連載私がやめた3カ条

エリートがハマりがちな「正解探し」の罠──X Capital野原秀介の「やめ3」

インタビュイー
野原 秀介

平成28年東京大学卒。新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し、FICC部門に所属。金融法人をクライアントに数多くのディールを手掛ける。2018年に株式会社X Capitalを創業し、現在に至る。

関連タグ

起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、投資事業とコンサルティング事業を展開する株式会社X Capitalの代表取締役社長、野原秀介氏だ。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
SECTION
/

野原氏とは?
アントレプレナー×投資家的発想

東証一部に上場した株式会社Gunosy / LayerXの福島氏や、ナイル株式会社代表の高橋氏などこれまでに数多くの起業家を輩出してきた東京大学起業サークルTNK。その7期目の代表を務めた野原氏は、在学中に不動産領域で一度目の起業を経験すると立ち上げ数ヶ月で月100万円の粗利をコンスタントに達成するように。

持ち前の要領の良さでそれなりに上手くやっていたものの、自分の社会経験の少なさを感じる機会があり「今の自分の器では、この規模以上に会社を成長させることは出来ないかもしれない」という危機感から新卒として就職活動を経験。金融の道を歩むことを決め、ゴールドマン・サックス証券の門を叩く。

日本を代表する金融機関をクライアントとして外資系企業で働く中で、自らのアイデンティティを“日本人であること”に強く感じる機会があったという同氏。緩やかに衰退する日本経済に打つ手はないかと考えるようになったという。 そして2018年、外資系エリートサラリーマンの肩書きを捨て株式会社X Capitalを創業。会社は創業期を経て、今まさに成長期を迎えようとしている。

今回はそんな野原氏に、経営をする上で「やめたこと」を聞いてきた。

日本トップクラスのエリートが切磋琢磨するゴールドマン・サックスで、彼は何を学び、それをどう昇華してきたのか。

SECTION
/

部下を管理することをやめた

一般的に「証券会社の営業」と聞くと、日次・月次でノルマを課され、未達であれば上司から詰められる所謂“マイクロマネジメント”な環境を想像する。

しかし、野原氏の前職であるゴールドマン・サックスではほとんど"管理"というものがなかったという。会議らしい会議といえば週に30分程度のMTG、それに加え年に1度のパートナー(役員)との評価面談、それだけ。

にもかかわらず社員は自律的に高いモチベーションで仕事に臨み、毎年営業成績を更新していた。

これが原体験となって同氏は、X Capitalにおいても社員を管理することをやめた。どう上手くマネジメントするか、ではなく、如何にマネジメントレスな組織を作るかにフォーカスしたのだ。

しかし、このエピソードから無批判にマネジメントが不要と考えるのは早計だろう。なぜなら、「ゴールドマン・サックスに入るような優秀な社員だからできるのではないか」という疑問が残るからだ。

野原「優秀さ」を論ずる際、そもそもスキルセットとマインドセットの二軸に分けて考える必要があるのですが、多くの人がこれを混同しがちです。マインドセットというのは…非常に稚拙な例ですが、今週期限の成果物を金曜に出すか、週半ばには完成させて一度提出するか、といった仕事に対する姿勢です。

「マネジメントは必要ない」というのは、正確には「優れたマインドセットを持つ人を選んで組織を創れば、細かなマネジメントは不要である」ということです。

同氏曰く、社会人になる過程で身に着けたマインドセットは変えることが難しいが、スキルセットは如何様にも育てることができる。つまり必要なのは優秀さ(スキルセットの現在値)ではなく、結果に責任を持てるか、インサイドアウトで思考できるかといったマインドセットの部分なのだ。

適切なマインドセットを持つ人材で組織を作り、組織としての原則を定める。その原則の範囲内で各メンバーが自律的に動くことで、卓越した成果が産み出されるのだという。

SECTION
/

細かい金勘定をやめた

儲け話があれば誰だって一枚噛みたいもの。経営者であってもそれは例外ではない。しかしその意識は、ともすれば長期的な成果を毀損してしまう。

株式投資にはじまり、節税対策やサイドビジネスなど、例を挙げればきりがない。「この企業の株価は過小評価されているから投資妙味がある」「このビジネスを立ち上げれば間違いなく伸びる」……日常的にそのようなアイデアが振ってくるのだという。

しかし、同氏は意識してそのような思考をシャットアウトしているそうだ。

野原ゴールドマン・サックスにいたとき、同僚や上司と食事にいくと、決まって不動産投資の話になるんです。「所得税をうん千万円潰した」とか「週末に自前で内装工事をしたから利回りが〇%出た」とか……。ただ、若手の中で抜群に仕事ができた所謂"エース"的な人からは、そういった話を一切聞かなかったんですよね。

その理由が今になってわかりました。彼はきっと、そんなことしている暇があれば本業で突き抜けたほうが良いとわかっていたんだと思います。

例えば、株を購入したとする。すると気になって1日に何度も株価を見てしまう、なんてことは容易に想像できるだろう。

仮に投資が成功して資産が数%増えようと、本来フォーカスすべきことから無意識に削り取られる時間・労力は、本業の停滞という結果で降り掛かってくる。敢えて目先の金勘定を一切捨てることで、将来的な価値が最大化出来ると野原氏は気づいたのだ。

SECTION
/

アドバイスを聞くのをやめた

人の意見を素直に聞くことは、一般的に良い姿勢とされている。こと会社経営・キャリア形成において野原氏はこれを真っ向から否定。他人の意見を参考にするのは控えるべきだという。

野原創業期には、周囲の経営者やVCの方等に頻繁に事業の壁打ちをしてもらっていました。ダメ出しを受けては「なるほど」と大きく頷き、会社に戻って事業計画を修正。次の日は別の人からアドバイスを受けて計画を修正…

気づくと半年経っていて、残ったのはピッチ資料の山だけ。結局、事業は何も進捗していませんでした。

この経験から、そもそも成功に至る「正解」などというものは存在せず「たまたまうまくいった方法」が成功者の数だけ存在するに過ぎないのだ、と気づいたと同氏は語った。

野原これまで真面目に勉強していた人ほど、「正解」を見つける癖が染み付いている傾向があります。ペーパーテストであれば、選択肢ごとの配点が 100 or 0 なんですけど、実社会では 60 or 40 のようななだらかな配点になっている状況がほとんどなんですよね。

つまり、社会に出てからは正解を選ぶ能力よりも、選んだ選択肢を正解にする「コミットメント」が重要になってくると思います。

会社の進むべき道に正解はないはず。ならばそれを他人に聞いている暇などない。そんな時間があれば、決めたことを信じてやり抜くことに全力を注ぐべきだ。彼が言いたいことはそういうことだろう。

今回、同氏のインタビューを通じて、常に“先を見ている”ような印象を受けた。社員の育成方法も、事業に取り組む姿勢も、目先のことではなく長期的な目線で考えている。きっとそれは「もう一度日本が世界をリードする時代を創る」という、高邁な目標を本気で追いかけているからなのだろう。

こちらの記事は2022年03月25日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

栄藤 徹平

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

When you log in

新規会員登録/ログイン