「事業計画は未経験20代が引く」「社長は現場に不要」──。“創業3期目”でも元起業家7人が集うクラフトバンク。そのユニークな組織戦略をCHRO岩本氏に訊く

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インタビュイー
岩本 光博
  • クラフトバンク株式会社 CHRO 

青森県出身。大学在籍中の19歳でアパレルで起業。後に不動産事業を展開し、27才で事業譲渡。事業の傍ら、2015年に株式会社リクルート住まいカンパニーへ入社し、買取再販の不動産営業を担当。2018年4月よりクラフトバンク株式会社の新規事業開発として参画。現在はCHROとして採用、人事、労務を中心にバックオフィスを兼務しながら、事業開発に従事。

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「DX化の最後のフロンティア」とも評される建設業界向けのSaaSで、職人が正当に評価され、憧れの職業になることを目指すクラフトバンク。前回の記事では、建設業界の特殊な事情とマーケットの大きさ、「SMBであっても一社に深く入り込み、オンボーディングする」というユニークな事業戦略や、もはやコンサルとも形容できる独自のCS体制について紹介した。

第2回となる本記事では、いよいよクラフトバンクの「年齢や経験は関係なく活躍できる文化や仕組み」に切り込んでいく。CHROを務める岩本氏は、学生起業で安定した売上がありながらリクルートに入社。トップ営業を経てクラフトバンクに参画した、異色の経歴の持ち主だ。

クラフトバンクにはそんな岩本氏と同様、元起業家が7人も在籍している。創業3年目のスタートアップがここまで経験豊富なビジネスパーソンを惹きつける組織作りには何かしらの秘密が存在しているはずだ━。その思いで、岩本氏と共にクラフトバンクの組織やカルチャーを紐解いていくと、世の定石を覆すクラフトバンクの独自の信念が次々と浮かび上がってきた。

「事業計画は未経験の20代が引く」「代表韓氏は“あえて”ビジネスサイドに一切干渉しない」「“SaaS=THE MODEL”は思考停止だ」「MVVを定めない」.....などなど。代表の韓氏、CHROの岩本氏という、リクルートで高い実績を残した2人が創る組織にしては、ややもすれば“破天荒”とも捉えられるその組織戦略の数々。

過去の成功体験に囚われず、常に「“本質”とは何か」を問い続ける経営陣2人のスタンスに、同社が起業家マインド溢れる優秀なビジネスパーソンを魅了し続ける所以を見た。

  • TEXT BY HANAKO IKEDA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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皆がやっているから正しいとは思わない。
あえてTHE MODEL型を追求しないクラフトバンクの組織戦略

前回の記事では、クラフトバンクが他の建設系SaaSプロダクトと比較して“開発思想”という観点でユニークなスタンスをとっていることが明らかとなった。

Small and Midsize Business(以下、SMB)、つまり中小企業に対しても、一社に深く入り込んでオンボーディングするといったものだ。

一般的に、SMBは一社あたりの従業員数が少なく、一社導入した際の売上インパクトが小さいため、SaaSとして成り立たせるためには導入社数を大きく増やしていく必要があると言える。そのため、エンタープライズ向けのSaaSのように一社ごとに寄り添ったオンボーディングを行うというよりは、なるべくプロダクトの機能やカスタマイズ性や削ぎ、UIをすっきりさせ、オンボーディングの工数を削減する戦略を選ぶことが多い。

しかし、クラフトバンクにおいては、そんな定石を覆すかのごとく「一社に深く入り込んでオンボーディング」というアプローチにより、これまで拡大を続けてきたと言える。いや正しくは「それなくしては、建設業界に蔓延る非効率を本質的に解決することができない」のである。

同社がユニオンテックからMBOを実施する以前の2018年に新規事業開発として参画。現在は代表の韓氏とともに、CHROとして採用・人事・労務を中心にバックオフィスを兼務しつつ、事業開発にも従事する岩本氏に、クラフトバンクの独自のアプローチについて尋ねてみた。

岩本我々がターゲットにしているのは「DXの進んでいない、DXのラストマーケット」と言われる建設業界です。

建設業界では、一つの工事を行う際、多岐にわたる専門的な技術が必要なプロセスが多いため一般化が難しいという問題があります。このように専門性が高すぎるが故に、画一化された機能だけではお客さんの課題を解決しづらい場面が多いんです。

また、お客さんのITリテラシーも決して高くありません。未だに「どれだけ職人が現場に出たか」を紙の日報で書いて、月末に社長がExcelに打ち込んで集計していることが常態化していたり、業務連絡をLINEでやり取りしたりしています。こんな状況において、「ツールを入れただけ」では、本質的な課題の解決はできないですよね。

そもそも「SaaSプロダクトの導入」の前段階に、このプロセスをデジタル化するのが第一歩。そのためには複雑な建設業界の慣習を深く理解し、建設現場で働く職人、事務員の信頼を勝ち取らなければならないんです。

これが「クラフトバンクがSMBでも一社に深く入り込んでオンボーディングする」戦略をとる理由です。

ユニークなアプローチで建設業界の本質的な課題解決に挑むクラフトバンクであるからこそ、SaaS企業の王道ともいえる「THE MODEL」型の組織は最初から目指していないと岩本氏は語る。その証拠に、同社ではセールスとカスタマーサクセスの境界線は曖昧であるというのだ。その狙いとは一体。

岩本まず、他のSaaS企業が「THE MODEL」をやっているからと言って、それが全ての業界に当てはまるものだとは全く思っていないです。

その理由に、先ほど建設領域はカスタマーサクセスの型化が難しく、SMBであっても一社に深く入り込んだオンボーディングが必要であると述べたことと繋がってきます。

ズバリ、営業においても型化に限界があるんです。例えば、電気工事と内装工事ではやることも必要な知識もまったく違うので、営業側に求められる知識の量と幅も桁違いになります。

さらに社長の平均年齢は59歳と高く、お客さんから見たときのITツールを導入することに対しての苦手意識が非常に強い。実は中の人(お客さん)もIT化を半分諦めているケースも多いんです。

こういった業界の社長の方々に営業するには、組織化して営業プロセスを型化するという“合理的なアプローチ”だけでは通用しない場合が多い。

相手の懐に入る力、人として仲良くなって「一緒にDXやりましょう!」と言える力が何より必要です。さらに、どんな相手であっても、できないことはできないときっぱり言い切れる度胸も求められる。

つまり、個々人の能力が求められる仕事だと考えているので、組織を整えて、無理に分業を行い仕組み化を目指すことよりも、それぞれの社員が“お客さんのためにやるべきだ”と思ったことをやれる環境を整える方に注力しています。

いくら、クラフトバンクがスタートアップ界隈において注目を集める企業であっても、建設業界のベテラン社長からすれば「よくわからない、東京のIT企業のセールスの若い兄ちゃんがやって来た」と言った心象を与えかねない。

そうであるからこそ、効率化を追い求めた組織運営だけでは通用しないのである。時には、一見“非効率”とも思える手段や、「スタートアップだから」という常識の枷を外したアプローチにより顧客の課題解決に向き合う必要があるのだ。

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交通費だけで年間数十万円?
それは“採算度外視の悪手”か、はたまた“建設的な未来への投資”か

建設業界の複雑な事情から、「SMBであっても一社に深く入り込んだオンボーディングを行う」といったユニークなアプローチをとるクラフトバンク。“なんでもオンラインで完結”という風潮が高まる昨今において、あえて逆張りとも言えるほど顧客の現場に直接赴くことを重視している。

そういえば、前回の記事でも、若干27歳という若さでCPOを務める武田氏の口から“直接足で通うことの大事さ”を強調していた。一つ忘れないで欲しいのは、CPOという肩書きが証明している通り、武田氏はプロダクト開発全般を担当する役割であるのにも関わらずだ。

地方の工事会社の社長さん、事務員さんと深いコミュニケーションが取れるかどうかが大切です。

建設業界は驚くほど人情で仕事をしている方が多いので、理屈でなく、どれだけ会いに行って信頼を構築できるかが一番大事なんです。実際、僕も去年だけで20都道府県くらいを回りました(笑)。

──定石を覆すSMBの攻略術「一社に深く入り込み、オンボーディングせよ?」──重厚長大、60兆円のマーケット。牙城を崩す一手を、クラフトバンクの若き事業家に聞くより引用

「そういえば」と、岩本氏は武田氏の他にも常識外れなアプローチで顧客から圧倒的な信頼を獲得しているカスタマーサクセスのメンバーの事例を紹介してくれた。

岩本青森のお客さんに会いに行くため、交通費だけで年間数十万円くらいつかうCSのメンバーがいます。

お客さんからすると、何より対面で話すことが大事なので、何かあればすぐに駆けつけます。もちろん、普通に考えてカスタマーサクセスのためにどのくらい工数をかけるか、費用を使ったらいいのかは分かるよね?と個人的に思ってしまうこともありますが......(笑)。

一方で、そのメンバーがお客さんの呼びかけに応じて、Messengerで毎日すごい量のやり取りしているのを見ていると、何も口出しできないですよね。

交通費だけで年間数十万円──。とにかく効率化を追い求めるスタートアップの物差しではもはや図ることができないクラフトバンクのカスタマーサクセス。

もちろんクラフトバンクはエクイティファイナンスによりVCから調達を行っているスタートアップだ。出資者たちからお咎めはないのか?とツッコミを入れたくなる取材陣に対して岩本氏は「全く問題ない」と言い切る。

岩本株主定例ミーティングには代表の韓だけでなく社員も参加するなど、株主に対しても透明度を高く持ち、相当な信頼関係を築けていると思います。

その結果、「株主と社員でプロジェクトを組んで進める」等関わるステークホルダー皆がコミットしながら事業を進めていることが大きな特徴です。実際に若手メンバーがマッキンゼー出身のVCとプロジェクトを組んでマッキンゼー流を学びながらプロジェクトを進めるという面白い取り組みもさせてもらっています。

これは、ひとえにクラフトバンクのビジネスモデルの強さもありますが、社員だけでなくパートナーや株主も含めて関わる人たちに対して透明度の高い経営と現段階でも高い事業成長率を描けているからと言えるでしょう。

また、通常のSaaSスタートアップに比べて黒字化までのスパンが短いビジネスモデルを採用しているということも強みでしょう。

なので、今は「オンボーディングフェーズにおいて何が必要なのか?」を模索している段階といえます。交通費も決して“無駄使い”ではなく、貴重な“検証費用”なんです。

もちろん、岩本氏が「今は“検証フェーズ”である」と語ったように、将来のグロースフェーズを見据えてクラフトバンクは今期から生産性の向上にも取り組んでいる。

岩本今は「会社としての型を作るCSやプロダクトオンボーディングの業務」と、「敢えて決まった型を作らず、個々人の能力で突破するべき営業」の線引きを探っている段階です。

なので、1社のお客さんにどれだけ時間とコストをかけてもいいので、導入完了まで徹底的にコミットする方針を取っています。ただ、3期目(今期)からは徐々に生産性を上げていく方向にシフトしつつはありますね。できるだけお客さんの満足度を下げず、生産性を高めるために試行錯誤しています。

もちろん、分業は確かに効率化には繋がると理解しています。ただ個人的には、ITの事業をやっているなら、初めから効率化のみを追い求めて無理にメンバーのトップラインを決めてしまうというより、「メンバー一人でどれだけの付加価値を追求できるか」を重視したいという想いがあります。

将来的には「社員1000人で売上100億円」ではなく、「社員200人で売上100億円」の会社を目指したい。労働集約ではなく、一人一人が圧倒的な付加価値を生み出せる組織にしたいんです。

クラフトバンクというプロダクトと、我々がターゲットにしている建設業界というマーケットならそれができると考えています。

同社が3期目にして「営業とCSは型化に限界がある」と断言する理由こそが、先にも述べたような建設業界の高い複雑性にある。しかし、同社はそこで“目先の効率化”に走ることなく、いずれはその限界を突破しようと目論んでいる。将来の大きな飛躍を見据えて、現在はいわば“しゃがみ込むフェーズ”であるのだ。

しかし、それは決して“絵空事”ではない。投資家を納得させる足元の高い実績、常識ハズレの大胆な戦略と、その実行を可能にする優秀なメンバー、“検証費用”と割り切って投資を厭わない経営陣の姿勢があってのものだ。およそ58.4兆円の市場規模がありながら、あまりにも複雑な業界構造ゆえ、長らく「最後のフロンティア」と形容される建設業界の牙城を崩すのは、クラフトバンクのような企業なのかもしれない。

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役職は極力設けず、
成果でフラットに評価するカルチャー

「営業やCSといった役割の線引きすら、まさに今探っているところ」だというクラフトバンク。そんな同社の創業は建設会社であるユニオンテックからクラフトバンクの事業を2016年にスピンアウトしてできたものだ。

会社としては3年目であるものの、事業としては既に6年目を迎えているということは前回の記事でもお伝えした通り。このような特殊な事情ゆえに、「6年目の落ち着き」と「3年目のスタートアップらしさ」、もう少し具体化すれば、前回のインタビュイーである武田氏、前田氏のような優秀な若手と、今回取材を実施した岩本氏や、同社の代表韓氏をはじめとしたベテランメンバーがうまく混在するバランスの良いスタートアップと言える。

優秀な若手とベテランメンバーが混在する中、それぞれが自分の持つ役割を認識し、事業の最大化を目指すために必要な組織カルチャーとは一体どんなものだろうか。そこで今回は同社のCHROを務める岩本氏に、多種多様なバックグラウンドを持つ社員が思い切り働ける環境の作り方を聞いてみたい。

岩本まず初めに、実はクラフトバンクには明確なカルチャーやルールはなく、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)もまだ決めていません。今年で3期目ですが、今はまだ社長の韓と私も価値観のズレなく働けていますし、MVVを決めた瞬間、今いる社員にとってはどうしても違和感のある部分も生まれてしまうと思うからです。

思い返せば、前回の取材においてCPOを務める武田氏に対して「建設業界が抱える課題は何か?」と取材陣が尋ねた際、「あくまでこれは私が捉えている課題感ですが......(他のメンバーはそれぞれ違う課題を捉えているかもしれませんね)」と言っていたことが非常に印象的であった。

建設業界に蔓延る課題は前回の取材でも明らかにした通り決して一つにのみ焦点を当てることができないほど複雑で多岐に渡る。そうであるから「我々はこの課題を解決します」とトップダウンで無理に決めてしまうよりも、メンバーそれぞれが解決したい課題に対するエネルギーを、いかにうまくクラフトバンクの事業成長に折り込んでいくかが鍵となるのだ。

そうであるから、クラフトバンクにおいては、「メンバーの働き方」も制限することなく、各人が一番ポテンシャルを発揮できる働き方を選択することができるという。

岩本働き方の部分で言えば、クラフトバンクは基本的にフレックス勤務で、一部裁量労働のメンバーがいます。実は社員の過半数にはお子さんがいるので、仕事に集中できるタイミングも人それぞれ。各自が一番働きやすい時間帯で、自由に働いてもらいたいと思ってこのスタイルにしています。

特に20代の若いメンバーは、「より多くの裁量や機会を掴み取って、圧倒的に成長したいから、死ぬほど働きたいです!」というタイプも多いです。

もちろん労働法を無視しているわけではありませんが、それほど働きたいと思えるのは仕事やお客さんに夢中になれているということ。今の時代にはなかなかないこの文化はできるだけ残していきたいですし、思い切り働きたいという人が集まってきてくれたら嬉しいです。例えば「3年後に独立するために、20代はクラフトバンクでビジネスの経験を積みたい」という人も大歓迎ですよ。

ワークライフバランスを重視した働き方にシフトする会社が多い中、「20代のうちは思い切り働きたい」という希望を思う存分叶えられる環境は、かえって希少かもしれない。さらに、クラフトバンクには「役職は極力設けない」というユニークな方針もあるという。

岩本役職を置くことのメリットも当然ありますが、役職があると、どうしても社内政治や、無駄な忖度が発生します。「役職がなく、全員がフラットにコミュニケーションできる組織」をどこまで続けられるか、今まさにチャレンジしている最中です。

できるだけ縦割りの組織にしないことで、全員がどんな仕事にも挑戦するという文化もあります。実際、私も経験としては事業開発や営業の方が長いですが、今はHRに注力しています。スタートアップでは採用は極めて重要ですし、候補者の方をアトラクトする過程は営業のプロセスにも似ているので、これまでの経験が活かせていると感じますね。

次章で紹介するが、岩本氏は学生時代から起業を経験し、リクルートでもトップ営業として活躍していた人物だ。そんな岩本氏があえてHRにコミットしている所以こそ、「採用担当は会社の顔、優秀な人材を惹きつけるには採用担当が一番優秀でなければならない。」という代表韓氏の哲学がある。

リクルートにて後の同社社長となる峰岸真澄氏のもとで鍛えられ、グローバル事業立ち上げのメンバーに抜擢。最終的にはベルリンで買収企業の経営に携わるといった、輝かしい経歴を持つ韓氏。しかし、そんな韓氏がクラフトバンクにおいては大胆な権限委譲で、事業サイドのグロースにはほぼ干渉せず、代表だからこそできる仕事にコミットしていることがその証明であろう。

岩本評価についても、「頑張って成長して成果を出したら、それに対して評価をする」というフラットな環境を作りたいと考えています。新たに入社してくる方にも、「経験がないから一番下の役職からスタート」という感覚は持ってほしくない。入社のタイミングや年齢も度外視で、シンプルに成果だけで評価をする形を取っているのも、クラフトバンクらしさのひとつです。

実際、わずか1年で1000万円を超えるケースもあります。

大企業に在籍していた、前職で高い評価を得ていた、という方が創業期のスタートアップに転職する際は、やはり収入面で妥協を強いられることがほとんどだと思います。

もちろん、まだ創業3年目のベンチャーということもあり、大きなオファーは出せないことも少なくないですが、入社前に期待値のすり合わせを行い、成果に応じてものすごいスピード感で評価をするので、結果的に「転職前と手取りは殆ど変わらなかった」という場合が多いですね。

「まずはTHE MODEL型組織を採用」「まずは、MVVを定めるのが大事」「組織の拡大に応じて役職は細分化していくべき」。そんな界隈で支持を集める“定石”を鵜呑みにすることなく、「自分たちにとっての“best”は何か」という問いをやめないクラフトバンク。

とことん本質を追い求めるその姿勢や、独特なカルチャーがあるからこそ、まだまだ「既得権益がある」「変化が遅い」といったイメージが根強い建設領域に挑むスタートアップであっても、前回紹介した武田氏や前田氏のような優秀な若手の他に、コンサル、PEファンド、VC、経営者(元起業家が7人も在籍)、アナウンサー、などなど、実に多種多様な人物を惹きつけることができているかもしれない。

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軌道に乗っていた学生起業から、リクルートを経てクラフトバンクへ。「お金=幸せ」ではないと気づいたのがキャリアのスタート

SaaSビジネスでもTHE MODEL型を無思考に目指さない。役職は極力設けず、成果のみでフラットに評価をする。クラフトバンクのユニークな文化が見えてきたところで、そんなカルチャーを一から作り上げた岩本氏が一体どんな人物なのか気になる読者も多いだろう。岩本氏の現在に至るまでを紐解いていくと、実に独創的なキャリアが見えてきた。

岩本僕は今35歳なんですが、実は収入のピークは24歳の時でした(笑)。大学生だった19歳の頃にまずアパレルで起業して、順調な売上があり、従業員も5人ほど雇っていたんです。

6人兄弟の長男で、実家が裕福ではなかったこともあって、「お金を稼ぐこと」への執着が強かったんですね。「お金=幸せ」だと勝手に決めつけてしまっていたんだと思います。

がむしゃらに働いた結果、お金を稼ぐという目的自体はすぐに達成できてしまいました。同時に、お金を稼ぐことがゴールになっていたのに、稼ぐこと自体はそんなに難しくないことにも気づいてしまいました。

「自分はお金は持っているけど、今一緒に働いている従業員は10年後も一緒に働いてくれるだろうか?」、「あれ、そもそも人はなんで働くんだっけ?」と考え始めてしまって。

2年間悩み続けても、答えが出ず悶々としていたある日、自分の方が圧倒的に稼いでいるはずなのに、大学を卒業してサラリーマンをしている友人の方が何倍も楽しそうに働いていることに気づきまして。

「お金を稼ぐ=幸せ」という自分の考え方は間違っているのでは?と思い始めました。そこで、24歳の頃その友達が働いていたリクルートに入社してみたんです。面接では正直に、「サラリーマンというものを経験してみたいんです」と話したら内定をいただきました(笑)。

入社後はSUUMOの事業部に配属され、これまでの起業の経験もあってか、気づいたらトップ営業と呼ばれるほどになっていました。

不動産の営業という仕事を通じて、自分が働くためのモチベーションに気付くことができた気がします。自分にとって「事業課題の深さ」と「それに応じたお客さんや社会に与えるインパクトの大きさ」こそが、最も自分を鼓舞するんだ、ということにです。

自ら起業した会社を軌道に載せ、サラリーマンに転身後はリクルートのトップセールスとして活躍していた岩本氏。一見煌びやかなキャリアを辿っているように見えるが、決してその成功に驕ってはいない。いや、むしろ自らのキャリアを振り返り、「失敗だった」と形容する岩本氏。その心とは一体。

岩本確かに、起業/個人事業主時代を経て、個人でそれなりにお金は稼げました。しかし、その事業が社会に影響を与えるような事業だったかと言われるとそうではありません。

リクルートで「お客さんや社会に与えるインパクトの大きさ」が何より自分にとって重要だと気づいた今となっては、過去の起業は失敗だったと思っています。

社会に大きな影響を与える事業を作りたい。それがのちにクラフトバンクに入社を決めた大きな理由でもあります。

どこかモヤモヤした想いを抱えながらリクルート時代を過ごしていた岩本氏。韓氏との出会いが、岩本氏の人生を大きく突き動かす。

岩本何か社会的なインパクトのある事業を自ら作り上げたいと考えていた矢先、代表の韓と偶然出会いました。

韓は「自分にはない圧倒的な強み」を持っていたんです。というのも、韓はグローバルでの経験が豊富な、大企業の叩き上げのサラリーマン。僕が歩んできたキャリアとは対照的で、自分にはないものを多く備えている人。

直感的に「この人と働くのは絶対に面白いな」という思い、そして「この人となら社会的なインパクトを残せる事業を一緒に作り上げられるのではないか」と感じたんです。

クラフトバンクに入社してはや5年が経ちましたが、これまで一日たりとも“飽き”を感じる暇もないほど刺激的な毎日です。我々が目指したい「職人が正当に評価され、正当な報酬を得る」という理想像は今後もおそらく変わりませんし、この事業は絶対に成功すると確信しています。将来的には上場も見据えていますし、上場するからには時価総額5000億、1兆円規模を目指したいです。

建設業界は高齢化やIT化の難しさなど課題は山積みですが、だからこそお客さんに「ありがとう」と言ってもらった瞬間のインパクトは本当に大きい。最終的には自分の気持ちとして「やり切った」と心から思うことと、数字で結果を残すことが目標です。

自身で起業した会社を軌道に載せ、その後リクルートにてトップセールスも経験した岩本氏。しかし、社会に与える影響度という意味で、その心は満ち足りることはなかった。一方、建設業界でのチャレンジはこれまで歩んだキャリアの何倍も刺激的だと語る。

クラフトバンクには元起業家が7人も在籍していると述べたが、優秀な人材を惹きつける所以こそ「起業家がどんなチャレンジを求めているか」を一番理解している岩本氏がCHROとして組織作りにコミットしているからなのだろう。

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経験値より伸びしろ重視。
圧倒的に成長したい20代が集まっている

建設業界という巨大なマーケットに挑みながらも、「クラフトバンクを兵隊みたいな組織にはしたくない」と語る岩本氏。その思いの裏側には、“圧倒的に成長したい人”が求める環境が働き方改革という流れで徐々に少なくなっているという危機感がある。

岩本もちろん、これまで横行していた無駄な長時間労働や、本人の望まないハードワークが淘汰されていることは非常に喜ばしいことです。一方で「20代のうちは死ぬ気で働いて一気に成長したいという人」は、実は今の時代もたくさんいます。しかし、そういった意欲ある若手が存分に成長に向き合える環境、その受け皿が少なくなってきているように感じます。

なので、採用の時は、基本的には成長意欲しか見ていません。出身業界がどこであろうと、建設業界やお客さんのことを深く理解した上で高いレベルでコミットし、バリューを出していく必要があるからです。過去の経験よりは、どれだけ成長できる伸びしろがあるかを重視しています。

現時点での経験値やスキルよりは、これからの成長量を重視しているという。もちろん、先ほど同社の社員の過半数は結婚して子供がいると述べた通り、“20代がガツガツ働ける”環境だけを提供したいわけではない、ということを忘れてはいけない。同社が目指すのは、あらゆるメンバーが自分の成し遂げたいことに集中できる組織だ。

岩本「20代のメンバーががむしゃらに働きたい」、「30代のメンバーが家庭を大事にしながら働きたい」。クラフトバンクの経営陣はどちらのメンバーを優先するかではなく、メンバーがやりたいことを妨げることがないよう、あらゆる機会を提供しようというスタンスです。

創業期から「がむしゃらに働きたいメンバー」と「家庭を大事にしながら働きたいメンバー」の共存を目指すクラフトバンク。

一方、このように“型”のない柔軟な組織でベテランメンバーと型を並べながらしっかりとワークする若手なんてどれだけいるのか?という疑問も浮かび上がる。“自由”には“大いなる責任”が伴うため、ある程度のレンジに達するまではしっかりと型にはめて教育してあげる方が後の組織拡大にとっては有効なケースもあるからだ。事実「採用ハードルは高い」と語る同社は、組織のスケールをどのように捉えているのだろか?

岩本まず、前提として今の20代はものすごく優秀ですよ。35歳の自分よりよほど優秀なんじゃないかと思うことはしょっちゅうあります。クラフトバンクでは社員の6割が20代ですが(2023年3月時点)、皆本当にデジタルリテラシーが高い。Notionやfigmaなど、新しいツールを使いこなして業務に活用していくスピードは目を見張るものがあります。

新しいITツールをお客さんに勧めている立場の自分たちが、新しいものに苦手意識を持っていてどうするの?というスタンスですね。実際に、新しいものにどんどんチャレンジして成長していく人は成果も出やすい。入社時の経験やスキルより、入社後の成長量が大きい人の方が間違いなくパフォーマンスすると感じています。

採用のハードルが高めであることは事実ですが、組織の拡大スピードが速くないことより、求める人材像が曖昧になっていくことの方が大きなリスクです。採用計画や目標の採用人数はありますが、人数だけを追わないようにすることも非常に重要だと考えています。

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入社1年目が事業計画を引く?
若手に無限のチャンスが得られる稀有な環境

クラフトバンクには夢中になれる仕事があり、仕事に全力投球できる環境がある。役職は極力設けず、成果のみでフラットに評価するカルチャーも魅力的だ。さらに重要なのは、事業そのものに大きな意義があることだと岩本氏は語る。

岩本僕たちの日常を支えてくれているのは、住まいや道路を作り、整備する職人さん達です。彼らがいなければ、我々の日常生活は成り立ちませんよね。

IT業界の繁栄は所詮この数十年の話ですが、建設という仕事は数千年前から、人々の生活を根本から支え続けています。こうした「人間の生活の基礎を支える仕事」をしている人たちの働く環境や、得られる報酬が少しでも良くなることの社会的意義は本当に大きい。だからこそ、クラフトバンクの事業が成功したときの社会的インパクトは計り知れません。

もちろん、社会的インパクトが大きいということは、それを解決するハードルが高いということでもある。そうであるからこそ、クラフトバンクでは組織のケイパビリティを拡大させるため、積極的に権限移譲を行っている。

岩本「自分たちの能力が65%しかない中で、100%達成するにはどうしたらいいか」をメンバーだけに要求するのではなく、経営陣が自ら実践しているのがクラフトバンクの強さと言えます。

それが如実に現れているシーンが、権限移譲やプロジェクトのアサインです。

例えば、現在3期目の事業計画を作っている最中なんですが、これは入社1年目の20代が主役となって進めています。もちろん事業計画なんて全く書いたことのないメンバーですが、彼が事業計画を最後まで完成させるまで、この2ヶ月くらい毎日、代表や事業責任者がかなりの時間を使って壁打ちに応じています。

貴重な経営陣のリソースですから、事業経験なんて経営陣が作った方が効率的だし早いと思うかもしれませんが、「事業計画を書くこと」さえも成長機会として捉えて、経験がない人であろうと任せていかないと、クラフトバンクとしての最終的なゴールにはたどり着かないと思っています。

また面白いのはこの事業計画は「経営陣も含めた全員が成長し続ける前提で」数字が引かれているんです。これは20代メンバーが起案したもので、我々経営陣も背筋が伸びますね(笑)。

これはあくまで一例に過ぎませんが、このように年齢も経験も関係なく、やりたい人にはとことん任せる環境がクラフトバンクには存在しています。無限のチャンスが転がっているとも言えるので、そんな環境で自分の力を伸ばしたい人には、ぜひ興味を持ってもらえると嬉しいです。

リクルートではトップ営業として活躍するほど、セールス経験は豊富な岩本氏。そんな同氏の営業のノウハウを型化し、メンバーの教育に励めば組織としてもよりストレッチするのでは?という取材陣の浅はかな問いかけに対して「自分のコピーを作りたいとは全く思わない」と断言した。

そこにはもちろん、“テンプレート”が通用しない建設領域の複雑性があるにしろ、「今あるものを活かして、より強固な人材になってほしい」という岩本氏の若手に懸ける想いが強いのだという。

優秀なベテラン社員の元で、年齢や経験値に関係なく大きな仕事を任せてもらい、圧倒的に成長できる条件が揃っている。若手のうちに経験値を積み、成長したいと考えるビジネスパーソンにとってはうってつけの環境といえるだろう。

事業はもちろん、ユニークな組織戦略にも注目したいクラフトバンク。建設業界のDXという高い壁を、同社なら崩していける。そう感じざるを得ない。

こちらの記事は2023年04月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

池田 華子

写真

藤田 慎一郎

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  • 東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部統括部長 
  • 東急不動産株式会社 DX推進部統括部長 
公開日2024/03/29

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