連載私がやめた3カ条

環境提供に振り切り、育成は捨てた。「育つやつは勝手に育つ」──BEENOS直井聖太の「やめ3」

インタビュイー
直井 聖太
  • BEENOS株式会社 代表取締役 執行役員社長兼グループCEO 

明治学院大学を卒業後、2005年4月ベンチャーリンクへ入社。中小企業向けコンサルティング業務に従事。2008年9月にBEENOSへ入社。2012年5月に取締役就任。
2014年12月より代表取締役社長兼グループCEO。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、広く越境EC事業を展開するBEENOS株式会社 代表取締役 執行役員社長兼グループCEO、直井聖太氏だ。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
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直井氏とは?
天真爛漫な2代目社長

同氏は小学生の頃から「起業家」になろうと考えていたという。歴史が好きで、日本の偉人について調べていくなかで、いつしか「自分も世にインパクトを与える人物になりたい」と考えるようになったのだ。

起業のための修行として同氏が選んだ就職先は、FC支援で一斉を風靡したベンチャー・リンク。濃縮された2年半を過ごし、2008年ついに起業へと一歩を踏み出す。

その“一歩”こそが、BEENOSの当時の代表である佐藤輝英氏との面談だ。自身の事業プランについて熱く語った直井氏だったが、ITの知見がないことを指摘され、再修行としてそのままBEENOSへと入社した。

輸出EC関連の新規事業を担当し、tenso株式会社の立ち上げに参画した彼は、2012年「自分のほうが社長に向いている」と直接提案し、同社社長に就任。さらに2014年、BEENOSの代表取締役執行役員社長 兼 グループCEOに就任した。

結果的に「起業家」としての道は通らなかったものの、「社長」となった同氏は“世にインパクトを与える”ために、どのようなことを意識して経営に取り組んでいるのだろうか。

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人や環境のせいにするのをやめた

前述した通り、直井氏の最初の就職先は、当時から過酷な環境と言われていた株式会社ベンチャー・リンク。同氏はそれを承知の上で、「起業するため3年で辞めます」と宣言して入社したのだという。

この宣言自体はそこまで問題にならなかった。社風的にもそういう社員が少なくなかったのだ。しかし、「将来社長になるなら」という理由で厳しく当たられることも多かったという。

直井入社して2年目のとき、新卒採用のプロジェクトメンバーにアサインされて、採用人数の目標を負わされるというのがあったんですけど、その目標人数が4月頃に突然3倍くらいに増えたんですよね。50人だったものが150人とか。

でもその会社って逃してくれないので(笑)、頑張りましたよ。大学の前で待機して直接声をかけたり、電話しまくったり。結果、目標達成しましたけど、その後すぐに会社の業績が悪化して早期退職を募ったり……もう大変でした。

そんな無茶な要求に応えるために奔走した経験が、今の同氏の糧となっている。そこでの学びとはつまり、「他者のせいにしない」というものだ。学びというほど綺麗なものではないかもしれない。入社してからずっと「人や環境のせいにするな」という厳しい教えを刷り込まれてきただけなのだから。

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得たいと思うものほど“追う”のをやめた

企業は日本社会が抱える大きな課題に立ち向かうため、自社のミッションを掲げている。そしてミッションを達成するため、経営者は組織の土台となるビジョン(理念)を持ち、バリュー(行動指針)を決める。

理念は確かに重要だ。経営者の理念や、そこに紐付く物語に惹かれたことがきっかけとなり、その会社で働きたいと考える人も多い。しかし、成し遂げたいことを成し遂げるためには、夢や理念を語るだけでは決して達成できない。結局はそのための行動を起こさなければ何も進まないのは自明の理。そんなことは経営者でなくとも、ビジネスパーソンなら誰もがわかっていることだろう。

だが実際、事業スケールが大きくなればなるほど意思決定や行動は難しくなる。天の邪鬼のように、求めれば求めるほど望む未来が遠のいてしまうことすらあるのだ。だからこそ、直井氏は「得たいものを追う」のをやめた。

直井例えばですが……モテたいと思ってあからさまな行動をしている人よりも、自然体で、自分のやりたいことに集中している人のほうがモテると思いませんか。

「得たいものを直接的に求める行動をすると、得たいものは手に入らない」というのが私の持論です。だから欲しいものや、成し遂げたいと思う理念を四六時中考えることをやめて、目の前のこと、それこそユーザーが何を求めているか?等に集中するようにしました。得たいものを忘れる力はとても重要なんです。

求めるものは、それを忘れることで手に入れることができる。逆説的なようだが、真理かもしれない。

中長期的な会社の進路を定めるために理念は必要だ。しかし、一度決めてしまえばあとはそれを忘れ、目の前の取り組むべき業務に集中することが重要。スタートアップ界隈の通説とは異なり、同氏曰く、「理念というのはたまに思い出すくらいでちょうどいい」。

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人を育てようとするのをやめた

経営者やマネージャー層は一定のフェーズに差し掛かると、自分の仕事や権限を他のメンバーに移譲するタイミングが訪れる。それは他のメンバーの成長となり、自社の地力をつけることにもつながる。

しかし頭でわかっていても、実際にできるかどうかは別の話だ。例えば、部下に任せたプロジェクトがうまくいっていなかった場合、あなたならどうするだろうか。

もしかすると、機転を効かせたアドバイスで危機を回避し、「自社もメンバーも傷つかない」という結果に向かおうとするかもしれない。だがそれは会社にとって、そしてプロジェクトを任されたメンバーにとって、本当に良い結果だと言えるだろうか。

どのような権限移譲をすれば社員を育てることができるのか──。こうした正解のない問題に何度も直面し、直井氏がたどり着いた結論は「育つやつは勝手に育つ」というものだった。

直井tensoの代表になって間もない頃、私は既存の事業を切り捨て、新規事業に打って出ようと考えていました。そのことを、大株主であり前代表である佐藤に相談したところ、「自分の事業だから自分で考えろ」と一蹴されたんです。

今考えたらとんでもない返答ですけど、でも実際このときの経験が自分を成長させてくれました。やっぱり自分で決めて取り組んだことっていうのは、それが成功しても失敗しても、成長につながると思うんですよね。

完全に任せきらないと、人は育たない。そして、育つ人は勝手に育つ。ならば自分は育つ環境を整えることに徹しよう。そう考えた同氏は、人に支持をしたり口を出したりするのをやめた。それこそが、直井氏の、そして前任者から続くBEENOSの教育方針なのだ。

ときには、稚拙な打ち手を実行しようとする社員を見かけることもあるという。あるいは、上長の確認なく勝手にプロジェクトを進めようとするような社員まで。そんなとき、「危ないな」と思う反面、喜んでいる自分がいると直井氏は言う。

事業を創り出していくうえで、ときにはスタートアップにも負けないスピード感で、チャレンジングな行動を取らなくてはいけないこともある。そんなときに、社長の指示に従って動くだけの人には事業を任せられない。それを自分の事業だと思い、“他者のせいにしない”責任感を持ち、自分で決めて突き進んでいけるような人にこそ、任せたいと思うのだ。

こちらの記事は2022年04月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

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