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「MBA: 失敗のすゝめ」 バブソン大学・山川准教授

米ボストンのバブソン大学は、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育部門において20年以上にわたって全米1位を獲得している。そこで失敗...
米ボストンのバブソン大学は、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育部門において20年以上にわたって全米1位を獲得している。そこで失敗学を教える山川恭弘准教授は、MBAではIQよりEQを高めることが大切だと語る。つまり、ただテキストとノートを熟読するだけでは、MBAプログラムの醍醐味を味わいつくせないということ。信じがたいセリフのようだが、ちょっと考えてみてほしい。あなたは大学の講義の内容を今どれだけ覚えている?
特集 MBA再考
目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。
17-08-09-Wed
山川 恭弘(やまかわ・やすひろ)
Babson College 准教授

米ボストンのバブソン大学は、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育部門において20年以上にわたって全米1位を獲得している。そこで失敗学を教える山川恭弘准教授は、MBAではIQよりEQを高めることが大切だと語る。つまり、ただテキストとノートを熟読するだけでは、MBAプログラムの醍醐味を味わいつくせないということ。信じがたいセリフのようだが、ちょっと考えてみてほしい。あなたは大学の講義の内容を今どれだけ覚えている?

どんな人間と繋がることができたか

「『落第ギリギリでの卒業だったけど、あいつと仲良くなれた』というのも悪くない。『数字は苦手で辛い思いをしたけど、マーケティングのスキルだけは皆に認めてもらって、卒業後にクラスメイトと共同事業をすることになった』、これも大成功です」

山川准教授は、バブソンMBA起業学の真髄は“どんな人間と繋がることができたか”にあると考えている。とくにバブソンでは、コミュニケーション・スキルが重視される。生徒たちは講義やグループ・ワークを通して、人との関わり方、リーダーシップの取り方、プロジェクトの進め方など、良い人間関係づくりの方法を能動的に会得していく。

そのためバブソンの教授たちには、セオリーとプラクティス両方を知っていることが求められる。いくら論文で評価されていようとも、現場を知らない人間は、バブソンで教鞭を取ることはできないのだ。

「今の時代、いろんなメディアがあるから、単純な知識や情報というのは独学できるんです。でも実際に何かビジネスを立ち上げるとなると、やはり経験が物を言いますから。バブソンで行われているのは、授業というよりビジネス・ミーティングに近いですね。経験ある教授陣と学生たちが、さまざまなケースに沿って議論を重ねるんです」

山川准教授は、「MBAホルダーになれば、自動的に未来への道が開ける」というような神話が世界的に崩れてきたのを感じている。

与えられた称号でなく、実際に習得した生きた知見・経験をいかに能動的に使っていくか、異文化から来る価値観の違う人間たちといかに能動的にコネクトしていくか、が鍵であるとのこと。

少なくとも学生だからといって受動的な立場に甘んじていては、MBAで大きな学びは得られない。積極性を持つというのは、多くの日本人にとって苦手なことかもしれないが……。

「日本人の学生が自分を卑下する一方で、他の国の学生たちは、1年生の最初の授業で『俺は社長になる』とか『世界を変える』とか普通に宣言するんです。日本人に比べて外国人は、自分を商品としてプレゼンする力が長けています」

無理難題の裏にある意図とは?

山川准教授が、バブソンのサマー・プログラムにやってきた高校生たちに起業への第一歩として投げかけている言葉がある。バブソンに入りたいと相談してくる彼らに向かって、「(サンドイッチ・チェーンの)サブウェイのフランチャイズを始めたらどうか」と勧めるのだ。

既存の事業を買い取るのも起業の方法のひとつ。起業・経営を経験する最適な機会だ。ステークホルダー(保護者)を説得して、大学の入学金の代わりにフランチャイズの店舗を持たせてもらってはどうか、実践の中で学ぶことは多いぞ……と。往々にして実行されない助言ではあるのだが、何も意地悪でこんな言葉をぶつけているわけではない。

「そう伝えることで彼らは『自分は実際何をしたいんだろう?』と考え始めます。何が得意とか、何をしなきゃいけないとかじゃなくて、自分が好きなことはなんだろう、自分がしたいことはなんだろう。それを把握することが、起業のスタート。無理難題を言うことで、彼らが考えるきっかけを作ってあげているんです」

考える習慣をつけることは、ビジネス・チャンスにもつながる。山川准教授は、「物事を当然のものとして見るな」と若者に呼びかける。

スマートフォンやインターネット、飛行機、自動運転……。便利な物があふれ、まるで魔法の国のような現代社会に生きる我々だが、漫然とサービスを受けているだけではチャンスをつかむことはできない。世の中を動かす仕組みを分析し、現状を理解することで初めてより良い道が開拓できる。

「日本の多くのビジネスマンは、仕事が嫌いなのかもしれません。仕事に目的がなく、社会の役に立っているかという認識が希薄になりつつあるのでは。でもそれは裏返すと、仕事よりも興味を引かれるような娯楽がたくさんあるということかもしれない。是非、その趣味をさらに追及して起業のタネにしてもらいたい。そうすれば、仕事大好き人間が増えて、活気のある社会ができるはず」

起業すればミスは日常茶飯事

MBAに通うよりも早く起業した方がいいという意見もある。山川准教授は「両方正解で、好みの違いでしかない」と語るが、それでも二択をする上で“アフォーダブル・ロス(許容可能な損失)”については熟慮すべきだとアドバイスする。

「ビジネスに失敗は付き物です。だから起業する前に、自分にとって失敗とは?と失敗の定義を考察し、いくらまでだったら失くしていいか、いつまでなら続けていいか、どこまでなら自分の評判が劣化していいか等、許容できるミスの範囲を想定しておく必要があります。それらをシミュレーションしてから行動に移しなさいと、学生たちにも伝えています」

山川准教授は日本社会の短所として、失敗に対する寛容度が低いとも指摘する。失敗が重罪のように扱われるからこそ、自分の失敗を認めず、逆にひた隠しにしようとしてしまう。失敗について語れる環境も多くない。

そして同じような失敗が繰り返され、どんどん実損失やオポチュニティー・ロスが増えていく。全体で共有すれば、業務改善につながるのに……。

バブソンで失敗学を教える山川准教授は、“Failure is good”と学生たちに繰り返し伝えている。そのため学生たちは、彼を“Dr. Failure”と呼び、失敗を犯したときも笑顔で報告に来るそう。日本では考えられないようだが、山川准教授の指導によって、学生たちは失敗で遊べる余裕を身に付けているのだ。

「いったん起業したら、ミスを犯すことなんて日常茶飯事です。だから大切なのは、失敗に慣れること。なんでもいいんですよ。たとえば普段右手で使っているものを左手で使ってみることでもいい。なんでもいいから新しいことを試して失敗してみる。そうする中で『失敗してもいいじゃん。失敗には学習効果があるんだ』と実感していくんです」

けっしてMBAはただ与えられる情報を受け取っているだけでOKな環境ではない。むしろ頭だけでなく心も積極的に動かすことが求められる。精神面や人間関係での成長・改革こそがMBAの醍醐味――。山川准教授にとってMBAとは、人と人とが相互に影響し合うスリリングかつエキサイティングな場なのだ。

MBA再考

目まぐるしく変わる現代においてMBAはキャリアにとって有益なのか。