ベンチャーカフェのミッション「Connecting innovators to make things happen(イノベーターをつなげて何かを起こす)」にある。

山川氏は、「ベンチャーカフェは、誰でも参加できるオープンでインクルーシブなコミュニテイ。その企画・運営を通じてわれわれが目指すのは、偶発的な人と人との“つながり”をいくつも創り出すこと。イノベーションはその先にある」と話す。

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“おっさん”を敵視してもイノベーションは生まれない

ただ、そうやって人と人とを「Connect」していく上で、日本ならではの課題にぶつかることもあるという。

小村スタートアップの人たちのパラダイムと、従来型の大企業に勤める人たちとのパラダイムの乖離が大きいということがあります。組織の形の違いによる、ビヘイビアやマインドセットの違いです。

もう一つは、スタートアップに限らず若い人たちを見ていて、自分の価値観を信じすぎる面があると感じます。一方で、経験ある人たちは、その経験則を元に若い人たちを型にはめようとしがちです。つまり世代間にも溝がある。

それらが対立軸になってしまい、ゆえに“かみ合わない”状態に陥っているんですね。

例えば、組織の形に起因するパラダイムの違いについて言えば、歴史ある大企業にはすでに強固なビジネスモデルがあり、それを支えるヒト・モノ・カネ・情報といったリソースがある。彼らの仕事の軸は、基本的にそのリソースをいかに活用するか。つまり「ある」ことが前提となっている。

半面、スタートアップはあらゆるリソースが「ない」ことが前提。アイデアしかないかもしれないし、それすらなく情熱しかないかもしれない。そして「ない」ものは自ら取りに行くという考えが基本だ。でも大企業の人からすれば、リソースが「ない」ことは心配だし怖いことなのだ。

小村そのパラダイムの違いを乗り越えていくことは、かなりの難題でしょう。ただ、「これまで通りではダメだ」と誰もが危機感を抱いたことはかつてなかったことを考えると、今ほど歩み寄れるチャンスはないとも思います。

そこで大切なのは、「皆で変える」というスタンス。スタートアップの人は、得てして「自分たちが変えるんだ!」と思っていて、その意気込みはよいのですが、忘れてはいけないのは大企業の人たちも変えたいという思いを持っているということ。だから、対決姿勢をとるのではなく、別のパラダイムを受け入れて、彼らの経験や知見も上手く活用することが大切だと思っています。 そして、皆がそういうオープンな「構え」を持ち、ビジョンをともに創り共有しながら社会を変える波を起こしていく、Venture Café Tokyoがそういうベースキャンプになればと思っています。

平田日本でのローンチに先立って、いろんな大企業に話をしに行きました。その中でよく出てきたのは、「日本のスタートアップと組むのは怖い」という話。「アイデアは素晴らしいし、技術も目を見張るものがあるけれど、ビジネスプランが薄っぺらい」と。5年後、投資に対してどれほどのリターンがあるのかが考え切れていない、甘い、といいます。

ボストンのベンチャーカフェでは実際に、スタートアップと大企業のコラボレーションが生まれていますが、それができている理由には、大企業とのパラダイムの違いを乗り越える術が「スタートアップ起業家に必要なスキルセット」としてきちんと認識されていることがあると思います。

具体的には、大企業とコラボレーションしていくならビジネスプランはこう書くといいというTipsだったり、こう話すと理解が得やすい、こういう課題をクリアしておくといい、どんなチームを揃えて誰を連れて行くとコラボレーションが進む、といった知識・スキルです。

そういうものを、ベンチャーカフェで大企業の人たちと話すことによって一つ一つ学んでいくといいのではないかと思っています。

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無駄、不毛、非生産的と思える行動こそイノベーションの鍵

漆原ベンチャーカフェにはクレドがあります。その8項目あるクレドの筆頭が「Have Fun!(とにかく楽しもう!)」。僕らは、ボランティアで運営をサポートしてくれるアンバサダーと共に、どうやって参加者にこの場を楽しんでもらおうか、ということを常に一番に考えています。

なぜ「楽しむ」ことが大事なのか。それは、楽しむからこそ人は動き出すから。セッションで自分のアイデアを話す、ネットワーキングで人に話しかける、小さなことでもいいので動き出すことによって、新しい経験や新しい人とのつながりが生まれると考えているからなんです。

その考えは、山川氏がよくいう「Action Trumps Everything」、行動が何にも勝る、とにかくやってみよう!という意味の言葉にも通じる。

しかし、イノベーターをつなげることによって「何か」を起こすというビジョンを掲げて、事実そこで「何か」は起きているのかもしれないが、行ってみるまで「何が起きるか」は分からないのがベンチャーカフェだ。

寝ても覚めても事業の成功に向けて一直線に働き尽くすことを“美徳”とすら考える人も少なくないスタートアップ起業家にとって、誰が来るかも知れず、何が得られるかも分からないベンチャーカフェにふらりと行く価値はあるのだろうか。

山川誰が来るか分からない、何が起きるか分からないことこそが、ベンチャーカフェの魅力なんですよね。偶然の出会い、それは後に必然になるんだけれども、思ってもみない、期待していない人や考え方、ものの見方との出会いからこそ「何か」が起こるという価値観が、われわれにはあります。

偶然を必然にするには、まず偶然を起こさないといけません。そのためには、無駄、不毛、非生産的と思える行動を積み重ねることがまず必要です。そしてポスト・イットの例からも分かるように、自分の固定観念や見方・考え方と異なるパラダイムと出合うことが大切です。

小村イノベーションって何かというと、これまで解決できなかったことを解決できるようにすることですよね。じゃあ、これまでなぜ解決できなかったかといえば、元々のパラダイムにハマっているからでしょう。その意味で、先ほど話した“オープンな「構え」”を持ち続けて、偶然の出会いや気付きに対してアンテナを張り続けることは、イノベーションを生む前提として必要なことだと考えます。

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長屋の「助け合い」の精神がエコシステムを育てる

小村まあ、小難しい話をしましたが(笑)、実際来てみるとすごくカジュアルでやわらかい雰囲気の場なので、無駄は省いて効率的に!と考える人にこそ、一度ベンチャーカフェに足を運んでみてほしいですね。

漆原スーツも名刺も不要ですしね。あと、起業を考えている人にとっては、いろんな人にアイデアやビジネスプランを話すことでテストする場としても使えますし、自分の動機を強めたり、グロースできる場として捉えることもできると思います。

平田日米を比較して思うのは、日本人はこういう「場」や「コミュニティ」に対して「何をしてもらえるのか」とすっかり受け身の姿勢になるんですね。「あの人と話すことで何のメリットがあるのか」と私自身もよく言われます。

でも、イノベーションを生み出すコミュニティ、あるいはエコシステムというものは、そこに対して自分が何を提供できるかを能動的、主体的に考える人が集まってこそ形成されていくのではないかと思うんですね。

CICの創業者のティムCEOは、実は以前、日本で長屋に住んだ経験があるそうです。お互い様の精神で、貸したり、借りたり、あげたり、もらったりして助け合って生きる、そういう長屋での暮らしがティムは好きで、それがCICのシェアオフィス・ビジネスのヒントになったといいます。

山川現時点ではベンチャーカフェのオペレーティング・システムだけを日本に持ってきて運営していますが、今後はその「長屋」のような物理的な箱をつくる構想もあります。いろんな立場の、多様なパラダイムを持つイノベーターを集めて、虎ノ門に日本の一大イノベーション・エコシステムを作り上げていきたいと考えています。

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毎週木曜日4pm〜9pmはThursday Gathering!

[文]畑邊 康浩
[撮影]藤田 慎一郎

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