連載VCが産業を語る

「人」に向き合い、未来にあるべき事業へ投資する。
ジャフコ、ITVを経てANRIへ参画した河野氏の思考に迫る

インタビュイー
河野 純一郎
  • ANRI ジェネラルパートナー 

神奈川県出身。株式会社ジャフコにて、日本国内の未上場ベンチャー企業への投資活動及びファンドレイズ活動に従事。その後、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社に入社し、ITベンチャー企業への投資及び投資先企業の成長支援業務に従事。2019年にANRIに参画。

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産業の未来を見据え、次代のスタープレーヤーに投資しているベンチャーキャピタリスト。連載「VCが産業を語る」では、既存産業の行く末と新産業勃興の兆しを捉えるため、 彼らが注目している領域について聞いていく。

第8弾では、独立系VCのANRIでジェネラルパートナー(GP)を務める河野純一郎氏に話を伺う。新卒入社したジャフコを経て伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)でパートナーを務め、クラウドワークスやラクスル、メルカリに投資を実行。2019年6月にANRIへ参画した

前職までは主にシリーズA以降の投資を行っていたが、ANRIではシード投資にも注力し始めた。日本でも屈指のキャピタリストと名高い河野氏が、ANRIにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑む3社への投資や組織づくり、未来から逆算する投資の思考、今後の展望を語る。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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起業家を長期にわたって支え続けるためにANRIへ

河野氏はITVの退職にあたり、ANRIへの参画と独立で迷ったという。最終的にANRIへの参画を選んだのは、よりスケールの大きな起業家の支援を実現するために、ある程度の規模のファンドサイズが必要だと考えたからだ。

いかに実績を持つ河野氏であっても、最初から数百億円規模のファンドを組成するのは難しい。「独立」を目的化せず、「自分が何をすべきか」を考えた河野氏がANRIへ参画したのは必然だったという。

さらに、ITV時代にはファンドサイズの限界により、投資先を支え切れなかった苦い経験もある。事業の成長に合わせて資金調達額が上がると、シリーズA、Bまでは追加投資できたが、その後のラウンドについていけないこともあった。

ANRI ジェネラルパートナー 河野純一郎氏

河野数年前まで数億円の資金調達が限界だったスタートアップが、一度に数十億円もの資金を集められるようになりました。

VCが起業家の挑戦を資金面で支え続けるには、大規模なファンドを組成する必要があるんです。それができる環境だったからこそ、ANRIに加わりました。

ANRIもファンドサイズを大きくし、シリーズA以降のフォローオンに力を入れていくために、投資経験が豊富な河野氏の力を求めた。お互いに欠けている部分を補完し合えたのだ。

ANRI参画の後、河野氏はまず4号ファンドの設立に取り組んだ。ANRIのGPである佐俣アンリ氏と鮫島昌弘氏は、河野氏の参画までファンドレイズを待っていた。

河野ファンドレイズや投資活動がスタートした後にチームに加わるのではなく、GP3人で一緒にお金を集め、自分の想いをファンドに反映させたいと思っていました。その想いを佐俣と鮫島が汲んでくれたんです。

2019年9月末にファーストクローズを終えてから、2019年10月には200億円規模の4号ファンドを新設し、投資をスタート。ANRIはすでに12社へ16億円超を投資済みであり、そのうち3社を河野氏が担当している。中には、これまで担当してこなかったシードの企業も含まれている。

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未来から逆算し、“欠けているピース”に投資する

河野氏は産業などの「テーマ」で投資領域は絞らない。ANRIはWebサービスからディープテックまで幅広いテクノロジーの領域をカバーしており、河野氏は「あらゆるテーマのチャンスに挑みたい」と考えているからだ。

現在、担当している3社は、結果的に大きな産業をITの力で変えるDXに挑むスタートアップが揃った。うち1社は整形外科や接骨院のリハビリ業務を支援するSaaS運営のリハサクだ。2019年12月、ANRI、DNX Ventures、マネックスベンチャーズからプレシリーズAラウンドで1.1億円を調達している

残りの2社は非公開だが、教育領域と小売領域の企業だという。いずれも巨大産業といえる領域だ。

河野3社に共通するのは、起業家自身が好き、もしくは得意とする領域の事業に挑んでおり、社会的意義と経済合理性を併せ持っていることです。前職から、これらの要素を揃えるスタートアップに投資してきました。

クラウドワークスは、まさに具体例といえる。創業されたのは東日本大震災が起こった2011年であり、「『死への感覚が身近になったからこそ、家族との時間を大切にしながら働きたい』といった価値観が生まれたタイミングだった」と振り返る。

河野リアルな場に規定されない働き方のクラウドソーシングに、社会的意義を強く感じました。さらに代表の吉田浩一郎さんが得意なBtoBの営業が活きる事業です。いい仕事を取ってこられれば、フリーランサーの方々が集まってきますからね。

クラウドワークスのトラクションを見てみると、実際に個人が仕事を獲得できており、ビジネスとして成立することも分かりました。また、吉田さんは当時すでに30代後半で、それだけに「最後の事業として、必ず成功させる」という執念を感じ、出資を決めました。

投資領域を絞らないとはいえ、気にかけているテーマはある。気候変動や食料問題といった地球規模の課題を解決できる事業だ。現在は代替食品をつくる海外のスタートアップに注目している。

たとえば、植物由来の人工肉をつくるImpossible FoodsBeyond MeatNovameatだ。日本でもこれらの領域へ挑むスタートアップの登場を心待ちにしているという。

河野世界の人口は増え続けますし、いずれ人類は食料不足の壁に当たります。いつか訪れるその未来から逆算し、「欠けたピース」といえる事業を生み出していかなければいけません。

人工肉に抵抗がある人もいるかもしれませんが、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが取り上げられるようになったように、これまで遅々として進まなかったことや非常識だと思われていたことも、どこかで当たり前になるタイミングが来ると思っています。

遅かれ早かれ「動物の肉を食べるのはダサい」なんて時代も訪れるはずです。現状、海外企業に任せきりの領域ですが、日本ならではのアプローチで課題解決できるスタートアップも登場してほしい。

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VCが起業家の進化に追いつかなければいけない

海外企業への注目が聞かれたところで、日本のスタートアップ業界の課題を問うた。VCが起業家の進化に追いつけていない、と河野氏はこぼした。

VCが起業家を支えるには、起業家以上に大きな挑戦をし、切磋琢磨し合える関係性になる必要があると河野氏は考える。そうでなければ、起業家からパートナーに選ばれないからだ。

起業家が数十億円の資金を調達しやすくなった環境でVCが選ばれるためには、機関投資家からより大きな資金を集められなくてはならない。そのためには、「一人ひとりのキャピタリストが業界を背負う覚悟で結果を出さなければ」と河野氏は指摘する。

河野機関投資家の方々は、VCへの投資をあくまで金融商品として捉えています。それもVC同士ではなく、他の金融資産と比較されるんです。

僕たちがパフォーマンスを出せなければお金を預けてもらえなくなり、スタートアップ業界にリスクマネーが集まらなくなってしまいます。そういう意味では、業界の認識はまだまだ甘いと考えています。

日本のVCについて、かつては機関投資家から資金を集められない状況が続き、ファンドレイズするには事業会社から資金を集めなければいけなかったと河野氏は語る。しかし、事業会社がVCに資金を提供する目的は主に情報収集だったため、求められるパフォーマンスの水準は高くなかったという。

「多くのVCがその構図に甘んじてしまっており、結果を出すための姿勢が甘い」と感じてているのだ。国内スタートアップの資金調達額は年々増えていき、2018年には4,254億円となった。振り出しに戻らないため、VC業界全体で結果を出し、さらなるリスクマネーを集めなければならない。

そのためには「起業家からVCが選ばれる競争をもっと厳しくし、各々が自分たちのコアコンピタンスに真摯に向き合う必要がある」と話す。

河野競争のためにもキャピタリストが独立していくのは素晴らしいことです。しかし、闇雲に独立するだけではいけない。小さなファンドを組成し、数百万円から数千万円のシード投資だけをすることで、業界にどれだけのインパクトを与えられるのかを考えるべきです。

業界を前進させるには、キャピタリストや独立系VCの数が増えることも重要ですが、優秀なキャピタリストがチームをつくり、それなりの規模のファンドを設立することも大切だと捉えています。

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「個人技」ではなく「チームの力」で勝てるVCを目指す

小さなファンドが増え、業界に流れるリスクマネーを分散させるよりも、一定規模のファンドが長期的に起業家を支えるべきと考える河野氏。しかし、これまでのVCは、キャピタリストの個人技での戦いを繰り返してきたという。

これからはスタートアップが組織設計にミッションやビジョン、バリュー(MVV)を定めるように、「VCも組織の力で業界に貢献しよう」と河野氏。そのためANRIでもMVVに連動した評価の仕組みをつくっている最中だ。

河野日本で組織化に成功しているVCは、あまり多くないように思います。それぞれのキャピタリストの個性が、組織の個性になっていくようなファンドをつくりたいんです。願わくば、次のパートナーやGPが自然に育っていく組織にしたいです。

ANRIでは年次や役職にとらわれず、すべてのメンバーに幅広い機会を供給し、それをGPがサポートしています。彼らは活き活きと仕事をしていますし、他のファンドでは経験できないような投資案件をすでにいくつも経験しています。

実際の投資を通じてしか、キャピタリストとしての成長はありません。どんどん機会を手にし、起業家と向き合って成長していってほしいです。

4号ファンドの設立後、ANRIでは「投資を社内で通すための資料は不要」と定められたそうだ。スタートアップの投資に答えはなく、どれだけファクトを積み上げても不確実性がつきまとうからだ。

ANRIではあらゆる要素を検討した上で、担当のキャピタリスト自身が投資したいと心から思えるかを大切にしている。2020年3月には「起業家と担当のキャピタリストだけが信じられる世界」に賭けることを掲げた「全員シード宣言」も発表した

河野ANRIには優秀なメンバーが揃っており、やろうと思えば合議制によってファクトに基づいた投資判断を下せるでしょう。しかし、それでは全員がそこそこ納得する規模や実績、評判のある会社にしか投資できません。

また、全員が評価する企業は、投資時点で伸びる可能性を感じさせる事業をつくっており、結果として無難な投資になってしまいやすい。真にイノベーティブな事業は成否が分からないし、賛否両論もあるはずです。

合理性よりも、キャピタリストと起業家の「絶対に成功させる」という想い。それを持つことが大切だと考えています。

最後に今後の展望を問うと、「今まで通りの投資を続ける」と返ってきた。いわゆるコロナショックの影響で、2020年3月には日経平均株価が急落し、世界的な不況の到来も危惧される状況について、河野氏は「冷静になる必要はあるが、悲観はしなくていい」と語る。

河野数年前から、「遅かれ早かれリセッションは到来する」と言われていました。起業家にとっては、プロダクトが未来に残るべきかどうかが明らかになるタイミングですから、引き続き顧客に向き合い、良いものをつくっていくしかありません。

僕たちはその挑戦を一貫して応援するのみです。引き続き新規の投資に力を入れていきますし、何より既存の投資先をしっかりサポートします。

歴史を振り返れば、リーマンショック近辺の2007年から2009年にAirbnbやUber、Dropboxなどの名だたる企業が生まれ、日本でもラクスルやSansan、ユーザーベースなどが創業されました。

未来を見据え、数年後の経済成長の中心になるような気概で起業家と向き合い、やるべきことをやっていきます。

こちらの記事は2020年05月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

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藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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