連載私がやめた3カ条

BCGで挫折、サプリメント事業からの撤退…「自分は出来るヤツとはもう思わない」──コミューン高田優哉の「やめ3」

インタビュイー
高田 優哉

岩手県野田村出身。パリ農工大学留学を経て東京大学農学部卒業。新卒でボストンコンサルティンググループに入社し、東京、上海、ロサンゼルスオフィスで戦略コンサルティング業務に従事。2018年にコミューン株式会社を共同創業。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストは、カスタマーサクセスプラットフォームの『commmune(コミューン)』を展開する、コミューン株式会社代表取締役CEO、高田優哉氏だ。

  • TEXT BY SHO HIGUCHI
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高田氏とは?──モットーは“常在戦場”。挫折だらけのキャリア

趣味は筋トレといい、鍛え上げられた肩が画面越しでも存在感を放っている高田氏。醸し出される向上心は幼少期から備わっていたのかもしれない。

中学生の時に社会問題に興味を持ち、国連志望に。大学4年生時にパリ農工大留学を経て参加したOECDのインターンにて、「国際機関でのキャリアよりも、ビジネス分野のほうにより興味がある」と気付いた。国連からビジネスの世界に目を向け、ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)へ新卒入社。東京、上海、ロサンゼルスオフィスにてリードコンサルタントとして活躍後、コミューン株式会社を共同創業した。

現在手がけているのは、企業とユーザーが融け合うカスタマーサクセスプラットフォーム『commmune(コミューン)』。簡単に構築できる顧客コミュニティでユーザーとのコミュニケーションをワンストップ化し、顧客LTVの最大化やCS業務の効率化を図れるツールだ。

東大からBCG、そして起業と、一見「勝ち組」とも言えそうなキャリアに見える。だが実際は生々しい挫折の連続だった。高田氏はどのような壁にぶつかり、何をやめる決断を下してきたのだろうか。

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他人の目を気にすることをやめた

「学部卒で体育会出身の男性」と聞くと、ガッツがあって「叱られてもへこたれない」というイメージを抱くことだろう。高田氏も、自身が周囲からそのように思われているだろうなと認識しており、実際自分自身の体力面もメンタル面も強いという自負があったそうだ。

高田新卒でBCGに入社した直後から「絶対に結果を出してやる」という気持ちで、意気込みは十分でした。体育会出身の学卒男子ということで、「叱って伸ばす」ようなタイプの上司ばかりがアサインされてきたんですね。会社側も、そのような適性があると思ってのことだったと思うんです。

しかし、BCGに入社してからの9ヶ月間、求められるレベルの成果を出せず、最初の半年くらいはいつも叱られてばかりでした。さらに、そんな状況に自分自身がひるんでしまい、しばらくすると「どうせ叱られるから・・・」と思って何をするにも尻込みするようになってしまったんです。

上司に聞くべきことも聞けず「何で今まで聞かなかったんだ!」「思考が遅い!」と叱られ、ますます消極的になる悪循環に陥ってしまっていました。今の私を知ってくださっている方にとっては信じられないかもしれないですが、家に帰ってずっと悔し泣きをしていたり、月曜日の朝を迎えるたびに体調が悪くなるなど、状況は悪くなる一方でした。

入社時は気合も自信もあったが、求められる成果を出せない自分に戸惑っていたのだ。だが、思わぬきっかけで高田氏はスランプから抜け出すことになる。

高田入社して9ヶ月後に新プロジェクトが始まりました。そのタイミングで、「もうどう思われてもいいや、思い切って仕事をしよう」とマインドセットを切り替えました。これまでのようにもやもやを抱えながら叱られるくらいなら、思い切り好きなようにやって激怒される方がマシだと思ったんです。

受け身から能動的に、悲観から楽観的に、自身を卑下するマインドから自身を評価するように切り替えました。それをきっかけに、少しずつ前向きな提案ができるようになりました。今思えば、「怒られるかもしれない」という懸念は自分の思い込みだったのかもしれません。能動的に仕事に取り組むようになり、評価も上がりましたね。

起業してマネジメント側になった今でも、大いに役立っている経験です。人はパニックゾーンにいても成長しません。マネジメントの仕事はメンバーを信じて仕事を託し、思い切って仕事をしてもらう。だけど責任は取る。そういった考え方になるきっかけになりました。

成長環境は人によって様々だ。もちろん、結果へのコミット力はあらゆるビジネスにおいて不可欠かもしれない。しかしそれは、メンバーの心理的安全性や健全なメンタルヘルスが大前提だ。高田氏はBCGで身を以って体感したのだ。

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自分を「出来るヤツ」と思うのをやめた

スランプを抜けて以降、東京オフィスの中では屈指のハイパフォーマーとみなされるようになった高田氏。上海、ロサンゼルスで仕事をするチャンスを獲得した。だが、そこでまた挫折を経験することになったのだ。

高田上海オフィスは日本オフィスと違い、「何を言うか」よりも「誰が言うか」が重視されるカルチャーでした。着任当初から日本オフィスにいた時の感覚で自由に発言を繰り返していた結果、上司と衝突することが増え、最終的には「もう来なくていいよ」と言われ、干されてしまったんです。その頃は会社にも行かず、あてがわれていたサービスアパートメントやカフェで時間を潰していました(笑)。

しばらくそんな態度を続けていたそうだが、それでも会社の誰もフォローしてくれない状況に、高田氏はいよいよ「このままではまずい」と思ったのだ。

高田それまで持っていた「自分は結構できる奴」というプライドを捨てましたね。上司に頭を下げて回り、ようやく仕事を獲得できました。

ロサンゼルスオフィスで勤務した際にもまた、困難に遭遇した。データ分析が中心の業務だったが、データの裏側や示唆出しのためのコンテクストの理解が足りず、合理的なインサイトが出せず苦戦した。

高田一緒に仕事をしている自分よりも職位が下のアソシエイトのほうが仕事ができる、と感じたので、これまでの実績とか自信とかを一切忘れて、単純作業やチームメンバーのランチのお弁当の買い出しなど、とにかくなんでもいいから価値だすことに徹しました。当時、日本企業がクライアントだったので、現地に来ているクライアントの日本人社員とのコミュニケーション(飲み会なども含む)も積極的に手を挙げて担当していましたね。

必要なのに誰もやりたがらない仕事って沢山あると思うんです。そうした仕事を積み重ねることで少しずつ信頼貯金が増えた実感がありましたし、感謝されるようになりましたね。

環境が違えば価値の出し方も違う。状況によって今までのやり方を変えることも、高田氏が実戦で学んできた「勝ち続けるための秘訣」なのかもしれない。

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サプリメント事業をやめた

大学生の時にビジネスを志すと同時に、「最初の会社で3年修行したら起業しよう」とも決めていたという高田氏。問題は、どの領域で起業するかを決めていなかったことだ。

高田ヘルスケアはBCGで私が初めて結果を出すことのできた領域だったので、それ以降は同じ領域のプロジェクトにアサインされることが多かったんです。調べていくうちに、日本は諸外国よりもサプリメント領域のペインが大きく、マーケットも大きいことがわかってきました。そのナレッジがあったので、サプリメント領域のB to C事業で起業しようと独立したんです。

経験のある勝てそうな領域で勝負する。多くの起業家が選ぶ道だろう。ところが高田氏は、一転、サプリメント事業をやめる決断を下したのだ。一体なぜか。

高田サプリメント事業って、ユーザーにとって本当に必要なプロダクトを作ることと、利益を創出することが、時に相容れない場合もあると僕は思っていて。独立したのに、人生をかけて勝負するにはあまり気が乗らなくなってしまったんです。

でもサプリメント事業をやるなら、ファイナンスしないといけない。ファイナンスしたらイグジットする責任が生じますよね。だから、ファイナンスする前の今が引き返す最後のタイミングかもしれない、と考えたんです。死ぬほど悩んだ結果、私が出したのは「やめる」という結論でした。

この時点ですでに共同創業者の橋本氏も前職を辞めていた。それでもこの決断を下したことで、今まで高田氏が抱いていた自信は打ち砕かれた。

高田この時ばかりはさすがに「自分って何てダメな人間なんだろう」と思い、落ち込みました。サプリメント事業の言い出しっぺは自分だったのに、何も成果を出せず、友人の人生を台無しにしてしまった。1ヶ月くらい何もしないで近くの公園で遊ぶ子供達をぼーっと見ていた時期がありました。

救いだったのは、橋本が引き続きこのチームでものづくりをしよう、と言ってくれたことです。ゼロから再出発できたのは彼がいたからで、「自分1人ではやっぱり何もできないな」とも思いました。チームの大切さを知ったことで、一皮剥けたような気がします。

衝撃的なエピソードを次々に暴露する高田氏。挫折すらあっけらかんと曝け出し俯瞰することが、次の成功を手繰り寄せる秘訣なのかもしれない。国連を志望していた頃から抱く「世の中をより良くしたい」という思いをビジネスにぶつける高田氏だからこそ、社会にインパクトを与える事業を生みだせるのだろう。

こちらの記事は2022年04月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

樋口 正

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