INTERVIEW
西尾 修平
18-03-23-Fri

A/Bテストでレシピを作る!
BAKEがお菓子のスタートアップたる秘密とは?

TEXT BY MISA HARADA@HEW
PHOTO BY KENGO HINO

焼きたてチーズタルトの「BAKE CHEESE TART」、
新食感シュークリームの「クロッカンシュー ザクザク」、バターサンドの「PRESS BUTTER SAND」、
カスタードアップルパイの「RINGO」、生どら焼きの「DOU」……。

BAKEでは、1ブランド1商品として、
幅広いスイーツブランドを展開しており、国外にも積極的に出店している。

現在、代表取締役社長を務める西尾修平は、既存産業と手を取り合う、
共創型のビジネスモデルを理想としている。

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お菓子業界は、エンタメ業界に近い

西尾は、以前ミクシィの取締役経営企画本部長として、投資・M&A及びグループ会社の事業統括などを担当していた。2016年9月にBAKEに常務取締役としてジョインし、2017年2月に取締役副社長に就任。同年8月に創業者で現会長である長沼真太郎から社長を引き継いだ。

「前職がミクシィ」と聞くと、スタートアップ的なロジックを武器に、業界の古い慣習を次々壊していく……というストーリーを想像するかもしれない。しかし、西尾は、「高校のころ、将来の夢はお菓子屋さんだったんです」と明かす。

西尾これまでは、企業再生やM&Aなどを手掛けてきましたが、もともと小さなころからお菓子が大好きだったんです。だから、「お菓子業界をこうしていきたい」というよりは、「おいしいお菓子を届けたい。だって自分も食べたいもん」という気持ちで働いています(笑)。

撮影:日野 拳吾

西尾はミクシィ時代、IT業界の激しい競争環境を目の当たりにしてきたが、BAKEにおいては、“共創”を理想としている。おいしいお菓子を作れば、パイは必ず広がる。今まで週に3回おやつを食べている人々が、週に5回おやつを食べるようになれば、みんなで市場を大きくしていけるではないか。なんともお菓子好きらしいポジティブな姿勢と言えるだろう。

西尾は、子供のころ、いいことをしたご褒美としてお菓子を買ってもらった思い出が今も心に残っている。彼にとって、お菓子とは幸せの象徴ともいえるものなのだ。

西尾お菓子業界は、ある意味ではエンターテインメント業界に近いのかもしれません。たとえなくなったとしても、人間の生命活動に影響はまったくないんですが、人生をものすごく豊かにしてくれる。

お菓子って、人を幸せにする魔法の力があると思うんです。だから、その業界で働く人間として、「既存のものを壊して新しく何かを作る」というよりも、1人でも多くの人を笑顔にしたいという気持ちで、誇りを持ってビジネスをすることができます。

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A/Bテストでお菓子作り

BAKEは“お菓子のスタートアップ”と宣言したのは前代表である長沼だが、その思考法は現在のBAKEにも息づいている。

そもそもスタートアップが中小企業と違い点は何だろうか?この定義は、「世の中の課題を解決してスケールするビジネス」だろう。

お菓子業界の課題は、クオリティ高いお菓子が多くの消費者にいきわたらないことだ。大手製菓メーカーは大量生産できる強みがあるが、お菓子としての純粋なクオリティでいうとパティシエや町のケーキ屋が作るものには敵わない場合が多い。とはいっても、個人店は大量生産が苦手なわけだ……。

その2択の状況を、BAKEは、“商品を絞りこむこと”で打破した。1ブランド1商品に限定することによって、クオリティの高い商品を量産化できるビジネスモデルを実現させたのだ。

BAKE CHEESE TART
提供:株式会社BAKE

なお、展開する商品は、「8割主義」の考えのもと、決定しているとのこと。10人いたら8割が好きであろうお菓子であれば、マーケットが見込める。西尾いわく、一口に“お菓子”といっても、チーズケーキだけで1000億円近く、シュークリームだけで500億円を超える市場があるという。ひとつの店舗にさまざまな商品を並べる形態であれば、たまにはニッチな商品があってもいいかもしれないが、専門ブランドにしていくからには、慎重に王道を狙っていく。

また、他にもBAKEのお菓子メーカーとしてユニークなところといえば、ITスタートアップ的な発想を取り入れているところだろう。「焼き時間は3分30秒がいいのか」「それとも3分20秒がいいのか」といった細かな部分の正解を、複数の人間の目と舌を通したA/Bテストによって追求していき、最高のレシピをフィックスさせる。このやり方によって、同社はスターパティシエに依存しないお菓子作りを実現させた。

原材料探しにおいて、オープンイノベーションの考え方も大変参考にしている。BAKEでは、自分たちで農場や牧場を持って材料を“自社開発”するのではなく、プロの生産者とつながって、「自分たちの商品がより活きる原材料」を作ってもらうことを“オープンイノベーション”と捉えているのだ。

ひょっとすると、「生産者と繋がるのは、お菓子メーカーなら、他にもやっていそうなことではないか」と感じた人もいるかもしれない。しかし、生産者との関係をオープンイノベーションという切り口で捉えるところがユニークと言えないだろうか。そう定義づけたならば、生産者に対する姿勢もまたひとつ変わりそうだ。

西尾僕らは生産のプロではないですし、農場や牧場運営のノウハウもない。だから、あくまで“製菓企業”というポジションを大切にして、自分たちで全部を抱えきらない。

オープンイノベーションの考えのもと、生産者の方との対話を大切にしながら、あまり肩ひじ張らず、おいしいお菓子を作ることを最優先にした組織づくりを行っています。

お菓子そのものではなく、パッケージや店舗の内装すべてに気を配り、顧客の購買体験をデザインしているところも、BAKEの個性と言えよう。だが、ITスタートアップ的な発想や、顧客体験のデザインを重視していることを、けっして「小手先のことで、お菓子業界を渡っていこうとしている」と誤解してほしくない。

提供:株式会社BAKE

西尾BAKEのミッションステートメントは、「お菓子を、進化させる」で、おいしいお菓子を作ることが最優先事項です。そのテーマに自由な発想で真剣に取り組んだ結果、お客様に受け入れていただいて、今の成功があると思います。

1ブランドにつきSKUは1つだけですし、少しでも踏み外したときのリスクは大きい。だからこそ、誠実においしさを追求していくつもりです。

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海外展開で難しいのは、価値観の共有

BAKEは、海外展開にも積極的だ。たとえば「BAKE CHEESE TART」は、韓国、香港、シンガポール、台湾、ベトナム、フィリピン……と、国外の店舗数が国内のものを上回っているブランドも少なくない。しかし、意外なことに、国ごとの味覚に合わせて、商品の味を微調整することなどは一切していない。

なぜなら、BAKE創業の根底にあるのは、北海道の洋菓子屋「きのとや」の息子である長沼の「これだけおいしい札幌のお菓子の魅力を、日本中、世界中の人に広く伝えたい」という思いがスタートだからこそ、味を変えていく発想は「今のフェーズにおいてはない」とのことだ。

ただ、海外店舗とのコミュニケーションは、苦労しているポイントではあるらしい。海外のスタッフから、商品の割引キャンペーンや、メニュー数を増やすのを提案されることもあるが、BAKEのビジネスモデルにはそぐわない。とはいえ、彼らもやる気があるからこそ、いろいろなアイデアを出してくるのだ。西尾は、「お菓子の味というより、ブランドに対する価値観の共有に難しさがあります」と語った。

BAKEが目指すのは、アジアを代表する製菓企業のひとつ。「日本発のブランドを世界に広げる」というビジョンに共感して、ジョインしてくるメンバーが多い。外資系企業からジョインしてきたあるメンバーは、本国から指示を受けて、既存のブランドを広げていくのではなく、自分たちがブランドホルダーになることに非常にやりがいを感じながら働いているそうだ。自動車メーカー、アパレル、監査法人、IT企業、金融機関と、メンバーの前職はバラバラ。お菓子業界にいた人材もいるが、「基本的に異業種が多い」という。

BAKE CHEESE TART 自由が丘店
提供:株式会社BAKE

昨年8月には、ポラリス・キャピタル・グループがBAKEの筆頭株主となった。西尾は、現在のフェーズを“第2創業期”と捉えている。

西尾まだ上場はしていませんが、外部の株主が入ったことによって、ひとつパブリックの会社になれた。プライベートカンパニーからは卒業できたんじゃないでしょうか。これまでのスタートアップ的なものと少し異なる、また新しいプレイスタイルでドライブをかけていくべきフェーズに入ったと考えています。

撮影:日野 拳吾

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論理と感情を共存させた経営を

最後に、西尾が一番好きなBAKEのブランドをたずねてみると、彼の表情が一気にほころび、「全部好きだけど、『PRESS BUTTER SAND』は、思い入れが強いです」と教えてくれた。同ブランドでは、“挟み焼き”という和菓子の製法を取り入れて、コの字型のクッキーの中に北海道産のバタークリームとキャラメルを挟み込んでいる。

PRESS BUTTER SAND
提供:株式会社BAKE

この商品は、西尾と長沼が「レーズンが嫌い」という話題で盛り上がったことも生まれた理由のひとつ。レーズンの代わりに、キャラメルクリームをたっぷり入れたバターサンドのアイデアをひらめいたのだが、なぜバターサンドにレーズンが入っているかというと、“つなぎ”になるから。レーズンが、クリームが飛び出すことを防いでいるのだ。

レーズンを使わず、クリームが飛び出さないようにする……。その目的のために目を付けたのが、モナカなどに使われる“挟み焼き”の製法だった。コの字型のクッキーを作ることに苦労したが、なんとかオリジナルのプレス機を開発して実現。東京駅など現在ある3つの店舗では毎日完売近い売れ行きの大ヒット商品だが、手間がかかっているぶん、たくさん作ることは難しい。しかし、西尾は、「本気でお菓子をおいしくしようと試行錯誤した結果ですから」と前向きに語る。

PRESS BUTTER SAND 東京駅店
提供:株式会社BAKE

西尾資金調達などロジカルな部分は、今後さらなる成長を遂げるために、一層意識していかないといけません。でも、ロジックに偏りすぎることなく、エモーショナルな部分ときちんと共存させていきたい。

僕が社長として、その2つのバランスをきちんと見ていくつもりです。……とはいっても、僕もメンバーも気づいたら感情の方に寄っていってしまうんですけど(笑)。

それだけみんなお菓子好きってことですよね。

トップ写真/提供:株式会社BAKE

[撮影]日野 拳吾

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