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18-10-29-Mon

WeWork型スタートアップ13社から紐解く最新トレンド ── 不動産ビジネスの鍵は“独自経済圏” (後編)

TEXT BY TAKASHI FUKE
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#1
WeWork型スタートアップ13社から紐解く最新トレンド
#2

前編では、WeWorkの事業モデルが世界中で広がっている点や、
同社が囲い切れていない顧客獲得を狙ったスタートアップの事例を紹介してきた。

後編は4社のスタートアップから、分野特化型のWeWork業態を紹介していく。
WeWorkが囲い込めなかった顧客層にアプローチするのではなく、
異なるコンセプトやサービスを打ち出すことで、
コワーキングスペース市場に新たな業態を生み出した企業を紹介したい。

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The Wing:顧客属性に特化して場所を提供

前編で紹介したのは、WeWorkが獲得できなかった層、たとえばデザイナーやリッチな顧客を囲い込むスタートアップだ。だがその他にも、顧客の属性に合わせてサービスの形態を変えたコワーキングスペースが登場し始めている。

女性に特化したコワーキングスペース「The Wing(ザ・ウィング)」は好例だ。同社は2015年にニューヨークで創業し、累計4,250万ドル(約47億円)の資金調達に成功しているスタートアップ。年会費2,350ドル(約26万円)で入会できるコワーキングスペースを運用する。

きっちりと整理された化粧室や、清潔感を保つためのシャワー室を完備してほしいといった、女性からのニーズに応えて運営している。施設内は薄ピンク色を基調とした空間で統一されており、「The Perch」と呼ばれるお洒落なカフェや、写真ブースを備える拠点もある。

日本でも同様のコワーキング事業者が登場してもおかしくないだろう。最も近しいベンチャーには、女性に特化した月額レッスンサービス「SHElikes(シーライクス)」が挙げられる。

もし、SHElikesが“日本版The Wing”を長期戦略として考えているのであれば、初期投資はかかるものの、既存の女性顧客が持つニーズと相まって、相当な事業シナジーを将来的に生む可能性はある。顧客のアイデンティティーが表現された空間は、居心地の良さを提供し、本業の定額レッスンを長期間利用する優良な顧客の創出につながるだろう。

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Pilotworks:市場特化型コワーキングスペースにも商機あり

特殊技能を持つ人たちも、自分たちのニーズに特化したコワーキングスペースを求めている。

Pilotworks(パイロットワークス)」はシェフ向けに調理場を貸し出す。2015年にニューヨークで創業し、累計調達額は1,520万ドル(約17億円)。現在は全米に4拠点を構える。

『FastCompany』の記事によると、Pilotworksは2016年にニューヨーク拠点を開業してから、2017年9月現在で165のブランドが利用。利用料金は1時間当たり30ドル(約3,300円)か、月額2,000ドル(約22万円)の2つの料金体系から選べる。

75名以上の専属メンターからいつでもアドバイスをもらえたり、調理場だけでなく会議室などを含めた、従来通りのコワーキングスペースへのアクセスも可能だ。料理人同士のコミュニティから、調理品の流通支援まで一貫したサポートを行うことで急成長を遂げてきた。

Pilotworksに代表される特化型コワーキングスペースは続々と登場している。

たとえば、Amazon RoboticsやiRobotが支援するロボット開発向けコワーキングスペース「MassRobotics(マスロボティックス)」がある。Softbankが買収したBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)を筆頭にロボット開発が盛んなボストンに拠点を構え、累計250万ドル(約2.8億円)を集めた。

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Reth!nk:関係者を一箇所に集めてプロジェクトスピードを加速

Reth!nk(リシンク)」は不動産事業に特化したコワーキングスペースをテキサス州とコロラド州の2拠点で展開する。累計調達額は800万ドル(約8.9億円)に及ぶ。

従来、不動産ブローカーは物件オーナーや建築家・デザイナー、法律家など様々なステークホルダーと協議する必要があった。こうした関係者を一箇所に集めてプロジェクトスピードを加速させるのが狙いだ。仮にReth!nkを利用していなくても、同社が保有するネットワークを介して円滑に連絡ができたり、営業をかけられるサービス設計になっている。

この章で紹介した事例のように、市場別にコワーキングスペースを挙げればキリがない。日本ではハードウェア技術者向けスペース「DMM.make Akiba」や服飾関係者向けスペース「andMade」が顕著な例であろう。このように市場特化型のコワーキングスペース運営には際限なく可能性があるように思える。日本文化をベースに考えれば、焼き物や工芸品を手軽に製作できるスペース運営などに隠れた需要があるかもしれない。

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独自の“経済圏”確立がポイント

ここまでWeWorkモデルを踏襲したスタートアップを、前後編で13社取り上げた。いずれのスタートアップも独特なコンセプトや市場メッセージ性を出して顧客の囲い込みを図っている。しかし、スペースは単なる有形資産に過ぎない。AirbnbやUberの登場により、所有から共有の時代へと変化した背景を考えれば、不動産の流動性は高まり、競合優位性になりづらい。

最も重要となるのは不動産を押さえるだけでなく、独自の経済圏を築くことにある。

2017年、WeWorkは高級デパート「Lord&Taylor」のニューヨーク旗艦店を買収した。『CNN』が報じるように、WeWorkは会員向けに小売サービスを拡大する方針を示している。『FastCompany』が伝えるところによると、The Wingも自社ブランドショップを開店した。

また、WeWorkは教育系スタートアップ「MissionU」と、イベントプラットフォーム「Meetup.com」も買収している。不動産を短期貸しすることが一般化されつつある市場では、無形資産である“サービス”に重点を置くことが市場拡大の大切な戦略になっている証左だ。

この点、先述したPilotworksは最も強力な市場ポジションを獲得していると感じる。「調理場」というユニークな場所を提供するだけでなく、他の事業者では提供できない著名料理人からのメンタリングサービスに代表される無形資産の両方を持つ。

大切なのはサービス業を軸にした多角化展開だ。

日本では、フリーランス、起業家、中小企業向けコワーキンングが多数登場している。しかし、どれもWeWorkとほぼ同じコンセプトか、単なるシェアリングスペースになっている。自社コンセプトに沿った経済圏を築けなければ、大きな成長は見込めない。あらゆるものがサービス化される世界を見据えた戦略展開を立てる必要があるはずだ。

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[文]福家 隆

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