エジプトの出会い系アプリからメンタルケアのマッチングまで──500 Startups「DEMO DAY THE MOVIE in TOKYO」レポート
シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル「500 Starups」が開催するアクセラレータープログラムの、参加者によるピッチイベント「デモデイ(Demo Day)」では、注目スタートアップによる熱いプレゼンが繰り広げられる。サンフランシスコで2018年6月に行われたデモデイには17社が登壇。参加したスタートアップの約半数はアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、カナダ、中国、韓国など米国外からだった。
同年8月には、500 Startups Japanが、日本語解説付きの動画で現地の様子を見るイベント「DEMO DAY THE MOVIE in TOKYO」を開催した。500 Startups Japanのマネージングパートナー澤山陽平氏、東京カルチャーカルチャーの河原あず氏らが登壇し、スタートアップについて解説した。本記事では、イベントで紹介された8社を紹介していこう。
- TEXT BY KAYO MIMIZUKA
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
退院後の患者の状態を管理するモバイルアプリ
クリニック向けに、退院後の患者の状態を管理するモバイルアプリを提供。忙しすぎる医師をサポートし、患者も質の高い医療を受けられるようにするサービスだ。
具体的には、デジタルヘルス・センサーを通して患者のデータを取得し、専用のアプリを通じて看護師がモニターする。退院した後でも、問題があれば医師に報告される仕組みだ。これにより、患者が受ける治療の質は33%向上、医師の収入も29%増加しているという。
ビジネスモデルは、医師一人につき最大月1万1千ドル(約120万円)のアプリ使用料を病院に課す形となっている。澤山氏は「医者の方からプロアクティブに患者へアプローチできるのは面白い」と語った。
ベトナムコーヒーをもっと気軽に楽しめる
ベトナム移民の両親を持ち、幼いころからベトナムコーヒーに親しんできたというCEOが立ち上げた米国のコーヒービジネス。自ら農場へ赴き、オーガニックのコーヒーを輸入している。通常、ベトナムコーヒーは細かい穴が開いたステンレス製の組み合わせフィルターを使って淹れるが、誰でも気軽に楽しめるドリップバッグにしたのが特徴だ。
また、最後に入れるコンデンスミルクも付いており、パッケージは100%自然分解できる素材で作られている。2017年のローンチ以降、2,000を超える百貨店で販売され、オフィスやホテルにも展開しているという。2018年6月の売り上げは8万ドル(約880万円)。
メンタルヘルスケアのマッチングアプリを提供
メンタルヘルスで悩む人は多い。にもかかわらず、80%の人が自分に合うセラピストを見つけられず、継続的な治療を受けていないという。そんな課題の解決を目指すのがreflectだ。
同社は、開発者自身が患った経験に基づき、患者とセラピストをマッチングするアプリを提供している。優秀なセラピストのネットワークを持ち、データに基づいたマッチングを行う。
また、医師と患者のより良い関係を構築するため、面会の間にフィードバックも設けることで、遠隔治療と比べて継続率は7倍に達しているという。サービス料金は1セッションにつき95ドル、そのうち15ドルがreflectに支払われる。月平均で20%成長している。
中東・北アフリカ向けのリーガルサービス
Lexyomは、中東・北アフリカ(MENA)地域でオンラインのリーガルサービスを提供している。中東には約2,000万の中小企業があるが、70%は利用できるリーガルサービスの質に不満を感じているという。こうした企業が、効率よく適切な弁護士を見つけられるプラットフォームだ。澤山氏によると、日本だと「弁護士ドットコム」に近いという。
弁護士に登録してもらい、手数料を取るビジネスモデル。市場規模は200億ドルと見込まれ、試験段階にもかかわらず月1万ドルの収益を生み出している。澤山氏によれば、弁護士との細かい書類のやりとりをAIで自動化することで、業務の簡素化もしているという。
複数マッチングができないエジプトの出会い系サービス
オンラインの出会い系サイトでパートナーを見つける人は、世界で30%以上増加したという。一方、中東ではほぼ0%。同時に複数の相手と連絡を取れる通常のマッチングサービスは、保守的な風土が残るイスラム圏の文化にそぐわないためだ。
エジプトの出会い系サービスHarmonica ITでは、同時に複数のマッチングが起きないように設定されている。この機能が特に女性に支持され、男性の2倍ユーザーがいるという。首都カイロではサービスの提供開始後、半年でユーザーが10万人に到達。DAUは1万人で、計500万回のメッセージがやりとりされている。結婚を控えたカップルも誕生しているといい、中東の婚姻事情を変えるイノベーティブなアイデアと言えそうだ。
小売店の顧客体験をiPadで改善するサービス
モバイルテクノロジーを活用して、実店舗でのショッピング体験を便利にし、買い物客の満足度を高めるサービスを開発している。まずは取り扱い品数が多い眼鏡市場で試験的に導入したところ、1店舗あたりの年間売り上げが15万ドル増加したという。
従来の眼鏡市場では、実店舗に大量の商品を置くことができないため、フレーム選びや眼鏡の保険を検討するのには時間がかかった。しかし、Purple Goのサービスを使えば、iPadのアプリ上でこうした情報を比較し、自分に合う商品を短時間で選べる。また、在庫管理や購入後の自動Eメール送信を通じて、顧客のサポートも行うことが可能となる。
内容証明などの法的文書をデジタル化
米国では、内容証明などの法的文書を郵便で送ると、コストが高く付く。このプロセスをデジタル化したのがLexopだ。メールでの送信状況をリアルタイムで追跡可能で、文書が受領されたことも法的に証明する。
同社によると、世界の弁護士の80%は「訴訟大国」と言われる米国で活動しているといい、市場規模は非常に大きいことが予想される。澤山氏によると、米国の郵便事情は遅延や紛失などトラブルも多く、すでに多くの法律事務所が顧客として同サービスを利用している。
業務にも使用するスマホ用のセキュリティーツール
私用デバイスを業務にも使う「BYOD(Bring Your Own Device)」が普及する一方、企業側にとっては情報漏えいなどのセキュリティリスクも高まる。Orchardはここに注目し、スマートフォン用の保険とセキュリティツールを提供している。
アプリをダウンロードすると、スマートフォンの機能が正常に作動しているか、セキュリティは万全かを診断してくれる(画面にひびが入っていないかどうかまで分かる)。すでに6万台以上の診断を行っており、年間売り上げは200万ドルに達している。
今回の各スタートアップによるピッチは一社2分と短かったが、ビジネスの詳細はもちろん、それぞれの巧みなプレゼンスキルも楽しめる内容だ。
澤山氏は、特にLexyomやHarmonica ITなどが注力するMENA地域について「ポテンシャルがあり、面白い。実際500 Startupsは、500 Falconsという専用ファンドを作って投資を行っている」とコメントしていた。登壇企業17社については、500 Startups JapanのWebサイトにも紹介があるので、興味があれば是非チェックしてみてほしい。
こちらの記事は2018年09月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
耳塚 佳代
ライター、翻訳者。1985年生まれ。元通信社英文記者
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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