組織を白紙に戻し、リスクの高い施策を導入。
“タウンページのEC化”に挑む、Zehitomoの勝算

インタビュイー
Jordan Fisher
  • 株式会社Zehitomo 共同設立者/CEO 

1986年、ニューヨーク生まれ。
2004年に入学した南カリフォルニア大学ではコンピュータサイエンス専攻。
2008年に卒業後、東京丸の内オフィスのJPモルガンへ入社。債券テクノロジー部でプログラミングやプロジェクトマネジメントをして働く。数年でチームをまとめるまでになり、2014年にはヴァイスプレジデントに昇進し、電子取引セールストレーダーとなる。
2015年に共同ファウンダーのジェームズ・マッカーティーと意気投合し、Zehitomoを立ち上げる。

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「99%の確率で1万円がもらえるボタンと、1%の確率で1億円がもらえるボタンがあったら、僕は迷いなく後者を押す。事業のスケールや資金調達に成功したのは、1%の確率にかけ続けてきたからだと思っています」

そう語るのは、さまざまな事業者とサービスを受けたい依頼者をマッチングするオンライン集客プラットフォームを運営する、Zehitomo代表取締役CEOのジョーダン・フィッシャー氏。

プラットフォーム『Zehitomo』は、2018年には5万の事業者登録があった。仕事依頼額は10億円に達していたが、「市場全体で見るとインパクトのない数字だった」と振り返る。

ところが2020年、『Zehitomo』は事業者登録数20万以上のサービスに成長。仕事依頼額も累計100億円を突破している。事業のスケール拡大に伴い、同年6月にはシリーズBラウンドで総額8億2,000万円の資金調達を完了。急速な事業のスケールに成功している。

「急激なスケールを目指したことで、需要に対して供給が追いつかず、ユーザーに迷惑をかけてしまったこともありました」とフィッシャー氏は言う。いかにして壁を乗り越え、事業を急成長させてきたのか。

  • TEXT BY KOUTA TAJIRI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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20兆円規模の市場で、「タウンページのオンライン化」を目指す

Zehitomo』は、仕事を受注したい人と依頼したい人をつなぐオンライン集客プラットフォーム。その位置づけを、フィッシャー氏は「タウンページのオンライン化」と表現する。

従来、ローカルサービス(ここでは「カメラマンやパーソバルトレーナーなど、人が人に直接会って提供するような、地域密着の専門的なサービス」と定義)を提供する事業者の集客や、消費者の困りごとの解決は、『タウンページ』のような地域情報誌が担ってきた。Zehitomoは、それらの課題解決をオンライン上で実現する。

使い方はシンプルだ。仕事を獲得したい事業者は、企業名・住所・電話番号などの基本情報に加え、自己紹介・企業の詳細・経歴・サービスメニューなどの情報を入力し、プラットフォームに事業者ページを作成する。その登録情報をもとに、AIが依頼者を自動でマッチングしてくれる仕組みだ。

一方、依頼者は、出張カメラマン、ピアノレッスン、エアコンクリーニング、パーソナルトレーニングなど、1,000以上あるカテゴリーの中から「お願いごと」を選び、納期・予算・仕様などの依頼条件を入力。すると、AIが全国各地の事業者から最適な相手を選定し、最大5件の見積もりを受け取れる。

「既存のクラウドソーシングと何が違うのか」と感じるかもしれないが、『Zehitomo』の収益モデルは決済手数料によるものではなく、見積もりを送る際に事業者が応募課金する成果報酬型。その特徴について、フィッシャー氏はこう語る。

株式会社Zehitomo 代表取締役 CEO ジョーダン・フィッシャー氏

フィッシャー依頼者さんは、わざわざ自分でネット検索して問い合わせをしなくても、自分にぴったりの事業者さんに出会えます。事業者さんは、お金を払って応募するので、皆さん本気そのもの。いい加減な対応をすれば受注率に影響が出てしまいますから、丁寧に対応してくれます。

事業者さんからすれば、1回あたり500円程度でリードを獲得できるので、チラシやリスティング広告より低コストに集客できます。なかには、1応募500円で100万円の案件を受注する事業者もいるんですよ。

日本のローカルサービス市場は数十兆円規模。国内における消費者向けEC市場約19.4兆円(2019年)より大きなマーケットだ。日本でのプレイヤーは、みんなのマーケットやミツモアなど数社程度で、フィッシャー氏は「日本では可能性のある市場だ」と、その伸びしろに期待をあらわにする。

フィッシャーアメリカには80兆円規模のローカルサービス市場があり、時価総額数千億円規模のプレイヤーが何社も存在するといいます。インドでも2015年頃からローカルサービスブームが起こり、100社以上のプレイヤーがしのぎを削っているようです。

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「最高」な日本を、これからも好きでいたいから

フィッシャー氏はニューヨーク生まれ。南カリフォルニア大学でコンピューターサイエンスを専攻し、2008年にJPモルガンに入社。東京・丸の内オフィスでエンジニアやPMとして活躍した後、2015年にZehitomoを立ち上げた。

フィッシャー起業した理由は一つ。ローカルサービスを透明化して、日本の生活や働き方の質を高めたいと思ったからです。僕は日本人と結婚し、東京で暮らしているのですが、この国は最高です。ご飯はおいしくて治安も良い。これからもずっと日本で暮らしたいと願っています。

ただ、改善したいこともあります。例えば、日本のインターネットは大企業のWebサイトが検索結果の上位を占めていて、優秀なフリーランスや中小企業が埋もれてしまっている。それに、既存の仲介業者は手数料が高く、選択肢を限定してしまっているため、消費者は、本当に理想とするサービスになかなか出会えません。

具体的に言うと、日本で結婚式をあげる際に、式場の専属カメラマンに撮影を依頼すると20万円かかるのに、カメラマンには3万円しか届かない。式場が提示する金額を払うと、85%は手数料として抜かれることになります。消費者と事業者との間に仲介業者が入って手数料を抜くビジネスモデルは、日本では長らく当たり前とされてきました。でも、消費者にとっても事業者にとっても、これはもったいないことです。

僕はこうした日本における「負の慣習」を解消し、日本の生活と働き方と良くしたい。一度しかない人生をどう生きるか考えたときに、自分が住みたい日本をつくり、次の世代に渡したいと思ったんです。

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ビジネスモデルが理解されず、離れていったユーザー

日本の生活と働き方の改善に向けて、2015年に『Zehitomo』を立ち上げたフィッシャー氏。既存の類似サービスも存在する中で、どのように事業をグロースしてきたのだろうか。

フィッシャーZehitomo』は依頼者と事業者、どちらも一定数確保できないと成立しないビジネスモデル。しかし、同時に獲得するのは、立ち上げ直後かつスタートアップの限られたリソースでは難しい。そこでまず、依頼者に注力する戦略に打って出ました。

具体的には、分散させていたマーケティング予算をSEOに集中し、検索エンジンからやってくるユーザーのアクセスを増やすことにしたのです。サイト内で依頼を出しやすくなるよう継続的にサイトを改善し、依頼者に絞ったメッセージングに注力した結果、2017年には初年度の10倍の依頼者を獲得することができました。

しかし、事業者の登録数については伸び悩んでいたそうだ。その原因について、ジョーダン氏はこう振り返る。

フィッシャー従来の仲介手数料型ではない、応募課金型というビジネスモデルが理解されず、離れていく事業者が多かったんですね。例えば、Webデザイナーやカメラマンといった、普段からSNSでの発信やブランディングに注力している事業者さんには受け入れられやすかったのですが、ITに馴染みのない水道工事屋さんなどからは、なかなか受け入れられなかった。「何回も提案しているのに1回も受注できないなんて、サクラでも雇っているんじゃないか」と言われたこともありました。

また、アメリカ人と日本人の“気質”を読み違えていたことも、伸び悩みの原因になったという。

フィッシャーアメリカ人にはハングリー精神があるので、事業者は積極的に営業をかける傾向にある。片や、日本人は自分から積極的に営業しない気質でした。アメリカでは『Zehitomo』と同じモデルのサービスが数千億円規模を売り上げていて、「海外で成功しているなら、日本でも絶対に伸びるはず」と踏んでいたのですが、そう簡単にはいきませんでした。

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起死回生のAIマッチング機能で、事業者数を10倍に

事業者の登録者数やアクティブ率に伸び悩んだZehitomoは、セールス組織を拡大・強化し、カスタマーサクセスの立ち上げによるサポート体制の充実を図った。

その結果、事業者の登録者数やリピート率は、緩やかに伸びていったそうだ。しかし、それでも依頼者数の伸び率には全く追いつかず、依頼者の期待に応えきれない状況が続いていた。

窮地に立たされたZehitomoは、大きな勝負に出る。これまで築いてきた組織体制を大幅にスリムダウンし、依頼者と事業者をAIが自動マッチングする「スピードマッチ」機能を導入したのだ。

フィッシャーこれまで事業者は、案件を獲得する際には手動で依頼者に提案する必要がありました。この仕組みをワークさせるために毎週のようにセールス・サクセスのフォメーションを変えたり、プロダクトを改善したりして、ある程度事業がスケールすることは見えていたのですが、このペースでは資金を使い切っても10倍スケールは難しかった。

そこで思い切って、AIによる自動マッチング機能を導入することを決意しました。AIを導入することで、どれくらいリテンションが改善されるかは正直全く未知数でしたし、これまで築いてきた組織を縮小する必要もあったのですが……。

この思い切りが奏功した。事業者は、予算・場所・納期などの細かい質問に回答している温度感の高い依頼者とマッチングする機会が増え、1年で事業者の登録数は10倍に跳ね上がった。

サービスローンチした2016年から3年目を迎えた2019年、「スピードマッチ」の導入により、依頼者と事業者のバランスがようやく均等になった。事業は順調にスケールし、2020年6月には総額8億2,000万円の資金調達を発表。2020年8月に発売された週刊東洋経済『すごいベンチャー100』にも掲載されている。

フィッシャーあのまま手を打たなければ、経営破綻することはなくてもリビングデッド状態だったでしょう。組織を白紙に戻して、ワークするか分からない施策に会社の命運を託す意思決定には勇気がいりましたが、リスクをとって良かったと思います。

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「上場は手段でしかない」一刻も早く、理想を叶えたいだけ

エクイティファイナンスを実施した以上、出口戦略を描くことはスタートアップの宿命だ。しかし、フィッシャー氏は「上場は目指しますが、上場自体に興味はありません」と断言する。

フィッシャー一刻も早くローカルサービスを透明化して、日本の生活や働き方をより良くするためには資金が必要だったんです。

ローカルサービスは巨大な市場。毎年10倍、100倍と事業をスケールさせないと「タウンページのオンライン化」は実現できません。資金調達をせずに緩やかに事業を伸ばしていては、僕が実現したい世界の実現は何十年も先になってしまいます。

当然、最短ルートで理想を実現するために上場も視野に入れていますが、あくまでビジョンを実現するための手段であって、目的ではありません。

資金調達を完了し、スタートラインに立ったZehitomo。仕事を依頼したい人と受注したい人を増やし、プラットフォームが成長する好循環を生み出すために、来期までに60人以上の増員を計画しているという。

フィッシャーようやくプロダクトの改善に注力できるフェーズに到達しました。今一番必要としているのはエンジニアですが、セールスや人事、各ロールのマネジャーやリーダー層も絶賛募集中です。

増員計画と同時に、一枚岩の組織づくりに向け、ミッション・ビジョン・バリューの定義も進めている。最後にフィッシャー氏は、Zehitomoの社風について語ってくれた。

CEOジョーダン・フィッシャー氏(左)と共同創業者のCOOジェームズ・マッカーティー氏

フィッシャーZehitomoは、僕と共同創業者であるジェームズ・マッカーティーのアメリカ人2人が立ち上げた会社。外資と日系企業、両方の特徴があるので、社歴や年齢にかかわらず成果は正当に評価するし、役職関係なく社員同士がファーストネームで呼び合っています。

急成長を続ける組織では、新しい問題が次々と生まれます。受け身ではなく、自分の頭で考えながらクリエイティビティを発揮して事業を推進してくれる方に力を貸してほしい。日本の生活や働き方を良くしたい──この私たちの思いに共感してくれる方は、ぜひ一緒に『Zehitomo』を10xでスケールさせていきましょう。

こちらの記事は2020年10月08日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

田尻 亨太

編集者・ライター。HR業界で求人広告の制作に従事した後、クラウドソーシング会社のディレクター、デジタルマーケティング会社の編集者を経てフリーランスに。経営者や従業員のリアルを等身大で伝えるコンテンツをつくるために試行錯誤中。

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小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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タテイシサエコ

校正/校閲者。PC雑誌ライター、新聞記者を経てフリーランスの校正者に。これまでに、ビジネス書からアーティスト本まで硬軟織り交ぜた書籍、雑誌、Webメディアなどノンフィクションを中心に活動。文芸校閲に興味あり。名古屋在住。

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