連載WeWork型スタートアップ13社から紐解く最新トレンド
WeWork型スタートアップ13社から紐解く最新トレンド──不動産ビジネスの鍵は“独自経済圏” (前編)
「WeWork(ウィーワーク)」が日本上陸を果たして1年弱。コワーキングスペースの認知は急速に広まり、フリーランスやスタートアップが当たり前のように利用するようになった。
2017年に『gcuc』が発表したデータによると、2017年のコワーキングスペース数は世界中で1.4万拠点に及ぶという。2022年には3万拠点を超え、利用者数は500万人に至ると予想されており、前年比で倍増する見込みだ。『MBO Partners』のデータでは、2018年の米国における自営業数は約4,200万人に至り、1.3兆ドル(約144兆円)の経済圏を構築しているという。
本記事では前後編にわけて、市場が拡大していくコワーキングスペース市場で、ユニークなWeWorkモデルのスタートアップ13社を紹介しつつ、今後の市場展開を考察していきたい。
- TEXT BY TAKASHI FUKE
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
各国で広がるWeWorkモデル
WeWorkとは、フリーランスや中小企業の従業員が1席単位でオフィススペースを借りられるニューヨーク発のコワーキングスペース。仕事に必要なコピー機や軽い飲食物など、充実したバックエンドサービスもつくのが特徴だ。2017年のコワーキングスペース数は世界で1.4万拠点だが、2022年には3万拠点を超え、利用者数は500万人に至ると予想されている。
中国においても、WeWork Chinaが2018年7月にSoftbank Vision Fundなどから5億ドル(約555億円)の資金調達を実施するなど、その動きは活発化している。同社によると、すでに中国3都市40拠点を展開し、2万人の会員を集めているという。また、同年4月には4億ドル(約444億円)で中国のコワーキングスペース事業者Naked Hub(ネイキッドハブ)」を買収した。
だが、WeWorkのような先行投資モデルの場合、進出が後回しとなる国では事業を真似されてしまうケースも少なくない。WeWork Chinaを追随する「Ucommune(ユーコミューン)」は、2018年8月に4,350万ドル(約48億円)の資金調達を発表した。
累計調達は4.5億ドル(約499億円)に至り、現在は中国を中心に35都市160拠点を構えている。すでにシンガポールやインドネシア市場へと進出を果たし、東南アジア圏で高いプレゼンスを持つ。今後、ニューヨークやロンドンへも進出予定だ。
他にも「MyDreamPlus(マイドリームプラス)」がUcommuneと同時期に1.2億ドル(約133億円)の調達を果たすなど、中国のコワーキングスペース市場は全盛期を迎えているといえる。
中国ばかりでなく、欧州ベルリンでは「Factory(ファクトリー)」が100万ユーロ(約1.2億円)、インドの「Awfis(アフィス)」が2,000万ドル(約22億円)、WeWorkのお膝元である米国では「Convene(コンビーン)」が1億5,200万ドル(約169億円)の資金調達を果たした。こうした背景からわかる通り、WeWorkのモデルは世界中で浸透し、大手が参入する前に自国市場を独占しようとするスタートアップが数多出てきているのが現状である。
ここまでは、世界各国のWeWorkの直接競合を説明してきた。しかし、他にも世界中のコワーキングスペース市場には様々なコンセプトを持ったプレイヤーが登場してきている。今回は4つのプレイヤーを紹介しよう。
Industrious:WeWorkが取りこぼす高級志向のニーズに応える
全米の主要都市にはWeWorkの拠点がある。寡占市場のなか、同様のメッセージ性を打ち出して戦いを挑んでも勝ち目はない。そこでユニークなアプローチで市場へ参入するスタートアップが登場している。
「Industrious(インダストリアス)」は贅沢な体験ができることを前面に出す。2013年にニューヨークで創業し、累計調達額は1億4,200万ドル(約156億円)に及ぶ。同社は、WeWorkよりもこだわったスペース作りを行っている。入った瞬間に一流ホテルにいるような高級感を売りにしているのだ。会員は5つ星ホテルクラスのサービスを受けられる。気楽にコミュニケーションをしたい顧客獲得を狙うWeWorkと違い、高級志向を持つ層を狙う戦略といえる。
プラットフォームビジネスの隙間を狙う手法として、Industriousの戦術には納得がいく。
たとえば、サブスクリプション型のモデルで、複数のスポーツジムが提供するプログラムから好きなものだけを楽しめる「ClassPass(クラスパス)」が登場した際も同様の現象が起きた。ClassPassがあらゆるジム事業者と提携をしてプラットフォーム拡大を狙った際、独自の高級プログラムを提供することで競合優位性を保ったのが「Equinox(エクイノックス)」だ。利便性ではなく会員の満足度を最大限に高め、かつ高級顧客層を囲むことで、大手プラットフォームが台頭する市場であっても、今日まで生き延びている。
『Reuters』の記事によると、Industriousは2017年末までに全米25都市へ展開し、年間成長率は150%に及ぶという。また、2022年までに6,000都市へと急拡大を目指す。
Mindspace:デザイナーだからこそ気づける差異を、最大限の魅力に
デザイン志向のフリーランスや中小企業向けにサービスを展開するのは「Mindspace(マインドスペース)」。欧米に約20拠点を構え、2017年3月には3,500万ドル(約39億円)の資金調達に成功した。
Mindspaceのオフィスには、蛍光色のペイントやお洒落な額縁が並ぶ。まさにデザインスタジオのような雰囲気を醸し出している。欧米の伝統性と現代アートの要素が入り混じった空間は、WeWorkとは全く違う感覚を得られる。
担当マネージャーはデザイナーだからこそ気付く小さな違和感や不満を取りこぼさず、細心の注意を払って管理を行う。この管理体制の質で、デザイン志向の顧客ニーズを満たす。
Knotel:市場の穴場を狙った、「本社」を提供するサービス
筆者が最も注目している穴場分野に、「本社」を短期リースする「HaaS(Headquarter as a Service)」が挙げられる。この分野の最前線に立つのが「Knotel(ノーテル)」だ。
WeWorkに代表される既存のコワーキングスペースや旧来の貸しオフィスは、一人当たりの席数で料金体系が組まれている。しかし、社員数が増えれば、それだけコストが増加する。一定数以上の規模になれば、いずれはどこかのビルに拠点を構えることになる。入居先を探すために費やす時間やコストは、企業にとっては重荷だ。
そこでKnotelは「本社」を提供することをコンセプトに展開する。他企業とのコラボレーションを求める顧客ではなく、コーポレートカラーを空間に反映させた本社スペースを持ちたい、本社を不動産レンタルの料金体系を通じて持ちたいという企業のニーズに応える。1社員単位ではなく、約30〜50名以上の規模を持つ企業を対象に、3カ月から場所を提供する。
企業単位で場所を提供するとなると、1拠点に対して1〜2企業しか利用できない。仮に3カ月で退去してしまい、新たな入居企業を見つけられないケースを考えると、Knotelにとって高いリスクになるかもしれない。だが、入居企業を離さないポイントが3つある。
1つはカスタマイズ性だ。これまで紹介してきた全ての不動産スタートアップは、基本的には内装デザインは統一されている。一方、Knotelは専属の内装デザイナーや建築担当者が派遣され、短時間のうちに入居企業が希望する内装へと変えられる。
Wi-Fi設定を含むIT設備も各入居企業にのみ提供される特別なものが用意される。こうして資金のある大手企業でしか成しえなかった、カスタマイズされた空間設計を可能とした。
2つ目は社員数の増減対応。仮に顧客企業の社員数が倍増しても、それを見越した広いスペースを最初から貸し出すため、ある程度の社員数拡大に沿ったニーズに長期間対応できる。
社員数の少ない利用初期の段階において、ROI(投資利益率)は高くないかもしれない。しかし、あらかじめ社員数の増加を計画しているスタートアップや大手企業にとっては、短期間利用という柔軟性を享受しながらも、社員数が増減しても固定料金で拠点を構え続けられるメリットが生まれる。キャッシュフロー上でも予測が立てやすい。
最後は徹底したバックエンドサービスだ。Knotelの社員がオフィス入口に常駐するだけでなく、イベントや合宿を開く際の手配もサポートしてくれるという。
「コワーキングスペース」ではなく「本社」を持ちたい顧客ニーズを巧みに掴んだのがKnotelである。累計資金調達額は9,500万ドル(約105億円)に至る。
ここまでIndustrious、Mindspace、Knotelと3社のスタートアップを紹介してきた。いずれもWeWorkが狙う顧客心理の隙間にターゲットを絞り、大型調達を果たしている。
2017年5月に1,500万ドル(約17億円)を調達した「The Yard(ザヤード)」もその典型例だ。WeWorkのようなガラス張りのスペースを嫌う顧客の囲い込みを狙い、プライバシーの守られた壁付きの部屋を提供する。こうした流れは日本を含むアジア市場へ、次のトレンドになってもおかしくないだろう。
前編はWeWorkの事業モデルが世界中で広がっている点や、同社が囲い切れていない顧客獲得に走ったスタートアップを中心に9社の事例を紹介してきた。後半は、より専門性の高い顧客の獲得を目指した特化型のコワーキング事業を展開するプレイヤー4社を紹介していきたい。
こちらの記事は2018年10月25日に公開しており、
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執筆
福家 隆
1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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