連載10兆円市場のコンテンツ産業を変革する起業家に学ぶ事業拡大法

急転換期のコンテンツ産業を席巻するBitStar、彼らに学ぶ「事業拡大法」

登壇者
渡邉 拓
  • 株式会社BitStar 代表取締役 

2011年に慶應義塾大学大学院 理工学研究科卒。在学中に現取締役と共に事業立ち上げを行う。大学卒業後には新卒でスタートアップに入社し新規事業の立ち上げに従事。独立後、BitStarを創業。現在はコンテンツ産業を担うメガベンチャーを作るべくインフルエンサーマーケティングのトータルソリューションを展開。現在100名規模の会社に成長。直近では大手事業会社との戦略的協業および13億円の資金調達の実施。

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AirbnbやUberのように新たなイノベーションを創出し、既存業界を脅かしたスタートアップは、いかにして事業を成功へ導いているのだろうか。成功の秘訣を探るべく、トークイベント「10兆円市場のコンテンツ産業を変革する起業家に学ぶ事業拡大法」をFastGrowでは開催した。

本記事では、2014年の創業から1,500%もの急成長を達成した株式会社BitStar代表取締役である渡邉拓氏の講演の様子をお届けする。インフルエンサーを取り巻く環境や創業時のエピソードに触れながら、秘訣を明かしてくれた。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
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スマホの“マスメディア化”を見抜き、テクノロジーによる効率化で急成長

コンテンツ産業は12兆円にのぼる市場規模を誇りながらも、インターネット広告や動画市場の伸長によって、産業構造が顕著に変化している。そこへ業界外から彗星のように現れ、大きな存在感を放っているのがBitStarだ。

「インフルエンサーが活躍できるインフラをつくる」というビジョンを掲げ、「広告」「プロダクション」「メディア制作」の領域でさまざまなプロダクトや事業を展開。インフルエンサーマーケティングのトータルソリューションを提供している。

インフルエンサーと広告主企業のマッチングプラットフォーム「BitStar」は、創業から運営を続け、現在では影響力があるインフルエンサーが3,000名登録している。累計3,500件以上の取引が行われるなど、同業種では日本最大の規模を誇る。また、BitStarの強みであるマーケティングノウハウを活かしたSaaSとして、あらゆるインフルエンサーのデータを分析して可視化し、プランニングの補助を行うツール「Influencer Power Ranking(IPR)」も開発・提供し、両事業によって広告領域でのビジネスを展開している。

プロダクション領域では、昨年7月に立ち上げたインフルエンサープロダクション「E-DGE」で、クリエイターのマネジメントやコンテンツ制作支援を行っている。また、誰でも無料でファンコミュニティを開設できるサービス「costar」によって、コアなファンがクリエイターや他のファンと繋がれる場を提供している。

メディア制作においては、インフルエンサーとテレビ局や新聞社が連携したYouTubeメディアの運営をはじめ、VTuberのプロデュース事業を本格的に始動させるなど、チャレンジングな姿勢を見せている。

実は、渡邉氏が法人を立ち上げたのはこれで2回目だ。慶應義塾大学大学院在学中にBitStar現CSOの原田直氏、現CTOの山下雄太氏とともに起業するも、失敗。スタートアップに新卒入社して新規事業推進の経験を積んだ。その後、独立してBitStarを立ち上げ、のちに原田氏、山下氏も合流を果たした。創業後は広告事業からスタートして順調にシェアを伸ばし、デロイト トーマツ グループによる成長企業の顕彰プログラム「テクノロジー Fast 50」で2018年度の第4位(過去3決算期で売上高1,476.37%成長)を獲得するなど急成長を見せている。

トークイベントでは、タレント市場で起こった大きなパラダイムシフトから語られた。最初に現れたタレントは歌舞伎など「リアルの舞台」で活躍するスター。そこから活躍の舞台は映画のスクリーン、テレビへと移行し、現在は第四の波としてスマホへと移行している最中だという。

渡邉インフルエンサーはいずれ本物のスターとして扱われるようになり、既存のタレント市場を席巻するでしょう。なぜなら、人びとが日常的に触れるメディアが、テレビからスマホへと移行しているからです。タレントのメインフィールドが劇場映画だった時代には、テレビ業界の芸能人も傍流だと侮られる風潮がありましたが、テレビの普及とともにタレントとしての権威を獲得していった歴史があります。同様に、スマホが主流の時代になると、インフルエンサーが最も大きな影響力を持つスターとなっていくはずです。

今後、通信速度の向上やデバイスの進化にともない、スマホ向けコンテンツはさらにリッチ化していくと渡邉氏は指摘する。そして、スマホ向けコンテンツの生産量もますます拡大し、主要なコンテンツ消費デバイスがテレビではなくなるにつれ、広告費もスマホへと流れていくという。そんな市場の変化を背景に、新たな戦場でシェアを獲得すべくBitStarが掲げる戦略は「テクノロジーによる芸能事業の効率化」だ。

従来は、路上スカウトやオーディションによってタレントの原石を発掘していたが、これらの人的労力はテクノロジーを用いることで大幅に削減できると見ている。

渡邉BitStarでは自社ツールを活用し、タレントの所属情報や競合の業績、クライアントとのタイアップ状況など、あらゆる情報をリアルタイムで収集しています。データによってポテンシャルのあるインフルエンサーを捕捉し、スカウトも半自動化しているんです。

スカウト後は、データ分析に基づいた育成を行い、企業マッチングやファンコミュニティ形成のプラットフォームを通じてマネタイズできるように開発を進めています。このように発掘・育成から収益化まで、スター創出を一気通貫に行えるシステムによって、一つのプロダクトとして成立させているんです。

さらに最近ではバーチャルYouTuber領域にも着手しています。配信したくても顔出しできない方向けにアバター越しに配信できる環境を提供する–––つまりインフルエンサー創出のフェーズもカバーしはじめているんです。

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一つの領域で突き抜けた者こそ、あらゆる領域で勝利できる

講演の後半では、来場者からの質問をもとにした議論が行われた。渡邉氏は創業時を振り返りながら質問に回答していく。

事業領域を定めた経緯について教えてください。

渡邉元々は動画の事業を手がけていました。2014年の創業時点では、競合が少なかったインターネットを事業の軸にするとだけ決めており、中でも関心があった動画領域を選んだんです。

ただ、事業は伸び悩み、ピボットの機会を伺っていました。そんな折、たまたま友人のYouTuberを支援する機会があったんです。その経験から、芸能人とは異なり、タレントであり、メディアでもあり、さらにコンテンツ制作までこなす新たなスターの形に、産業レベルでの大きな盛り上がりを予感しました。また、ゲーム実況やメイクといった「好きなこと」をエンターテインメント化しているYouTuberに、個人をエンパワーメントして新しい働き方、生き方の選択肢を提示する社会的意義も感じました。そこで、事業領域を動画メディアからYouTuberへシフトすることにしたんです。

「広告」「プロダクション」「メディア制作」という現状の事業モデルは、当時から思い描いていたのでしょうか?

渡邉実は、はじめは広告しか想定していませんでした。しかし、広告領域に注力して業界内で突き抜けたポジションを獲得すると、もっと多様な支援の形を追求できるのではないかと思い、別領域にも事業を拡大していったんです。

僕は動いてみてから考えるタイプなんです。新しい市場に臨む場合は前例もありませんし、自社や競合の振る舞いひとつで市場も大きく変化します。ですから、まずは手を動かし、そこで得た気づきから仮説を立てていくやり方のほうが有効だと思っています。

最近では、創業初期からプラットフォームを志向し、大規模な資金調達を行うスタートアップも目にしますが、渡邉さんはそうではなかったとお聞きしました。当初から資金調達をしてプラットフォーマーを目指す構想はなかったのでしょうか?

渡邉その気持ちはありましたが、別業界から参入してきた経緯もあり、まずは僕自身が肌感覚をつかむ必要があると考えたんです。あらゆる面でプレイヤー的に動き、オペレーションやインフルエンサーのニーズを理解した後に、BitStarのプラットフォーム構築に着手しました。そこから、必要に応じて資金調達を行っていくようになりましたね。

とはいえ、資金調達はなるべく早いタイミングで行ったほうが良いと思います。採用を強化して事業を一気に加速させられますからね。

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フェーズごとに生じる組織課題には柔軟に対処

事業の立ち上げエピソードに引き続き、事業を拡大していった道のりも明かされていく。

事業が軌道に乗りはじめた要因やターニングポイントなどはありますか?

渡邉幾度か資金を調達し、社会的な信用が生まれてから、徐々にグロースしていきました。その都度、ジョインしてくれるメンバーも増えていった印象があります。いかに素早くグロースフェーズまで到達するかが勝負だと思います。

また、事業のフェーズに応じて僕自身の役割もどんどん変遷していきました。元々はプレイヤー的な動きをしていましたが、現在は組織づくりに手を割くことが多いです。

組織づくりはどのように進められているのでしょうか?

渡邉組織課題もフェーズに応じて変わっていくので、その時々で柔軟に方策を立てる必要があります。30人ほどに到達したあたりで自分の目が届きにくくなり、一人ひとりに目を向けられなくなってきます。

そこでBitStarでは、お互いを知る機会をつくるため、社員合宿などの場を用意するようになりました。50人を超えてからは本当に大変で。出退勤管理、労務管理、評価、人事制度、ストックオプションを含めた資本政策、複数の事業管理、マネジメント層の育成、コンテンツ管理、コンプライアンス...。さまざまな面で考え方をすり合わせ、レギュレーションを定めていきましたね。もちろん、そうした状況におかれているのは、現在も同様です。

今後はどういった事業展開を想定されているのでしょうか?

渡邉広告領域ではトップ企業として突き抜けつつ、プラットフォーム事業の地盤をさらに固め、テクノロジーを活用してインフルエンサーの価値をアップデートしていきたいです。コーポレート機能の強化を念頭に置きつつ、事業の幅もさらに広げていきたい。事業の数だけ責任者も必要になるので、柱になれる挑戦的な人材はどんどん採用していきたいです。

現代のコンテンツを取り巻く状況は大きく変化した。激しく変動する業界で事業を成功に導くためには、彼のように手を動かしながら社会のニーズを探っていく力が求められるのかもしれない。続く後編では、渡邊氏に加えBitStar現役社員3名も参加したパネルトークの様子をお届けする。転換期における業界の変化を、現場目線で掘り下げていく。

こちらの記事は2018年12月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

連載10兆円市場のコンテンツ産業を変革する起業家に学ぶ事業拡大法

2記事 | 最終更新 2018.12.05

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